その32
注意:いつもより残酷な描写が多いです
その32
時刻は15時過ぎ。
町へ入る際フラナヴァータは門で仮の身分証を発行してもらい、冒険者ギルドで冒険者登録する事になった。
リューネさんの弓は勝手に形を変えて左手の腕輪になっていた。
最初の方だけしか声を聞いてないけど、煩いのも嫌だけど静かすぎるのも気持ち悪いものがあるよね。
あ、勿論藪に着いた時点で人間に変身してるよ?
私はフラナヴァータへ布の巾着袋に銅貨や銀貨、金貨も多少入れて渡し、自由に使う様に言うと最初は遠慮していたけど、人種の中で行動するならお金が無いと色々と面倒であることは知っているらしく、いつかお返しします!と深々と頭を下げて受け取った。
「まずは冒険者ギルドだね」
「はい、そうして頂けると助かります」
私達は冒険者ギルドでアニスへ状況報告とフラナヴァータの冒険者登録を行う事にした。
受付へリューネさんが声を掛けると、そのまま何やら話し込んでいる。
「こちらは冒険者登録をしておこうか」
夕方前のこの時刻だと受付はかなり空いていて、並ぶことなく登録をする事が出来た。
フラナヴァータは名前をフラウと言う偽名で登録し、私の姉と言う事にしてF級冒険者となった。
勿論門でもフラウで身分証を発行してもらっている。
精霊などの特殊な素材の真名をホイホイ広めるもんじゃないしね。
現在リューネさんが私達に職務で同行しているのを他の職員さんも知っているので、細かい説明はリューネさんに聞くと話すと納得してくれた。
登録が終わると丁度リューネさんも話が終わったらしく、私達の所へ戻ってくる。
「副ギルド長は留守にしているそうですが、状況は説明し簡単な報告書も提出して来ました」
「お疲れさまです。こちらもフラウの登録は済ませて来ました」
町に戻るまでに凄く雑ながら私と契約した竜である事、人化能力がある事などは伝えてあるので特に気にした様子はない。
と言うか多分リューネさんは私が本に出てくる天女だと気付いているんだろうね。
過去、冒険者仲間だったアニスとも知り合いなのはバレてるし。
それでも特殊な状況を数多く見知っているリューネさんだからこそ、深く突っ込んでは来ないのは有り難い。
普通の冒険者なら暗黙の了解があっても流石に気になって探ってくるくらいはあり得るしね。
取り敢えず普通のお店でご飯が食べたいので、門へ仮の身分証を返却してからこの時間でも開いているお店の個室を利用する事にした。
果実水やお茶、コーヒーなんかで乾杯をしてから、今後の事を軽く打ち合わせる。
「まず今日は休みましょう。
それから明日一日はそれぞれ自由時間とし、各自装備品の準備などを済ませ、明後日の朝一番の乗合馬車でジャンドゥーヤの町へと向うと言うことでどうでしょう?」
「はい、それで良いと思います」
私の提案にラルとフラウは頷き、リューネさんも納得してくれた。
「それから島で得た品々ですけど、物によっては冒険者ギルドで売るのはまずいですよね?」
と尋ねると、
「収納魔法持ちの方やマジックバッグ持ちの方はいますから、他の土地で狩った物をまとめて売る事はあり得ない事でもありません。
死体持参の場合は高レベルの収納魔法持ちが少ないので、鮮度の問題などがありますが」
「なるほど」
「ただ数が多いので解体や素材込みとなると一気に買い取れるかは不明です。
また今回は副ギルド長が事情をご存知ですが、魔王の力を借りてよその島で狩ってきたと言うのは公表されるべきものではありません。
そうなりますと亜竜種や島固有の魔物は近隣に居る物のみの方が良いかも知れませんね」
「そうですか。
あ、魔道具の材料になる物もあるだろうし、マーレンさんに見せるのも良いかも知れませんね」
そんな感じで段々雑談になりつつ食事も終わり、私達はお店の前で解散した。
