その41
通常よりも残酷に感じるかも知れない描写があります。
ご注意下さい。
その41
レベルが490になり無駄に強くなった気がするけど、樹王ユグヌスクさんが時々出す気配や魔力、亜人王サティルカーリがラルに憑依した時に感じた魔力はもっとずっと上にあるものだった。
それを言えば五竜の本気モードも同じなんだけど、私は彼等をどうやって仲間にしたのか、全く覚えていないと言うのが困るよね。
まぁ、今回の魔王たちが眷属になったみたいな、そんな微妙な感じなんだろうけどさ。
結局あの後、打倒呪王!打倒亜人王!という事で、それぞれやる気になりはしたものの、どこに居るかも分からないしA級冒険者たちも動いているしって事で、ディーアの町に戻る事にした。
全員ぞろぞろ連れて行くと大変なので、私とリューネさん、ラル、アルシェにステラが同行する事になった。
他の連中はダンジョンで遊ぶそうだ。
壊さないでね?
三姉妹でステラを連れてきたのは、なんやかんやで一番まともそうだったからだ。
最初はノクスが一番まともそうだと思っていたけど、案外ポンコツな気がしたし。
平均的な感じがステラだと感じたので彼女を選んだのだ。
いつも通りに門で仮身分証を貰い、冒険者ギルドで登録と言う流れもきちんとこなし、別室に通された。
眼の前にはギルドマスターのエルナンデスさんとサブマスターのアニスリース、そしてリューネさんも同席している。
「と言うことはリントの町は町役場がほぼ全滅状態、ギルドや神殿等は無事で敵はヴァンパイアだった。
ヴァンパイアの裏には呪王と亜人王がいて、三姉妹は敵対する存在ではない、アンデッドは呪王が裏で糸を引いていると言うことだな?」
とエルナンデスさん。
リントで行ったリューネさんの報告と、私達からの話を聞いてそう理解してくれた。
脳筋に見えるけどやっぱりギルドマスターだよね!
「はい、そうなります」
と私が答えるとアニスが、
「町役場で戦闘の際に色々とあったようですが?」
と訪ねてきた。
「クラリウスの妹クララが吸血鬼になっていて、すでに人を複数喰らっていました。アシュリーナさんと共に討伐しようとすると殺傷力の高い魔法を連続で使われ、仕方なくアシュリーナさんが無力化したと言う流れです」
ここで嘘を言ってもどうしようもないので、はっきりしておこうとそう説明する。
アシュリーナさんも多分この位は説明したはずだし、じゃなきゃ子爵家、それも領主の息子を牢に入れたりはしないだろう。
「クラリウスはアシュリーナ殿も害そうとしたんだな?」
そうエルナンデスさんに問われたので素直に頷き、
「そうです。その後アシュリーナさんに気絶させられ、最終的にリントのギルドの牢へ投獄されたはずです」
と話すと、
「その件だがな、先程連絡が入ってクラリウスが脱獄したそうだ」
そうエルナンデスさんが苦い顔をして告げてきた。
予想外の話しに私は呆然としてしまう。
「アシュリーナさんはこの事を?」
「いや、彼女はまだディーアの町へ戻っていない」
そう言えばアンデッドを殴りに行くみたいな事を言っていたような?
どうしたものかと皆が黙り込んでいると、
「質問です。クラリウスってあの会議室で気絶していた魔法使いの男ですか?」
とステラが手を上げて尋ねて来た。
「そうだけど何か知っているの?」
「魔に魅入られていますです。
強い力、種のような物が芽吹いて蔦で雁字搦めにしてるです」
気付くとステラの両の目が金色に輝いていた。
「魔眼の類なの?」
「はい、星見の魔眼と言うギフトです。占いにも使えますが、星から見た光景を見ることも出来るですよ」
星は相当目が良いらしい。
「位置はわかる?」
「地図があれば多分」
という事でリューネさんが近隣の地図を持って来てくれて、現在クラリウスがいると思われる位置を教えてくれた。
どうやって移動したのかは分からないけど、ステラの指差す先は魔王の種を植え付けられたゴブリンロードが軍団を率いて来たのと同じ、南の森の深部を指差していた。
「あ、不味いです。男一人女四人のパーティーがクラリウスに接近していますです」
「なんだと?もしや男は黒髪か?」
「そうです」
「オリーブの白鳩だ。
リーダーのトミー・タイラーは勇者系のギフト持ちだ」
呪王の調査を依頼されたA級冒険者パーティーオリーブの白鳩。
その実力は確かな物だろう。
ステラはどこからか人の頭くらいある大きさの水晶玉を取り出すと、「見るです」と言って指差した。
そこには剣や杖を構えた冒険者たちと、明らかに異形と化したクラリウスの姿が映し出されていた。
