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その37

その37


アシュリーナさんとクラリウスさんは2時間ほど前にはリントに到着していたけれど、霧の中に入ると平衡感覚や五感が乱され、真っ直ぐに歩くことも難しくなり奥へ踏み込む事が出来なかったらしい。


風魔法で霧を避けて進んでも魔力のぶつかり合いで消費が激し過ぎ、町に付いた頃には魔法が使えなくなりそうな勢いだったのだそうだ。


それを一時的とは言え丸々晴らしてしまうとは、アルシェ、恐ろしい娘。


日暮れ前、静まり返った町の前に立った私達は、ちょっとした変化も見逃さない様に気配や魔力を探る。


門は開かれたままになっていて門兵さんの姿はなく、町中にも人影は無かったけど、明らかに人の気配を感じ取れた。


「何者だ?!」


門の横にある詰め所の扉が開き、槍を構えつつ二人の兵士が出てきた。


「怪しい者ではありません。ディーアの冒険者ギルドから助けに来ました」


そう答えてリューネさんは冒険者カードを取り出した。


私達も真似て冒険者カードを取り出し兵士たちに見せ様子を伺う。


操られている可能性や入れ替わっている可能性もあるしね。


槍を構えつつ冒険者カードを怪しそうに覗き込む兵士の顔を見たクラリウスさんは、ハッとした顔で二人に声を掛けた。


「バートンとクロストではないか!私だ!クラリウスだ!」


いつもと少し違う口調でそう声を掛けると、


「ぼっちゃん!」


「クラリウス様、来てくださったのですね?!」


と表情を崩して槍を降ろし、バートンと呼ばれた方が詰め所へ走った。


「みんな、出て来て良いぞ!」


詰め所の中には露天商をしていたと思われる男女や買い物客など7名ほどが匿われていた様だ。


「昨日の夕暮れ時、急に霧が広がって来まして。ただの霧ではなく触れるとクラクラしたり体調が悪くなるので慌てて家へ入るよう大声で伝えたのですが、家が遠い人々は帰ることが出来ず詰め所や近場の商店などへ避難したのです」


クロストさんがほっとした表情でクラリウスさんにそう伝える。


「霧は一時的に魔法で消し去っただけです。また霧が戻ってくる前に家に戻るか、町から避難する必要がありますね」


とリューネさん。


詰め所の様子を窓から覗き込んでいた人々も徐々に家の外へと姿を見せ始め、荒涼とした光景に色を与えた。


廃墟なんかもそうだけど、人の有無でこうも空気が変わるのかと思えるよね。


死んでいた町が生き返った様な光景だった。


「アルシェ、霧の発生源は分かる?」


数千人は居るだろう町で魔力感知を使っても森の中の木を探すような状態になりかねない。


素直に聞くのが一番だとアルシェに尋ねると、


「そこ」


と町の中央付近にある建物を指差した。


鐘楼もある大きな建物だ。


「町役場だな。私達はあそこを探る。バートンとクロストは他の兵士たちと協力して住民の避難を頼む」


クラリウスさんがそう告げる中、私達は町役場へと急いだ。


役場へ向かう道すがら、家々の窓や扉が開いて人々が顔を出した。


「町役場の周辺には神殿や冒険者ギルド、治療院に商業ギルドなどが集まっている。その分人も多いはずなんだが」


あ、クラリウスさんの口調が戻ってる。


貴族としての顔と冒険者としての顔の違いかな?


「町の中心に近付けは近付く程、人が減って行きますね」


「気を付けろ。血の臭いが漂って来る」


ラルの警告を受けてそれぞれ武器を手に進む。


町の中央部は公園になっていて、その真ん中に横幅だけでも二十メートルはある町役場が建っていて、それを囲むようにして各種ギルドや神殿、治療院が建てられていて、そのすべての建物は窓も扉も閉じられたままになっている。


