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その34

その34


物凄く複雑な気分でいると、


〈解放条件が達成された為、封印中のベースレベルが53上がりました。


ベースレベルの上昇によりHP、MPが全回復しました。


能力値ポイント、スキルポイントが50ずつ加算されました。


熟練度上昇の為、剛力6、剛健6、俊敏5、祈念魔法6、竜人格闘術6、特殊戦闘:天人剣7、竜気操作6、竜語6、特殊戦闘:羽衣7、属性魔法水10、風9、空7、光6、火3、雷3、魔力操作9、魔力感知9、眷属魔法8、精霊魔法10、飛行練度7へレベルが上がりました。


種族成熟度の上昇により、飛行8、変身7、飛行適正8の種族特性が上りました〉


と遠慮も配慮もない天の声が私の脳内で響いた。


そして徐々に思い出す。


そうだ、あの子は復讐者だった。


自分以外の誰かの復讐をして歩く、生きた呪いにも似た何か。


あの子は苦しんでいて、でも壊れた様に泣きながら笑っていて。


自分だけじゃなく沢山の人々を巻き込んだ。


正に災いその物と化して。


そして私に言ったんだ。


「ねぇ、お願い。

私を殺して」


そうだ。


ラルと出会った時のもう一人の私が言っていた言葉、それは本当だったんだ。


未だにもやもやとした記憶だけど、名前すら思い出せないけど、これだけは分かる。


私が探していた女性、それは名前すら思い出せない一つ年下の妹分。


彼女が何をしているのかを知り、それを止めようと思った。


そして結果的に戦う事になったけど、それでも殺したくなくて封印する方法を探して…


やっぱり全部は思い出せないままだけど、私は逃げたんだね。


多分私は彼女の願いを叶えるよりも、沢山の人々を助けるよりも、自分が一番楽な方法を選んでしまった。


それが逃げだともう一人の私は言っていたんだね。


そしてずっと現実を見ないで楽な道を、逃げ続ける道を行けばいいと、それが私なのだともう一人の私は信じて疑ってすらいなかった。


過去の私の残滓のようなもの、それが私が言霊で封じたものの正体だったんだ。


そりゃ自分で自分の過去を封じているんだもん、思い出せるはずもない。


「私はやっぱり馬鹿だなぁ」


私の様子が変だと気付いたのか、リューネさんや竜達が私を心配そうに見ている。


「やっと思い出して来たのね?」


口調は彼女その物なのに、その声は男性だった。


はっと声の主を見ると、そこには白目を剝いたラルの姿があった。


皆には手を出さないよう目で合図をして、私はラルと向き合った。


「私は亜人王。人であって人ではないとされた者たちの魔王。

オーク種もその一つだからね?」


白目を剥いたままクスクスと笑うラルはかなり気持ち悪い。


今はそれどころじゃないけども。


「まだあんたの名前も思い出せていないけどね?」


私は挑発する様に言ってみたけど、彼女は気にした様子もなかった。


「哀れよね?

あの蝶や他の者たち、人種を強く恨んでいたわ。

人が自分たちの手で人に近い物を作っておきながら、人じゃないからと線を引いて意思のない道具の様に操っていたんだもの。

そりゃ恨みもするわよね」


半分以上人なのにね?


クスクスと笑う彼女は、多分泣いているのだと私は思った。


「遺伝子操作、と言っても貴女たちには分からないでしょうね。

前の世界でも色々と問題になっていてね。

こんなファンタジーな世界でお目に掛かるとは思ってもみなかったわ」


彼女はよく分からない事を昔から良く口にした。


私の知らない別の世界。


私の知らない様々な文明。


私の知らない物語。


「思ってもみなかったと言えば、160年も封印されるとは思ってもみなかったわ。

お陰で力は弱まるし、夢だけは山の様に見るし、本当に最低最悪の地獄だったわ」


ラルの目から血の涙が流れ始めた。


こいつは何をする気?!