水晶玉に映るクラリウスは、胸元から無数の蔦が生え、それが体の大半を覆っていた。
腰に剣はなく、装備らしい装備も身に着けてはいない様だ。
脱獄時の格好のままなのかも知れない。
「あれ、ゴブリンロードの時と形状は違うけど魔王の種じゃ?」
私の言葉にアニスやエルナンデスさん、ラルにリューネさんも食い入るように見つめていた。
オリーブの白鳩はトミーと剣士風の女性の二人が前に出て、遊撃の位置に神官戦士の女性が、その後ろに斥候と思われる少女と魔法使い風のエルフ女性と言う隊列だ。
「まずいですね。リーナサトラは火魔法が使えません」
エルフ同士だからかアニスの知り合いの様だった。
クラリウスが蔦を次々と伸ばして前衛の二人に襲いかかり、トミーは剣に炎を纏わせて蔦を焼き切り、剣士はその剣技だけで次々と蔦を切り落として行く。
神官戦士は攻撃力や防御力の上昇を祈念魔法で願い前衛二人をサポートした。
エルフ女性は何か呪文を唱えて木々を操り、蔦による攻撃を邪魔している。
トミーが何かをクラリウスに語りかけるけど、それを無視してヤツは炎の槍を無数に生み出し撃ち出した。
リーナサトラが水魔法で壁を張り、剣士が剣で次々と火槍を切り落として行く。
この人たち強い。
流石はA級なだけのことはあるね。
そんなやり取りを繰り返しているうちに、斥候役の少女が短剣を抜いて前に出た。
驚いた表情をして止めようとする神官戦士とリーナサトラだったけど、斥候なだけに身軽に二人を避けてそのまま前衛よりも前に出てしまう。
少女は短剣に炎を纏わせ、そこから3本ほど火の矢を撃ち出した。
それは蔦の一本すら焼く事は出来ず、クラリウスの放った無数の氷の礫が少女に真っ向からぶち当たった。
あちこちを凍りつかせて吹き飛ぶ少女。
前衛二人が慌てた様に少女とクラリウスの間に移動し、神官戦士が少女へ駆け寄って回復魔法を使う。
剣士は極力背後を意識しない様に蔦や魔法を断ち切るけど、トミーはチラチラと少女へ視線を向けていてその動きは危なっかしかった。
「白鳩が負けるな」
ラルの読みに他の面々も渋い顔だ。
一人の少女が下手な動きをした影響は、パーティー全体に飛び火した。
パーティーと言うのはうまく回れば何倍にもその力を強くしてくれるけど、誰か一人が足を引っ張ると簡単に瓦解するものでもある。
「ステラ、近くまで行けば場所は分かる?」
私の問に「多分分かるです」と答えた彼女をお姫様抱っこで抱き上げて、何度か訪れたことのある南の森の一番深いエリアへ転移した。
「きゃっ!もぉぉ。あ、あそこです!」
腕の中で指差す彼女の視線の先で、いくつかの光が走るのが見えた。
「私も飛べますからサラ様は先に行くです」
そう言って私の腕から飛び出すステラに軽く手を振り、私は高速飛行で目的地へと飛び込んだ。
ほんの僅かな間に何が起きたのか、ボロボロになった剣士は剣を構え、その背後には倒れた少女を守る様に覆い被さった神官戦士の姿があった。
エルフは何処からか伸びてきた蔦に手足や口を締め付けられ、擦り傷があちこちに出来て血が流れている。
そしてリーダーであるトミーは血の池に倒れていた。
「ディーア冒険者のサラです!助太刀します!」
私はオリーブの白鳩たちにそう声を掛けつつ、ヒヒイロカネの剣を抜いた。
「あそこでアシュリーナさんの邪魔をしなきゃ良かったよ」
後悔の念に囚われつつも、私はヒヒイロカネに光と炎、そして雷をまとわせてクラリウスへと斬り掛かった。
無数の蔦が応戦してくるけど、今の私にはとてつもなく遅く見える。
避け、切り捨て、あっという間にクラリウスを間合いに入れると勝負に出る。
三属性の魔法を纏わせたヒヒイロカネの剣で速さに任せて無数に切り込む。
アーストンのボス部屋ソロ攻略の頃と比べても速度や筋力、魔力すらもが上がり、魔法すら上乗せされたその剣は、クラリウスの蔦は疎かその手足や胴、足や頭に至るまでその全てを焼き切り数百の燃える肉片へと変えていた。
「亜空の亀裂」
魔力で魔王の種の在り処を確認して意図的に外し、それ以外の肉や骨、灰すらもここではない何処か、世界と世界の間、無限の闇が広がる所へと空魔法で送り込む。
地面が一部抉れちゃったけど仕方ない。
盗賊などを殺した事はあるけれど、顔見知りはちょっとキツイね。
でもこれは多分、アシュリーナさんを邪魔した罰なんだと思うんだ。
彼女は私よりもずっと彼を知っていた。
ここまでとは言わないまでも、何かしら他人に迷惑がかかる事も考えていたのかも知れない。
私は地面に落ちた魔王の種を収納すると、アムリタを取り出してトミーへと駆け寄った。
「トミー!トミー・タイラー!
