その29
その29
草原地帯を魔物を倒しつつ延々と進み、どうやっても森の中を通らないと無理そうな辺りまで辿り着いた。
気を抜かずに魔力や気配を探ると、何かが森の中からやって来るのが分かった。
身を潜める気すらないのか、背の低い木々を押し倒してやって来た。
黄緑色の体表に黒や茶の斑点がある体高2メートル、長さ7メートルほどの芋虫だった。
皮膚はブヨブヨとした感じで普通に攻撃は通りそうだった。
口らしき部分からシャッと音を立てて糸を吐いてくる。
元々風の守りを張ってはいるけど、あえて当たる必要も無いので回避しつつリューネさんが普通の矢を放つ。
矢はザックリと突き刺さると、体液がそこから飛び、ジュッと嫌な音を立てて地面や草を焼いた。
「げ。あの体液は不味い!下がって遠距離攻撃に切り替えて!」
矢など気にもしない様子でモゾモゾと動く芋虫は、移動速度が動物型の物よりは明らかに遅いので簡単に離れる事ができた。
あれだけの巨体で柔らかい皮膚なのに生き抜けるのはあの体液のお陰なのだろう。
動きはそこまでではないけど、糸で絡め取って捕食する感じかな?
「炎よ、熱となり鏃を焼け」
リューネさんが金属製の鏃に火魔法を掛けて矢を放つ。
それは炎を上げることなく鏃を赤々と焼きながら芋虫へ深く突き刺さり内側を焼いた。
熱のお陰か体液は殆ど飛び散る事もなく、良い加減にその身を焼いている。
かなり大きいからそれでもダメージは微々たるものかも知れないけど。
「ちょっと真似して見ました」
なるほど、工夫してみたんだね。
「ならば私も!凍てつく雪礫!」
私の周りから拳大の雪玉が数十個放たれ、それがぶつかると表面を凍り付かせる。
「我の技では体液が飛び散るな」
と言う事でラルは周辺警戒へと動きを変えて、私とリューネさんが矢や魔法で体液対策をしつつ倒した。
芋虫は死ぬ直前、尾を大きく上げて何か液体を辺りに振りまいた。
甘い匂いが立ち込めて、毒ガスみたいな危険な物かも知れないので風で私達には届かないようにする。
「これ、魔石回収も難しいんじゃ?」
「そうですね。収納してもその後の処理が難しいと思います」
死体の近くで私とリューネさんが話していると、ラルが鼻にシワを寄せて、「むぅ?匂いだ。不味いぞ」と警戒の声を上げる。
森や草原がザワつき、感知可能な範囲から次々と魔力が迫って来ていた。
「大地よ!」
咄嗟に地面を半径10メートル、高さ10メートルほど隆起させると、森や草原から魔物たちが姿を現したのはほぼ同時だった。
「あの尾から出た液体の匂いで興奮した奴等が集っている」
意図せず天人式レベルアップがスタートしてしまった。
猪や狼に加え人食い鬼とも呼ばれているオーガやずんぐりむっくりした身長5メートルほどの巨人のトロール、トロールと同じくらい大きな刺々しい黒い大蜘蛛などなど、空からも体長2メートル近いトンボや翼を広げたら5メートルはありそうな鷲、そして真っ赤な目と黒い羽根に覆われた鳩の群れなどが襲い掛かってくる。
「まだまだ来そうだから遠慮無しで行くよ!」
私の声に皆頷き、ラルが迫るトンボを真っ二つに切り裂いた。
リューネさんが矢を持たずに弦を引くと、赤々とした矢が現れ、それを鳩の群れに放つ。
「灼熱矢雨」
放たれた矢は無数の分身を生み出し、次々と鳩たちを貫き焼いた。
黒い鳩たちは群体で動く性質らしく、面での攻撃が通りやすいと見て取ったらしい。
リューネさん確実に成長しているね。
「氷槍雨!」
私も負けじと氷の槍を雨の様に降らせて地上にいる魔物たちを駆逐していく。
「三十二連斬撃!」
ラルがバスタードソードを高速で振るうと、その斬撃が飛んで鳥やトンボを切り裂いて行く。
辺りは魔物たちの血と体液と死体で汚れ、かなり足場が悪くなっているけど基本的に大きく動くことなく捌けているから大した問題じゃない。
魔法の矢が飛び、剣が裂き、魔法の槍が魔物を貫き、その数を減らして行ったけど、血と体液の匂いに惹かれてアホみたいに魔物たちはやって来る。
トロールは有り余る生命力で生き残っでいるけど、他の魔物は来て早々死んで行く。
空からの魔物の中には亜竜と思われる小型の羽トカゲみたいな物もいて、魔法がやや効きにくかったけど太めの矢やラルの斬撃の前に散っていった。
