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その35

その35


ディーアの冒険者ギルドで依頼達成の報告を済ませ、リューネさんが報告書の作成などの為に残る事になった。


帰還の紋章の返却もリューネさんにお願いしてから、私達はアーストン迷宮の近くへ転移した。


アーストンの石柱は各階層で登録した人のみを転移させる仕組みだけど、試しに空魔法で転移してみたら余裕で入れたので現在は15階層のボス部屋を目指している。


ほとんど竜たちが倒しちゃうので、私は回収係になってるけれど。


人の姿をしていても、アホみたいな筋力や魔力を持っている彼らにとって、魔法金属のゴーレムなど敵ではなかった。


ダンジョンの中でも位階が低いそうなので、仕方ないのかな?


「ボス部屋もそうだが、他の部屋も調べた方が良いやもしれませぬ」


と言うニカルの意見もあり、マップを埋める感じで動いたけど数時間でボス部屋に到着した。


「む、生意気」


部屋に入ろうとした竜たちが弾かれ、アルシェがちょっとムッとしている。


「他の階層を通っていない影響ですね。主様が階層主を倒せば問題はないかと思われます」


とフラウが冷静に考察してくれたけど、挑むの私だけなの?


「我はいつ亜人王に支配されるか分からぬ。竜たちの監視があればこそここまで来たが、二人でボス戦に挑むのは軽率に過ぎる」


とラル。


ごもっともです。


「分かったよ。それじゃ行ってくるね」


私は変身を解除して羽衣とヒヒイロカネの両刃剣を装備すると、一人ボス部屋へ入る。


部屋の大きさは今までで一番大きく、100メートル四方はあった。


天井も30メートル以上の高さがあり、天人剣や羽衣も使いやすそうだ。


確かここのボスはアダマンタイトの騎士だったかな?


扉が重い音を立てて閉じると部屋の真ん中に魔法陣が現れて、3体の巨人が現れた。


「マジか?」


情報の3倍出てきたじゃん。


もしやサティルカーリの罠かとも思ったけど、多分違うね。


あの子ならもっとこう精神的に嫌な感じの事を織り込むはずだし。


私から見て右がオリハルコン、左がアダマンタイト、やや後ろに立つ真ん中がヒヒイロカネで出来ている様で、それぞれ5メートルほどの身長があった。


オリハルコンとアダマンタイトの巨人はシンプルなデザインの両手剣を待つ騎士甲冑姿、ヒヒイロカネの巨人は頭に王冠を頂き鎧や剣にはちょっと豪華な装飾が施されていて、あちこちに宝石をあしらっている。


中でも王冠の正面に嵌め込まれた子供の握りこぶし位ある大きなサファイアからは強烈な魔力を感じ取れた。


『試練を単独で受けるとは珍しい。蛮勇であるのか勇敢であるのか、我らが試してくれよう』


あれかな。


ソロとパーティーだと出てくるボスが違っているのかも。


もしくは何かしら別の要素があるのかな?


まぁ余裕なんですけども。


私は左右の羽衣をそれぞれ伸し、加速させて放って左右の騎士を絡め取った。


『その様な布で我が騎士を縛れるばずが』


なんてヒヒイロカネの巨人が言ってるけど無視して羽衣を締め付ける。


羽衣が伸びて騎士たちを丸々包み込むとミシッ、ギギギィと音を立てながら押し潰した。


羽衣を解くと金属塊が大きな音を立てて石畳の上を転がる。


羽衣はある意味天人の体の一部みたいなもので、その持ち主に合わせて強さも変化するのだ。


「レベルが強さの全てじゃないけど、ここまで差があるとレベルでゴリ押し出来るのも事実なんだよね」


実は3体が転移直後、それぞれを鑑定してみたのだ。


解説までちゃんと読むと時間が掛かるのでレベルだけチラ見しただけだけどね。


オリハルコン騎士が86レベル、アダマンタイト騎士が96レベル、ヒヒイロカネ王が112レベルだった。


今の私の半分以下である。


魔法金属の特性として魔法攻撃が効きにくいのは事実だけど、それはそれ。


同じレベルでもアシュリーナさんの様に技を研鑽していたり、野生の世界で命を掛けて生き抜いたものならば別だけど、そうである様に設定された物なら怖くはない。


目覚めた当初の私ならともかく、今の私には脅威足り得ないはず。


王冠にはまったサファイアの魔力は侮れない力を放っているけど、それでもやるよ?