起きなさい!
いつか私達を生まれ故郷のニッポンに連れて行くんじゃありませんでしたの?!目を覚まして!
お願いよ、起きて!平良富好!!」
血の海に倒れたトミーに剣士が必死で声を掛けているけど、全く反応がない。
魔力が拡散し始めているのが分かるけど、ギリギリまだ助かるはずだ。
「これを飲ませて!早く!」
私は騒いでいる剣士にアムリタの入った瓶を手渡した。
剣士は泣き腫らした目で薬瓶を見つめ、慌ててトミーの体を抱き起こすと、頭を膝の上に抱えて瓶を口元へと運んだ。
駄目だ。
意識がないせいか飲もうとしない。
「ひ、人助け、これは人助けです!」
剣士はブツブツと呟いてから意を決した様に瓶を自分の口に当ててアムリタを含むと、トミーの口に自分の口を押し当てて霊薬を流し込んだ。
少しの沈黙の後、ゴクリとトミーの喉が音を立てて動きアムリタを飲み込む音が辺りに響く。
トミーの体は柔らかな光に包まれると、静かな寝息を立て始めた。
他にも怪我人が居たはずだよね?
わたしが振り向くと、蔦に吊るされていたエルフをステラが助けている所だった。
少女を庇ってあちこちが煤けている神官戦士には祈念魔法で回復させ、その下で気を失っている少女にも祈念魔法を掛けた。
「助かりました。本当にありがとうございます。私はレイチェル・スワンソン。ここに寝ているのは私共の勇者、トミヨシです」
そう言って血に汚れるのも気にせずに、膝枕をしたまま愛しそうに青年の黒髪を撫でるレイチェルさん。
フラつきつつもステラさんに抱えられてエルフ女性リーナサトラさんがこちらへやって来た。
仕方ない。
わたしはリーナサトラさんに祈念魔法を掛けた後、お試しで地魔法を使いゴーレムを作ってみた。
イメージは大きめの台車を引く2体のゴーレムだ。
試してみるもんだね。
アーストン迷宮でよく見かけたゴーレムが2体、台車とセットで作れたよ。
流石はゴーレムマスター!
ステラやゴーレムの手を借りて、倒れている3人を台車に乗せると、ユグヌスクさんを真似して近くの木々とディーアの町近くの藪を繋げてみた。
予想通り使えて門が完成する。
「さぁ、行きましょう」
意味が分からず立ちすくむレイチェルさんとリーナサトラさんを置いて、ゴーレムが台車を引いて門の中へと入って行く。
ステラもその後に続いたのを見て、二人もおっかなびっくり入って行った。
私もくぐり終えると門が消え、いつも通りの藪に戻っていた。
面倒なので台車を引かせたまま門へ向かったら案の定槍を向けられたよ。
事情を説明したら治療院へ行く馬車を用意してくれるそうなので、ゴーレムと台車は消して後はお任せする事にした。
門の外へ出てないのに外から戻って来た点は、もしバレたら後でアニスかアシュリーナさんにお願いしてどうにかしてもらおうと心のなかで思うのだった。
一番元気なレイチェルさん以外は回復はしているものの、様子を見る為に全員治療院へ運ばれて行った。
私とステラはレイチェルさんを連れて冒険者ギルドへと向かう。
あのまま転移しなければ、確実に彼女たちは死んでいた。
クラリウスをアシュリーナさんに殺させなかった私の責任とも言えるので、絶対に助けないといけないと思って慌てて動いたんだけど、間に合って本当に良かったよ。
冒険者ギルドに入るとラルとアルシェが走って突っ込んできた。
ラルは躱してアルシェを抱きとめる。
「主、一人で行く駄目」
「ステラが一緒ですぅ」
「ステラ三分の一人前」
「ガーン!」
そんなアホな事をやっていると、リューネさんとアニス、そしてエルナンデスさんも姿を現した。
「レイチェル殿ではないですか!ご無事で何よりです!他の皆は無事だったのですか?!」
そう尋ねるエルナンデスさんにレイチェルさんが、全員サラさんに助けられましたと答え、詳しくは別室でという流れになった。
リューネさん、さり気なく弓が変化した腕輪をさすりまくってるね。
このままで大丈夫なのだろうか?とちょっと心配になるよ。
別室で席に着くと魔王の種を収納から取り出して見せ、「これがクラリウスの胸に寄生していました」と伝える。
「クラリウスは完全にこちらを殺すつもりで仕掛けて来たので、殺してから空魔法で別空間に死体を捨てました。高速再生などもあり得たので」
と話すと納得してくれたので、エルナンデスさんに魔王の種を渡した。
アニスが慌てて箱を取り出し、そこに種を入れさせてる。
クラリウスは辺境伯家の長女を殺そうとし、冒険者ギルドの牢を破り、他の冒険者を襲った訳で、どう考えても無罪放免とは行かなかったからね。
他の面子は治療院で様子見である事も伝え、レイチェルさんは呪王に関する調査結果を話し始めた。
結局何も分からず、数体のアンデッドを倒しただけに終わったそうだ。
「三姉妹とリントについては既に解決している。あとはアンデッドと呪王だな。
よし、破魔の青天も呪王の調査に編成よう」
そんな話をしている中、私はとある事に気付いた。
この人たち、呪王がどんな姿形をしているのか知っているのだろうか?
