その47
その47
陥没した迷宮前の少し手前に転移すると、男女4人組の冒険者とシュリンが何やら言い合いをしていた。
四人組は40歳前後の黒い金属鎧の男性と白く塗られた金属鎧を着た二十代前半の女性、白い神官服とローブを纏った壮年の男性に革鎧を着た二十代後半の女性と言う構成だ。
この四人が破魔の青天だろうね。
リーダーが剣士の男性でリーエン・ダルカ、白い鎧は女聖騎士のラウ・レイで、神官服の男性は高位神官のカイラス、革鎧の女性はナレハと言う斥候だろう。
突然湧いて出た私達におどろいた様で、穴の周辺にいた冒険者たちやギルド職員が驚いてこちらを見ていた。
まぁ、変身していない天人の私にエルフ、竜人にドレス姿の三姉妹、状況的に見てまともな鎧姿の人間はラルだけ(中身は神獣)と言うのは何とも微妙な集団ではあるよね。
困った様子でやり取りしているシュリンと、穴へと向かおうとする破魔の青天の様子から冒険者ギルドからの通達がまだ届いていないのは確実だ。
困ったね、これはリューネさんかアニス辺りを連れてくるのか手っ取り早いかな?と考えていると、
「うん?あれはシュリアードじゃの?何じゃ何じゃ?
喧嘩か?ワシも混ぜろ」
と何処かの魔王が突進して行った。
「ちょっ?!殺したりしたら駄目だからね?!」
「んなもん分かっとるわい!
ワシを誰だと思っとるんじゃい!
これでも三大魔王中最強と言われとる竜王ヴィンドゥナガじやぞ?!」
「そこの老いぼれ、何を言ってるのです?
それは無駄に居るドラゴンたち眷属を入れた結果じゃないですか?
魔王個人としての実力なら接近戦は武王、魔法戦なら私達夜魔王エネエブラスの方が上なのですよ?!」
「そーだよな?私ならワンパンで倒せるぜ?」
「三分の一の分際でほざくな!」
「んん?ならば妾達が引導を渡してやろうかえ?」
ヴィンドゥナガが破魔の青天を放置して三姉妹と口喧嘩を始めた。
四人から無駄に強大な魔力とも気とも呼べるものが放たれて、破魔の青天を含めた周辺にいる人々が気圧されて硬直しているじゃんか。
あ、気絶してる人もいるし。
「止めなさい!」
私が思わず一括すると魔王たちはピタッと止まった。
どちらが強いって明らかに魔王たちなんだけど、眷属化している事で言霊にも似た力を言葉に込める事が出来るみたいだね。
「ちょっと事情を説明して貰えるように誰か呼んでくるから待ってて」
私はその場の面々にそう言うと、ディーアの冒険者ギルドの受付付近と空間を繋いでみた。
リューネさんを発見すると、「ちょっと緊急事態なのでこちらへ」と、戸惑っている彼女を連れて戻って来る。
流石に慣れているのかそんなに驚いた様子ではないね。
慣れって怖いわ。
リューネさんは何となく察してくれた様で、破魔の青天へと駆け寄り何かを話し始めた。
それで落ち着くかと思ったけど、魔王がどうのと騒いだ上に圧まで掛けられた破魔の青天の人々は納得がいかないみたいだ。
「何故複数の魔王がここに居る?」
そうだよねー。
呪王や亜人王と言う魔王が関わっている案件を調べに来たら他の魔王が居たとか、納得行かないし何事だと思うよね。
「ん?妾たちはサラストリー様の眷属なのじゃから居て当然であろう?」
「そうだぞ。何しろサラ様は私達三魔王を統べる大魔王だからな!」
「うむ、主の居る所にこの竜王ありじゃ!」
何かアホなのが余計な事を言い出した。
「大魔王だと?!」
「魔に属する者の長かっ?!」
リーエンさんとラウさんがそれぞれ私に向き直り、剣の柄に手を掛けた。
「それはいささか無粋だよ?」
ユグヌスクさんの声と共に地面から無数の蔦が生えて二人の体を拘束する。
いや、これこっちが悪役になるパターンじゃね?
確かラウさんは聖騎士、神々に仕え神殿に所属する立場なはずだ。
仕方ないので試しに星神の眷属として、天人が普段から出てるキラッキラした物に神気を混ぜてみた。
私自身は神様でも何でもないけど、神獣などと同じ様にそれくらいは出来るんじゃね?と思って試してみたのだ。
「?!その神気は正に神々のもの?!」
「星神様の眷属、天人族のサラストリーです」
雑な名乗りを上げただけで、ラウさんは納得してくれた様だった。
その様子にユグヌスクさんがラウさんの蔦を消滅させる。
「神の眷属に大魔王の称号、そして魔王たちを眷属としているだと?
