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その26

その26


その日は空いている部屋で休ませてもらい、翌日リューネさんと共に冒険者ギルドへ赴いた。


なお隠しダンジョンは夢で見てから確認したが、発見された報告は無いと言う。


夢に見た魔物は蛾の魔物モスマンかその亜種、もしくは何かしらに擬態する昆虫系の魔物である可能性が高いとの事だった。


流石冒険者ギルドの職員なだけの事はあった。


冒険者ギルドにはすでにアニスが出勤していたけど、ギルドマスターのエルナンデスさんは居なかったので、副ギルド長室で話をする事になった。


勿論冒険者ギルド内なので副ギルド長と一冒険者としての立場で話す。


礼節や臨機応変って大事な事だしね。


「なるほど、確かに先日の魔王絡みの案件のようですね。

これはギルドとして依頼をさせていただきます。

調査としてならC級でもギリギリ受けられる内容ですから」


アニスに大まかな理由を話すと納得してくれて、そう提案された。


「リューネさんの長期休暇申請ですが、こちらは却下させて頂きます。代案として調査の同行職員として働いて頂きますね」


そう言われてリューネさんはほっとした様子だった。


「でもリューネさんを本当にそんな危険な所に連れて行って大丈夫なんですか?」


一応ギルド内なのでそこそこ口調に気をつけつつアニスに尋ねると、


「幻の蝶が直接リューネさんの部屋へ現れたのですよね?

