その27
その27
最近思い出したことがある。
天人族の里に居た頃の思い出、と言うより習慣と言うか子育てというか、ぶっちゃけチートなレベル上げなんだけどね。
ラルと知り合った時にやった岩の上から攻撃する手法、あれは天人族の子どもたちがレベル上げするやり方に似ている。
天人は空を飛べるしスキルも選べるので、飛び慣れてからは遠距離攻撃が出来る魔法を憶え、ある程度の高度から反撃不能なタイプの魔物が多い地域に撒き餌をして次々と狩るのだ。
弓や魔法などを使う魔物が混ざっている場合、引率者がそれを倒してザクザクとレベルを上げる。
MP回復ポーションなどは暇に任せて大量に作っている人たちが居るので、物々交換かほぼ原価で譲ってくれるしね。
ある程度レベルが上がった所で剣術や槍術などの近距離戦闘スキルを憶え、仲間内で練習した後低レベルの魔物相手に近接戦闘を学ぶ。
その後は徐々に実力の近い魔物と戦ったり、自分よりやや弱い敵を大量に倒してレベルを上げていく。
私が目覚めた直後、300歳を超えているのにレベルが低すぎると感じたのは、これのせいだったらしい。
年齢=レベルとまでは言わないけれど、それでも300歳なら250〜260レベル以上あるのが普通だったから。
エルフもやり方は違うけど実は似たような事を里周辺でやっているそうで、やはり200レベル以上あるものも多いとアニスに聞いた。
ただ人里に出てくるエルフは大抵若く、よくやるレベル上げが出来ないのでレベルも人間より少し高い程度になっているのだそうだ。
天人族と全く同じことは無理だとしても、通常より効率の良いレベル上げは出来るのでは?と思えてきた。
それを試す意味も込めてリューネさんをザクザクレベルアップさせよう計画を思いつき、早速試してみたのだ。
「やはり森だと狩り過ぎなどの問題が大きいので、あまり無茶が出来ませんし効率も悪かったようですね」
アーストン迷宮の中でもあまり人気の無い第三層でラルがゴーレムを釣り、リューネさんが魔法で倒す作業が続いていた。
勿論ギリギリ冒険者間のルールを破らない形でだ。
流石にギルド職員のレベル上げでそれをやったら不味いだろうしね。
なお、私は補給要員兼教官としてリューネさんの近くで待機している。
「いえ、結構と言いますか、かなりの速度でレベルは上がっていますよ?」
「そうは言ってもここ程ではないですよね?」
「確かに。経験値の差というものを実感しますね」
「そうですよね。
この迷宮は浅い部分だとレベル上げの為、中層以降がお金稼ぎの為って言われていますし」
魔法でどうにか出来るのは魔法金属以外のゴーレムなので、あまり下層に降りる気はないけど、まだまだ行けるよね。
「レベルが30に上がったら教えて下さい。
他の階層へ移りますから」
なんてやり取りをして一時間後、ラルを先頭にしてサクサクと進み、5層のボスを倒して6層へと向かった。
5層の階層主はラルが盾役をこなし、リューネさんが何度も攻撃をして、私が水晶鬼の水晶魔法を地魔法を中心に使って相殺したりして邪魔をする。
少し時間は掛かったけど、中級ポーション4本で倒し切る事が出来た。
「もう無理です、少し休ませて下さい」
泣きそうな顔で言うリューネさん、可愛いかもしれない。
宝箱の中身は時間をかけ過ぎたからか、凄くしょぼかったので割愛するとして、リューネさんのレベルが32まで上がったのは驚きだった。
