その39
その39
「アルフレッド、あんた復活可能な何かを準備してるんでしょ?そっちのクララもそうでしょ?」
私の問にニヤリと笑う吸血鬼達。
「他聞だけどある程度期限はあるんだろうね。
流石に数時間って事はないだろうけど、何週間、何ヶ月も経ったら駄目になる程度には縛りがあるはず」
そう問いかける私にアルフレッドは平然とした顔をしていたけど、クララの表情は少し引きつってチラッとアルフレッドの方を伺った。
「体の一部を何処かに保管しているって所かな?ヴァンパイアはアホみたいに再生能力があるけど、流石に二人に分裂とかは出来なかったはずだし。
普通なら主体のない肉体は灰になるけど、特殊な術でも使えばある程度は保ちそうだもんね?」
「そうなると拘束する以外どうにも出来ないですよね?」
とリューネさん。
「つまり拘束したまま半殺しを続けるのですか?」
「面倒なことだな」
どうして半殺しを続ける必要性があると思ったのか意味不明だけど、今ひとつ種族の特性を知らないアシュリーナさんやラルには復活の仕組みなど理解が及ばなかった様なので、わかりやすく説明することにした。
「簡単に言うと、吸血鬼はトロールよりも凄い回復力があります。
その上、多分期限付きだけどこいつらは死んだら何処か別の場所で復活出来るみたいなんです」
「まぁ便利ですね」
「それを邪魔してやろうと思うのですが、こいつらは三姉妹や魔王などを復活させまくったらしいので、極力外部からの干渉が少ない所へ行こうと思います」
「なるほど。あそこであるか」
ラルが何処なのか理解した様だ。
アルシェも気付いてそうだね。
「アルシェ、ゲートを開けるからこの二人を突っ込める?」
「問題ない」
と確認した後、アーストンダンジョンの核に意識を向ける。
距離があっても強く意識すれば繋がれるのだ。
『核さんや』
『はい、マスターなんでしょう?』
『最下層に一つ私やラル、核さん以外に干渉出来ない部屋を2つ作れない?扉も窓もないやつでいいから』
『可能です。今イメージも頂きました。これで作成しますか?』
『お願い』
と言うことで、一時的に窓や扉の無い、ベッドやトイレなどだけの簡素な部屋を準備すると、そこにゲートを繋げてそれぞれの部屋へアルフレッドとクララを別々に閉じ込めた。
最初は魔封じの森で封印しようと思ってたんだけど、あそこはかなりザルな気がしてきてどうしよう?と悩んだ結果、ダンジョンがあるじゃん?と気付いたのだ。
昔の野良だったアーストン迷宮の頃に比べて今はかなりの迷宮に進化しているからね。
星神様の影響がもろに出ている最下層なら、光や聖なる物に弱いヴァンパイアにはまず破れないだろうと思えたし。
『自害しないよう監視はしておいて。ただし魅了なんかの力を使えるから、気をつけて。よろしく!』
そんな感じでポカンとしているリューネさんとアシュリーナさんに事情を軽く説明して、クラリウスをどうするか?の話となった。
一応手足を拘束、口に布を噛ませて服以外の品物は引っ剥がしてある。
軽めに祈念魔法で回復も掛けておいたので死ぬことはないだろう。
「辺境伯の位は伯とはあるものの実際には公爵家に次ぐ地位にあります。その家の物にそれと知って攻撃して来ましたから、罪に問えばかなりの重罪にはなります。特に今回は事件の首謀者に近い者を庇ってのことですから」
そうだよね。
流石にお咎め無しとはいかないよね。
結果的に煽る形になったのは悪かったけど、その辺を差し引いても殺傷力の高い魔法を使いまくってたし。
「あとは三姉妹の二人だけど、んー、状況的にどうなんだろう?」
ノクスさんの話的に仕方がなかった様な気がするんだよね。
それにプラスして呪王の事を知ってそうだし。
「と言うことで貴女たちはどうしたいの?流石に起きてるんでしょ?」
私がそう声をかけると、気不味そうな感じの表情で二人、ステラとルーナがもぞもぞと上半身だけ起こした。
この二人も縄で拘束&布を噛ませてあるので、聞いたのはいいけど自由に発言するのは難しいよね。
何となく術が得意そうなステラより狼女のルーナの方がするっと話せそうな気がして、ルーナの方の布を外した。
「ノクスさんから大まかな事情は聞きました。私達に協力するつもりがあるなら情状酌量の余地がありますが、どうしますか?」
確か三姉妹は調査依頼があっただけで討伐依頼は出ていないからね。
魔王の方もだけど。
チラッとリューネさんを見ると今ひとつ事情が分かっていないからか、きょとんとした表情で見返してきた。
ルーナは少し考えた後、
「構わない。私たちもあの吸血鬼と呪王、それに亜人王にはかなりの被害を被っているからな」
と何かを思い出したのか苦虫を噛み潰す様な表情で答えて来た。
「あぁ、先に言っておこう。ノクスが逃げたのは薄情だからじゃない。あいつは我らの長女を名乗るだけの事はあり、我らの中で一番物事を考えている。
我ら三人は死しても誰かしら生きていれば復活出来るから、もしもの為に距離を取ったにすぎんのだ」
「ん?んーんーっ!!」
ルーナが話した内容にギョッとした様子でステラさんが何か言ってるけど気にしない。
「非常時に備えた訳ですね。
何だか何処かで聞いたような内容ですけど」
「あちらが私たちの真似をしているのさ。呪王が我らの特性に興味を持ってな。奴らで試しているのさ」
なるほど。
呪王はその名の通り、様々な呪いや呪術、呪文の研究に取り憑かれているタイプの魔王なのかもしれない。
「あいつは樹王同様研究バカだが、研究室に籠もる樹王と違い、他人の迷惑も考えずに実験するのが大好きな奴でな」
