その28
その28
色々と疲れた私達はユグヌスクさんの屋敷で一晩過ごし、朝になってからユグヌスクさんにあれこれ協力してもらう事にした。
「協力と言ってもいくつかルールがあるからね?
できる範囲でしか無理だけどね?」
そうは言うものの手伝う気は満々な様で、昨日私達が話していた昆虫や亜竜などの討伐をする予定であった事や隠しダンジョンの話なんかもした。
「魔封じの森の奥か。
んー、サラさんがいるならあまりお勧めは出来ないな。
ほら、あそこには色んなものが封印されているけど、サラさんは色々とやらかしているようだからね。
ファーティアマが泣いてたよ?」
森の精霊とハイエルフで樹王、交流があっても不思議ではないよね。
「でもそれだと私達の特訓が出来ませんから」
と言う私の訴えに、
「この大陸だけでも辺境と呼ばれる地は一つじゃないんだ。
他の大陸にも勿論あるし、ダンジョンもそうだね」
とにこやかに説明してくれた。
辺境周辺だけでも移動が大変なのに、他の大陸とか別の国とかどれだけ時間が掛かるんだか。
「依頼に期日はありませんが、流石にそれは時間が足りないと言いますか、無理がありますよね?」
「まぁそうだね。僕が送ってあげてもいいけど、下手な所に行くと別の魔王と不味いことになりかねないしなぁ」
南の大陸の樹海がユグヌスクさんのメインテリトリーだとして、他の魔王たちもそれぞれに支配地なりなんなりがあるのだろう。
「となると国内か近隣の国だね。
サラさんだけなら移動も簡単だけど他に二人もいるしなぁ」
「え?そうなんですか?」
事情を知らないリューネさんがキョトンとした顔をしている。
「まぁ色々とありましてですね、えへへ」
笑って誤魔化してはみたけど、リューネさんがジト目でこっち見てるよ。
目つき悪くなっちゃうよ?
「ある程度の強さの虫系や飛行系と戦いたい、近隣住民に影響が出ないようにしたい、この2つの条件が整う所かぁ。
んー、あぁ、あるね。
ここ、西の大陸の近くにある大きな島なんだけどね、周辺の海流や波の関係で船がたどり着けず、人種は住んでいないし、虫や植物、動物に亜竜、なんなら竜も生息しているから今聞いた訓練に最適だと思うんだよねぇ」
ユグヌスクさんがらさっと言ってるけど、それ私達がそもそも行ける距離でも場所でもないよね?
「送り迎えくらいしてあげますよ?亜人王にはアレを盗まれた怨みもあるし、遠回しですけど意趣返しと言う事で」
言ってる事がアニスに似ている気がしたけど、実際には逆なのかも知れないね。
「大きさは8万から9万平方キロメートル、気候は温暖、山あり谷あり川や森もあり、湖もあり。
古代遺跡もあるね。
魔法文明が盛んだった頃の物で、転移魔法で大陸と繋がっていた様だけど、転移装置は現在稼働していないね。
魔物の使う毒の類は一般的な毒消しや魔法で治癒可能、麻痺毒や石化毒などを使うものもいるのでその辺も準備が必要かな?
食べれる物は果物や山菜、きのこ類、あとは動物や鳥もるけど、調理が苦手だとキツイかも知れません。
薬草類や特殊な鉱物もあるけど、それはそれということで。
あとはそうだねぇ、今の皆さんだと竜はまず無理だから、もう少し強くなってから試した方が良いだろうね」
一気に情報を語られたけど、かなり良い所な気がする。
ユグヌスクさんを信用するならばだけど。
送られて戻ってこれなかったら不味いし。
でも信じるしかないか。
「お願いします。でも準備が必死ですから昼過ぎに送って頂く形でもよろしいですか?」
「あぁ、構わないとも。
ただこの町はどうしてもアーストン迷宮寄りの装備やアイテムが多いから、ディーアで揃えた方が良いだろうけどね」
彼はそう言って立ち上がると私達を促して庭へと出た。
鬱蒼とした木々の前に立つと、
「私の力はハイエルフのそれとは別に、植物に由来する物がメインなんだ」
と説明を始める。
「だから植物へ干渉しつつ空魔法を使うとね…樹空門!とこのようにある程度植物がある所へ空間を繋げることが出来るんだよ」
そう言う彼の前には木々が絡み合って出来た門、というよりアーチがあった。
「この向こうはディーアの近くの繁みになっている。人目に付き難い所ですから大丈夫」
そう言いつつスタスタとアーチをくぐり出す。
呆然と説明を聞いていた私達は慌ててその後を追った。
転移のときと同様の不思議な感覚が一瞬過り、視界がガラッと切り替わる。
眼の前にあるのは広い空と木々、少し離れた所に防壁が見える。
「さ、行こうか」
「はい、便利ですねぇ」
「恐ろしき御業だ」
「ユグヌスクさんって一体…」
〈流石ですわね〉
思い思いに口を開き、私達はディーアの町へと入るのだった。
あ、ちなみに最後のは弓ね。
門を潜って町に入り、まずはマーレンさんの店へ向かう事にした。
ちなみにユグヌスクさんは冒険者カードを持っていて、それで堂々と町へ入る事が出来た。
チラッと覗くとSSSランク。
冒険者ギルド仕事しよーよ。
魔王に最上位の名誉階級与えてどーするのよ。
「元々ハイエルフはエルフの王族だからね。
私は前王弟と言う立場だから人間社会の貴族で言うと公爵位くらいかな?