そして6階層、水晶類や瑪瑙類、シルバーのゴーレ厶が出てくる階層だ。
この階層では詠唱魔法が相性が良い様で、シルバーは火魔法だったけど、他は詠唱魔法で倒して行った。
詠唱魔法は暗記魔法、つまり呪文を暗記して唱えれば使えるかも知れない系統の魔法だ。
かも知れないのは、スキルが無いと発動しないからだ。
何度も詠唱を繰り返す事で芽生えることはそれなりにあるけど、才能や相性の問題で覚えられない事もあるからね。
あとの特徴はレベルが上がるにつれて使える魔法の呪文が増えていく、魔力そのものを衝撃波やエネルギーの塊として叩き込める他、一部スキルの模倣すら出来る物になる。
呪文を失敗すると発動しないので、咄嗟に使うのは難しく、色々と端折っても使える属性魔法に比べて戦闘職としてはやや使い勝手が悪い。
なにせ必ず唱えないと駄目な言葉が長すぎるのだ。
「世界の根源、原初なる混沌、始まりの言の葉に応え魔を操りし力を我に貸し与えよ。
天にあり地にあり我に宿りし魔なる物よ。
我が望む形を成してこの地に顕現せよ」
ここまでが呪文の準備段階、別名【原初の言の葉】で、この先に個々の呪文を唱える必要がある。
ごく一部を除いて誰しもが2つか3つは相性の良い属性魔法が存在するので、そっちを覚えて育てた方が楽なんだよね。
でもパーティーや大規模な戦闘など、上手いこと状況がマッチすればかなりの実力を発揮出来る魔法でもある。
面倒臭いから私は覚える気はないけど。
以前アーストン迷宮へ来たときには下へ向かう最短ルートを通ってきたけど、今回は真逆で全ての通路や部屋へ入り敵を倒していく。
しばらくするとまた湧いてくるので、ルートさえ確立してしまえばエンドレスで戦い続ける事が出来、7層8層も含めて三層を行ったり来たりするようになった。
そしてリューネさんがレベルが50を越えたあたりで上がりにくくなった為、今度は近接戦闘のスキルを育てる事にした。
一度石柱で地上に戻り、また石柱で三層へと転移する。
「折角剣術のスキルが1レベルあるので、この剣で戦ってください。
魔法は補助メインで危ない時だけ攻撃魔法、あとは剣で行きましょう」
とミスリルの片手剣を貸してあげて3層を巡回する。
50レベルの能力値と剣がそれなりに良い影響か、数が湧かなければ風魔法を補助に使いつつ、剣だけで対処出来ていた。
そして8層では水晶戦士などとも剣で戦い、スキルレベルも上がっていった。
特訓開始から5日目には、剣も魔法も使いこなせる冒険者が誕生していた。
勿論迷宮から出た後は冒険者ギルドで魔石や収集品を売りさばく。
魔法金属やダイヤのような4大宝石こそないものの、貴石や宝石扱いされる品々も一定数はあり、その効果もあってリューネさんのランクがDへと上がった。
「リューネさんもかなり強くなりましたし、そろそろジャンドゥーラ迷宮へ向っても良いかも知れないですね」
それぞれがお風呂に入り軽く休んだ後、宿屋で夕飯を食べながら私はそう切り出した。
「え?本当ですか?!」
リューネさんはとても嬉しそうに目を輝かせている。
現在レベルが57と以前の倍以上になりスキルも伸びて、それなりに強くなっていた。
里のやり方だと100は超えれるのになーと思いつつも、ここは人間のルールに縛られた土地なので仕方ないと割り切る事にした。
「しかし強くなったとは言え飛行可能な魔物との戦闘経験はないのであろう?