ヒヒイロカネの剣を抜き放ちながら左右の羽衣を展開して突っ込んだ。


「千本突き!」


滅茶苦茶そのままな技名を叫びつつ、王が装飾華美な剣を構えたときには千を超える突きを全身に打ち込んでいた。


「かーらーのぉ天灰剣(てんかいけん)!」


敵を灰燼に帰す如く粉々に斬り刻むと謂われているけど、実際にはザク切りよりも大きいよね?と言う大きさに斬るのがやっとの無数の高速斬撃を放つ。


『馬鹿な』


そんな言葉を最後に王はバラバラに切り裂かれ崩れ落ちた。


両膝から下は面倒で、額から上は王冠があるから斬らなかったんだけど、本体とは別物の様でカランと落ちる。


王冠を収納しようと手を伸ばして触れると、見る見る縮んで私の頭に丁度良さそうな大きさになった。


「ちょ?!ヒヒイロカネ高いのに!」


腹が立ったけど被ったりはしないよ?呪いのアイテムだったら困るし。


サファイアの大きさが変わっていないのが救いと言えば救いだね。


じゃあ触るなよと言われたらすんませんとしか言えないけども。


怖いので羽衣に王冠を持たせてから、散らばったヒヒイロカネの剣やインゴットもどきとか、オリハルコンやアダマンタイトの塊を拾いまくる。


もうあれだね。


錬金術や鍛冶スキルを取って自分で何か作ろうかな?


ほぼ回収も済んだ頃、再び魔法陣が床に描かれヒヒイロカネ製の宝箱が現れた。


「西大陸だと採れないはずなんだけど無駄にヒヒイロカネを使ってるよね?まぁいいけど」


罠を調べてみたけど特に見当たらず、鍵も掛かっていなかったので開けてみると、そこには王冠のサファイアと同じ位の大きさのルビーを嵌め込んだ王笏が入っていた。


「あからさま過ぎるよね」


王冠に王笏とか、何故かボスが3体出てくるとか。


ルビーからも強い魔力が出ていて収納は出来ない。


仕方ないので右の羽衣に王冠、左の羽衣に王笏を持たせ、宝箱を収納した。


にしてもおかしい。


この状態でも扉が開かないよ?


仕方が無いので王冠と王笏を鑑定してみることにした。


名称:迷宮主の王冠

解説:ヒヒイロカネ製の王冠。

迷宮主の王笏と対になる迷宮管理室への鍵。 


名称:迷宮主の王笏

解説:ヒヒイロカネ製の王笏。

迷宮主の王冠と対になる迷宮管理室ヘの鍵。


サファイアとルビーも鑑定したけど強度の隠蔽がされているらしく宝玉としか出なかった。


うん、よく分からん。


身につけるの?何かに置いたりはめ込むの?


室内を見回してみるけど、王冠や王笏を設置出来るような物はなかった。


これは身に着けろって事だよね?


