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その38

その38


私の体は金の鱗に覆われて、こめかみからは角が一本ずつ、目は竜眼となりその背には竜の翼が生えた。


羽衣と竜気が身を包み込み、絶望的と思える程の闘気を放つアシュリーナさんの前へと私は足を踏み出した。


「うふっ。サラさん、強そうですね。それが本気の姿なのですね。

うん、いい、素敵です、ゾクゾクします。

でも今は駄目です」


足を動かした事すら気付けない程の早さでアシュリーナさんは私の脇をすり抜け、クラリウスさんへクララ諸共吹き飛ばすべく気を溜め込んだ一撃を繰り出そうとした。


目では追えなくとも気は感じている。


私は竜気を開放して空魔法すら自らに掛け、アシュリーナさんの顎を蹴り上げた。


気の流れで感じ取ったのか、ほんの僅かに顎の位置をずらされて意識を奪う事は出来なかったけど、それでももう一つの目的は達成出来た。


気に包まれたアシュリーナさんが天井を次々と突き破りつつ遙か上空へと吹き飛んだのだ。


私は天井に空いた穴を見て上空に転移すると、空中でグルッと後転して私を迎え撃つ姿勢を取ったアシュリーナさんへ向けて上昇する気流を生み出し叩きつけた。


夕暮れ時からすでに夜へと近付いている為か、日は暮れて星々の輝きが空を覆い尽くそうとしていた。


レベル9の風魔法でアシュリーナさんは一気に押し上げられ、高度がぐっと上がる。


気圧や空気の薄さ、気温の急激な変化がアシュリーナさんを襲っているはずなのに、彼女はそれでも動じない。


「金剛障壁!」


アシュリーナさんは自分の吹き飛ぶ真上にダイヤで出来た壁を生み出した。


空中でクルッと姿勢を直して足場にすると、ダン!という音を立てて私へと向かってくる。


地上だったら危なかったけど、ここは空、天を冠する一族の私にとっては最も得意とする舞台だ。


彼女の拳など簡単に避けられる、と思ったら、


「金剛蹴脚弾!」


グルグルと回転しながら蹴りを無数に放ち、それが気とダイヤの塊となって私に向かい降り注ぐ。


「ちょっ?!」


羽衣に竜気を流しつつアシュリーナさんの気を散らしてダイヤを弾き、どうにか防ぐ事に成功した。


ヤバい。


ギフトの名前、闘神とか言ってたけど、素のアシュリーナさんですら物理的に強いのに、ギフトで何か飛んでもない事になってるよ?


強い力を得た、だから冒険者になったとか言っていたけど、これはもう個人の戦力なんてもんじゃい。


一騎当千どころか万でも普通に軍隊倒せちゃうんじゃ。


「でも私は本気を出す事にしたしね?」


私はそう呟いて、一気に飛んで距離を空けると祈念魔法を詠唱する。


「『星々と運命を司る偉大なる神よ!眷属たる我、サラストリーが希う!

その権能の奇跡を我に!

星々は瞬き、星々は煌めき、闇夜を照らして道を示す。

数多の星々よ、天の彼方より降り注ぎ、彼の者に数多の道を示し給え!』」


星神様が応えてくれたのか、ギン!と大きな星の一つが強く光った気がした。


キラリと小さな星が瞬いた気がした。


ズザァと音ならぬ音が響き、星々が渦巻いて天のすべてを光の軌跡が覆い尽くした。


足場のないアシュリーナさんは、小さな障壁を生み出しては蹴り、少しずつこちらへと向かって来ていたけど、空の急激な変化に怪訝な表情を浮かべている。


称号によって得た借り物の力だけど、それでもこれは私の力だ。


借りた剣や槍だから使わないなんて事はないのと同じ事だ。


「星よ!導けっ!!」


知らぬ間に力み過ぎて言霊すらも放ってしまった私の想いに応えるように、天にある光の軌跡が渦となってアシュリーナさんへと襲い掛かる。


「!!!」


声ならぬ声が天に響き、無数の光がアシュリーナさんを打った。


それは人種が生まれてから今に至るまで、無数の運命、無数の人々の人生のある一点だけに絞り込んだ光景をアシュリーナさんに次々と追体験させ続ける。


えぇ、ぶっちゃけ胡蝶之夢をパクリましたとも。


多分彼女には、千の言葉も万の拳も届かないと思うから。


ならば億の想いを、その記憶を、彼女にぶつけてみようと思ったのだ。


金剛石の如き清廉さと、そして硬い心を持ち合わせる彼女であるからこそ、耐えられるし応えてくれる、そう信じて無茶苦茶な事を神へと願った。


記念魔法は祈りと奇跡の魔法だからね!