私は収納から矢筒をいくつか取り出してリューネさんに渡し、合間合間にポーションを飲みつつ魔法を繰り出した。
リューネさんも隙を見てはポーションを飲んでいる。
辺りが暗くなり始めた頃、やっと殆どの魔物たちを倒した私達は、地面を元に戻して剣で生き残ったトロールや後半現れた地竜系の亜竜種を倒した。
大急ぎで魔物の死体を収納し、私とリューネさんであちこちにクリーン魔法や風魔法、地魔法で痕跡を消す。
流石に疲れたし今更もっと強い魔物に来られても困るしね。
そう言えば最近リューネさんの弓が何も言わなくなってるなーとぼんやりと思いつつ、重い足取りでその場から少し離れた森の入口付近に入り、辺りに魔物が居ないのを確認すると木々ごと地面を大きく隆起させて硬い洞窟を作りだし、その中に小屋を出して魔道具をセットする。
外や小屋内の魔道具を起動させ、収納から取り出した飲み物や食べ物を分けて無言で食べてから、交代で休む事になった。
最初が私でMPをほとんど使わないラルが真ん中、最後がリューネさんという順番になった。
寝る前に使用したポーションをそれぞれに収納から出して補給するのも忘れない。
「あの芋虫、次に合ったら気を付けようね」
私達は最低限の確認だけして休むのだった。
まだまだ寝れない私はブラックコーヒーを飲んで眠気を払う。
この付近にいる魔物が殆ど出てきたのか、辺りに魔力の反応は感じない。
久々にマップを立ち上げると、あまり移動出来ていないのがありありと分かった。
てか私とリューネさん、地図作る必要なくね?
今更ながらに思うけど仕方ない。
明日からはもうちょっと進行速度を早めようと思った。
結局何事もなく交代で休み朝を迎えた。
小さくて狭いけど、屋根も壁もありベッドで眠れると言うのは、テントで寝袋や毛布に包まって寝るのと比べて断然回復力が高いね。
軽くストレッチをしてから朝食を食べつつ今後の方針を話し合い、このまま森へ入って山へ向かうことになった。
リューネさんのレベルは66とまたもや上がり、火魔法や弓術もぐんぐん上がっていて、魔力操作も上がったそうだ。
詠唱魔法は今回全く使う暇もなかったので伸びていないみたいだけど。
ちなみにラルはそもそもステータスを見れないし、私はベースもジョブもいつも通り上がらない。
装備なども確認した後、私達は小屋から出て魔道具を回収、地面も戻して森の中を進むことに。
リューネさんには地図作成をしなくても平気である事を告げようかと思ったけど、はぐれる可能性も考えて言わないことにした。
「この付近には魔物クラスの魔力をほとんど感じないね。動きがないのは移動手段がない植物系の魔物かな」
「小動物などの気配はあるが、確かに魔物はおらぬ様だな」
「あ、あの薬草珍しいんですよ」
警戒しつつも薬草や木の実、きのこ類などは鑑定して収納して行く。
半日もほとんど何もなく進み、そう言えばとリューネさんに弓の事を訪ねた。
「あぁ、声が聞こえる相手をある程度は選べるらしくて、私に時々声を掛けてくる程度にする様にお願いしました」
確かに探索中にあれこれ声を掛けられたら気が散るしね。
「昨日の戦いの後はちょっと満足したみたいで喜んでいましたね」
「そう言えば名前はまだ付けていないの?」
「ええ、中々良い物が見つからなくて。明らかに普通の弓じゃないですし、多分エルフの使う弓とも別物の何かですよね」
やはりリューネさんも感じていたのか。
まぁしゃべるし魔法の増強も出来る上に、剣や盾、鎧にも変化するとか聞いたこともないもんね。
「昨日の戦いは魔法中心ではありましたけど、それでも普通の矢をそこそこ消費しましたし、あと6日間は気を付けないと駄目ですね」
使える矢は回収しているけど、折れたり曲がったりする事もあるからね。
「もうあんな事は起きないと信じたいね」
「同感だ。出て来ても我の剣の錆にしてやるがな」
剣への愛情は変わらないらしく、鞘の上からナデナデしてるラルを見て、なんか微妙な気分になった。
あれからまた一時間ほど歩くと徐々に魔物と遭遇し始めた。
明らかに先程よりも強い個体が増えていた。
普通のオーガは既に私達の敵ではなく、数体が群れで来ても簡単に倒せるし、トロールも剣に高熱や冷気をまとわせれば超再生を阻害できるのでそれ程キツくもない。