是非家にと言われたけど、フラウが増えたのでかなり手狭になってしまうしね。
宿屋もそろそろ空いているところもあるだろうし。
それに彼女には言わなかったけど、空魔法が6レベルへアップした事で行ったことのある場所もしくは視線で捉えられる場所へなら転移可能になったんだよね。
大陸間はまだ無理だけど、あの島なら実は行けてしまう。
正体がほぼバレている今となっては隠す必要もないかも知れないけど、どんどん人間離れしていくのをあまり知られなくないような、そんな気分だったんだよね。
多分面倒になって目の前にいても使う可能性が高いけどさ。
「まずは宿を取ろう。動くのはそれからだね」
私はラルとフラウにそう告げて、ディーアの町中でもそこそこお高い宿へ行ってみる事にした。
大部屋が開いていたのでそこを借り、フラウに竜の牙で出来た小剣と短槍を持たせる。
鎧は竜化するときに邪魔なので要らないと断られたよ。
素の状態でも下手な魔法金属の防具よりずっと硬いらしい。
流石に竜の魂すら食べちゃうだけの事はあり、武器に宿る意思を簡単に屈服させてた。
「ラルはここに残って何かあった時に備えてて。
フラウ、いやフラナヴァータは私と一緒に来て」
それぞれに指示を出し、私はフラナヴァータと共に魔封じの森へと空間転移した。
転移した先は私が開けちゃった大穴の中だ。
ここならかなり開けているしね。
ぶっちゃけ名前はまだ思い出していないけど、字を知っていて魔封じの森という環境があれば開放は容易い。
私は精霊魔法を発動する。
「創世の地にて産まれし始まりの精霊たち、精霊王にして暗中の灯火、母なる大海、創世の胎動、始まりの吐息の字を持つ者たちよ…」
精霊への呼びかけを始めた時、彼らの姿と名前が脳裏へと蘇ってきた。
「暗中の灯火シュリアード、始まりの吐息アルジュナーヴァ、創世の胎動アニカラチャナ、母なる大海アイラヴェータよ!
我、天人にして奏竜天女たるサラストリーの名によって命ずる。
我が呼び掛けに応え顕現せよ!」
咄嗟に彼らの名を呼び、その眠りと封印から開放する。
私の目の前の空間が歪み、どこまでも澄んだそれでいて途轍もなく深い青の球体、赤白青橙と光の粒が凝縮し最も輝いている球体、茶黒赤青緑紫と次々と色を変え脈打つ様に光る球体、見えないのにハッキリとその存在を感じる球体が飛び出して私の周りをクルクルと漂うと、それらは一つ一つが子犬ほどの小さな竜の姿を取った。
〈おっ?!主が目覚めたか!
てかそこにいんのはフラナヴァータかよ?チェッ!先を越されちまったな〉
〈主様がお目覚めになられました事、大変喜ばしく、我ら一同歓喜に震えておりまする〉
〈また、会えた。嬉しい〉
〈きゃ〜!主様ったら、最初は私が呼ばれると思っていましたのに〜〉
煌炎竜の暗中の灯火シュリアード、地鎮竜の創世の胎動アニカラチャナ、風雷竜の始まりの吐息アルジュナーヴァ、水命竜の母なる大海アイラヴェータ、それぞれが小さな竜の姿で恭しく頭を下げた。
フラナヴァータは何故か私の横で偉そうにふんぞり返っている。
「フラナヴァータから話は聞いたよ。私を助けてくれた事、感謝してる。本当にありがとう」
竜たちにペコリと頭を下げると、彼らは慌てた様に頭を上げて欲しいと騒ぎ出した。
〈俺達が主の気持ちを無視してやった事だぜ?〉
〈左様に御座います。
我等は我等自身の為に行いました事故、叱責を受ける覚悟で行いまして御座います〉
〈ごめんなさい〉
〈もぉ、私達と主様との仲じゃないの〜。お礼とかいいのよぉ〉
「これで簡易封印は解除出来たし、一旦精霊界へ帰って暫く休んでね」
眠っていたとは言え、多分160年の間術式に介入していたのだし、力もかなりそがれているはずだ。
少しは休んで欲しいと思ってそう声を掛けると、
「ふっ!そうですわ!
