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その49

その49


私達が正面側へと戻る途中、B級冒険者パーティーの四本の槍が奮戦している所に遭遇したので、さっとアンデッド達を焼き払ってから例の矢を突き刺して起動させた。


魔石が3日ほどしか保たない事や、また出入り口が増える可能性も説明しつつ小屋へ一旦戻り、アニスに詳細を説明した。


「ありがとうございます。

それにしても…あぁ、貴女は元々行きあたりばったり、思いつきで何かしらやらかす人でしたもんね」


過去数年間旅をした仲間だっただけの事はあり、よく私を知ってるよね!


視線が生暖かいけど、そこは気にしないでおこう。


「正面と右側の穴もお願い出来ますか?他の穴は叔父…樹王の木で封じられた様ですし。

そうそう、リューネさんを連れて行った件は後程しっかりお話しましょうね?」


やべ、忘れてた。


これは別の話題をふって有耶無耶にしなきゃ!


「あ、そう言えば街道や森で目撃情報があったアンデッドの件だけど、妖精たちを見間違えたのかも知れないらしいの」


「妖精、ですか?」


小首を傾げるアニスにリューネさんが補足説明をしてくれた。


「では今も向こう側の大穴二箇所では妖精達が戦っていると?」


「そうなりますね」


「アンデッドは疲れ知らずな上に次々と湧いて出ているようですが、妖精達は疲れもしますし数の差があります。

このままではその2箇所も危険ではありませんか?」


アニスの言葉に、「他の穴をお願いします」とデュラハンに言われてそのまま素直に移動してしまった事をちょっと反省する。


「あぁ、それなら問題ないはずだよ。妖精王がこちらに来ている様だからね?

彼なら問題なく穴くらい塞げるはずさ」


と別ルートから戻ってきたユグヌスクさん達が疲れた様子もなく近付いてきた。


「けっ!やっぱりあいつが近くに居やがるのか」


ヴィンドゥナガが唾を地面に吐きながら嫌そうな顔をしている。


「えっ?いやいや、魔王がまた増えたのですか?!」


滅多に見れないアニスの驚く顔を見てちょっと楽しかったけど、まぁ確かに面倒な度合いが上がった気がするよね。


すでに樹王、夜魔王、竜王が居て、どうやら呪王や亜人王が迷宮に何かしらしたっぽい状況なのだし。


人種に確認されている9体の魔王の内、下手すると6体が集っているのだ。


そりゃ冒険者ギルドの副ギルド長としても、一住民としても困っちゃうよね。


ぶっちゃけ一体でも大変なのにさ。


「妖精たちの様子を見る限りでは、私達に敵対するつもりはなさそうですが」


ステラがちょっと渋い顔をしており、


「あいつ、色々とわけ分かんねぇからな」


とルーナが腕を組んで大きく頷いている。


「元々妖精なのじゃしな?あれらは元々そう言う存在じゃ。

意味不明なのは今更だと思うぞ?」


としたり顔でノクスが途中でもいできたらしい果物をシャリシャリと食べつつ突っ込んでいた。

 



その後分担作業と言うことになり、真正面にある穴から出てくる魔物を破魔の青天に代わってリューネさんが矢で倒し、私が魔道具化した矢を突き立てて塞ぐ。


もう一つの穴は星降る夜が担当していたけど、ラルとルーナがあっという間に敵を倒してノクスが矢を刺し起動させた。


破魔の青天の人たちがリューネさんの弓技に顔を引き攣らせていたけど気にすまい。


リューネさんてば特訓の成果で普通のギルド職員どころかその辺の冒険者よりも逸脱した力を持っちゃってるもんね。


「これで後は妖精達が奮闘している2つの穴だけですね」


「妖精達が妖精王からどの様な命を受けているのか分からんからの」


ステラとヴィンドゥナガが面倒そうに話してる。


「自ら人を助けようとするような殊勝な心掛けのある魔王ではないからの。

その場の勢いでなら有り得るじゃろうが、今回は複数の部下に命じて動いておるじゃろう?」


戻ってきたノクスが話に加わり、わいわいと話している。


魔王たちにこれだけ言われる妖精王ってどんな妖精なんだろうね?