分厚い毛皮と筋肉の塊な深緑魔熊や、一体一体はそこまで強くないけれど、群れで襲って来る巨大なスズメバチなどの方がよほど厄介だった。
まぁ、それでも大抵すぐに倒せちゃうんだけど。
普通の植物に擬態した虫や植物の魔物も魔力で大体分かるので、近距離になる前に魔法や矢で倒してるし。
魔力操作が高くなり、枯れ葉や枝への引火がほぼ心配なくなったリューネさんは、火魔法を高確率で使っている。
弓を発動体として使うので、威力や精度も高いしね。
そうして森を進んでいくと、岩場が木々の間から見えてきた。
遠くから水の音、多分川の音も聞こえてくる。
時間は3時頃とまだ明るいけど、岩場や川の距離や状況が分からないので下手に進むのも危険だね。
「一時間だけ探索してまた森に戻る位の気持ちで進もうか。
勿論状況次第ではあるけど、下手な所で寝泊まりするのは危険かも知れないし」
「そうですね。木々が無い分視界が通りますし、地魔法を使うにしても限度がありますしね」
「うむ、問題ない」
と言う事で3人は岩場へと足を踏み入れた。
所々に草や低木が生えているけど、殆どが岩で塊がゴロゴロと落ちている。
いくつか魔力の反応がありそちらへ向かうと、その殆どは頭から尾まで入れると5〜6メートル、中にはより大きなサイズもいる地竜の亜種だった。
トカゲを大きく頑丈かつ雄々しくして、牙や爪が目立つ感じかな?
あの大群を倒せた私達なら群れでもない限り問題なく倒せはするけど、やはり森の中の魔物より頑丈な地竜系の亜竜なだけあって時間は掛かる。
低レベルの地魔法を使ってくるし、岩にも似た茶色い鱗は中途半端な魔法や攻撃を弾いてしまう。
それでもラルの剣撃や私の石投げ&空魔法、リューネさんの電撃矢などで次々と屠ってるけど。
岩場は地亜竜の他に岩のゴーレムや巨大ムカデ、巨大蠍なども生息していて、水の音が近付いてくるとラルより大きな川蟹も現れた。
あんなのが生息している川じゃ水浴びとか無理だね。
私はウォーハンマーを取り出して川蟹を撲殺し、日も暮れてきたので森へ帰ろうと皆へ声をかけようとした。
ん?山の方から高速でこちらに向かってくる魔力がある?
「何かが向かってきてる!多分空から!全部で3体!」
私達は大きな岩を背にしてすでに視界内に入っている魔物の姿を見上げた。
頭から尾までが15メートル前後、広げられたコウモリに似た翼は20メートル以上ありそうな知性を感じさせない獰猛な顔つき。
頭には小さな角がちまっと皮膚を突き破るようにして生えていた。
前足が翼に進化したのか、折りたたむ辺りに太い指と鋭い爪が見える。
後ろ足はムキムキで爪の鋭さは磨き上げた剣のようだった。
うち2体の鱗はややくすんだ黒に近い緑で覆われ、もう一体は赤黒い。
「ワイバーン2体とファイアーワイバーンですね」
ドラゴンもどきとも呼ばれる亜竜の代名詞、ワイバーン。
「翼を狙いましょう」
リューネさんが太い矢に高熱付与をして普通のワイバーンその1の翼を狙い撃つ。
私も売り物にならない濁ったルビーをその2の翼目掛けて投げてから加速を発動させる。
投擲スキルがなくても、レベル80代の器用さは伊達じゃない。
ワイバーンの翼の皮膜は見た目以上に丈夫なはずだけど、その1は左の翼が貫通しつつ被膜が燃え上がり、その2は右の翼に大穴が開いた。
それぞれがバランスを崩して錐揉みしながら岩場に落ちたけど、高度がそれほどでも無かったのでどちらも元気そうだ。
ファイアーワイバーンだけはラルの斬撃をうまく回避してた。
「ラル!」
私とラルが入れ替わり、ラルがその2を、私が喉元に魔力を溜め始めたファイアーワイバーンを相手にする。
今度はサファイアの超加速投擲を2連続で食らわせた。
小さな的を狙う訳じゃないので投擲スキルいらないかも知れないね。
左右の翼に穴を開けられ、地面に落ちるファイアーワイバーン。
私達に炎のブレスを吐き出そうとしていたらしく、落ちた衝撃で地面に炎をぶちまける。
あれ、自分が熱いよね。
その頃リューネさんは矢を使わず魔力を込めて青白い炎、陽炎すら纏いほぼ光そのものの様な魔力の矢を作り出し、その1の大きな右目に放って突き刺した。
ごふぁっ?!