「あの建物から強く臭う」


ラルの指摘を受けるまでもなく、私でも分かるほどの濃厚な血の臭いが中央にある町役場から漂ってきた。


「霧よりも恐ろしい者が居るという事でしょうか」


ボソッとアシュリーナさんが呟いた。


一気に彼女の圧が高くなるのがひしひしと伝わってくる。


それに反応したかのようにゆっくりと町役場の扉が開かれた。


吐き気がするほどの濃厚な血の臭いが漂って来た。


「臭い」


アルシェの一声で風が動き、臭いが遠ざかる。


魔力感知で探ってみると全部で5つのみ。


どう考えても役場の職員さん達ではないだろう。


クラリウスさんも探ったのか、顔を青白くしながら駆け出そうとした。


「前衛はわたくしです」


さらりとクラリウスさんを押し留め、アシュリーナさんが先に走り出し、私達もその後を追った。


光魔法をアシュリーナさんとクラリウスさん、私がそれぞれに使い薄暗い建物内を照らし出す。


複数のカウンターや椅子などが置かれた一階の床にはあちこちに血痕が残されていた。


流石にあれだけの臭いがする量ではないけど、かなりの人々が襲われたのだと分かる量だった。


正面から見て左右には2階へと上がる階段があり、アシュリーナさんは右の階段を登り始めた。


私達もその後を追い階段を上り詰めると、ヌメッとした強い違和感と強烈な血の臭いが私達を覆った。


「結界に入った」


アルシェが私にそう伝える。


光魔法が照らしていても少しだけ視界が薄暗くなり、何となく体の動きが鈍い。


まるで粘性のある液体の中を歩いている様な、そんな感覚だね。


「血で張られたもの。解除する」


アルシェの体が一瞬何倍にも膨らんだ様な錯覚を感じてしまう程に強い魔力が四方八方に放たれて、結界を引き裂いきヌメりや臭いが晴れていった。


「いあぁぁ…」


二階の奥の部屋から女性の悲鳴が聞こえて来た。


「会議室だ!」


クラリウスさんがアシュリーナさんを促して走り出す。


「よくもぉっ!」


「死になさい!」


と言う女性の声と共に扉がバン!と勢いよく開き、2つの人影が飛び出してきた。


片方はワーウルフ、人狼に似た姿をしていて、もう片方は黒を基調にした露出度の高いドレスを身に纏っている。


ワーウルフはアシュリーナさんに殴られて壁へ吹き飛ばされ、ドレスの女はクラリウスさんの風と光を織り交ぜた魔法でその身を拘束された。


あっという間過ぎる。


二足歩行の人狼のようなものだった方は、気を失ったのかしゅるしゅると音を立てて狼の毛皮を纏った美しい女性へ変貌した。


多分こっちが本当の姿だね。


「この様なもの!」


ドレスの女が何か呟くと拘束していた魔法が消え去り、無数の鴉へと変貌し、そのままドアではなく窓をぶち破って飛び去った。


「え、置いてくの?」


「逃げましたね?」


私とリューネさんが呆然とする中、クラリウスさんが縄を取り出して人狼女を拘束していた。


私達はアシュリーナさんとラルを先頭にして、リューネさんと私が並んで会議室へと足を踏み入れた。


広い室内の机や椅子は殆ど隅に押しやられ、会議室の一番奥に赤い目をした青年と、どこかクラリウスさん似た髪の長い少女が椅子に腰掛けていた。


青年は銀色の髪を後ろに撫で付け、昔の貴族が好んで着るような赤や金を主体とした服を着ている。


会議室の真ん中には金髪を結い上げて豪奢なドレスを着た女性が倒れているけど、奥の二人はそれを気にする様子もなかった。


「ふははっ!何が三姉妹だ!封印期間が長すぎて殆ど力が残ってねぇじゃねーか。わざわざ俺様が特別に直接開放してやったのにざまぁねぇなぁ」


ニヤニヤと笑うその男の口元には、鋭い犬歯が二本見える。


「ヴァンパイアだね」


「ですわね」


私が奴の種族を言うと、凄く嬉しそうにアシュリーナさんが一歩前へ出る。


