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その50

その50


冷ややかな目で見下ろす夜魔王エネエブラスを余裕を欠いた様子の妖精王ティベニロブが睨みつけている。


緊迫した状況に妖精たちも動くに動けない状況だった。


まぁ私もだけどね。


ヴィンドゥナガはちょっと緊張した表情になりつつも動けるみたいだ。


うん、このままじゃまずいね。


「サティを…渡しなさい」


私はどうにかこうにか気合を入れて口を動かした。


いざ声を発すれば、後はもう気圧されることもなく動けるみたい。


何か特別な技なのかな?


呪王が暴走している可能性も考えると、時間的な余裕はほぼ無いだろう。


私は少し焦りながら妖精王を睨み付けた。


「それは出来ぬ。

誓ってしまった以上、余は亜人王の望みを叶えねばならぬ」


妖精種は精霊に近い者が多く、その分精神的、呪術的な縛りも人種より強くなる。


強力な魔術契約にも似た強制力を持っているのかもしれない。


「我が主の望みだ。

従わぬならこの場にいる妖精諸共死ぬが良い」


エネエブラスから放たれる魔力がより一層増し、圧も物理的な力すら持っているかのように重くのし掛かって来る。


いやいやいやいや、流石に皆殺しはないでしょうよ?とエネエブラスの登場で大分冷静になってきた私はあれこれと考えた。


サティの望みは私に殺される事。


ただ現状妖精王が保護し、彼女の望みを叶えようとしている状況。


舞台を整えると言っている訳で、何処かへ逃げると言うのとは違うっぽい。


元々の性格を考えると、多分サティは呪王に弱らされ騙されたボロボロの状態で殺されるのが嫌なのだろう。


私との戦いの結果そうなるのは気にもしないだろうけど、利用しようと思っていた相手にやられた後じゃ納得出来ないに違いない。


我儘だよね。


迷宮内では暴走した呪王が居る可能性が高く、陥没や隆起、魔物のアンデッド化に実体化した蝶など異変が起きまくっている。


今ここで戦えばサティは倒せるだろうけど、妖精王や妖精たちが敵対する事になるのは確実だ。


うん、もういいや、面倒だ。


エネエブラスと私は何処か似ているのかも知れないね!


「誓いとか舞台がどうとか関係ない。サティの事だからどう考えてもまた他人を巻き込むだろうし、もうそんな事は許さない」


私は天と竜の血脈を発動させる。


「だから、サティは今ここで殺す」


私は妖精王を名乗る男へきっぱりとそう宣言すると、エネエブラスは心なしか嬉しそうに笑顔を浮かべ、ヴィンドゥナガもニヤッと笑った。


念話でラルとユグヌスクさんへ指令を飛ばしつつ、私は渾身の力を込めて右の羽衣を振るい、妖精王へと叩きつける。


魔法金属ですら容易に変形させるだろう打撃を奴は独特な足の動きで難なく避けていた。


容赦なく左の羽衣も繰り出すけど、やはり避けられてしまう。


妖精舞フェアリーステップか」


私の攻撃にその場にいた騎士やバンシーなどの妖精たちが動き出すけど、ヴィンドゥナガが雷の如き早さで次々と殴り倒し、エネエブラスが闇で出来た無数の鞭を操り妖精騎士や緑色の超大型犬カーシーなどの首へとそれを巻き付け持ち上げる。


「?!待て!チミらは関係のない妖精にまで手を出すというのか?!」


繰り出す羽衣や魔法を避けたり別の魔法で打ち消していた妖精王は、焦った様子で意味不明なことを言い出した。


「関係ない?何を言っているの?

貴方を守る為だとしても、私達の邪魔をするのならそれは敵って事だよ。

その子は本当に平然と無関係な人々を巻き込むからね。

空の楔」


羽衣をほぼ自動状態にして連続攻撃しつつ、私は魔法を発動させた。


私たちの頭上に千を優に超える空間の歪みが生まれる。


空魔法で作り出した時間や空間そのものに干渉する力場を長さ3メートルはある大きな楔状に固定させたのだ。


勿論エネエブラスを避けて作り出してるよ?


目覚めた頃の私なら空魔法で敵を倒すことなど出来なかった。


レベルや魔力と言った存在の差が近く、簡単に抵抗されてしまう為だ。


でもいまの私は1600レベルを超えている。


魔王に対しては無力な魔法かも知れないけど、それ以外の妖精たちにはそれなりの効果を発揮するだろう。


何しろ私は大魔王の称号を得、運命を司る星神の眷属でもあるのだから。


「付与するは回帰」


その言葉を放った瞬間、楔の放つ魔力の波動は何か異様な物へと変異した。


それを見て妖精王は完全にきょどっている。


時間や空間を操る力による回帰、それはつまり生まれる前の状態=存在しない状態へと戻す事を意味しているからね。


普段ならここまでの事をしようなんて思わないけど、サティが関係する事ならば心を鬼にする必要がある。


あれはすでに変異してしまい、この世界にとって異物であり害悪でもある物へと身を落としてしまったのだから。


敵は完膚無きまでに潰す。


その思いを胸に妖精王を睨み続けた。


〈主よ。全て捕らえたぞ〉


ラルの念話が私の元へと届く。


「チ、チミ、いやサラ殿!待ち給えよ!