あまりの高熱に一瞬で眼球が蒸発し、脳も焼けて頭が焼け落ちる。
ヤバいね。
あの弓との相性バッチリじゃん?
ラルはラルで楽しそうにその2の首を切り落とした。
私はと言うと、轟々と唸る風を身に纏い、ウォーハンマーに全力を乗せてファイアーワイバーンの右側頭部を殴り、首がゴリッとかバキッとか嫌な音を立てながら回転して、そのまま力を失い倒れ込んだ。
鱗や筋のお掛けで首そのものは飛ばなかったけど、完全に捻れてしまってる。
「攻撃の通らないくらい上空を取られると怖いけど、油断して接近してくればこっちのものだね」
「そうですね。ワイバーンをこんな風に倒せる日が来るとは思ってもいませんでした」
「やはりこの剣は良い物だ。あれだけの鱗でも刃こぼれ一つなく綺麗に切れるとはっ」
一人何か違う事を口走ってるけどそれは無視してワイバーンたちを収納し、魔力感知などを使いつつ森へと戻るのだった。
途中5メートルから10メートルクラスの岩をいくつか回収しつつ森へと辿り着くと、先日同様木ごと地面を盛り上げて大きな空洞を作り、魔道具を設置してから小屋を出した。
「一応魔道具でお風呂も入れるけど、石鹸とか使うと匂いがねぇ」
「そうですね。今の状態だと変に魔物を寄せ付ける必要がないですから、汗を流す程度にしておきましょう」
「うむ。外で剣の手入れをしてくる」
と言う事で私達はお湯とタオルで全身を洗い、湯船に浸かるだけにしておいた。
水もお湯も魔道具で出せるし、排水も収納出来ちゃうから問題ないしね。
トイレはちょっと気分的に収納したくないので、魔道具で処理してもらってます。
昨日同様食事を摂りつつ軽く打ち合わせ、装備を確認補給してから交代で休む。
既にD級やC級の戦闘経験を超えちゃってる気もするけれど、きっと気の所為だよね。
索敵しつつも小屋の外で収納内の小物を整理したり、謎の武器や投げるのに使える石選びなどをしていたら思ったよりも早く時間が経ち、ラルと交代の時間となった。
ラルの顔を見てそう言えばと思い、
「ラル、ちょっと鑑定してもよい?」
と尋ねると、
「好きにしろ」
と言う素敵なお返事が。
まぁいいやと鑑定眼を発動させると、
名称:ラル(オークジェネラル:ネームド)
レベル:87
解説:オークの上位種で天人サラストリーの眷属。
オークの戦士系の中では最上位に当たり、低位の巨人の様な体格をしている。
戦士系スキル持ちとしても有名。
優れた剣を手にした事により、剣士系スキルが芽生え育っている。
その皮膚はかなりの防御力を誇り、大きな見た目に反して機敏である。
うん、強くなってた。
レベルが59から上がってるし種族も一部変化してる。
その上剣術スキルも増えているらしい。
そりゃ剣に魅了される訳だわ。
「レベルが59から87に上がってて、剣術スキルを得たみたいだね」
レベルに関しては大して興味がないみたいだけど、剣術を得たと聞くとニヤッと笑い、
「ほほう、そうか」
とめっちゃ嬉しそうだった。
まぁ、ゴブリン種の群れにダンジョン、その他あれこれと戦ってるから強くもなるよね。
魔物がレベルを上げられるか少し心配していたけど、そこも問題ないようだし。
私は全然変化ないのにな。
自分のせいなのかも知れないけど、その辺を全く思い出せない今となっては過去の自分を恨む気持ちも出てくるよね。
そう言えばラルと戦ったとき、確か内なる声みたいな私と言い合いになって言霊で封じちゃったんだけど、あれもまずかったのかな?
ここでは危険だから町に戻ったら開放してみようと心のメモに書き留めて、私も寝床につくのだった。