竜を素体に仮初めの肉体を得た私が主様と共にあるのですから、何一つ心配する必要はありません。
貴方達は精霊界の縁側で茶でも楽しんでいると良いのです!」
とフラナヴァータが何故か煽ってる。
〈あぁん?ふざけた事抜かすなよ?この腹黒真っ白女がっ!〉
〈ぷっ、腹黒真っ白…〉
〈まぁ、新しいステキな字が付きましたのね?よろしかったじゃありませんのぉ?〉
〈フンッ。我等も竜を得れば良いだけのこと。封印山脈にでも行けばゴロゴロと転がっていようぞ〉
〈お、そりゃーいいねぇ〉
あれ?何でこうなった?
こいつら封印山脈の竜を喰らうつもりじゃん。
「待って!竜が一気に減ると辺境伯領に何か影響があるかも知れないからそれは駄目だよ」
〈フラナヴァータは体を得た。主様はフラナヴァータが一番好き?〉
うっ。アルジュナーヴァの真っ直ぐな瞳が私の心に突き刺さる。
「よし!こうしよう!
今から少し離れた島へ行く!
そこでなら大きな影響もないだろうし、素体探しも出来るはず!」
「えぇー?折角主様と二人であれこれ出来ると思いましたのに」
なんか棒読みっぽい感じでフラナヴァータが言ってる。
こうなるようにワザと煽ったんだろうね。
私も思い付きで言ったけど、まぁこの辺で竜を求めて暴れられるよりはマシな気がするんだよね。
この子たち私と一緒に160年前この森半分滅ぼしてるし、下手に動かれるよりはマシな気がしてならない。
「転移するよ!」
私は小さな竜たちとフラナヴァータを連れて島へと戻る事になった。
天人姿になり空を飛ぶ。
いつの間にか背に翼を生やしたフラナヴァータや小竜たちもしっかり私に付いてきた。
目指すは一番大きな山だ。
フラナヴァータの素体になった竜も多分あの辺から来たのだろうし。
派手に魔法をぶちかましたら出てきそうだよね?
山が近付いてくると、巨大な鷲に似た魔物が襲い掛かってきた。
全長20メートルほど、翼を広げるとそれよりもずっと大きい。
ロック鳥ってやつかな?
私は遠慮なく大魔法をぶちかます事にした。
リューネさんの火柱で竜がやって来た様に、派手な魔法を使えば何頭かは山から様子を見に来るかも知れないし。
「光よ、火よ、雷よ。集いて我が敵を屠る槍となれ!」
光は5レベルあるけど火と雷は1レベルずつしかない。
風や冷気に対する耐性は強そうだし、火や雷のレベル上げもしたい上にちょっと派手な魔法を使いたいと言う事で複合魔法を使う事にしたのだ。
長さ10メートル、太さも1メートルほどある歪な光の槍が現れ、要所要所に雷光や炎を拭き上げながらロック鳥へと突き進んだ。
ロック鳥は回避しようとしたけど私の魔法はそんなに甘くない。
槍は10本の短槍に分裂すると、それぞれ変則的な動きをしながらきっちりと追尾してロック鳥を囲みこみ、一気に加速して突き刺さる。
ドンッ!