仕方なく往還をかぶり右手に王笏を持つと、それぞれに嵌め込まれた宝石が魔力を放ち、私を転移させた。


そこには各階層の奥にある石柱があり、その頂にサファイアやルビーと同じくらいの大きさのダイヤモンドが浮いていた。


『よくぞ単独で騎士王とその部下の試練を勝ち抜けられました。

おめでとうございます。

私はこのダンジョンの迷宮核。

貴方に最後の選択をして頂きます』


ダイヤがピカピカと光りながらそんな事を話すと、王冠や王笏に着いていた宝玉がふわりと浮上がった。


『この2つの宝玉はギフトオーブ、それぞれにランダムでギフトを得られる宝玉です。

このギフトオーブ2つか、迷宮核である私か、どちらか一方をお選び下さい』


ギフト、持たない者すら普通に居る神々からの賜り物とされる特殊な力。


使い勝手が悪い物もあれば、スキルで代用可能なものもあるけれど、中には飛んでもない代物も存在する。


ギフトオーブそのものはかなり難易度の高い遺跡や迷宮の奥でしか見付からず、まず個人が買えるような品でもない。


それが2つも手に入ると言うのなら普通は確かに悩むよね、というかほぼギフトオーブを取るだろう。


『なおギフトオーブを選択された場合、この場で使って頂くことになります。

また、十五階層内での記憶の一部を改変させて頂きます』


この迷宮はいくつかの条件をクリアした者だけが十五階層で本当のボスと戦える。


多分十五階層でのボス戦が初めてである事と、ボス部屋へ一人で入る事かな?


元々一度しか戦えないボスだけど、初めてボス部屋に入る人が居ると他の面々も戦える。


この前提が曲者なんだね。


だって誰か一人でも新規の人を連れてくれば、毎回ボスと戦えて宝箱や財宝も手に入るって事だもん。


良い冒険者は無茶をしないし、無茶をする冒険者は早く死ぬ。


複数人で挑んだ時と個人で挑んだ時ではボスが違うとか普通は思わないし、生き残った勝者がギフトオーブを選んでいれば記憶が書き換えられているから情報が表に出てこない。


オリハルコンの騎士がボスだと思い込んでいるソロの冒険者なら3体のボスに勝つのは難しく、勝っても使い道のわからない迷宮核よりギフトオーブを選ぶ人の方が多い気がする。


私も普段ならギフトオーブを選ぶもんな。


「迷宮核で!」


でもラルの事があるし、私は迷うことなく迷宮核を選択していた。


『おぉ、ついに、ついに私を選んでくださるお方がっ!』


何となく涙声に聞こえるのは気の所為だろうか?


『ぐすっ…では私に触れ、貴方様の名を宣言してください』


言われた通りに迷宮核に触れると、「サラストリー」と本名を告げた。


流石に偽名は不味いかな?と思ったんだよね。


『承認されました。

サラストリー様、これより貴方様がこの迷宮の主様でございます』


迷宮核と私の間に何かよく分からないパイプの様な物が生まれて、力なのか感覚的な物なのか、何かのやり取りが行われ始めたのを感じた。


〈特殊称号:アーストン迷宮のダンジョンマスターを得ました。

称号:竜女帝、称号:ゴーレムマスターを得ました。〉


ん?ダンジョンマスターは分かるけど、なぜ今のタイミングで竜女帝にゴーレムマスター?


てかそれ何?


『ダンジョンがマスターの潜在力の影響を受け、まもなく変質が始まります。

全二十九階層となり十六階層より下は亜竜と竜の迷宮となります。

新しい称号はその影響もあるかと思われます』


ふぇ?!


『今までの私はいわば野良ダンジョンでした。

ダンジョンは主を得る事でその真価を発揮するのです。

主様はこのダンジョンに派生する魔物たちの主でもありますので」


毎度思うんだけど、聞いてねーよ?


『主様、各種設定の変更が可能ですがいかが致しますか?』


全部無視かよ?!


いや、急に聞かれても困るんですけど?


取り敢えず今ダンジョン内に居る冒険者たちに危険がないよう、十五階層まではそのままにしておこう。


そこから下の階層は後々考えるとしてしばらくの間は繋がりを断っておく。


『かしこまりました。一旦すべての冒険者たちを入り口周辺へ転移させ、一旦扉を閉じました』


「え?まだ何も言ってない気がするけど?」


『マスターと私は繋がっております。迷宮に関する内容のみですがその思惟は私にも伝わる仕組みです』


「なるほど」


んじゃ、これは?と、ラルを私の眷属のまま魔王の影響外にしたいと考えると、


『でしたら方法は3つございます。

1、この迷宮の魔物として登録する。こちらは自然の理から外れて私や主様の管轄下に置かれることになります。

2、サブマスターとして登録する。特殊称号なのである程度以上の能力向上や他者からの干渉を防げます。

3、サブマスター以外の何か特殊な称号を得る。

オーク初のドラゴンスレイヤーなどならまず干渉を弾く事が出来るでしょう』


いや、少し強い程度のオークジェネラルだよ?