無数の光を浴びたアシュリーナさんからは、闘神の気配が抜け落ちていた。


ある程度以上の集中力が必要か、継続時間に限りがあるのか、何が起きたのか分からないけど、魔力や気ははっきりと感じるので命に別状はないだろう。


なおアシュリーナさんの体は神様の力的な何かで現在はフワフワと浮いている状態だ。


あっ!


硬いってことは柔軟性がないって事じゃんか。


精神が壊れてたらどうしよう。


一抹の不安を懐きながらも神様の起こした奇跡みたいなもんだし?


とか色々と思っていたら、フッと辺りが暗くなった。


星の軌跡が消えて通常通りの星々となり、アシュリーナさんを包んでいた光も消えて彼女の体が地上へと落ちていく。


駄目じゃん!


咄嗟に羽衣を撃ち出すようにして伸ばし、アシュリーナさんを絡め取ろうとすると、彼女の左手が動いてパシッと羽衣を掴んでいた。


良かった。


動けるって事は精神的にも多分そこまでダメージを負ってはいないのだろう、なんて思ったら物凄い力で羽衣を引っ張られて私の体がアシュリーナさんへ急接近する。


うわ、ぶつかる!と思った瞬間、


「お返しです!」


と握り拳で顎に一発貰ってしまった。


星がキラキラと瞬き頭がグルグルと回る。


やっべ。


一瞬意識が飛んだよ?!


どうにか意識を手放し切る前に踏み止まったけど、体に力が入らない。


天と竜の血脈も解除されて角や鱗が光に変わり霧散する。


「やり過ぎましたかしら?」


妙に冷静なアシュリーナさんの声が耳に届いたけどそれどころじゃない。


町役場や近隣の人々に被害が及ばない為にもかなりの高さで戦っていたので、二人のレベルや耐久的に落ちても死にはしないまでも流石に大怪我するよねこれ。


そう思いつつもうまく飛べず、二人で落下していると、バサバサと数十羽の鴉が私達を取り巻いた。


「闇夜は優しく人々を包む。微睡みの一時を守る為に」


そんな呪文とも詩とも取れる声が響き、私達二人の体が柔らかな何かに受け止められて、落下速度がかなりゆっくりとしたものになった。


「星神の愛子、天人の娘よ。済まぬな」


鴉が一つに纏まると、一人の美しい女性の姿となった。


黒い髪に黒い瞳、その身に纏う露出度の高いドレスも黒を基調とした物で、明らかにさっき窓から逃げた女性だった。


予想以上に弱かった三姉妹たちの一人だ。 


「妾の名はウーナノクス。

三姉妹の長女に当たる。

妾たちが封印を解かれたばかりにこの様な事になり、ほんに申し訳ない事をした」


ゆっくりと地上へ向かいながら、ウーナノクスさん、面倒なのでノクスさんは軽く今回の状況を説明してくれた。


三姉妹はそれぞれ夜、月、星と言う夜に関わる存在なのだとか。


どうやらそれで私の眷属としての祈念魔法を見て助ける気になったらしい。


彼女たち三姉妹は元々一人だったそうだ。

 