流石にそれはっ!」


「決めなさい。

それとあちら側の妖精たちも私の眷属が捕えたから。

この意味わかるよね?」


それを聞いた妖精王は一瞬虚空へと視線を向け、苦虫を噛み潰した様な顔になる。


多分眷属魔法やそれに似たスキルなりの力を使って確認しているのだろう。


何だか人質を取ってたりとか悪役になった気分だよ。


「何という事だ!くっ、しかしっ」


誓いの強制力と眷属たちの命、というよりその存在そのもの消滅に悩む姿を楽しむつもりも時間もない私は、サティに向かって収納から取り出したヒヒイロカネを射出する。


妖精王は妖精舞で未だ続いている羽衣の攻撃に加えてそれすらも回避すると、急に仮面のように表情を消し去り何かをボソリと呟いた。


「ぬっ?!サラ、そいつから離れろ!」


「ちっ!」


ヴィンドゥナガが妖精たちから飛び退き、エネエブラスが闇の鞭を解除する。


勿論私も後ろに飛んで妖精王から距離を取りつつ羽衣も手元に戻す。


ふっと違和感を感じて羽衣を見てみると、端の部分が薄汚い茶色に変色し、ボロボロと崩れ落ちた。


「壺中天!」


ほんの僅かな間が生まれた瞬間、妖精王は自らのギフトを発動させる。


しゅるん!と足元の小さな穴か何かに吸い込まれる様に妖精王やサティの姿はおろか妖精たちも同様に消え去った。


「逃げやがったか」

 

ヴィンドゥナガは地面に唾を吐き出しながらぼやく。


そして悔しそうな顔で舞い降りたエネエブラスは、その姿を霞ませあっという間に三姉妹に分裂した。


私は宙に浮いている空の楔を解除する。


危ないからね。


「急速に生気を奪う妖精固有の特殊能力ですね。

奴らはたまにやるのですよ」


ステラが苦々しい顔でそう言った。


「妖精に嫌われて、一晩で牛が炭みたいになってたとか言うあれ?」

 

「ですね。内臓を奪うタイプのものあるのです」


〈主よ、すまぬ。逃してしまった〉


ラルの方にも同様の事が起こったらしく、そんな念話が飛んできた。


〈妖精王のギフト、壺中天を使われたみたい。

スキルと違ってレアギフトは詳細が分からないから仕方ないよ。

それと矢の起動をお願い〉


〈了解した〉


何か痕跡がないかと地面を調べてみると、白いキノコがあちこちに生えて輪のようになっているものが複数個あった。


「魔力も感じるし妖精輪フェアリーリングかな?」


「だろうな。奴等の世界との出入り口になるそうだが、別の何処かへ繋げ直した罠かもしれん。

迂闊に入るなよ」


「二番目に入りそうな奴に言われたです」


一番入りそうなのはルーナだよね。


ヴィンドゥナガの言葉にビクッと反応してた。


足元を見たら輪のすぐそばだったしね。


私達は矢を突き刺して結界を起動すると小屋の近くに戻った。


リューネさん、ラル、ユグヌスクさんも植物を使ったゲートで戻ってきた。


万が一の打ち漏らしもありえるのでB級冒険者の2チームは小山の周辺を探索し、アンデッドや蝶、正気の状態を調べる事になったので、水晶をいくつか取り出して錬成し、置くだけで瘴気を払う護符のような物を幾つか作ってそれぞれに渡しておいた。