称号を与えられるレベルのドラゴンと戦うとか普通に殺されるって。


『では1か2ですね。どちらになさいますか?』


「そりゃ2でしょ。あ、本人はボス部屋の前に…」


『はい、お連れしますね』


「うひょ?!」


「むう?」


一瞬で目の前にラルの姿が現れてちょっと驚いたけど、まぁ仕方ない。


軽く事情を説明するとラルは、


「お手数をお掛けする」


と言って迷宮核に深々と頭を下げた。


いや、それの主私だからね?


ラルも眷属としての繋がり以上にラインが太くなった様なそんな感覚があった。


『主様、ラル様のサブマスター登録完了しました』


こんな感じなのかー。


そう思っていると、ラルの体が光り始めた。


〈天の血を引く者との眷属化が強固となり、また特殊称号を得た事により特殊進化が始まります。

オーク種より種族変更が行われ種族名【ヴァラーハ(神獣・ユニーク)】、となります〉


私の天人の血筋が影響したせいか、何故か私にも天の声が聞こえてきた。


神獣ってさり気なく言ってるよ?


もうこれわざと聞かせてるんじゃない?


これ絶対月か星の神が絡んでるってば。


〈…ごめん、なさい。全部私のせいです〉


ボソッとその声を最後に天の声は聞こえなくなった。


げ、通じてたんか?!やばくね?!


十神の中でも原初の二神は基本的に見守るか生命の誕生と亡くなった後を司るらしいので、その二神を除くと高位とされているのが天空三神とも呼ばれている太陽、月、星の神々だ。


種族特性の神託で謝ろうとしたけど通じない。


にゅ〜。


原則神様は地上に降りて来ないので、私達天人や竜人など神託を種族特性として持っている種族が居て、あれこれ用事を応接かる関係上チート種族な訳ですが、つまりは普通の人々よりも神様は近しい存在ではあるのだけれど、それでも王様と平民位の差があるので、かなり不味いことをした気がする。


〈称号:星神の眷属を得ました〉


ぶっ。


さっきはごめんなさい。


申し訳ございません。


どうかお許し下さい!


必死にそう願ったけど返事は一切来なかった。


やべーよ、これって神様の直属の部下になっちゃったってことじゃんね?


どんな神託受けても断れないじゃんよ。


一人で百面相でもしていたのか、迷宮核が存在しないはずの目でジーっと見ていたような気がした。


〈主様の影響で迷宮が35階層となりました。

30階層より下は星神の神殿となります〉


私の迷宮が神殿になっちゃったよ?!


こんなんありなの?!


どんなダンジョンだよ?


モンスター何が出んのよ?!


〈上位精霊や上位妖精、聖獣や神獣が主となります〉


ごふっ!


妖精女帝とか精霊女帝とか、獣王とか新たな称号が加わるかと思ったけどそれはなかった。


多分星神の眷属って、現存する称号の中ではかなり格上なので他のが芽生える事はないのだろうね。


いや、欲しい訳じゃないですよ?お願いですからこれ以上ややこしくしないで下さい。


泣きそうになりながら真剣に祈ると、〈はい、そういう事でしたら〉と返事が来た!


怒ってはいないらしい。


やったー!運命すら司る神様に睨まれてたら無事に生きていけるとは思えないしね?


それ以降星神様の声は聞こえなくなったけど、良しとしよう。


少し安心して心の余裕が生まれたのでラルを見てみると、変身が解けたのか3メートル以上の背丈がある猪の頭を持った雄々しい巨人がそこに居た。


ミノタウロスの猪版と言うのが一番分かりやすいかも知れない。


「うわぁ、立派になっちゃって。と言うかラルって名前はどうしようか?」


「うぅむ。何やら大きくなった様だな。名前か?それならサラ様から賜ったラルと言う素晴らしい名があるではないか。

何ら問題ないぞ」


適当に付けてごめんよぉ。


心の底から自分の適当さを悔やむ時がこんなタイミングで来るとは思ってもいなかったのだった。

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