強い奴に会いに来たんだね。


「クララ?クララじゃないかっ!」


狼女を縛り終わったクラリウスさんが室内へやって来ると、ヴァンパイアの横に立つ少女に向けて声を掛けた。


やっぱり親族なのか。


顔だけじゃなく名前も似てるよね。


「お兄様?今更いらしてももう遅いですわ」


彼女は長い髪をかき上げて、自分の首筋を顕にする。


そこには2つの赤い点、吸血鬼に血を吸われた跡が残されていた。


まだはっきりとした色合いじゃないものの、彼女の瞳も赤くなりかかっているね。


「確か血を吸うだけじゃ吸血鬼にはならないはずだけど?」


「あぁそうさ。吸うだけならな。だが俺たちは血を与える事で同族を増やせるのさ」


何が楽しいのかニヤニヤと下卑た笑いを浮かべ続ける男がそう語り、自分の首筋を見せつけるように襟をはだけさせる。


そこにはクララ同様、2つの赤い点があった。


「これで俺たちは親子だ。そして夫婦になるんだぜ?」


意味不明な宣言をする男に、うっとりと潤んだ瞳をクララは向ける。


「種族を超越した愛。悲恋の末に大団円を迎えるのですね、アルフレッド様」


「あぁ、クララ。お前は一生俺のものだ」


何だか勝手に燃え上がっている二人は置いといて、ラルが黙々と床に倒れた金髪ドレスの女を縄で縛っている。


「役場内にいた人々はどうした?」


嫌な現実を見せつけられて憔悴気味なクラリウスさんがクララへと尋ねると、


「美味しくいただきましたわ」


と牙を見せて可憐な花の様に微笑んだ。


「一滴残らず搾り取ってやったからな。死体はいらねーからくれてやったぜ?」


その答えを聞いた瞬間、アシュリーナさんの体がぶれた。


まるで空間を跳躍したかの様な速度で距離を詰め、吸血鬼アルフレッドに右の拳を叩き込む。


パシッと乾いた音を立ててアルフレッドはその拳を受け止めると、ポイッと紙屑でも捨てる様にアシュリーナさんの体を壁へ叩きつけた。


下手な鎧より頑健な肉体を持つアシュリーナさんは、そのまま壁をぶち破って隣の部屋へ。


「その程度の早さ、俺たちには通用しねーよ?」


「見た目や口調は若いけど、何百年生きてきたのよ。

種族の特性を自慢気に話すとか格好悪すぎだね」


私も本気を出すことにした。


変身は解かないけどね。


この程度の部屋なら羽衣が邪魔になるし。


「光の矢!」


牽制で数十の矢を放ちつつ一気に距離を詰める。


吸血鬼は不死者アンデッドに近い特性を持つ亜人だ。


夜行性であり、光属性や聖なる力に極端に弱い。


人間と子を為すことも出来るのに、人の血をすする習性と何よりも選民思想に偏った生物である為、亜人扱いとなってはいるけど。


普通に婚姻すればいいのに、今回クララにしたように、血を与えて種族を変えてからでないと同列もしくはそれに近い者として認識しないのだ。


彼らにとってはそれが救済ですらあると信じている節がある。


それが人間を始めとする人種から忌み嫌われる最大の理由なのだけども。


それはともかく私は光魔法を右足に留まらせ、蹴りを放った。


流石にまずいと思ったのか椅子から飛び上がって回避する。


私の足は椅子を蹴り砕き、クララが悲鳴を上げて壁際へと逃げた。


「冒険者に地図と金を握らせて封印をいくつか開放させたが、亜人王様以外は役立つ奴ァ開放されねぇ。

目覚めてもみんな弱体化してやがるしな」


「全部あんたが原因か!」


私はミスリル銀の破片をいくつか取り出して光属性を一時的に付与させると、手で投げる形で連続射出した。


「あぶねぇなっ!」


アルフレッドの早さはかなりのレベルに達した者だけが持てる素早さを有していた。


「ならばこれだよ!」


「何度もさせるか!」


私が別の魔法を発動させる前にアルフレッドの手には血で出来たレイピアが握られていて、素早い突きを繰り出してくる。


