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その31

その31


天人の里は各大陸やある程度大きな島などに複数点在している。


実はエルフよりもその数は多く、啓示によって特殊な役割が与えられる事もある関係上、あまり普段から他の人種と接触しない様にしているだけだった。


ただ天人族と知られなければ何ら問題はないので、変身して普通に町中で暮らしている者も実はそこそこいるらしい。


暇だし数十年人里行ってくるねーみたいなノリだ。


私の地元は東の大陸にある天人の里の1つで、人口は2千人ほど。


子供は年に一人生まれれば良い方で、通常2〜3年に一人、下手すると10年に一人なんて時もある。


寿命が長く千年以上を人間で言う二十代前半から半ばくらいの体で過ごせるので、慌てて子供を作る事も少ないのだ。


私たちはエルフ同様、青年期になるまでは人間とほぼ同じ成長速度で育つのだけど、先程のような理由で子供時代の感覚的に歳の近い友達と言うのはめちゃくちゃ少ない。


ある程度歳を取ると十歳や二十歳は誤差範囲になるんだけど。


東の大陸は人間の他に竜人族やドワーフやエルフ、ダークエルフ、鬼人族などが暮らしていて、皆いわゆる人種に当たる。


竜人族は天人族とほぼ同じ寿命、鬼人族はドワーフと同じ寿命で人間から見ると皆長命だ。


勿論鬼人族や竜人族には魔石なんてないし、人間との間にハーフを作る事も出来る。


私の曽祖父は人間だけど、その人は数代前に竜人族の血も入っているらしいし、多少なりとも混血化は進んでいる大陸だ。


人間至上主義の国とかも無いしね。


そんな環境で育った私には、1歳違いの妹分が居た。


名前は確か…サなんとかみたいな、そんな名前だ。


彼女はかなり変わったギフトを授かって生まれた影響で、小さな頃からかなり悩んでいた。


私も変わったギフトを授かっているけど、あれ?なんだっけ?


まぁそんなこんなで120歳くらいになった時、彼女は急に里を出て行ってしまった。


他の天人族もたまにフラッと出掛ける事があるので最初は気にして居なかったけど10年くらい経っても一切連絡がなくちょっと気になり出した。


20年が過ぎた頃、やはり気になって私も里を出る事にした。


両親も2〜300年里から離れるのもいいんじゃね?みたいなノリだったので、実家の蔵にある武器防具を一部貰い、近所の人たちに薬品や武器などを選別で貰って旅立った。


その後なんか色々とあったような?


里に居た時も何かあったような?


その辺はあやふやだけども私は東大陸を人間に化けたりしながら旅をした気がする。


凄く嫌なような悲しいような思いを沢山した気がするけれど、今ひとつはっきり覚えてない。


140歳を過ぎた頃、彼女が西の大陸へ向かった事を知り、私は竜に乗ってその後を追った。


そして西大陸では別大陸だし、情報収集としても目立った方が良さそうなので天人の姿のまま旅をした。


途中仲間を得て冒険者として活動したりも。


ん、なんだコレ?


なぜ今、そんな記憶を当たり前の様に思い出しているのだろう?


昔語りをするつもりもないのに、まるで自己紹介でもしているみたいじゃないか。


過去を懐かしむ気持ちはあるけれど、コレは別の何かだ。


自分の過去をただ思い出す為に自己紹介をする人は滅多にいないだろうしね?


〈勝手に人の記憶へ触れるな!〉


自分が意識を手放した記憶はある。


そのせいか言葉を話す事は出来そうにないけれど、それでも強い意志でその何かを否定し拒否する事を諦めるつもりなどなかった。


夢の中で「ここは夢だ!!」と叫ぶようなものかもしれないけれど、それでも私は諦めないし、私の記憶や精神へ干渉する事を許さない。


だから私は想いだけで抵抗する。


自分の体すら認識出来ないはずの状況で、私は自分の中からフツフツと力が湧き上がってくるのを感じた。


これは知っているものだ。


何故忘れていたのだろう?


これこそが私の本当の力、私の持つただ一つのギフトだったのに。


その名前どころか、どの様なものかすら認識の外にあると言うのに、それでも私はそれを手放す事はなかった。


感じる。


ギフトを構成する力は、一つ一つは今の私の記憶にもあるものだ。


鑑定の魔眼


言霊


千里の道を翔る者


マップ


天と竜の血脈


それらは私の力であっても、私の力そのものではなかった。


複合型のスキルがあるように、当たり前ながらギフトにもそれはある。


勇者や聖女、賢者などのレア度が高い物も含めて、全人種からすれば僅かではあるものの、単純に種類を上げればかなりの数になるだろう。


だって○○の勇者とか△△の聖女とか、ギフトなのに二つ名ばりの名称と種類があるのだから。


私の持つギフトもそんな物の中の一つであったはずだ。


届きそうで届かない。


無形の力が湧き上がっているのに、あるべき所に収まらずに拡散していく様な感覚に焦りながらも、それが何であったのかのヒントを蘇った記憶の中から必死で探し出す。


〈中二病みたいだね〉


探している友人がまだ里に居た頃、ギフト名を教えた時に言われたその言葉。


何でも若い頃に罹患しがちな病で、ちょっとした反抗から誇大妄想まで幅広い症状があるのだとか。


〈封じられた俺の邪眼が疼くとか、秘められた右腕の封印が!とか有りもしないことを格好いいと思って真面目に言い出す怖い病気なの〉


確かにそれは恐ろし過ぎる病だ。


でも何故だろう?