ゴーレム中心での経験では、森や山に居る魔物とは勝手が異なるぞ。
モスマンや昆虫系の魔物は飛ぶ物も多いであろうし、擬態や糸、毒など特殊な能力を持つものも多い」
「確かにそうだね。
昆虫系や空を飛ぶ魔物が多い所で多少は戦闘経験を詰んだ方が良いかも」
ラルと私がそう話し出すと、
「確かに亜竜の谷やその手前に虫系の多い地域もありますが、魔封じの森の最奥部にかなり近い地域です。
ここから行くだけでも片道4日か5日は掛かります。
隠しダンジョン内で時間が掛かった場合はともかくとして、流石にそこまでの時間を私の特訓に掛けてしまっては、ギルドとしても認めてくれるかどうか分かりません」
とリューネさんが真剣な表情で語った。
アニスと依頼契約をする際には、期限についてのやり取りはしなかった。
考え様によっては無期限とも取れるけど、冒険者ギルドの職員として同行しているリューネさんからすれば、自分が原因で依頼が遅れる事に忌避感や焦りがあるようだった。
それに加えて姉たちの敵を取ると言う目的もあり、余計に近視眼的になっている様子も伺える。
確かに移動と言っても森や山を歩くだけではなくて、向かう途中でも最奥部付近なら高位の魔物と戦うことになるし、飛んでいけばそれ程でもなくてもかなりの時間がかかってしまう。
私の読みでは隠れボスは魔王そのものじゃなくて、何かしら関わりのある魔物だと思っているけど、油断は出来ない。
下手をすると私の勘違いでそいつが魔王そのものかも知れないし、そうなると今の私とラル、リューネさんの実力込みで考えてもまず勝てないだろう。
蝶を見て動揺したせいか、早くにヒントが欲しくて私も焦った面があったけど、そこは失敗したかも知れない。
アシュリーナさんやクラリウスさん、アニスにヴァールたちや、まだ会ったことのない上位冒険者たちに助力を求めるべきだったのかも。
「私は隠しダンジョンにいるモスマン、もしくは何からの昆虫系魔物が魔王だとは思っていません。
それでも万が一と言う事はあり得ます。
仮想敵として弱い物を前提にしていては、リューネさん、あなたも私達も死ぬ可能性があります」
「はい、それはそうですが…」
「冒険者は危険な仕事です。
ですが冒険者ギルドの職員として、必要以上の危険を招きかねない依頼主やその関係者をどう見ますか?」
「それは勿論注意対象です。
場合によっては以降の依頼をお断りする場合もあります。
…そうですね、今の私の考えがそうであると、そういう事ですね」
「ええ、そうです。
それにネーサさんやその仲間たちの敵を取る事と、今回の冒険者ギルドとしての依頼は別です。
そこも勘違いされては困ります」
そう、私たちは当初リューネさんからの依頼を受けるつもりでいた。
でもアニスに休暇や状況説明するうちに、冒険者ギルドからの依頼として仕事を受ける形に落ち着いた。
苦虫でも噛み潰したような表情のリューネさんに、
「ネーサさんたちはE級冒険者の中では珍しく、事前調査や準備に出来るだけの時間や財、労力を惜しまなかったのですよね?」
と私は真面目な顔で聞いた。
「えぇ、そうです」
静かに頷くリューネさん。
私はそれを見て、
「引き際も知っていたし、計画性もあった。
今の私達には無いものです。
ですから、そんな彼らを見習いませんか?」
と問い掛けてみた。
「え?」
リューネさんは驚いたような顔で私をマジマジと見た。
彼女から見たら私やラルの行動は、ネーサさんたちとは正反対だ。
消耗品や装備はともかくとして、かなり勢いで動いてしまっている面もある。
「消耗品や耐性を持つアクセサリーなどはいくつか準備してありますし、明日にでも町で買い足すつもりです。
隠しダンジョンの中に関してはリューネさんの中にあるネーサさんの記憶だけが頼りです。
装備品もリューネさんが使えるものはお貸しします。
それでも、足りない物があると思いませんか?
冷静に考えてみて下さい。
冒険者ギルド職員としてではなく、ネーサさんを追体験した、彼女の意思を継ぐ後輩冒険者である貴女なら、何が足りないのか、何が必要か、それが分かるのではありませんか?」
私のそんな問い掛けに、
「姉達の意思を継ぐ後輩冒険者として…えぇ、ええそうですね。
おっしゃる通り、決まってもいない期限が迫っていると勝手に思い込み、焦って準備を怠る様な事は決してしません」
ととても真剣な表情で答えてくれた。
「明日、ディーアへ戻りましょう。冒険者ギルドで情報を再度集め、耐性装備の優先度も決めましょう。
足りない物があっても困りますからそれも再確認。
私は弓矢や投擲も使いますが、飛行系が相手ならそれも役立つはずです。
レベルの上昇で今の能力値に合った弓が必要になりますし、それも早急に準備しなければ」
次々と必要な事を考えてはメモを書き出し始めたリューネさんを見て、何だか少しホッとした。
その瞬間、ぞわりと背筋を何かが這うようなとても強烈な何かを感じて私は席を立ち上がった。
ラルも動こうとしたけれど、その気配に圧されてうまく動けないでいる。
リューネさんは顔面蒼白でフルフルと小さく震え、私の背後に立つ男性エルフ、樹王ユグヌスクの姿を捉えていた。
「やぁ、君たちもここで食事かい?