呪いの実験とか何それヤバイやつじゃん。
「魔王をあいつ呼ばわりですか。樹王の事も知っているとは魔王全般に詳しいのですか?」
何となく疑問に思った事を尋ねると、
「ん?何だ?我らの事を良く知らなかったのか?これはマズかったな」
と一人でブツブツ呟き始めた。
「んー、んんー」
またもやステラさんが騒いでいる。
あまりにもうるさいので布を取ってあげると、
「この脳筋!ベラベラと聞かれていない秘密まで話してどーするのです?!これだから私やノクスに毎回注意されるのですよ?!」
ステラさん、かなりご立腹らしい。
「い、いや、流石に私たちが魔王だと言う事は話す気はないぞ?!」
「っもーーー!バーカバーカ!言った!今言っちゃったですよ?!」
「はっ?!すまない」
何だろう?
この二人、放っておいたら全部話してくれそうだよね。
「魔王?三人共に魔王なのですかっ?!」
何か慌て出すリューネさん。
「ついに、ついにこの日がっ」
目をキラッキラと輝かせるアシュリーナさん。
何この状況。
アルシェを見ると興味なさそうに欠伸をしていたので、その横に移動して何となくその頭を撫で始めると、彼女は珍しく嬉しそうな表情をしてこちらに頭を傾けてきた。
「はぁ、もういいです。
分かったです。
説明しましょう、しちゃいましょうです!
厳密に言うと私達三人が三人とも魔王と言う訳じゃありませんのです。
夜魔王テネエブラス、それが私達の本来の姿です。
ただ魔王で居る事に疲れ、3つの要素、夜、星、月の三人に分裂したのが私達三人という事です」
「何だ。言っても良かったのか」
説明を始めたステラの様子にちょっとルーナが安心したみたいだけど、きっと駄目な事だと思うよ?
ルーナが下手に話すと何を言い出すか分からないから、ステラがある程度説明しておこうとしているだけだろうし。
「夜魔王って確か人種と敵対する魔王だったはずですが?」
リューネさんがビクビクしながら尋ねると、
「ええ、それで間違いないです。それが嫌でエネエブラスは私達三人に分裂しましたですから」
とステラ。
「言っている意味が分かりかねますが」
再度リューネさんが尋ねると、仕方ないとばかりにステラが口を開いた。
「魔王と言うのはある種の括り、拘りが存在するのです。
抗い難い衝動と言っても良いです。
何かを突き詰め過ぎて魔王化すると言った方が良いかも知れませんですね。
そして魔王化する時に持っていた拘りや感情が消えることなく残り続けて行動や思考に影響を与え続けるのです」
「あ、それで研究バカは研究バカのままに?」
「そうです。
その典型的なのが樹王と呪王です。
夜魔王は北の大陸出身なのですが、元々人間族の他に、狼獣人や妖精、夢魔族の血も混じっていましたのです。
北の大陸には人間族至上主義の国が多くあって、血筋が原因で迫害されて人種と敵対する魔王となったのです」
なるほど。
東の大陸には人間族至上主義の国は無いし、西の大陸もほぼないと言っていい。
生まれた場所が悪かったとは言わないけれど、環境で人は変わってしまうものだもんね。
「そして獣人族や夢魔族、吸血鬼族などを率いて人間族との戦いの日々を送っていましたです。
でも戦いに疲れた時、他の大陸を見て回りこんな世界もあるのかと驚いたのです。
そして移民を募り南の大陸や東の大陸へ移住を開始しましたのです」
何か壮大な物語になってきた。
樹王ユグヌスクさんは魔王になったら樹海作って篭もったとかそんな話だったし、亜人王も力はあるけど何か拗らせてるだけって感じなので、魔王ってみんなそんな感じなのかと思ってたよ。
「そして安住の地を見付けましたが、魔王は魔王と化した時の感情、想いや拘りに縛られるのです。
夜の子ら、これは夜魔王の民たちですが、彼等が他の人種と普通に暮らせる環境が生まれても、何度も拘りや想いに引きずられそうになりましたのです。
このままでは平和が壊れてしまうと思った夜魔王は、自分を構成する3つの要素に分けましたのですね」
「それが夜、星、月なんだね?」
魔王化で強大な魔力を得る事やそれぞれに得意分野がある事は知っていたし、暗黙の了解があるのも聞いていたけど、そうか、過去に縛られる別の生き物に変化してしまうんだね。
「そうなのです。
力はその分弱まりましたが、別の形になる事で拘りからの欲求もかなり減り、大きな問題を起こすこともなくなったのです。
ただ、それに気付いた呪王がちょっかいを掛けてきて、魔封じの森へ封印されてしまったのです」
「何かこう、大変でしたね?」
「暗黙の了解の外に自ら踏み出たのに、そこを意識していなかった私達がバカだったのですよ」
魔王から三姉妹となった事により、魔王じゃないから手を出しても文句を言われない状態になったって事か。
「自分を馬鹿とか言うもんじゃないと思うぞ?」
「本当の馬鹿は黙って欲しいです!」
また始まりましたよ。
「あれ?でも確か樹王が何か盗まれたりしてましたけど?」
「あー、暗黙の了解って結局は多少効力がある物程度なのですよ。
実際には手痛いしっぺ返しが怖いから余計な事はしない、って程度の物なのです。
なので無茶して弱まった樹王は狙われちゃったんです。
私達と似た感じです」
「これでも三大魔王としてブイブイ言わせていたからな。弱まったことろを突いてくるのは今思うと当たり前だと思うぞ」
へー、三大魔王とか居たのか。
「あーっもうっ!だから貴女は黙ってて下さいって言ってるのですよ!」
「ご、ごめんよぉ」
どうやらそういう事らしい。
「もう面倒です。話せる範囲で説明しちゃいますですよ!