彼女以外の口から聞いた事の無い言葉だったけど、中二病みたいと言われて何だかバカにされた様な気がしたものだ。


授かったギフトの影響なのか、よく分からない事を口走る子だったな。


コンビニとかスマホとか。


そうだ!


何かこう、妙に格好つけている様な、今ギフト名を言うと赤面してしまいそうなそんな名前だった!


〈奏竜天女って。

竜を奏でるとかどんだけよ?〉


いつか殴ろう。


そう心に決めたあの日。


あぁそうだった。


私のただ一つのギフト。


それは天人族の女性しか得られないレアギフト、天女シリーズの一つ奏竜天女だ!


〈解放条件が達成された為、全現存ギフト及び全封印ギフトが統合され【奏竜天女】となりました〉


天の声が意識を掛ける。


湧き出る力が膨れ上がり、私の隅々を満たしていく。


〈きゃぁぁぁーっ!〉


私を縛る呪縛の幾つかが解けて、何かが砕け散る音と共に何処かで聞いた事のある女性の悲鳴が聞こえた。




「サラ様、起きよ!起きるのだ!」  


「サラさん!大丈夫ですか?師匠!目を覚ましてください!」


遠くから心配そうな声が聞こえて来た。


師匠とか何度言われても照れるじゃんね?


ゆっくりと目を開いてみると、毛布を地面に敷いて私の体を寝かせ、マントを掛けて心配そうに覗き込むラルとリューネさんの姿があった。


フラナヴァータの姿が見えないと思ったら、上空を旋回して私達を警護しているらしい。


確かに二人の隙間から、白く輝く竜が空を翔ける姿が見えるね。


「心配かけてごめんね。

もう大丈夫だから」


二人にそう謝ってから、フラナヴァータに竜語で声をかけた。


竜語って何故か他の言葉よりずっと遠くまで届くんだよね。

 

発音よりも思念、言葉の意味に重きを置く言語だからかも知れない。


〈フラナヴァータ、ごめん。今目が覚めた。戻っておいで〉


〈おぉ主様!お目覚めになられましたか!〉


尻尾を振る大型犬と呼ぶにはでか過ぎる竜がバッサバッサと翼をはためかせて舞い降りる。

 

「ちょ、マント飛んじゃう!」


慌てて毛布代わりのマントを握り、フラナヴァータを叱ろうかとも思ったけど、私を凄く心配してくれて、今は目覚めたのをめちゃくちゃ喜んでくれているその姿を見たら怒る気にはなれない。


「心配してくれてるのに、みんなを守ってくれようとしたんだね。

ありがとう」


素直にそう伝えると、


〈主様は勿論の事、主様の眷属と弟子を放っておけるはずもございません〉


何を当たり前の事をと言わんばかりのフラナヴァータにちょっと心を打たれたね。


〈急激なレベルやスキルの開放、それに複数のスキルレベルの上昇まで行われたご様子。

心身共に負担にならぬはずもございません。

それは我らが罪でもあるのですから〉


私が倒れた理由を知っていた様子のフラナヴァータだけど、最後の一言が解せない。


それではまるで、彼女たちが私に何かしたと言う意味に取れるよね?


折角の眷属を変に疑うのは嫌なので、素直に聞いてみることにした。


〈貴女たちが私に何かをしたってこと?〉


〈…お怒りを覚悟して申し上げます。

彼の魔王を封印する際、主様は己の存在そのものを代価として封じようとなさいました。

我ら五竜はそれに不服を感じており、主様の術式に手を加えさせて頂きました〉


ん?なんだ、そういう事か。


〈それってつまり、私を助けてくれたって事だよね?

過去の私がどう感じるかは分からない。

でもね、最低限今の私は助けてくれた貴女たちに感謝したいと思うよ?

助けてくれてありがとう〉


本当に心からそう思う。


〈そのお言葉を賜われただけで我らは報われます。ありがとうございます〉


逆にお礼を言われちゃったよ。


石棺を使い自分自身と言う存在を代価に封印したのに、何故記憶やスキル、レベルが【封印】されていて、条件付きながら【開放】されるのか?