一人の食事じゃ味気なくてね、何処か良い店をと探していたら君たちを感じたので来てしまったよ」
圧倒的な気配はすぐに収まり、人の良さそうな普通のエルフに見える。
辺りを見回すと他の客や宿の人たちは何も感じなかったのか、ごく普通に食事や仕事をしていた。
ユグヌスクさんは私達3人だけに気配を送って来たのだ。
「席いいかな?」
「あ、ええどうぞ」
私がそう答える前には椅子を引き座ってしまうユグヌスクさん。
そうか、私たちはユグヌスクさんと同格かそれに近い、下手したらそれ以上の存在と戦うかも知れないんだ。
「君ははじめましてかな?僕はユグヌスクって言うんだ。宜しく頼むよ」
フレンドリーな感じでリューネさんに右手を差し出し、リューネさんはおずおずとその手を取った。
「ん?アニスリースの知り合いかな?甥がいつもお世話になってます」
また勝手に魔眼を使ったのだろう。
「えっ?副ギルド長のご親戚の方ですか?」
リューネさんが急な展開にキョドってる。
「ええ、そうですとも。アレの叔父に当たりますね」
リューネさんの態度が面白いのか、ちょっといたずらっ子の様な表情でニカッと笑うユグヌスクさん。
これが魔王なんだから世の中意味が分からない。
人間の町の宿屋で一人ご飯を食べる魔王というのもこれまた良く分からないけども。
案外こんなもんなのかな?
「実はサラさんたちに声を掛けようとした時、弓の話が聞こえて来たんだけどね。
エルフと言えば弓って言うだろう?どうも気になっちゃってね。
宜しければ素敵なレディに一つ贈り物をさせてくれないかな?」
「え、いやでも」
「エルフの弓はね、特別な木から作られているものもあるんだ。
勿論動物や魔物も素材として使う事があるけどね?」
人の話を全く聞かず、新たに席についたユグヌスクさんに注文を聞きに来た店員にさらりとワインと食事を注文してから、再び話し始める。
「この種なんだけどね。元々エルフの里にあった物に少しだけ手を加えたものなんだ」
「それを植えると材料になる木が生えるんですか?」
ちょっと興味が湧いてしまい、私がそう尋ねると、
「そうなんだよ。まぁ手を加えたから材料じゃなくて弓が生えるんだけどねぇ」
それ、ちょっとじゃないじゃん。
魔改造じゃんか。
流石樹王なだけの事はあるね。
「ご飯が済んだら試してみようよ。
そうだ、ついでだし我が家が近いからそこに泊まるといいよ」
「いや、あの、私達ここの宿に」
「あー、細かいことは気にしなくていいからさ。
それに他にも渡しておきたい物があるしね?」
言外の圧に負けて私たちは宿を出る事になった。
基本的に前払いなので宿代は戻ってこないけど仕方ない。
エルフが使うような弓ならかなり良い品だろうし、甥の部下に酷い事をするような魔王にも見えないからね。
どちらかと言うと甥を怖がっている様ですらあるし。
アニス、性格がかなりアレだからなー。
屋敷につくと以前ゴーレムなんかの仕分けに使った庭にそのまま通された。
地魔法でボコッと大きな穴を開けると、「はい」と言って種をリューネさんに手渡した。
「それをここに入れて」
と言う指示に従い、リューネさんが種を穴に入れる。
「最近君たちとマーレンがここで魔法金属や宝石貴石の分別作業をしていただろう?