「ちっ!」


私はヒヒイロカネの剣を取出し、突きを弾きつつ後退した。


「光の礫!」


いつの間にか私の近くに立ってたクラリウスさんが、小指の先程の大きさ程の光を無数に放ち、面の攻撃を仕掛ける。


「闇の衣!」


アルフレッドは闇その物の様なマント状のものを生み出すと、光の礫をバサバサと払って相殺させた。


「金剛光弾!」


壁の向こうから打ち出された無数のダイヤが光を帯びて打ち出される。


アシュリーナさんだ。


壁の向こう側からの攻撃なので、やや狙いがそれていくつかこちらにも飛んできたけど、それらは全て剣で切り落とした。


ダイヤでも切っても刃こぼれしないとか流石ヒヒイロカネだよね。


アルフレッドも血のレイピアやボロボロになったマントで光を宿したダイヤを避ける。


「神槍の矢!」


ラルが縛り終わった二人の魔女を足元に置いて剣を構えており、リューネさんはそのやや後ろから弓を放つ。


「なんとっ?!」


ごっ!と音を立てて真っ白な光が複数飛び、避けるアルフレッドを追う。


追尾式の魔法矢に闇の衣の残骸をぶつけたけど、衣だけが消え去り矢はそのままアルフレッドの姿を追った。


「闇の霧!霧化!」


ボフッと音を立ててアルフレッドから大量の黒い霧が放たれ、本人も霧へと变化する。


それでもリューネさんの矢は、霧となったアルフレッドや闇の霧を二割ほど消し去ったよ。


リューネさんとあの弓、どんどん芸達者になっていくね。


そろそろ名前を付けてあげるといいのに。


「逃さない。風よ捉えよ。雷よ縛れ。風雷の牢獄」


精霊王たるアルシェが短文ながら呪文を唱えて意味を強め発動させた風と雷魔法が闇の霧共々アルフレッドを封じ込める。


「あががぎぎ!」


闇の霧は消え去り、アルフレッドは変な声を上げながら霧化が解かれた。


そして鎖の様に形を変えた複数の雷にその身を拘束する。


「うぐっ、人間如きがっ!全員その血を飲み干してやる!」


そう吠えるアルフレッドだけど、


「光の楔」


と言う呪文と共に右太腿へ太い釘にも似た光が打ち込まれ、奴が悶絶した。


「そうやって職員を、町の住人たちを殺したのか?」


クラリウスさんだ。


いつもの余裕がある彼とは違い、奥歯を食いしばり両手の平をグッと握り締めている。


「ふん!この程度の光魔法じゃ俺は殺せないぜ?」


確かにクラリウスさんの光魔法のレベル的には何十発も撃ち込まないと致命傷にはならないだろう。


でも明らかに強がっているよね。


なんせアルシェの雷で縛られているんだし。


私でも悶絶ものだよ? 


そんな態度のアルフレッドに余計に腹が立ったのか、クラリウスさんは再び光の楔を撃ち込もうとしたけど、それをクララが割って入って邪魔をした。


「クラリウスお兄様、おやめください!アルフレッド様はヴァンパイアを始めとした不遇な目に合っている種族たちの為に立ち上がった崇高な理念をお持ちのっ、きゃっ」


何か意味不明な事を口走っているクララの体が、見えない力、【気】によって吹き飛ばされた。


穴だらけの壁をぶち破って会議室へと入って来たアシュリーナさんの目が、恐ろしい程の静けさを宿して床に倒れるクララを見詰めていた。


「クララ、わたくしたちは貴族です。例え家督や爵位を継がずとも、為政者の一族である事に代わりはありません」


気が格段に高まり、まるで巨人の様な存在感を放ちながら、アシュリーナさんはアルフレッドではなくクララをただ見詰めつつ、一歩足を踏み出した。


クララはその身をガタガタと震わせ、言葉を発することすら出来ずにいる。


「貴女の身に纏うそのドレス、その糸を紡いで布を作ったのは誰ですか?

貴女が血を喰らう者となる前、日々の糧は誰が汗水たらして作って来たのです?