それが冒険者としてあれこれ活躍すればこうもなるよね」
私の心を読んだのか、サラッと凄い事を言い出した。
あれ?それだとアニスも王族ってことなの?
まぁ、居辛くなって出てきたらしいし、色々と事情はあるんだろうねぇ。
魔王化する前に得たものらしいし、魔王というとイメージが悪いけどすべてが人種の敵という訳でもない。
ちらほら営業を始めた屋台で朝食や今後の為の食料を買い込みつつ、私達はマーレンさんのお店へと向かった。
「おはようございます!」
店の前に着くとすでにお店は営業していたので遠慮なく店内に入る。
「いらっしゃいませって、おじさん、何をしてるんですか?
それにサラさん、ラルさん、え?リューネさんも一緒なのですか?」
ちょっと混乱気味なマーレンさんに事情を説明すると、
「な、なるほど?」
と納得した様で意味不明な様子で頷いていた。
「毒消し系のポーションと麻痺、石化のポーション、あと予防薬もあるならそれも必要だね。
あとは粘着性のある糸を溶かせるポーションなんかもあるなら買っておいた方がいいね」
ユグヌスクさんは次々と棚から薬品を取ってはテーブルの上に並べていく。
「まぁ、こんなところかな?」
「あ、これ全部下さい。それとMP回復ポーションも初級中級を無理のない範囲でお願いします」
「はい、分かりました。
あ、それはそうとサラさん。
例の小屋の件ですが連絡が入りました。
2軒分作れば良いのですよね?
外に置く警報や結界の魔道具は出来上がっています。
あとは小屋ですが小さい方は完成したそうなので、いくつか魔道具を設置しました。
ですのであとは大きな方の魔道具だけですね。
もし小屋を使われるのでしたら、後で受け取りに行った方が良いと思いますよ」
「はやっ?!ありがとうございます!それで2軒分となると足りない分があると思うのですが、おいくらになりますか?」
「いえ、2軒分と言っても結界や警報などはそのまま流用出来る様にしたので、そこまで掛からないんですよ。
元々かなり多かったですから、以前の分で十分ですよ」
何だか申し訳ない気もするけれど、そこまで言われたら納得するしかないよね。
「分かりました。代わりにお土産を持ってきますから楽しみにしててくださいね」
と言うと、
「え?いや、それだと本当に頂き過ぎになってしまうので。珍しい物は買取させて頂きます。魔物の素材も物によっては使いたいので、ギルドに売る前に教えて頂けるとありがたいです」
とマーレンさん。
「分かりました。必ず連絡しますね」
と言う事で、ポーション類や魔道具と説明書を受け取り、薬代を払ってお店を後にした。
ユグヌスクさんはしばらくここで休むと言う事で、買い出しが終わったらマーレンさんのお店へ集合することになった。
冒険者用の雑貨屋や、実はこんなところにお店が?!みたいな所にもリューネさんに案内してもらい買い込みつつ、オース大工店へと向かった。
やはりお店は開店していたので、
「おはようございます」と声を掛けつつ店内に入る。
「おはようございます。
サラさん、小さい方の小屋が完成しましたのでご確認いただけますか?」
とオースさん。
店の裏へ周り立派なログハウスに見える小屋へと案内してくれた。
横7メートル、奥行き7メートル、高さ3メートルほどの大きさだ。
「中には簡易結界と強化、それに警報の魔道具が仕込んであります。
あとは水の出る魔道具やトイレ用の魔道具、風呂用の魔道具、照明に室内温度を調整出来る魔道具も組み込まれています」
「なんだか豪華過ぎる気がしますが」
「作りだしたら留まらなくなったらしいですよ。その気持ち、分かる気がします」
「そういうものですか」
私達は室内を見て回った。
家具や布団、生活雑貨を購入しないとと思いつつ収納した。
「素敵な小屋をありがとうございました。
次は大きい方を宜しくお願いします。あ、急いではいないので、他のお仕事を優先して下さいね。