それが諸般の事情で3人に別れた為弱まっていたのに、呪王に騙されて特殊な封印を受けてしまい、より一層弱まった。


特殊な封印というのは、開放時に開放した者の願いを3つ叶えること。


一生仕えろ、死ね、世界征服させろなどの内容は拒絶可能な代わりに、自分たちが出来る範囲でなら叶えないと本当の解除には至らずまた封印されてしまうのだとか。


「極力被害が出ない様、手を抜きはしたのだがな」


霧も本来ならもっと強力な物を作り出せたけど、あえて願いをギリギリ叶える程度にまで抑えたのだとか。


「そう言えばアルシェが強力な魔術って言ってたもんね」


かなりゆっくり降りているお陰で、私の不調もどうにか治まってきた。


「ですがその後、役場で襲い掛かられましたが?」


「あれも手を抜いておったとも。トリアルーナ、人狼もどきの事じゃが今の弱まったあやつでも本気を出せばその辺のワーウルフより遥かに強いしな。妾も束縛から逃れてすぐに逃げたであろう?

あれで3つの願い、その全てを叶えた事になったのだよ」


ちなみに気絶していたのはドゥオステラと言い、2度も結界を破壊されて反動で気絶しちゃったらしい。


大魔術の反動なら死なないだけ凄いのかもね?


「あ、そう言えば三姉妹とは別に魔王の封印が解かれたって聞いたけど」


「それなら多分呪王であろうな。何かしら手を打ってから休眠するとほざいておったし」


自ら寝ても簡易封印されてしまう特別な地だけど、その場合は簡単に封印を解けるからね。


「となると今辺境伯領内のあちこちで目撃されたアンデッドって、あっ?!遺体をくれてやったって呪王になの?!」


「まぁそうであろうな。呪王が何かしたのだろうよ」


あと少しで町役場の上に降り立てそうな所で浮遊は止まり、


「後は好きにせよ」


と言うと再び無数の鴉になって飛び去ってしまった。


一声掛けてくれたので、羽衣でアシュリーナさんを支えつつ舞い降りるような感じで町役場の屋根の上に降りる事が出来た。

 

てか妹二人は置いていくんかい。


「さぁ、会議室へまいりましょう」


さらりと言うアシュリーナさんに、


「クララって娘はもう駄目です。

でもクラリウスさんの事はもう少し考えてあげてください」


と伝えると、


「そうですわね。

わたくしも少々怒っておりましたので。

申し上げた事は全て本心ですけれど、少しだけ大目に見ようかと思います。

ただわたくしもかなりきつい事を申しましたので、パーティーは解散する事になるでしょう」


表情の読み取れない顔でそう話すアシュリーナさんは、ただ威張っていたり自分の利益をひたすら求める様な貴族じゃなくて、本物の貴族なのだとその姿を見て何となく思った。




天井部分に空いた穴へと飛び込んで私達が会議室へ戻ると、そこから私達を見ていたらしい一同が微妙な表情で迎えてくれた。


アルフレッドは今も拘束されているし、三姉妹の二人もぐでっと床に倒れている。


クラリウスさんは一人部屋の隅で落ち込んでいて、クララはアルシェが新たに作った風の結界に捕らわれている。


「お前らなかなか強ぇじゃねーか。なんなら俺の第二第三婦人にしてやるぜ?」


何故か一人だけ余裕をぶっこいてるのは無視する事にした。


「クラリウス、貴方の思いは分かります。ですがいま一度考えて下さい。

貴方が目指した高みは、そのようなものなのですか?」


部屋の隅で座り込んでいたクラリウスさんにアシュリーナさんが問い掛けた。


「貴方の夢見た騎士は家族を守る為だけの物なのですか?

この役場にも親しかった人々が働いていたのではありませんか?」


ゆっくりと頭を上げたクラリウスさんの表情は、色々な感情が混じり合って涙と鼻水でぐしゃぐしゃだった。


「俺は、私は…。すまん、それでも出来ない。選べない」


「分かりました。ですが邪魔だけはしないでください。

わたくしたちは貴族として、冒険者として、人として、倒すべき敵を絶たねばなりません」


アシュリーナさんの強い意志のこもった瞳を直視出来ないのか、クラリウスさんは目を背けてしまう。

 

「サラ様、クララはわたくしがやります」


アシュリーナさんの言葉を受けて、私は彼に問う。


「クラリウスさん、本当に貴方がその手で解決しなくて良いのですか?