貴女を生かし育ててくれたのは誰ですか?

崇高な理念は大事な事です。

その行いによって多くの民草が救われ報われるのならば」


メキメキと床が軋み、アシュリーナさんを包む空気が蜃気楼の様に歪む。


「シルドマン子爵家令嬢クララルーナ・シルドマン。

貴女が守るべき者は虐げられた異種族ではありません。

貴女を生かし、貴女が生かすべきは自領の民であり、この国の民たちです」


アシュリーナさんの怒りが荒れ狂う気の奔流となり、会議室全体がビリビリと震えている。


「貴族と呼ばれる特権階級にあり、民の苦しみも知らずに育ち、下だらぬ恋心と盲信で人である事を辞めた愚かなる者よ。

例えクラリウスが許したとしても、わたくしは貴女を決して許しません」


「ま、待ってくれ!」


アシュリーナさんに気圧されつつも、クラリウスさんは震える足でクララとの間に立った。


「クララはまだ若い!それに瞳もまだ真紅に染まっていない!今なら高位の祈願魔法や上位の魔法薬で人間に戻れるんだ!」


その言葉を聞き終えたアシュリーナさんは小さく小首を傾げて、スッとクラリウスさんへ向けた。


「人間に戻してから断罪なさるのですか?そこに何の意味があるのです?人として死なせたいと、そういう事ですか?」


「違う!そうじゃなくて…」


アシュリーナさんの壮絶な気配に私やリューネさん、ラルは気圧され、アルフレッドすらもが妙な汗をダラダラと垂らしていた。


「はぁ、そうですか、そうなのですね。

シルドマン子爵家長子クラリウス・シルドマン。

貴方に何故、騎士へと至るスキルが芽生えなかったのか、今初めて分かりました。

貴方の精神は騎士たり得ません。

騎士のそれではなく、単なる利己的な想いのみ。

騎士の向けるべき博愛の心は家族への情愛に劣り、国や領民への忠誠心は己の欲に劣る。

今の貴方に品格はありますか?

今の言葉に正義はありますか?

守るべき秩序を誤る者は貴族にも騎士にも非ず。

家名を捨てず引きずるだけの軟弱な殿方だとは思っていましたが、民を傷付け喰らう者を庇うと言うのなら、それはアルディーヴァ辺境伯家長女たるわたくし、アシュリーナ・フェンネル・アルディーヴァの敵という事です。

今ここで、その愚かなる者と共に散りなさい」


アシュリーナさんは本気だった。


以前ゴブリンの群れと戦った頃の彼女より、今の彼女は遥かに冷静でどこまでも真っ直ぐで、そして強い。


多分あの後も命懸けで修行をし続けていたのだろう。


実際戦闘狂の気があるみたいだし、森の奥地へ一人で突貫とかしてそうだよね。


それに対してクラリウスさんのそれは余りにも脆く、自分勝手なものだった。


幼いとも人間的とも言えるけど。


まるで昔の私を見ているようで歯がゆい。


そうだよ。


私はあの時、クラリウスさんみたいに逃げたんだ。


彼女はただギフトに心を蝕まれて一時的に病んでいるだけだと。


きっといつか、幼い頃のような皮肉った笑顔の似合う、ちょっとませた女の子に戻るに違いないと。


それまでの数十年の間、彼女に殺され傷けられ、巻き込まれた人々を何十人、何百人と見てきたと言うのに。


そんな人々の事すら天秤に掛けて、あの時私はサティルカーリを選んでしまった。


「私の持つギフトの一つ、それを持って仲間であった貴方への手向けとしましょう」


あぁ、駄目だ。


私は知ってしまったから。


沢山の人々や竜たちまで巻き込んで、多くの災いを振り撒いて、それでもやり直せると、次こそはと足を踏み出せるという事実を。


「ギフト開放。闘神!」


「させないよ!」


アシュリーナさんから今までの比ではない気が爆発する中、私は天人、否羽衣を纏った天女の姿へとその身を戻し、奏竜天女の象徴とも言える天と竜の血脈を発動させた。

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