答えは簡単だった。


五竜が助けてくれたのだ。


竜たちの介入が無ければ、私はただ弱体化した状態で、アニスやヴァール、アムリアたちの事すら覚えていないし思い出せない事態になっていた。


燃料として使った薪は元には戻らないのと同じだ。


そう分かった時、新たに開放された天術と言う、魔法であり魔術であり知識でもあるスキルが答えを示した。


魔王を封じた壁にある竜の彫刻、本来あれは封印の補強の意味で力を一部貸してね?と言うレベルの代物だった。


でも私が石棺に入った後、竜達は己の形代を通じて術式に干渉し、石棺から流れてくる私の存在を封じ、代わりに自分たちが封印の要となったのだ。


それも元々天人しか使えない術への干渉と言う無茶をしている。


私が失ったと思っていた記憶や力よりも、遥かに多くの物を失ったはずだ。


〈貴女たち、どれほどの代価を支払ったの?私のためにそこまで…〉


私を助ける為、竜たちが失った物の重さに言葉が詰まって出て来なくなる。


〈我らが断りなく行いました事。主様がお気になさる必要はございません。もし主様がお気付きにならなければ、お話するつもりもございませんでしたから〉


〈ん、待って?フラナヴァータは魔封じの森に封印されていたよね?それってもしかして他の4体も…〉


私の問にフラナヴァータは大きく頷いた。


〈主様の術式や石棺は継続して発動し続ける物でした。それ故我らは彼の地で眠りに付き、我らの字を刻んだ縁を用いて干渉を行って来たのです。

彼の地は強い魔力のある物を封じようとする強い力の宿った地故、眠りに付く際簡易的な封印状態となったのです〉


偶然生じた強制力が殆ど無い封印。


だから精霊魔法で簡単に封印が解かれたのか。


「だとすると他の4体も開放しないと」


思わず西大陸語で呟くと、私とフラナヴァータのやり取りをポカンと見ていたラルとリューネさんが疑問を口にした。


「何があったというのだ?」


「どなたかが捕らえられているのですか?」


二人にそう尋ねられ、どう答えるか迷ってしまう。


ラルはともかくリューネさんは私の事情を殆ど知らないからね。


「やるべき事が一つ分かっただけだから、心配しないで下さい。

大丈夫」


私は器用な方じゃない。


だからこそ、順番に熟していかないといつか大きな失敗を招いてしまうだろう。


「飛ぶ魔物や動物型、昆虫型の魔物との戦闘経験はそれなりに積めたし、ユグヌスクさんとの約束の期限前だけどそろそろ戻ろうと思います。

休息期間を一日取ってからジャンドゥーラ迷宮へと向かいましょう」


ちらりと一瞬ラルに視線を向けた後、リューネさんにそう提案した。


彼女は少し考え込んでから、


「そうですね。もしかしたら姐たちと同じ目に会う冒険者もいるかも知れませんから」


とギルド職員としての表情でそう答えた。


〈フラナヴァータ、取り敢えず辺境伯領に戻る事にするから変身して〉


私は眷属魔法でフラナヴァータも変身を共有させてそう命じた。


〈かしこまりました〉


フラナヴァータの竜体が一瞬光に包まれると、シュルシュルと縮んで私と大差ない大きさになった。


顎のラインで切りそろえられた白銀色の髪、抜ける様な白い肌にややキツそうな目、黒い瞳の美女になった。


年の頃は二十代半ばで、私の能力を使っているからか、ラル同様どこか私に似た面影があるね。


鱗の一部が変異したのか白を基調にした革鎧とブーツを履いている。


「竜が人にっ?!」


リューネさんが驚いているけど気にしない。


私はその辺の木に花弁に似た金属片を押し当てて魔力を込めると、誰かと薄っすら繋がる感覚があった。


〈この感じはサラさんかな?どうかしたのかな?〉


〈はい、サラです。ユグヌスクさん、急なのですが実は色々とあってディーアに戻りたいのです〉


〈あぁ、構わないよ。すぐに門を開こう〉


ユグヌスクさんがそう応えると、私達の近くの木々が動き出しアーチを作り出した。


〈どうぞ。ディーアの近くに繋げてある。先日使った藪だね〉


〈分かりました。

あ、一人メンバーが増えているのですが、大丈夫でしょうか?〉


〈あぁ、問題はないよ?この術は転移というより藪と島を繋げる穴を無理矢理開けているだけだからね〉


その言葉に安心した私は、皆に門を通るように促してディーアの町へと戻る事にした。


「これは何です?」


フラナヴァータは初めて見るからなのか、魔力の質を気にしているのか少し嫌そうだったけど、私の命に逆らう気はないようで案外素直に入っていった。


ディーア近くの藪に出ると、再び木に金属片を当てて魔力を込め、ユグヌスクさんに礼を伝える。


〈戻れました。ありがとうございました〉  


〈構わないさ。今回僕に出来るのはここまでだね。それは何かの時の為に持っておくといいよ。

アニスリースやマーレンに会ったらよろしく伝えておいておくれ。

それじゃ、またね〉


魔王とは思えない軽い感じでそう告げられ、通信は途絶えた。


「ディーアの町に戻りましょう」


私達は徒歩でディーアの町へと向かうのだった。


それにしてもチラリと見えた蝶と悲鳴、もしかして私もあれにやられたのかな?


頭の片隅でそんな事を考えつつ、私達は街へと戻った。

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