貴方の魔法と言う剣や槍は、その程度の物なんですか?」


いけないと思いつつ、キツい言葉を放ってしまった。


私の思いや選択は私のものだ。


例え自分の過去を重ねたとしても、それは全く別の物だ。


それでも、と期待してしまうのは傲慢なのだろうか?


そんな不穏な会話に震えと涙が止まらないクララと、ニヤニヤと笑うアルフレッド。


そんな吸血鬼二人と私達を見てオロオロしているリューネさんと、堂々としているラルとアルシェ。


「俺の剣…」


クラリウスさんがボソッと呟いて立ち上がり、暗い決意の宿った瞳を私とアシュリーナさんへと向けた。


「雷炎渦!」


クラリウスさん、いや、クラリウスは私やアシュリーナさんだけではなく、ラルやアルシェ、リューネさんまでも巻き込む大規模な魔法を会議室と言う狭い空間で放った。


「むん!」


ラルは役目を理解しているようでリューネさんと倒れている二人を庇い、謎の障壁を張り巡らせる。


アルシェはそもそもその程度で傷つく程軟じゃないので良いけども、気分的に右の羽衣を伸ばしてアルシェを包み、左の羽衣で私とアシュリーナさんを包んでクラリウスの魔法を防いだ。


魔力操作がかなり高いクラリウスの魔法は無駄な破壊は行わず、その力の全てを対象、つまり私達へと向かわせる事が出来る。


「チャンスは与えたからね?」


「えぇ、無駄に終わりましたが、そういう人だったという事ですね」


これは賭けだった。


ただ追い込んだだけになったけど、考える時間は与えたし、既に人を喰らった存在を放置など出来ない。


「連火槍!火葬陣!」


次々と殺傷力の高い魔法を撃ち込んで来るけど、私達には一切被害が及ぶことはなかった。


「今です」


アシュリーナさんの声に私が羽衣を縮めると、彼女は高速移動でクラリウスの目の前に立ち、 


「クラリウス、残念です」


そう告げるアシュリーナさんの拳がクラリウスの顎にヒットして、彼の体が天井にぶち当たり床に落ちた。


「お兄様?!」


その様を見たクララが風の檻へと体当たりをするけどその程度でどうにかなる訳もなく、彼女は赤黒い血の涙を流した。


「血も涙もねぇってーのは、お前等みたいなのを言うんだな?

見てみろよ、うちの嫁さんなんざ血の涙を流してるぜ?」


アルシェの雷で継続的にダメージを受けているのにケロっとしているアルフレッドは、嫌味を言う余裕すらも見せている。


「さぁ俺を殺したいんだろ?とっとと殺れよ?」


こいつは何を考えている?


まるで死ぬ事を望んでいるかのようなその姿に、私は強い違和感を感じていた。


「アルフレッド様、貴方は私を愛して下さっているのですよね?

でしたら何故、愛する私の兄が目の前で殺されそうになっていてもその様にしていられるのです?」


血の涙を流しつつ、私と同じ違和感を感じたのかも知れないクララがアルフレッドにそう尋ねる。


「あぁ?そんなん決まってんだろ?お前の事は愛してるさ。

同族に迎え入れる位にな。

だがそいつは人間だ。

お前だって役場の連中を殺した時に平気な顔をしてただろーが。

それと同じじゃねーか」


「兄を殺されかけている私に対する心遣いは別ですわ!

愛する妻が悲しんでいるのですよ?例えそれが犬でも猫でも虫でも、私が悲しいと思えば慰めの言葉を掛けるのが愛する夫というものではございませんの?」


こいつ等何言ってるんだろう?


そしてこの余裕は何だろう?


クララは多少ブレがあるけど、アルフレッドの余裕は絶対におかしいよね?


吸血鬼の能力を考えると、再生可能なくらいの自分の一部をどこかに保管している可能性もある。


普通の吸血鬼はそこまで出来ないけど、魔王の開放を始め色々とやらかしているコイツなら魔道具なり何らかの術を用意しているのだろうね。


残念ながらそれを見つける術は私達にはない。


でも邪魔は出来るんだよね。


よし、余裕の表情を浮かべているアルフレッドとクララに、一泡吹かせてやりますかね。

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