轟音を立てて突き刺さった槍が爆発し、肉片や羽毛が辺りに飛び散った。
「魔石はお任せ下さい」
フラナヴァータが肉片を凍らせつつ突っ込んで行き、握りこぶしよりも大きな魔石を持ってきた。
「ありがと!」
私はそれを受け取って収納する。
「来ましたわね」
フラナヴァータが山の方を促すので見てみると、ワラワラと予想を遥かに上回る数の竜やワイバーンなどが飛び出してきた。
〈選び放題じゃねーか〉
〈入れ食い?〉
〈相性の良いものを探せるな〉
〈水竜系はぁ、陸地だと少ないわねぇ〉
みんな好き勝手な事を言いながらそれぞれが光の玉になると、物凄い速度で竜たちの群れへと突っ込んで行った。
〈レア、見つけた〉
アルジュナーヴァがプラチナ色の竜へと襲い掛かり、その体内に入り込む。
他所でも赤い鱗の火竜や茶や黒の鱗を持つ地竜、水色の鱗を持つ水竜へそれぞれが入り込み、皆強烈な光を放つとその姿を変異させていった。
その光景を見た竜たちは距離を取って遠巻きに様子を見ている。
距離を取ればブレスも使い放題だしね。
「あら?あそこにいるのは氷雪竜ではありませぬか!」
フラナヴァータも光に転じると、氷雪竜の中に入り込んでしまった。
いやいやいやいや。
あんた前にノーマルな竜食ってるじゃん?!
相性が良い竜の方が楽なんだろうから仕方ないか。
のんきにそんな事を考えていると数百いる竜やワイバーンたちが私達へ向けてブレスを放とうとした。
「ちょいまずいね」
私はギフト、奏竜天女の天と竜の血脈を起動させる。
羽衣はそのままに私の体は煌めく金の鱗に覆われ、こめかみにはそれぞれ一本ずつの角が、目は瞳孔が縦に走り竜眼となり、その背に皮膜のある翼が現れた。
〈聞け!竜たちよ!我はサラストリー!奏竜天女を賜りし者なり!〉
竜語を理解しないワイバーンたちはともかくとして、ドラゴンたちは皆ブレスの準備を止めていた。
変異した五竜たちが私の近くに舞い上がると、
〈ここに居るのは我が守護者にして眷属。真竜にして古代竜である〉
私はそう告げた。
竜たちは動かなかったけど、それを見て苛立ったワイバーンの群れが、私に向かって各々のブレスを放つ。
大半は毒霧や火だけど、亜種の中には雷撃や光を放つものもいた。
〈散れ〉
言霊が放たれ、ブレスの全ては霧散した。
〈我に弓引く亜竜ワイバーンどもよ。滅びよ〉
私のギフト、奏竜天女は竜や亜竜に対してのみ絶大な力を発揮する。
その生と死すらも奏でる事のできる言霊は、僅かながらのMPの消費と言う代償だけでなされた。
数十匹というワイバーンたちが急に動きを止めると、風を切りながら次々と地面へ落ちていく。
流石にこの島全体のワイバーンを殺したりはしていない。
あくまで私達へ攻撃してきたものたちだけだ。
言葉を間違えて〈この地に住まうワイバーンよ〉とか言ってたら不味かったかも知れない。
ワイバーンは地面に叩きつけられる以前に既に息絶えているので、飛びまくっては羽衣も使い収納しまくるのを忘れない。
〈竜たちよ。滅びをかけて私と戦うか?それとも我が軍門に下りこの地で生き続けるか、さぁ選ぶが良い〉
私の意図を理解したのか、五竜たちはそれそれが150メートルから200メートル位の巨体へと変じ、山の竜たちを見下ろした。
ぶっちゃけ軍門も何も私にはそんなもんないのだけど。