「小休憩だけ済ませたら中へ行こうか」


内部がどうなっているか分からない以上、トイレとか軽く飲食とかは済ませないとね。




そして私達は小山の内部へと向かうことになった。


メンバーは私、ラル、ユグヌスクさんとヴィンドゥナガに三姉妹だ。


リューネさんには私達が正面の壁穴から入った後、矢で封印をしてもらう予定になってる。


行きたいみたいだけど、流石にどうなっているか分からないからね。


眷属ならば眷属魔法で生存確認やあれこれ出来る事も増えているのだけど、こればっかりは仕方ない。


早速正面の大穴の結界を停止させ、私達は内部へと向かった。


先頭は斥候スキルのある私が進み、ユグヌスクさんと三姉妹をはさんでラルとヴィンドゥナガが最後尾だ。


正式にはヴィンドゥナガは遊撃なんだけど、雷気を扱える関係上移動速度がメンバー中最速なので全体を見渡せる所に配置した。


私は勿論天と竜の血脈を発動させたままにして、魔力に加えて気配を探りつつ、罠なんかにも気を配って進む。


レベルの恩恵なのか、極普通にそれぞれのスキルや能力を扱えるのが素晴らしい。


大穴は普通の洞窟みたいに岩がむき出しになっていて、黒くてトゲトゲの蔦が一部貼り付いている状態だった。


アンデッドはそこまで強い個体は出て来ないので、私やステラ、ノクスが光魔法なんかでびしばしと倒していくけど、不思議なことに瘴気や黒い蝶は見かけない。


私達があまりにも早くアンデッドを倒してしまうのでヴィンドゥナガの機嫌がちょっと悪いくなってる。


5分ほど進むと急に視野が開けて、巨大なドームの中へ出た。


僅かな光源が天井にあって真っ暗闇でこそないものの、足元もよく見ないと段差なんかが分からないくらい薄暗い。


地面は岩や踏み固められた土の様で、所々棘のある黒蔦が張っている。


ぱっと見だと凹凸はあまり無いようだけど、少し先は白と灰色、あと茶色いような黒いような物で覆われている様に見えた。


小部屋とか別の通路も探せばあるかも知れないけど、まずはドーム内部そのものを調べる事にする。


天井は一番高いところで百メートル近くあり、ドームそのものは直径5〜6キロ以上ありそうだね。


視界は広くて所々に枯れた木があり、ドームの真ん中には公園事務所が見えた。


「かなり地形が変わっちゃったね」


なんて話しつつ足を踏み出すと、パキッと、乾いた音が足元から響いた。


「柔らかな光よ、灯れ。我らの視界を照らせ」


無詠唱でも問題ないレベルの初級魔法だけど、急に強い光で目をやられるのが嫌だったのでイメージを口に出してより固定化させて発動させる。


ノクスやルーナ、ユグヌスクさんも同様に小さな光の玉を作り出し、それぞれの近くに浮かべた。


私が踏んだのは獣の骨の様だった。


少し灯火の量を増やして辺りを照らしてみると、大穴へとつながる辺りはほとんど落ちていないけど、それ以外は一面に無数の骨や昆虫の骸殻などが散乱している。


白かったり黒かったりしたのはこれか。


くすんで使い物にならなくなった魔石もゴロゴロと落ちていた。


彷徨くアンデッドの姿すら見当たらず、風さえないのでかなり静かだった。


「アンデッドが食われた可能性が高いね」


ユグヌスクさんが冷静にそう説明してくれた。


「死んですぐの個体も見て分かる位腐敗してたしね。蔦が養分として吸いやすいようにアンデッド化させたのかも知れないね」


自由に操れる敵を作る為に死霊術でも織り交ぜているのかと思っていたけど、全然違っていたみたい。


そんな事を話しながら皆でキョロキョロと辺りを伺っていると、床やか岩壁などあちこちからシュルシュルっと無数の何かが擦れるような音が聞こえてくる。


「なんです?」


「うぉ、気持ちわりぃな」


ステラやヴィンドゥナガがわいわい騒いでいるのを無視して視線を巡らせる、黒い蔦が中央に向かって引っ張られる様に動いていた。


魔力の流れをあまり感じられない。


探ってみると仲間たちのものも同様だった。


昆虫人間たちの時と同じか。


でも気配は感じ取る事ができるね。


「魔力感知が阻害されてるみたい。気配は感知できるけど、何を何処まで阻害されているか分からないから気をつけて!」


仲間たちにそう警告し、私はまず管理事務所へ向かうことにした。


ど真ん中とか怪しいじゃんね。


「骨が歩き難いの」


「ですね」


ドレスの裾を摘んで歩くノクスとステラに、「靴とか服装変えた方がいいんじゃない?」と冷静に突っ込んでしまった。


靴なんかヒール履いてるからね?


ちなみにルーナは黒い革の部分鎧に狼の毛皮のマント、足元も革のブーツ、両手にはオリハルコンの短剣を握っていて腰には両手剣もぶら下げ、三姉妹中一人だけ冒険者スタイルになっている。


まぁ普段からこれに近い格好してるしね。


「仕方ないのぉ」


「変えるのです」


二人の体がキラキラと小さな星々の様に煌めくと、厚手の布で出来た服の上に革の胸鎧、足は厚手のズボンに歩きやすそうなブーツになった。


収納から取り出したのかごつい杖もそれぞれ手にしている。


「いやぁ、そんな事出来るなら最初からやっとこうよ」


思わず突っ込む私に、二人は、嗜みが!とか何とか言い訳してた。


擦れる音が床や壁、天井のあちこちから聞こえていたのは僅かな間で、その後は私達の息遣いがきこえてくるくらいの静寂が訪れた。


でも感じる。


蔦の集まった先、そこで音もなく気配がどんどん膨れ上がり増して行くのが分かった。


「主、来るぞ」


ラルの声とほぼ同時に、管理事務所が内側から弾け飛んだ。


めちゃくちゃ頑丈だったあの遺跡が、無数の断片となってこちらにまで飛んでくる様を私達はそれぞれに構えたり風や地で障壁を作りつつ睨みつけるのだった。

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