まぁ、妖精ってその生まれにもよるけど、結構適当な性格をしているらしいからその辺の問題なのかな。


逆に他者には理解不能な強いこだわりを持つ種もいるし、見た目も可愛かったり綺麗な者も居れば、下手な化け物よりもずっと恐ろしい者すらいるからね。


魔石をその身に持つという意味では魔物に分類されるけど、ほぼ精霊に近い者も多い。


ぶっちゃけ何でもありに近く、なんなら亜人と呼ばれる者達の一部は妖精に属している事もそれなりに多いし、学者さんや地域によって違うよね位に思っておくと良いかも。


あ、人間だったのに妖精たちに受け入れられたら妖精化した話もあったな。


まぁ、エルフやドワーフ、天人なんかもぶっちゃけ魔石の無い妖精みたいなもんだし、気にしたら負けだと思っておこう。


「どうせなら妖精たちが相手をしている穴も矢で塞ぎたい所なんだけどね。

ほら、階層主のアンデッドとか深部のだと強いだろうし」


そんな話をしていると、テーブルと椅子、ティーセットを取り出して優雅に休憩を始めたユグヌスクさんがちょっと良いかな?と声を掛けてきた。


「サラさん、一つ別の問題があるかも知れないんだよね。

確か行ったことのある場所や見える場所に転移出来るんだよね?」


「ええ、そうですよ」


「今ジャンドゥーヤ迷宮はあんな事になっているし、中身は見えないよね?

そして一層や管理事務所には行ったことある様だけど、それって今の変異してしまった可能性のある場合も有効なのかな?とね」


「あっ」


言っている意味はすぐに分かった。


まず管理事務所は他の階層へ移動する手段が不明だ。


何しろ私が転移の天術を破壊しちゃったからね!


そして第一層だけど、隆起して小山状態になるまでは転移可能だったからゴーレムを送り込めたけど、現状中がどうなってしまったのか不明だ。


見えず変化してしまった迷宮内へ転移可能か?と言われたら分からないとしか言いようがない。


「まずいかも知れませんね。ちょっと試してみます」


そう言うと私は収納から小妖精ゴーレムを取り出して、第一層へと転移させてみる事にした。


「…第一層は無理ですね。

弾かれる感じではないので転移魔法は有効でしょうけど、階層その物が無くなったか、同じ場所と認識出来ないくらい変化してしまった可能性が高いです。

今度は管理事務所へ転移させてみますね。

うん、駄目ですね」


「となると、歩いて中へ進むしかあるまい」


といつの間にかテーブルに座ってお茶を飲み始めたラルが重々しい口調で言い出した。


ラル以外の面子もテーブルを囲み始めてるし。


「まぁ、それしかないよね」


「そのまま何れかの穴から入った所でさしたる手間ではあるまい」


ごもっともです。


「迷路みたいになっていたら面倒かも知れないけど、それでもどうとでもなりそうだもんね」


地図も当てにはならないけど、迷宮走破が目的って訳じゃない。


呪王や亜人王が大きく関わっていると思われるこの異変を解決する事。


私個人の事情で言えば、亜人王サティルカーリの討伐こそが最大の目的な訳だし。


「冒険者ギルドとしては、不確定要素である妖精たちに穴の守りを任せる訳には行きません。

サラさんの眷属などならいざ知らず、気分屋の魔王の部下や眷属ならば危険すぎますから」


アニスの言うことももっともなので、二手に別れて妖精たちを説得しつつ矢を起動させる事にした。


私のチームは三姉妹とヴィンドゥナガ、ユグヌスクさんのチームはラルとリューネさんだ。


ほら、まともな交渉となるとリューネさんが一番まともそうだしと無理くりチームに入れさせた。


何かあったときの事も考えて、余分に作った物も含めてそれぞれに手渡しておく。


「極力友好的に。無理な時には殺さない程度で行くよ!」


私の指示を受け、それぞれが頷くとユグヌスクさんは植物で空間を繋いで移動し、私達は空魔法で大穴の近くへと転移した。


数が増えた分一時的には余裕に見えた妖精たちだけど、今はかなり苦戦している様に見える。


多分深層の魔物がアンデッド化した物が増えてきたのが原因だろう。


初期に湧いてきた下位の魔物たちとは一線を画す魔物たちは、アンデッドとなり多少動きが鈍りはしたものの生命力や筋力が増し、自身の体が保たない程の無茶な攻撃すらも仕掛けてくるのだ。


そりゃ辛いよね。


「他の穴は全て封じました!ここも封じますから離れて下さい!」


三姉妹がちまちまと魔法や剣などでアンデッドの数を減らし、ヴィンドゥナガは強そうなアンデッドを選んでは次々と屠っていく。


単なる爪などではなかなかとどめを刺せないので、竜気や雷、光属性などを織り交ぜつつ戦っているね。


「再度の助太刀感謝する!しかしまだ封をされる訳にはいかぬのだ!