「亜人の魔王なら亜人を傷付けたり苦しめたりするな!『神々よ!』」


祈念魔法を使おうとするけど、ラルの体からユグヌスクさんにも似た魔力が溢れ出して霧散させる。


「私は楽になりたかった。

なのに貴女は私を殺してくれなかった。

やっとだわ。

ついに生まれて初めて私はっ!

私の為に復讐する事が出来る!」


そう、ラルの体からは驚くほどの魔力が溢れ出していた。


その身に受け止められない程の、桁違いの魔王の力がだ。


いくらオークの上位種かつネームドとなったラルの肉体でもその力の奔流に耐えられるはずもなく、肉は捻じれ骨は砕け、皮膚ははち切れて全身が血塗れになっていた。


ゴボゴボと口から血の泡を吐き出しながら、それでも彼女はラルを手放さない。


「私の苦しみの数万分の1、数億分の1でも味わうといい!」


私は光魔法や祈念魔法を飛ばしてラルから魔王を浄化させようとするけど、やっぱりその身をまとう魔力で霧散させてしまう。


弱体化してこれなの?


竜たちも下手に力を使えばラルの体が確実に保たない為、手を出す事ができなかった。


タン!


いつの間にかリューネさんが弓の弦を引き、矢がラルに向けて放たれた。


その矢は実体のない何かだった。


リューネさんの弓は神々と数多の精霊たちに祝福された神器とも呼べる物。


その矢は狙い違わずラルの額を貫くと、一気に魔王の魔力が霧散していく。


「ば、か…な?」


無数の蝶がラルの体から飛び出すと、何処かへと飛んでゆく。


ラルの体は支えを失った様に床へドサリと倒れ込んだ。


「サラさん!早く祈念魔法を!」


リューネさんに促され、私は神々へと祈りを捧げた。


それはしっかりと効果を現し、ラルの肉体を時間が巻き戻ったかのように回復させて行く。


五竜たちはそれぞれの力を蝶へと向け、次々とその数を減らして行ったけど全てを滅ぼす事は出来なかった。


「魔王を倒したの?」


「いいえ、弓に宿った神々の祝福を力に変えて追い出しただけです」


私の問にリューネさんが弓を見せてくれた。


弓にいくつか嵌め込まれている宝玉の一つが消滅していた。


「何度も使えるものではないですが、どうにかなりましたね」


「リューネさん、ありがとう」


倒れたラルに私とリューネさんが駆け寄り、クリーン魔法で血で汚れた体を綺麗にしてから、傷の癒えた体を毛布で包み込む。


「あの魔王は私の敵でもありますし、ラルさんは私の師匠の一人ですから。

夢に漂う気配とあの魔力はそっくりでした。

ネーサの夢は彼女が見せたものだと思います」


「ごめんなさい。私の近くに居たから狙われたのかも知れないです」


「気にしないで下さい。姉の事を色々と知れたのは嬉しくはあったんです。それに仇も取れましたし。

ただ、それでもネーサの記憶はネーサの記憶、ネーサの思いはネーサだけのものです。

それを自分の目的のために道具の様に使うなんて最低ですし許せません」


悲しみと憤りの混ざった目で話すリューネさんの姿を見て、私は記憶の一部を思い出した。


こんな目を、表情を私は何度も見たことがある。


「封よ、解けよ」


私は言霊を自らに発動して、封じた自分の一部を開放する。


思ったほど記憶は思い出さなかったけど、それでも分かった事は多かった。


やっぱりそうだ。


彼女を探す旅の途中、その痕跡を辿っていくと必ずと言って良いほど死と憤りや悲しみ、時には狂気にすら遭遇するのだ。


ギフトが彼女をそんな存在にした原因の一つだとしても、結局あれは彼女が自ら選び取った結果でしかないと、その痕跡を辿れば辿るほどに思えた。


私はそれを知っていた。


なのに私は彼女を殺すのではなく、自らを使って封印した。


甘かった。


甘過ぎた。


彼女のギフト、胡蝶之夢。


あれは本来自分自身へ影響を与える類のギフトだ。


夢の中の自分と現実の自分、どちらが本物なのかわからなくなる程に現実味を帯びたその夢は、別の側面を持っていた。


現実に存在する別の生き物としての生と死を、彼女は毎夜体験していたのだ。


たった一晩見ただけの夢なのに、とても長く感じた事はないだろうか?