性別すら出てきてないんだけど。
伝承とかその辺から探っているのかな?
何だか不安なんですけど?
「あの、呪王の姿形や性別は判明しているのですか?」
とってもさり気なさを装いつつそう訪ねてみると、エルナンデスさんは目を反らし、アニスは首を横に振り、レイチェルさんはハッとした顔をしていた。
こいつら、駄目すぎじゃね?
「トミーには魔王や邪悪な物を感知する力があるので、私達はそれで探索した結果、上位のアンデッドや先ほどの怪人と遭遇したのですが…」
あぁ、このパーティーが何故呪王探しに当てられたのかは分かった。
「そうなると他の面々では探すのが困難なのではないですか?」
めちゃくちゃ素直な意見を述べると、全員が黙ってしまった。
確か破魔の青天は神官戦士や聖騎士などが多いから、こちらも神頼み的なスキルで探せるのかも知れないけれど、啓示の類は基本的に神様側から来るものだからね。
レイチェルさんが仲間たちの様子を見る為に冒険者ギルドを後にして、エルナンデスさんはギルド長室へと戻り、それ以外の面子が会議室に残る事になった。
「アルシェ、他の竜たちから何か連絡は来ていない?」
「敵勢力に関する事は何もない」
無駄話はしてるのかも知れない。
「アニスには正直に話しておくね。実は三姉妹は夜魔王エネエブラスが三つに分かれた姿なんだよね。
で、3人とも私の眷属になったよ。
それとユグヌスクさんだけど、私の眷属になったねぇ」
色々端折りつつもそう説明すると、頭を抱え込んでいた。
「それとアーストン迷宮のダンジョンマスターになりました!」
「はい、何も聞こえませんでした。ええ、聞こえませんとも」
何か駄目な方向に開き直ったらしい。
「向こうもヴァンパイアを挟んで魔王2体が組んでいる可能性があるからね。
こちらもって事で裏技的な感じらしいよ?
お陰で大魔王の特殊称号を貰ったし。いらないけど」
「前以上に突き抜けている事だけは分かりました。
それ以上は何も言えません。
ですが確かに相手が相手ですから、こちら側も大きな力を持たねばならないのかも知れませんね」
アニスは相当疲れたのか、溜息を吐きつつこめかみをマッサージし始めた。
「アニスリース殿、一つよろしいか?」
普段あまり話さないラルが口を開いた。
「ずっと考えていたのだ。何故この領ばかりが魔王に襲われるのだ?この地は空白地帯であるのだろう?」
「魔封じの森、と言うよりも封印山脈の特性が関係しているのかも知れませんね。
何かを封印しやすい特殊な場だとしても、封じられている数が異常過ぎます。
本来なら近付かなければ良いはずの場所に何故こんなにも封じられているのか?」
「魔を呼ぶ何かがあると。むぅ、なるほどな」
アニスの話しに私も納得したね。
「そういえば一万二千年前に封印都市ターラストとか言う都市があったみたいだし、それも関係あるのかな?」
「リューネさんからの報告でもありましたが、流石にそこまで古い資料はそうそう手に入りませんしね。
どこかに関連性のある古代遺跡でもあれば調べられるのかもしれませんが」
あ、そーいえば封印されていたのがここにいるじゃん?
そう思ってステラに聞いてみると、
「呪王に騙されて気付いたら来ていたみたいな感じですから、ここに惹かれたのかどうかは分かりませんですね。
今惹かれているかと聞かれたら、そこまで魅力的には感じないです。
過去に封じられた何かに興味でもあれば別なのですけど」
と言うことらしい。
「土地そのものよりもそこに封じられた何かに惹かれる可能性ですか。神々が封じたとされる程の存在ならば、それもあり得ますね」
結局結論は何も出ないまま解散する事になった。