こちらから仕掛けた訳ではあるけれど、冒険者が依頼を受けて討伐するのとそんなに変わらないと思う。
それこそどうでも良い理由で討伐される魔物なんかアホみたいにいるし。
ドラゴン相手にそんな事をする人種は少ないだろうけど。
竜にも誇りはある。
と言うより竜の誇りは下手な人種よりも高いのだ。
このまま行けばどちらかが死ぬまで、ほぼ確実にこの山付近の竜が死ぬまでっ事になりかねない。
それに人種と竜種では根本的な思考が異なっている。
例えば人種が美徳とする見せる優しさは、竜からすれば甘さ、未熟さでしかないように。
強さが全てとは言わないものの、それに近い感覚があるのは間違いない。
かなり大きな島なので、流石に住んでる竜がここにいる者だけってことはないだろうけど、その全てを倒してしまっては島のバランスが崩れる事は間違いないし、私の配下となるという建前でこちらからふっかけた戦いを終らせようとそう思ったのだ。
竜は種や老成度合いによって考えや知能の高さは変わるものの、今ここで私がワイバーンを滅ぼした事により、ただの言葉で皆を滅ぼす事が出来るのだと、ほぼ野生動物並みの若い竜ですら理解しただろう。
すると一頭の黒い鱗に覆われた竜が私達の前へと進み出た。
〈我はアガメノム。この山の竜を統べる長にございます〉
そう名乗って伏せの姿勢を取る。
〈アガメノムよ。
先程の案、受け入れるかどうかを貴方が決めなさい。
私はとある魔王と敵対関係にあります。
その為の力を必要としています。
貴方達は日々ここで暮らし、本当に必要な時にだけ私の召喚に応じて戦うという条件ではどうか?〉
かなりゆるゆるな軍門もあったものだけど、あまり呼び出す気もないのでそれでいいのだ。
〈はっ。我等山の竜はサラストリー様の元、誠心誠意粉骨砕身の思いで使えさせて頂きます〉
伏せの状態で深々と頭を下げるアガメノムに従う様に、多数の竜が地へと降りて同じ様に平伏した。
でも中には納得できないのか、数頭の竜たちが私を睨み付けている。
〈不服か?〉
私が彼らにそう尋ねると、他の竜たちより一際大きな一体が前へと進み出た。
その鱗は黒く、何処かしらアガメノムに似た容姿をしている。
息子か何かかな?
〈俺はオステノム、この山の竜たちを守護する役を持つものだ。
戦わずして配下に下るなど長が許してもこの俺が許さない。
サラストリー、俺と勝負しろ〉
面倒な事になった。
この天と竜の血脈、竜と亜竜等竜の因子を持つ者には滅法強い。
攻撃はほぼ無効化されるし、こちらの攻撃は数倍以上の効果になる。
魔法寄りの今の私でも、竜を撲殺出来る位と言えば分かりやすいだろうか。
仕方がないのでステータスウィンドウを立ち上げ、全然使っていないスキルポイントを消費して竜人格闘術5、竜気操作5、手加減5を取得する。
竜人格闘術と竜気操作は東大陸に住む竜人族が良く使う格闘戦用のスキルだ。
どちらも竜人や竜人とのハーフなど、それに近い存在しか使えないスキルだけど天と竜の血脈を持つ私ならギフト使用時だけだけど使えるのだ。
使い道が少ない上にガッツリ45ポイントも減ったけど、ポイントが溜まってるしいっか。
〈良いでしょう。私は剣も魔法も使いません。
さぁ、来なさい!〉
竜気操作を発動して全身に気を纏い、全ての能力値を底上げする。
素手で撲殺可能でも、演出ってものが大事だからね!