その時小さな欠片なんかが沢山落ちていてね、この種には丁度よい栄養になってくれそうなんだよ」
魔法金属は勿論のこと、宝石や貴石も魔力を帯びたり何かしらの力が宿っている事もある。
また魔術の倍体に使ったり、他の大陸だと生えるスキルに宝石や貴石を使った魔法なんて言うのも存在しているしね。
アシュリーナさんのアレはちょっと別物だけども。
「さぁ、始めようか。
集え、地に散る力あるものたち。
種を覆いその身を捧げよ」
ユグヌスクさんの言葉に地面に落ちたミスリルやアダマンタイト、オリハルコンに瑪瑙や水晶、ダイヤにルビー、サファイアにエメラルドなど数々の鉱物の大小さまざまな欠片が月光を反射してキラキラと光りながら自ら穴へと集っていく。
「リューネさん、種に一滴だけ君の血を。その後魔力を注ぐんだ」
リューネさんに針を手渡したユグヌスクさんは、ジッと種の様子を観察している。
研究バカってアニスが行ってたもんね。
これも実験なのかも知れない。
「え?血ですか?はい」
人差し指に針を少し刺し、穴の横に屈んで一滴の血をそっと種にかける。
「魔力を送り込むと言うのはどうすれば?」
と尋ねるリューネさんにユグヌスクさんは、「手伝おう」と針を持たない左手を左手で握り、空いている右手を種に向けた。
「あっ」
何か驚いた様子のリューネさんに、
「感じるかい?そうだ、そんな感じだ。あとは一人で出来るね?」
とユグヌスクさん。
魔力感知を発動させると、リューネさんの魔力がユグヌスクさんを通して種に注がれているのが分かった。
魔力操作だね。
確かリューネさんは魔力感知や魔力操作のスキルレベルが1か2くらいだったから、魔法以外の形で「自分の中に流れる魔力を感じて」「魔法以外の形で自分の外に意図的に放つ」と言う作業に慣れていないのだろう。
魔力感知は気配を探る真似事も出来るけど、実際にはこっちの方が主流なんだよね。
魔力の流れを知り、操る。
それだけで魔法の威力や精度は上がる。
相手の魔力の流れを視て、次の攻撃を判断する、とかね。
ユグヌスクさんがリューネさんの手を離し、リューネさんは一人で魔力を種に送り続ける。
「さて、そろそろかな?
水よ地よ風よ。
月よ星よ。
森よ木々よ。
今ここに我、ユグヌスクが願う。
彼の者、リューネを守護し共に有り続ける生ける弓を!
神々よ 祝福されよ!
精霊たちよ 歌い踊れ!
ハイエルフにして樹王たる我、ユグヌスクが請い願う。
新たなる形、新たなる弓、新たなる命をいまここへ!」
複合魔法?複合魔術?
それは祈願魔法と精霊魔法、そして何か別系統の魔法的な技術の融合だった。
月の光が一条種とリューネさんとに注がれ、星々の光が増してキラキラと輝きそれに加わる。
清らかな水が何処からか涌出で穴に注がれ、地が穴を塞いて種を育む。
辺りには小さき精霊たちが無数に現れ、リューネさんと種を中心にして新たなる命の誕生を祝う。
鬱蒼とした敷地内の草木が揺れ、いつか魔封じの森で見た精霊の光の粒が種を植えた地とリューネさんへと集う。
リューネさんは驚きつつも魔力を放つのを止めず、ただ必死に魔力を感じ操っていた。
「さぁ、大丈夫。
おいで。お前は皆に祝福されている」
ユグヌスクさんが地面に埋まった種に優しくそう声を掛けると、小さな芽が地面を割って現れ、時間を急速に早めたかのようにシュルシュルと育っていく。
あっという間に育ったそれはどう見ても弓だった。
草や蔦、木が様々な色を纏い絡み合いながら、ピンと弦すらも張られた一張の弓となって生まれたのだ。
所々に色とりどりの宝玉が配されてはいるが、決して毳々しさはなくとても上品な作りになっていた。
神気すら感じるのは気の所為だろうか?
魔王がこんな物を作れるなんて。
てか、ハイエルフとか言ってなかった?
呆然と見守る私とラルはただその光景を見つめる事しかできず、リューネさんは魔力を止めると戸惑うように、厳かな儀式でそっと弓へ手を伸ばす。
弓はまるで意思があるかのように、いや、実際あるのだろう、リューネさんの手へとその身を託す。
〈わたくしは貴女の護り手。貴女の剣にして貴女の盾。そして貴女の弓となりましょう。
共に覇道を歩み世界をその手に!〉
いや、なんか弓が喋ったよ?
てか、物騒なこと言い出したよ?
弓を手にポカーンとするリューネさんと、
「いやぁ、何だか元気な子が生まれたねぇ。よかったよかった」
と楽しそうにリューネさんを見て笑うユグヌスクさん。
これ絶対わざとだろ?
私は何となくそれが真実だと思えてならなかった。