この中に我らが主がいるのだから」


デュラハンの一体が若々しい声でそう教えてくれた。


声の感じや内容からして多分最初に会ったデュラハンなのだろう。


てか、主?!


「妖精王が中にいるのです?」


「酔狂な事だが、流石に物見遊山と言うわけではあるまいよ」


「強いやつに会いに行く感じなのではないか?!」


ステラが冷めた目を大穴へ向け、ノクスがため息混じりに首を振り、ルーナが意味不明なことを言い出した。


「あれは面倒な事を一番嫌うのですよ?」


「楽しそうという理由さえあれば、かなり面倒な事でも首を突っ込みはするがの?」


「この中に何か楽しい事があるという事か?」


ステラとノクスの話にルーナが首を傾げている。


どうせ食べ放題とか武闘会とか、そんな事しか思い付いてなさそうだよね。


「ふむ。ならば主を迎えにゆけば良いではないか」


ラルがごもっともな事を言ったけど、


「出入り口の確保も重要な任務です。ただ無闇に突っ込めば良いと言うものではありませんよ」


デュラハンは熊や狼などのアンデッドを剣で切り裂きつつ、これまたまともな返事をしてくれた。


あー、そうか、それが普通なのだよね。


私の普段の行動や、これからしようと思っていた事が勢い任せ過ぎた事に気付いてちょっと凹んだ。


「主よ、凹んでいる場合ではないぞ?」


「むっ?!奴が来おったか?!」


ラルとヴィンドゥナガは何者かの気配を感じ取ったらしく、それぞれに私の前へと移動していつでも戦えるように剣や爪を構えた。


三姉妹もそれぞれに私を囲むと、


「闇夜よ、見えざる守りを」


「星々よ、幸運の光をここに」


「月よ、魔力の源たるその光、我らに貸し与え給え」


と防御や強化魔法を使い始める。


私も天と竜の血脈を発動させ、魔力感知込みで気を探ってみた。


うん、ヤバいね。


単純に言ってユグヌスクさんがわざと魔力や圧を放った時より、ずっと強力なプレッシャーを感じた。


その周りにはユグヌスクさんよりもかなり低くはあるものの、魔王や真竜などを除けば滅多に居ないレベルの気や魔力を感じる。


そしてその圧にまぎれてよく知っている魔力、というより気配を私は感じ取り、思わず複数の魔法金属塊を台のようにした羽衣の上に並べていつでも打ち出せるようにした。


溢れ来るほどのアンデッドがいつしか現れなくなった大穴の奥から、カツンカツン、ガジャガジャといくつかの足音が聞こえてくる。


アンデッドを倒し終わった妖精たちは王を迎えるかの様に膝を付き頭を垂れていた。


大穴から騎士姿の妖精や暗い緑色の超大型犬を引き連れたその男は、頭に王冠を被り肩から緋色のマントを垂らしている。


年の頃は30歳前後か。


装飾の多い片手剣を腰に下げてはいるけれど、その両腕は黒上の女性を横抱きにしており塞がっていた。


ぐったりとした女性の姿を目にした瞬間私は、


「サティ!!」


とその名を呼びつつ駆け寄ろうとした。


ボトボトと金属が落ちるけど気にしてなんていられない。


でも2体の騎士がそれぞれに槍や剣で牽制してそこから先へは進めない様邪魔をする。


「今すぐそこを退きなさい」


私は気と魔力を共に放ち、騎士たちへとそう命じた。


聞かないなら殺す。 


返事次第ではそれを躊躇なく実行しようと、私は羽衣に力を送り込む。


すると騎士たちの後ろに立っていた妖精王が私の存在を今始めて気付いたかの様な視線を向けて口を開いた。


「余は妖精王、またの名をティベニロブと言う。

ふむこの感じ、チミがサラかね?