はっ?!まさか神々の壮大なる計画が動いていると言うのかっ?!」
何だか一人でそんな結果を導き出したラウさん。
流石に思い付きやご飯の為に眷属化したとも言えず、出来るだけ威厳がありそうな感じで微笑みを浮かべてみた。
「サラストリー殿、すまなかった。リーエン、ここは私が保証する。この方々は敵ではない。剣から手を離すのだ」
ラウさんの言葉に渋々柄から手を離したリーエンさんを見て、ユグヌスクさんが蔦を解く。
今ひとつ納得していない様子を見て、万が一があるから今回は消滅させなかった様だね。
リーエンさんのそんな様子を見て、リューネさんがちょっとキツめに声を上げた。
「リーエン・ダルカさん、冒険者ギルドからの依頼は呪王の調査依頼です。
他の魔王討伐ではありません」
その言葉にやっと納得したのか、リーエンさんは身構えるのを止めたようだった。
ちなみにカイラスさんとナレハさんは最初から戦う気はなかった様で、私達や仲間二人の様子を静観している。
「確かにそちらの大魔王殿は神々、星神様に通じる神気を感じる。
それにそちらに居る戦士のお方も神々の使徒か眷属であられるのだろう。
ならばその方々の言葉、信じるに値すると思われますな」
カイラスさんがまるで最初から分かっていた様な、とても静かな表情で私とラルを見ていた。
ラルが神獣である事がバレたのかどうかは分からないけど、抑えた神気の様な物は感じ取れるのだろう。
「リーエン、ラウ、毎回言ってるけどあんたら自分の実力と相手との差をちゃんと読んでから行動しな。
読み間違えば死ぬよ?
竜王や大魔王、そこの戦士やエルフ、三人組もそうだが誰か一人をあたいらのパーティー全員で掛かっても勝てる相手じゃない事くらい分かるだろうさ。
特にリーエン、あんたはあの力に頼りすぎだからね。過大評価し過ぎるとろくな目には合わないよ」
ナレハさんは出遅れた訳でも何でもなく、勝てない事に気付いていたらしい。
流石A級冒険者の斥候担当だね。
てかカイラスさん、ナレハさん共々私のことを大魔王呼びになってるんですけど?
あれ?
星神の眷属とか天女とか、何かその辺か名前で呼んで欲しいんですけど?
まぁいいや。
「急にあれこれ言われても良くわからないと思いますから、皆さんに現状を説明したいと思います。
まずはこれを見てください」
私はそう言うと光魔法と空魔法を掛け合わせて、両手を広げた位の大きさの光の板を作り出した。
そこには先程ゴーレムたちを使って偵察した迷宮内の様子を映し出されている。
迷宮内を漂う霧の如き濃い瘴気。
あちこちに伸び黒くて棘だらけの太い蔦が張り巡らされている。
枯れた木々にぶら下がる蛹たち。
それが孵ると黒い蝶が飛び立ち、魔物の死体へと吸い込まれて行く。
アンデッドと化した魔物は立ち上がり、出口ヘと歩み始める。
「これは先程ゴーレムで偵察した時の状況です。
この中は濃い瘴気と魔物の死、そしてアンデッド化までもが起こっています。
今あの中へ突入しようと封を解けば、瘴気と蝶、そしてアンデッドたちが解き放たれてしまいます」
息を呑んで食い入る様に板を見つめる破魔の青天やリューネさん。
周りにいた他の冒険者やギルド職員も顔を青ざめさせてジッと覗き込んでいた。
「この瘴気は呪王が、蝶は亜人が作り出した物だと思われます」
2体の魔王が手を組んだ可能性を示唆すると、ざわめきが起こった。
「あの瘴気の中でまともに行動出来るのは、魔王たちや眷属や使徒などの特殊な加護を得た者くらいです。
下手に踏み込めばアンデッドと化し、人々を襲う魔物と化すでしょう」
「確かに…」
「長らく冒険者をしておるが、ここまでの瘴気は初めて見るの」
聖職者であるラウさんとカイラスさんはいかに危険な状態であるのか、他の人々以上にはっきりと分かったに違いない。
「俺の目で散らしても無理か?」
おずおずと仲間二人に問い掛けるリーエンさんは、二人が大きく首を横に振るのを見て、「そうか」と呟いた。
「外に出て来た瘴気ならば破魔の浄眼で祓い散らす事も可能でしょうが、あの中で浄化しつつ戦うなど狂気の沙汰でしょうな」
ほほう、リーエンさんも特殊なギフトを持っているんだね。
破魔の浄眼、その名の通り魔力やそれに近い物を散らしたり浄化したり出来るのだろう。
てかパーティー名そのままの力だよね。
「つまり我々は足手まといなのだな」
ラウさんが少し落ち込んだ様子だったので、いやいやと私が口を開いた。
「いいえ、そんな事はありません。
私達が突入した後、あの瘴気や蝶、アンデッド達から町や村の人々を守って欲しいのです。
それが今出来るのは破魔の力に優れた皆さん、破魔の青天だけなのではありませんか?」
お前誰だよと自分でも突っ込みたくなる様な感じで話してるけど、これはまぁその昔の記憶が蘇ったからなんだけども。
ぶっちゃけ天人としての相貌とキラキラ効果的に、丁寧な方が上手いこと話が纏まる事が多かったんだよね。
天女伝承のうち、一般の人々から受けが良かったのはこの対応と祈念魔法や収納魔法のお陰だったりするし。
必要以上に飲食物や回復アイテム類を始め色々な物を突っ込んだままにしているから、いざって時に配布したり出来たんだよね。
薬草や竜の血なんかの特殊な薬になり得る物も持っていたから、疫病流行った村でも活用出来たし。
収納と言えば?!