貴方達の知る九魔王は夜魔王、呪王、樹王、亜人王、戦王、竜王、海王、武王、妖精王ですよね?
このうち古く、そして特に力の強いのが三大魔王と呼ばれているのです。
竜王、武王、夜魔王の三魔王ですね」
ざっと言うと、
夜魔王=人種と敵対した種族の首謀者的魔王。三大魔王の一人。
呪王=呪いや呪術などの研究好きなアプティブ系研究馬鹿。
樹王=植物系や魔道具など、室内に籠りがちな研究馬鹿。
戦王=戦争を起こすのが大好きな不穏なる魔王。人心操作が得意で狡猾な面もある魔王。
竜王=竜たちを総てみせる!と燃える魔王。人種には竜人族以外興味がない。もともとは素手で竜を殴り倒す武闘派テイマーだった魔王。三大魔王の一人。
武王=武器の有無を問わず武術を極めんとした武骨なる魔王。強さ以外興味がない。三大魔王の一人。
海王=釣りが趣味で孤島に住んでいるとも、人魚や魚人たちと暮らしているとも言われる温厚な魔王。海を汚すと怒り狂って大暴れする。
妖精王=壺中天と言うギフトを持ち、妖精界と名付けてキャッキャウフフしつつお茶やお酒を楽しんでいる魔王。妖精なので案外質が悪い。
亜人王=新人。拗らせてる魔王。
いや、亜人王の説明がちょっとどうよ。
「ろくなの居ない気がする」
「うん、そうなんだよね。本当に困っちゃうよ?」
背後から聞き覚えのある男性の声がして振り向くと、樹王ユグヌスクさんが、「やあっ!」と手を振りながら立っていた。
「なぜに?!」
と私が問うと、
「やだなぁ。僕と繋がりの強い物を持ってるだろ?」
とにこやかに答えて来た。
「これであるか?」
ラルがごそごそと花弁型の金属片を取り出すと、
「うん、それだね!自分だけならそれを目印に飛べるんだよ。便利だろ?
それにしても夜魔王、最近見かけないと思ったらこんな事になっていたんだね?」
良い玩具を見つけた子供の様にキラキラとした目で二人を見つめるユグヌスクさん。
「なんと?この方も魔王なのですか?!」
気配を抑えているので、パッと見単なるエルフに見えるもんね。
「僕は研究肌なので戦闘は得意じゃないんだ。ごめんね?」
アシュリーナさんのヤル気オーラに少し引き気味にそう語るユグヌスクさん。
「急にいらしたのでびっくりしました。お久しぶりです」
と面識のあるリューネさん。
「あぁ、久しぶり。甥が迷惑を掛けていないかい?弓の調子はどうだい?」
「いえ、いつも私の方が迷惑をお掛けしてしまいまして」
と二人で挨拶合戦をしている。
いやもう訳わかんないね。
「それにしてもサラさん、また変わったみたいだね?ギフトが開放されたからかな?色々とはっきり見えるようになったよ」
どうやらまた勝手に魔眼を使ったらしい。
マーレンさんに言いつけてやろう。
「ふんふん、そうかぁ。君が竜王の血を引いているとはね。道理で特殊なギフトや称号が宿るはずだよね」
「えっ?!」
思い当たる節はあった。
数代前の御先祖様だ。
竜人の血を引いた人間が御先祖様にいるのだ。
「面白そうだからしばらくは黙っているけど、そのうちバレる気もするね?何だか大変そうだよね」
何この大人こどもエルフ?!
アニスもそうだけど、ハイエルフってこんなのばっかなの?