彼女は短い時間で数日から下手をすると数年以上の時を実体験のように経験してしまう。


特に彼女が夢に見る、もう一人の自分となる「誰か」は、無念や恨みを抱いて死ぬ者たちである事が多かった。


基本的に夢は勝手に訪れて、彼女の意思に関係なく現実として進んでいく。


徐々に制御が出来るようになったみたいだけど、それでもかなりキツいよね。


その時抱く恨みや悲しみの感情も、そして物理的な痛みや苦しみすらも自分の物として追体験してしまう。


ただ単に苦しむだけなら、それはギフトとは呼ばないだろう。


でもそのギフトは追体験を経験値と言う形で彼女に大きな力を与えた。


レベルが上がるだけじゃない。


他者の持つスキルを覚えたり、殆ど使ったことのないスキルレベルが上がったり、時にはギフトを得ることすらあった。


そしてそのギフトに付随しているオマケ的な力の一つに、自身の見た夢を他人にも追体験させる物がある。


彼女はそれを使って私やリューネさんに夢を見せた。


彼女が魔王となったのも、胡蝶之夢に耐えられず、その誘惑に負けたから。


彼女は沢山の人々を自分として認識し、ある日里を出て復讐を開始した。


騙されて奴隷となった女性や暗殺者に殺された貴族、盗賊に家族を奪われた商人とその家族。


彼女の見る夢に現れる人々の恨み辛み、そして痛みと悲しみ。


それを晴らす為に有り余る力で復讐を開始したのだ。


最初の彼女はそれでも手段を講じ、多数の人々を巻き込む様な事はしなかった。


だけど時を重ねるにつれ、徐々にそして確実に、復讐相手の近親者やほぼ無関係な人々まで巻き込むようになっていく。


そして力を増した彼女の見る夢は、人に近い魔物、人語を解する亜人たちのものをとも見るようになる。


彼女にとって世界は復讐するべき敵に溢れていた。


彼女は魔王となった。


彼女にとって最も近しく、もっとも憐れみを感じる対象、亜人たちの王として。


亜人王サティルカーリ。


それが天人にして魔王と成り果てた、私の妹分だった。




私達は遺跡内の昆虫人間培養装置を破壊、それっぽい資料も焼却した。


管理事務所そのものを破壊すると迷宮に何が何が起こるか分からないので、それは止めておく。


その後一旦ジャンドゥーヤ迷宮の一層、洞のある付近に転移すると階段に皆を待たせて天術を発動、サティルカーリの設置したと思われる転移陣を破壊した。


ダンジョンの転移装置や罠ならこうは行かないけど、これは後付の罠みたいなものだからね。


「ジャンドゥーヤの町に行きますか?それともディーアまで戻ります?」


ラル以外肉体的には元気だけど精神的には全員疲れていた。


ここは同行職員であるリューネさんに判断を任せるべきだろう。


「ディーアに戻りましょう。依頼は達成されましラルさんの休養も必要ですから」


リューネさんの意見に一同納得して、ディーアの町近くに転移した。


「そう言えば弓は大丈夫なの?」


「ええ、私以外に声を掛ける能力は失われたそうですが、それ以外は問題ないそうです。

ただ先程の技を使う度に機能が失われ、基本的な能力そのものも弱まっていくので次に撃てても追い出せるかは分からないそうです」


宝玉プラス弓の基礎威力100%の攻撃力で追い出せたけど、宝玉プラス弓の基礎威力90%では追い出せないかも知れないと言う事かな。


そして宝玉を使う度にその基礎威力は落ちて行くのか。


弓は身を削ってラルを助けてくれたんだね。


「そこまで無理をさせていたんだね。ごめんなさい、そしてありがとう」


「いいえ、あの状態ではどちらにしても私達も危険な可能性がありましたから。

私を守る為でもあったので、その点も気にするなと言っています」