それと先日支払った分で足りない時は後ほどおっしゃってください」
と挨拶して店を出た。
その後雑貨屋で食器類や調理器具を買い、家具屋でデーブルや椅子、ベッド、ソファなどを、寝具店では布団も購入した。
その後はマーレンさんのお店へ向かいつつ、途中で肉や野菜、魚や調味料などもリューネさん主導で購入する。
「あ、弓に合う矢と矢筒を買わないと駄目でした」
と言う事で武器屋へと急ぐ。
リューネさんの弓はパッと見は120センチほどの長さだけど、実はサイズや形状を変えることが出来る。
ショートボウからロングボウまでサイズが変わるだけではなく、ブレスレットや腕輪に、剣や盾、なんなら鎧や服にも変わる謎の弓だった。
それに合う矢がどんなものが不明過ぎるけど、ないと撃てないもんね。
矢が豊富なお店に着くと、鏃の形状や種類、羽根に矢本体まで様々な物が扱っていた。
〈魔力を使えば矢はいりませんけど、それだとリューネが保ちませんものね〉
と言う事で、弓が指定した矢を数種、各200本ずつ購入した。
中には矢というより槍に近いような物体も何故かあったけど気にしない。
こうして私達は買い物を終え、マーレンさんのお店へと戻るのだった。
「さて、それでは島への門を開こうか。
予定では一週間後の同じ場所と言いたいところですが、それだと色々と無理な気もするしこれをあげよう」
と花びらに似た金属片を3枚、それぞれに1枚ずつ渡された。
「それを木や草花に当てて魔力を込めれば、私と連絡が取れるからね」
「何事もなければ一週間後にこれで連絡を入れれば良いんですね?」
「うん、そうだね。
非常事態もあり得るから、その時には遠慮せずに使って呼んでいいからね」
私達は買い物を終えると再び町の外の藪へ入り、門を開けてもらう事にした。
皆それぞれ、アニスから借りたブローチの他、毒と麻痺の耐性が上がる魔道具を身に着けている。
形状はリューネさんが指輪、ラルは腕輪、私はネックレスだ。
また、リューネさんにはミスリルの片手剣を貸したままにし、矢筒には標準的な物とやや太い物を20本ずつ渡してある。
冒険者向けの雑貨屋で購入したベルトにポーションを複数差し込めるベルトも買って装備して、全員が麻痺や毒の解毒ポーションや中級回復ポーション、中級と初級のMP回復ポーションを差し込んだ。
それとは別にベルトポーチも付けてそれらの薬品を入れる。
その他背負い袋にはそれぞれ保存食や水など必要な物を入れ、万が一はぐれても生き残れる確率が高くなる様にした。
皆革鎧にマントを羽織、ズボンなど鎧の下は厚手にしてと毒虫や毒ベビ対策も済ませてある。
「それではお願いします」
皆が装備品や消耗品を再度確認してからユグヌスクさんに声を掛けて門を開いてもらった。
「はいはい。それでは行ってらっしゃい」
辺りの木々が絡み合って出来たアーチを私達3人はくぐり抜け、島へと旅立つのだった。
アーチをくぐり抜けた先は草原と森林の境目の様な所だった。
人工物は見当たらず、辺りからは鳥の声や波の音が聞こえてくる。
魔力感知を発動させて波の方に向かってみると、草原の百メートルほど先が断崖絶壁になっていて、その高さは30メートルはあった。
島そのものが下手な国よりずっと大きいらしいから、探せば砂浜なんかもあるのかな?
海は下手な森より危険なことが多いので、遊びに入ろうとは思わないけど。
私は自分とラルに、リューネさんは自分で風の守りを張った。
「まずは暗くなる前に拠点に出来る場所を探しましょう」
私は斥候術、リューネさんは狩猟術を持っているので太陽の位置やあたりの植生から大まかな方角を調べ、それぞれに地図を作成する。
後で擦り合わせればいいので今は索敵しつつ地図を作り、目立たない所に小屋を出す予定だ。
今後の予定は遠くに幾つも山脈が見えるので、森を通って山へ向かう感じかな?