オステノムは私の声に応え、その翼を広げて襲い掛かってきた。
放たれる黒いブレスをあえて真っ向から受け、そのまま突き進んでオステノムの懐に入った。
右の拳に竜気を込め、筋力的なダメージは手加減スキルで軽減させつつ、鱗に覆われた腹へと加速した状態のまま一撃を入れる。
〈ぐへほっ!〉
声とともに何かこう、あれな物を吐き出して吹き飛ぶオステノム。
羽衣を蹴って速度を増した私は、今度は左手に竜気を集めて絶賛吹き飛び中のオステノムの顎へと左拳を繰り出した。
〈うぺぷ〉
顎に一発食らったオステノムは、謎の声を上げてグルグルと縦に回転しつつ山の向こうにある湖へ突っ込んだ。
あー、川が山を避けていたのはこう言う地形だったからなんだねー。
頭の片隅でそう思いつつも、私は動きを止める事なく湖へと飛翔する。
ぷかっと腹を下にして湖面に浮かぶオステノムの尾を掴み、小枝でも放り投げる様にしてその身を森へと投げつけた。
全て手加減しているので致死ダメージには至らない。
森の木々がへし折れ、地面が陥没した真ん中でピクピクしているオステノムの前に私が降り立つと、反抗的な目をしていた集団にいた白い鱗の竜が私へ向けて光のブレスを放ってきた。
〈オステノムっ!!〉
〈無駄だよ?〉
竜の攻撃はギフトが完全に目覚めた私にとっては無意味だ。
ちょっとひりつくクリーン魔法くらいの感じでブレスを受ける。
〈お前は一対一の神聖な勝負を汚した。
その罪はその身で償いなさい〉
ちょっとカチンと来た私は、地面を蹴って一瞬で白い竜の背後へ移動するとその尾を持って飛び上がり、やつが動く前に手加減しつつ地面へと叩きつけた。
〈きゃー!〉
声を上げ地面に叩きつけられ腹を見せている白い竜、多分雌、の胸の上に降り立つと、両足に力を込めてから左右の前足を掴んで肘から先を引き千切る。
〈おうぉう〉
言葉らしい言葉を発する事も出来ずのたうち回る白い竜の右後ろ足へ竜気を込めた蹴りを放ち、その肉を裂いて骨を砕いた。
〈お、おゆるじをぉ〉
そんな声を聞いた気がするけど、コレは竜の掟を破った罪人だ。
許す気など全く起きない。
それが私の中に流れる竜の血が出した結論だった。
今下手に手心を加えたら、確実に舐められる。
〈お前は世界中にあるすべての竜が従うべき偉大なる掟を破った。
それは万死に値する〉
私は祈念魔法を使って白い竜の傷を全て回復すると、今度は左後ろ足へと蹴りを放った。
爪で腹を裂いて内臓を取り出し、拳で両目を潰し、そしてまた回復させる。
数十回はそんな事を繰り返してから胸に鱗を砕きながら腕を突き刺して、魔石をその体から引き抜いた。
白い竜はびくんとその身を震わせると、その後はグッタリとして動かなくなった。
流石に魔石を抜かれたら死ぬよね。
罪人の魔石などいらないので、私はそれを竜たちの前で握りつぶす。
私の行いを呆然と見ていた竜たちは、血にまみれた私に恐怖の念を抱いたらしく、全員が腹を出して絶対服従のポーズを取った。
いつの間にか意識を回復したオステノムも同じだ。
なんか下の方が濡れている。
〈罪人は当事者の一人である私の手により裁かれた。異議のある者は相手になる故、前に出よ〉
私がそう宣言したけど、竜たちは微動だにしない。
〈で、アガメノムとオステノム、そしてこの山の竜たちよ。
私の元に下るという事で問題はないか?〉
確認するようにそう声をかけると、全ての竜たちがクルッと体を半回転させ五体投地の姿勢を取った。
〈我等が主、偉大なる天女、サラストリー様!我等一同貴女様に一生仕えさせて頂きまする!〉
その声を聞いた私は後始末を彼らに任せ、クリーンの魔法で身綺麗にしてから五竜へと声を掛ける。
〈全て解決したから戻ろうか〉
フラナヴァータは人へと転じ、他の四竜は各々その身を普通の竜サイズにまで体を縮めた。
〈流石は我らの主様であるな〉
〈昔を思い出しちまったぜ!〉
〈主、美しかった〉
〈流石ですわぁ。惚れ直してしまいますぅ〉
「私たちの出番がありませんでしたね」
精霊であり竜でもある者たちは人間の感覚とは掛け離れている。
ぶっちゃけ普通の竜のそれ以上に一部を除いて情などない。
主や眷属、仲間など、極々狭い範囲でのみ見られるけど、それ以外にはどこまでも冷淡だ。
自然の具現化した存在のようなものなので仕方ないけどね。
真冬の寒さで凍え死ぬ生物に情をかける冬などなく、火山の噴火で流れ出る溶岩が逃げる生き物を気にしないのと同じだ。
それそれが好き勝手を言う中、全員に変身を共有させて人の姿に変身させると、私達はディーアの街近くに戻るのだった。