「サラ様、話がある」 


町へと向う道すがら、ラルが急に立ち止まって声を掛けてきた。


「我はここで別れ森に帰ろうと思う」


「え?」


いや、何となくそうなる様な気はしていたけど。


「あの魔王に取り憑かれた時、全く抵抗する事が出来なかった。

リューネ殿のお陰で事無きを得たが次はどうなるか分からぬ」


「いや、でもね、何か良い対策が見つかるかもしれないし」


「否。あれは意思やスキルなどではどうにも出来ぬ理の力。

亜人の王と言う魔王の存在そのものの権能であろう。

主のギフトにも言えるがその様なものなのだ。

アレに抗う事は出来ぬ」


理屈抜きに存在する力は確かにあるし、私の竜に対するそれも同じと言う事だろう。


封印の影響で弱まってアレなのだ。


もし力が完璧に戻れば、それこそ手の施しようがないだろう。


「ん〜、解決する方法はいくつかあるわよぉ?」


ちょっとそこまでお買い物位の軽い口調でアイナが言うと、


「ん。今の主になら可能」


とアルシェも無表情に頷いた。


「あー、確かにアレとかならどうにか出来るかも知れねぇな?」


とシュリンがその内容に気付いたのか、うんうんと納得していると、


「待て。後戻り出来ぬ内容をみだりに語るものでは無い」


と他の面々に渋い顔をして止めるニカル。


「そうですね。主様の身に何かが起こってからでは遅いですから」


と言い出しっぺのアイナに氷のような冷たい視線を向けるフラウ。


ボケーッとして話を聞いていた竜たちが、解決策について話し出した。


世界の理に近い精霊王としての知識か何かかな?


「そこの竜たち、勝手に話を進めないでちゃんと説明して」


「ではぁ、私が説明するわねぇ?

解決方法がいくつかあるって言うのはぁ…」


「アイナ、長い。

答えはこう。

主の魔王化。

ラルに私たちの誰かが憑依。

主がダンジョンマスターなどの特殊称号やギフトを得る。

今思いつくだけでこの3つある」


「え?」


その話を聞いてポカーンとするリューネさん。


「理に関わる位階の特殊な称号ですから竜の王でも構いませんが、せめて3大陸は制覇しないといけませんね」


フラウもサラッと凄いことを言い出した。


「憑依は置いとくとして、その他だと魔王同様理に影響を与えられる力を持てば良いってこと?」


「えぇ、そ~なりますわねぇ〜。

この辺のダンジョンですとぉ、野良でそこまで位階が高くないのでぇ、何処まで対処出来るか分かりませんけどぉ。

あー、でも主様がマスターになったらぁ、野良じゃなくなるんですよねぇ?あれぇ?そうなるとどーなるのかしらー?

魔王化ならぁ、細かい事は気にしなくても問題はありませんわねぇ」


私の問にアイナがそう答えてくれた。


「でもどちらのダンジョンも攻略されてるんだけど」


「先程の管理事務所同様、内部にありつつ切り離された場所にコア、迷宮核が設置されている場合が多い。あの魔王のことだ。

ジャンドゥーヤは何かしらの罠が仕掛けられているやもしれぬ」


とニカルが唸るように言い、


「アーストンの方がやや安全、とも言い切れませんが試してみる価値はあるかと」


とフラウ。


多分魔王化ほどの変異が無いので、ニカルとフラウは迷宮主、ダンジョンマスターを推しているんだろうね。


「アーストンならすでに14階層までは制覇しているから、15階層を制覇してからコアのある部屋を探せばいいのかな?」


と言うことで、私達はラルを説得して一旦ディーアの冒険者ギルドへ寄ってから、アーストン迷宮へ向かうことにした。

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