私は時折立ち止まり地面に手を当てて地魔法を発動させ、辺りの大まかな地形を確認する。
背の高い草が生えまくりなので、穴とか空いてたら洒落にならないからだ。
流石に魔物の強さも分からない所で天人式レベルアップ作戦改をする気にはなれない。
やるなら明日以降かな?と思っていると、山の辺りに複数の飛翔する何かが見えた。
こちらに向かってくる様子はないけど、障害物のない空の移動速度は地上とは比べ物にならない。
私より早く飛べる魔物も多いので、気をつけなければ。
リューネさんは弓矢を構え、気配を伺いつつも私が地魔法を使うタイミングで紙に地図を書き込み、ラルはアーストン迷宮の深部以降お気に入りのオリハルコンの剣をいつでも抜けるように手を添えつつ私達の後を歩いている。
森に入らないと進むのが無理になるギリギリまでは草原地帯を山脈へ向けて歩くことにした。
途中、接近する魔力を感じたので指で合図をし、そちらへ構えると体高2メートルはある猪がこちらへドスドスと走ってくる。
纏う気配は凶暴な物で、皮膚はゴツゴツとしていて硬そうだ。
ラルが剣を抜いて前に出てリューネさんが弓、私が遊撃兼リューネさんの護衛として二人の中間地点で構える。
「ふん!」
ラルが真っ直ぐに突っ込んでくる猪を左に躱しつつ剣を振り下ろし、右肩から右前足の骨まで達する大きな切り傷を与えた。
多分骨は砕けているだろう。
走る勢いに乗ったまま体勢を崩す猪の目にリューネさんの放った矢が深々と突き刺さる。
猪は失速しつつそのまま骨の砕けた足を下にして地面に倒れ込んだ。
フゴフゴ言いつつ頭を上げようとするけど、リューネさんの太目の矢が心臓付近に深々と突き刺さると徐々に力を失っていき、そしてダラリと弛緩した。
皮膚は他の魔物同様、外側に比べて腹部などは毛も少なく柔らかいのだろう。
万が一を考えてラルが猪の喉元に剣を突き刺し、完全に死んでいるのを確認すると血抜きはせずに矢だけ回収して収納へと放り込んだ。
「草原猪だと思いますが、ディーア周辺で見るものより大きな個体ですね」
クリーンで綺麗にした矢を受け取りつつ、リューネさんが先程の猪の説明をしてくれた。
「植物の植生も似ていますし、何かしらの理由で西大陸から離れたけど、大昔は実は一つだったのかも知れませんね」
と考察するリューネさん。
血の匂いに釣られたのか、魔力が再び近付いてくる。
草むらの影響で姿を確認しにくいけど、5体ほど何かが接近していた。
耳を済ませばガサガサと草を掻き分ける音も聞こえてくる。
「来たよ、5体。
正面2、左右1、後ろ1」
すでに戦闘音や血の匂いなどで存在はバレているので、口に出してそれぞれ背中合わせになり、各々の武器を構えた。
リューネさんの手にはいつしか弓が片手剣に変形して握られていた。
それは木で出来た木刀のようにも見えるし、魔法金属独特の光沢を放っている様にも見える。
ユグヌスクさん、なんかとんでもない物をプレゼントしたもんだね?
暗くて深い緑に近い体毛を持つ大きな狼だ。
「草原魔狼です。木魔法を使うので気を付けて下さい」
リューネさんの言うとおり、辺りの草が蠕き私達へと伸びてくる。
「風よ切り裂け!」
私達を中心に風の刃が無数に生じて、迫る草ごと狼達へと襲いかかる。
見えざる刃を野生の感覚的なものなのか避けつつ私達に迫る狼たちだけど、何発かは浅い傷を付けていた。
一般的に言えばかなりの速度で迫って来ているけど、今の私達にはかなり遅い。
ラルのバスタードソードが一閃し、リューネさんの木剣が煌めく。
私はと言うと、飛び掛かってきた狼に向けて水晶の欠片を一つ投げつけ、「加速」と呟いて空魔法で水晶の時を早めた。
ただでさえ高いステータスで放たれた水晶は、その速度を数倍にも上げて目にも止まらぬ速さで狼へとぶつかり狼の頭部に食い込んで爆散した。
「早すぎた…」
「姉者、遊ぶな」
「遊んでないし。実践で使い慣れないと後々使えないし。
投擲を芽生えさせたりする意味もあるんですぅ!」
「かなりの威力ですね。
同じ魔法でも使い方一つで全く違う効果を得られる。
勉強になります」
すでにラルとリューネさんはそれぞれ2体ずつ狼を倒していて、気楽な雰囲気で話していた。
ラルは勿論、私やリューネさんも気配を探るのは忘れていないけどね。
狼たちを収納し私達は草原の中を、再び山方面へと進み始めた。
ユグヌスクの口調を間違えていたので修正しました。内容は同じです。