サティルカーリは余が助け出した。

呪王ならこの中におる。

後は好きにするが良いぞ」


「意味が分からない!その子は私に殺される為にここにいたのでしょう?何故貴方が助け出す必要があるの?!」


「まぁそう騒ぐでない。

余は借りのあった亜人王に頼まれて救い出したに過ぎぬ。

呪王に騙され生気を奪われたようでな。

そして変異させた魔王の種を埋め込まれそうになっておったのだ。

生気を奪われ、望んでいた滅びとは異なる展開に我慢がならなかったそうでな、余に幻蝶を送ってきおったのだ」


つまり呪王はサティを騙してその生気とやらを奪い、魔王の種の養分にした。


そして変異した種を、今度はサティに埋め込もうとしていた所で妖精王が助け出したってことか。


「呪王の奴め、亜人王を助けようとする余の邪魔をするのでな。

種を奪って埋め込んでやったわ」


ニッコリと楽しそうに笑うその姿を見て、私の背筋に悪寒が走った。


「魔王に魔王の種が埋め込まれた?それもサティの生気を得た種を?」


魔王の種はそもそもユグヌスクさんがその命を賭して作り出した呪物だ。


そこに亜人王の生気が加わり、呪王へと植え付けられた?


暴走、という言葉が脳裏をよぎる。


「まあそんな事はどうでも良いのだ。余は亜人王を連れ、新たな舞台を用意せねばならぬからな」


「聞き捨てならねぇな?相手がルールを破ったなら、てめえも破って良いわけじゃないんだぜ?」


ヴィンドゥナガが唸るように牙を剥き出し、妖精王を威嚇する。


「八竜を従えていたお主なら恐ろしくもあるがな。

四竜のみとなり衰えた主なら余でも渡り合えると思うが?

いや、五竜を従えた者が同じ地に居るこの時であるならば、余の力の方が上であろうな」


「てめぇ、それをここで言うかっ?!」


「竜?」


そうか、そういう事だったのか。


ヴィンドゥナガが160年以上前と比べてかなり老けていたのは私のせいだったんだ。


魔王はそれぞれ何かに突き抜けた存在だ。


それは魔王によって異なるものの、竜王のそれは強大なる真竜を複数眷属とする事で成し得たものなのかも知れない。


残る光、闇、木、そして空の竜だけでは魔王を魔王足らしめるには弱いのだ。


何しろ私に従う真竜の眷属はフラナヴァータを含めれば五竜となる。


竜にのみ強い関心を持ちテイムや眷属化する事で魔王となったヴィンドゥナガが真竜の眷属数で私に負けているのだ。


そりゃ理の影響も揺らぐよね。


「昔からアホだとは思っていましたが、やはり竜王はアホなのですね。

そしてそれ以上に、妖精王ティベニロブ、お前は愚かなのだな?」


ステラが急に口調を変え、氷の様に冷たい視線を妖精王へと向けた。


「この私、夜魔王エネエブラスの前に敵として立つことの意味、知らぬ訳ではあるまい?」


ルーナが無表情に妖精王を見つめた。


そこに落ちている石ころを見ている方がマシなくらいに、一切の感情がこもっては居なかった。


「粋がるでない。

余には見えておるぞ。

3つに分裂した影響でその力、かつての威光も台無しな程に弱っておるではないか」


余裕な笑みを浮かべているはずの妖精王だったけど、何故か虚勢を張っているように見えた。


「確かに3つに別れた今、私の力は個別に見れば弱くなりはしたがな?

元に戻れぬ訳ではないのだぞ?」


「断絶結界!」


ノクスの言葉に妖精王が焦りつつも魔法を放ち、三姉妹それぞれを個別の結界内に閉じ込める。


「ふっ、ふふふ」


口元だけで笑うステラ。


「空魔法とギフトをかけ合わせた特殊結界か。無駄な足掻きをする」


口元だけを皮肉げに歪めるルーナ。


「我らは元より一つ。

どの様な隔たりがあろうとも、無意味であると知れ」


ノクスがそう告げると、急速に3人の体がボヤケて消え去った。


結界に綻びはなく、どう考えても簡単に脱出出来るとは思えないレベルの物だったのに。

 

リントで出会った時、三姉妹が全く本気を出していなかったのがありありと分かった。


「何処を見ている?私はここだ」


波打つ様な黒髪、闇夜の如き瞳、赤い紅が引かれた艷やかな唇が特徴的な美女が私達の頭上に浮かんでいた。


黒い豪奢なドレスを着たその女性から放たれる途轍もない圧力は、物を見るかの様に見つめられる妖精王のみならず、私やヴィンドゥナガ、そして多数の妖精たちが気圧されて動けなくなるほどだった。


「馬鹿な…それほどなのか?夜魔王エネエブラス…」


妖精王ティベニロブの口から、そんな言葉が驚愕を滲ませた声で放たれたのだった。

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