私はある事を思い出し穴や他の人々から少しだけ離れた所へ歩くと、地魔法で地面を平坦にしてから固めて小さい方の小屋を収納から取り出した。
「ここを拠点と致しましょう。
それから…」
と小屋の中に初級と中級の回復ポーションを30本ずつ、MP回復ポーションも初級と中級を30本ずつ取り出す。
ついでにアーストンで入手したミスリルの大きな塊や宝石類を幾つかとドラゴンの大きめの鱗を一枚取り出し、錬金術師と祈念魔法を組み合わせて、材料を適当に混ぜ込んでネックレス型とブレスレット型の護符を各10個ずつ錬成した。
まだまだ材料に余裕があるね?
よーし!と言うことで今度はミスリルにドラゴンの牙や爪を一本ずつ混ぜ込み、祈念魔法で祝福や聖別を与えつつ片手剣と両手剣を各2本、小剣5本に短剣10本を錬成した。
ついでに杖術や棒術、魔法の発動体にも使える長い杖とメイス、ウォーハンマーも同様に2本ずつ作ってみた。
なんか妙に迫力のある武器が出来上がったよ!
「小屋は差し上げられませんがこのポーション類や護符、武器は差し上げます。
護符はそれぞれ聖別し加護を込めてありますので、ある程度の瘴気や攻撃魔法、呪いやアンデッドの攻撃を防いでくれるでしょう。
武器も同様に黒い蝶やアンデッドに対してある程度は有効的な効果を発揮すると思います」
錬成する姿を呆然と見ていた人々は、我先にと武器へ駆け寄った。
しまった!魔法金属はダンジョンで簡単にゲット出来たので、アホみたいな量を作ってしまったけど、普通に考えて高い品じゃんね?
ドラゴンの部位すら入ってるとか普通その辺で買えない品だったよ。
「並んで下さい。
必要以上の量は差し上げられません。
あくまでもご自分で使う分のみとさせて頂きます」
と言うことで大魔王を意識して声を出すと、謎の威圧感が出たらしく誰も逆らう事はせずちゃんと並んでくれた。
「おぉ、まさに災厄の天女、禍津妃の貫禄であるな」
ラルがそれを見てボソリと呟いたけど、しんと静まり返っていたせいで凄く響いたらしく、魔王たちやリューネさんだけでなく、破魔の青天や他の人々の耳にも届いてしまった。
「天女様…あぁ、この地を再び救いにいらしたのですね!?」
「厄災の天女?」
「禍津妃、まさにこの貫禄は…」
と、みんな好き勝手に話し出すし。
コホンと咳払いをすると皆シャキッと背筋を伸ばし、ちゃんと私の前に一列に並んでくれた。
護符は一人に付きネックレスかブレスレットのどちらか一つ配分して、武器もそれぞれスタイルに合わせた物を渡すことになり、リーエンさんには片手剣、ラウさんには両手剣、カイラスさんには杖、ナレハさんには小剣一本と短剣5本を提供することになった。
他の冒険者やギルド職員も戦える者や後方支援をする人々にも護符や武器を渡していると、何故かリューネさんも護符や武器を欲しがったので、後で別にプレゼントをする約束をして、ネックレスの護符だけ渡すことにした。
って言うかリューネさん、名前付いてない弓があるじゃんね?
他の武器や盾にもなるし、多分護符より効果あると思うんだけど。
「まぁ唯一の弟子の頼みだし、仕方ないか〜」
そうボソッと呟くと、ヴィンドゥナガの目がキラン!と輝いた。
「なんと?!我が弟子にしてほぼ孫に弟子とな?!つまりはワシの孫弟子かっ?!」
いや、私弟子だったっけ?
ほぼ孫は一応ご先祖様だからもう諦めるとして、確かに特訓してもらったから弟子になるのかな?
仕方ない、紹介しておこう。
老人に近い外見のオッサンがキラッキラした目でリューネさんを見つめている。
「このオッサンは遠い祖父みたいな人で師匠的な感じに当たるけど、今は眷属の竜王ヴィンドゥナガです。
こちらは私の弟子にしてパーティーに一人は欲しい知恵袋、リューネさんです。
お互いに仲良くやって下さい」
「任されよっ!竜王ヴィンドゥナガじゃ!宜しく頼むぞ」
「えっ?あっ、ご紹介に与りましたリューネ・ザッターと申します。宜しくお願い致します」
何だろう?
鍛える気満々じゃない?
本人がそう望むならいいかなぁ?と思うんだよね。
嫌がるなら止めるけど。
リューネさんもそのうちレベルが四桁とかなりそうだよね。