それも状況的に見てこの数日間毎日出没していた可能性もあります。

つまり彼女はすでに危険な状態にあると言う事になります。

その夢がどこまで現実に沿ったものかは不明ですが、場所などの情報も含めて重要な物となるでしょうし、サラさん、ラルさん、私の部下をよろしくお願いします」


つまりこれは調査依頼であると共にリューネさんの護衛依頼でもあるって事か。


「問題点が2つあります。

まずはリューネさん自身の戦闘能力です。

話によればギルド内の講習や休みの日を利用しての冒険者活動でE級冒険者だそうですが、どの程度の実力なのかが不明です。

同行職員であるなら非常時には守る必要もあるはずですが、そこが分からないと危険ですし、パーティーの流れを理解していないと危険な場合もあります」


「そうですね。彼女の実力は良くも悪くもE級です。

せめてレベルがもう少し上がれば違ってくるのかも知れませんが。

あとは実践なり特訓を行うしかありませんね」


「ええ、ですから訓練期間も内容に含めた依頼として欲しいのです」


「分かりました。特訓の際にはサラさんとラルさんが教官をして下さると言う事でよろしいですか?」


「はい、そうなりますね。

見違えるくらい強くしてみせます!」


と言う事で私達が鍛える事が決定した。


「宜しくお願いします」


リューネさんが私とラルに深々と頭を下げる。  


その様子を見て笑いを堪える様にして、アニスが再び口を開いた。


「それはそうと、もう一つの問題とは?」


「帰還方法がハッキリしていない点です。

遺体は通常の一層に転移されたそうですが、ネーサとパーティーの面々が探索した結果、別階層や外への階段や転移装置は発見出来ていませんでした。

流石に死なないと出れないというのは困ります」


そう、ネーサとその仲間たちはそれなりに慎重な斥候職もいて探索はしたのだ。


勿論見落としもあるだろうし、魔法的な物なのでアーストンの様な石柱や床に堂々と転移の魔法陣でも描かれていないと気付けないだろうけれど。


「でしたら、これを支給しましょう。使わなかったら返してくださいね」


そう言って机の中をゴソゴソと探り取り出されたのは、3つの金属片だった。


全て手のひらの上に乗るほどの大きさのそれは、全て三角形をしており、それぞれの角付近に小さな宝石が嵌め込まれている。


裏にはピンが着いている。


「それは帰還の紋章と言います。

一番近い冒険者ギルド付近へと転移させる魔道具です。

より高性能な物がダンジョン化した遺跡で複数発見され、そのレプリカを作ったのですが性能はなかり劣ります。

左右どちらの手でも構わないので直接触れて、帰還を願うと発動します」


「あの、今ギルド付近って言いませんでした?」


あえてぼかして言う場合、何かしら裏があると思った方が良い。


こいつはそういう奴だし。


命の危険はないだろうと言う信頼も勿論あるけどね。


「あぁ、アーストンの石柱よりも精度が劣っているのですよ。

なのでギルド付近へとなりますね。

それと人や建物を避けて転移してくれるので、気付いたら壁の中とか大惨事にはなりませんのでその点は安心してください」


「遥か上空とか下水になんて事もないですよね?」


「その劣化版のテストをした結果、地下や室内に転移されたケースはありませんでした。

また、稀に数メートルの高さから落ちてきたケースはありますがこれは稀ですし、冒険者の身体能力なら瀕死の重傷でも負っていないと問題ないレベルです。

通常は地面の上にパッと現れる感じですね」


一応の安全性はあるものの、かなり高価なので購入希望者が少ないそうだ。


「必要な魔力は本人から少しずつチャージして行きますから、常時身に付けておいてください。

ここの3つの石はそれぞれ赤黄青と色が付いていますが、それぞれ赤は一回分、黄色はニ回分、青は三回分のチャージがされている状態で光ります。

今は空なので分かりにくいですがチャージされればすぐに分かると思います。

なお荷物はともかく複数人や他の生き物は転移出来ません。

1個につき一人にしか使えませんから気をつけて下さい」


「分かりました。気を付けますね」


という事でリューネさんは今日一日申し送りを行い、明日から私達としばらく行動を共にする事になった。


なおリューネさんは姉や仲間たちの死は何度も繰り返し見せられたらしく、それもあってかなり憔悴していたらしい。


その後私とラルはマーレンさんのお店で小屋を注文したことを伝え、MPやHP回復ポーションや麻痺、毒に効果のあるポーションなどを複数購入し、アクセサリー型の魔導具を見せてもらった。


属性に耐性が付くもの、防御力が上がるものに加えて毒や麻痺に耐性を与えるものもあり、かなり懐に余裕があるので幾つか購入する。


「そう言えば初心者が効率良くレベルを上げられる所はご存知ないですか?」


「初心者ですか?

お二人が守りつつなら、大抵の所で上げやすいと思いますが」


そこまで聞いてある計画を思いつき、初級と中級のMP回復ポーションをお店の在庫に悪影響が出ないギリギリの量を購入し店を後にした。


「何やら嫌な予感がするぞ?」


ラルのそんな発言を無視してオースさんの所へしばらく町を留守にする可能性がある事を伝えに向かった。


お店に着くとオースさんが店内にいて、


「あぁ、丁度良かった。

実はすでに幾つか図面が出来上がっています」


と数枚の図面を見せてくれた。


部屋数やサイズなども違う図面に悩んでしまい、3DKのやや大きめな物と1DKの小さな物を注文する事にした。


魔道具の数が増えちゃうけど、そこはマーレンさんと要相談だね。


「後々足りなかった分は別途お支払いしますが、現段階でお幾らでしょう?」


と尋ねると、


「材料を持ち込んでもらっていますし、金貨十枚もあれば十分な物が出来ると思います」


と言う返事だった。


金貨十枚と言う事は大金貨一枚か。


「ではこれでお願いします。足りない時は後ほどお支払いしますのでよろしくお願いします。

あ、それと別料金で構いませんのでマーレンさんに図面を届けていただけますか?」


と大金貨で支払いつつ伝えると、


「いえ、図面を届けるお題は結構ですよ。

近日中にマーレンさんにお届けしておきますね」


とにこやかに答えてくれた。


助かるね。


こうして私とラルはリューネさんの家に戻るのだった。


その日の夜、蝶は姿を現さなかった。




翌日、朝から南の森の奥へと私たちは向かった。


リューネさんのレベルアップ大作戦開始である。


既に調査は終わり警戒も解かれているので問題なく入る事が出来た。


リューネさんはレベル22、スキルも人間にしてはかなり豊富で剣術や弓、投擲にいくつかの属性魔法、暗記魔法とも呼ばれている詠唱魔法も少し使える。


遠距離攻撃が多いのは今からするレベル上げに丁度よいね。


思わずニヤつく私を微妙な視線で見つめるラルと、やや不安そうなリューネさんが見詰めているけど気にしない。


「今日から数日間はリューネさんのレベル上げを行いたいと思います。

理由は単純でダンジョンのボス相手に戦うには弱すぎるからです」


弱すぎると言う言葉にリューネさんは表情を引きつらせるけど気にしない。


事実を認識して欲しいので、わざとそう言ったしね。


「乱獲は禁止だそうなので、位置を変えつつビシビシ行きますよ!

ラルは先頭を歩いてしばらくは遭遇した魔物を全部倒しちゃって」


と言うことで三人で森の中へとズンズン進んで行く。


角兎やゴブリンなど弱い魔物を一瞬で倒すラルの姿にリューネさんは驚きを隠せずマジマジとその動きを見ていた。


私はと言うと、ラルが倒した魔物の回収ですとも。


ちなみにリューネさんは革鎧に片手剣、投擲用のナイフ数本にポーション各種、水や食料も最低限の量を持って来ていて、まさに冒険者スタイルだ。


私はやや開けた所に着くとラルに声をかけて止め、魔力感知で辺りに人が居ない事を確認してから地面に両手を当てて地魔法を発動させた。


ズン!と大きな音を立てて直径5メートルほどの地面が10メートルほど持ち上がる。


「きゃっ!」


とリューネさんが驚いて声を上げていたけど気にしない。


私は収納から先程ラルが倒した血まみれの角兎を取り出すと、風魔法で辺りに血の臭いを広げた。


ワラワラとゴブリンや角兎、コボルトに魔狼まで出てきたので、


「さぁリューネさん、MPの限り魔法で倒しまくって下さい!」


と指示を出した。


リューネさんは何か言おうとするけど私は取り合わず、さっさと攻撃魔法を撃たせた。


「水や風魔法で火は消せますから、火魔法でも構いません!

集まりすぎる前に早く!」


と言われてリューネさんは渋々火矢や火炎槍、雷の針などを放って魔物たちを倒していく。


十匹近く倒した所でリューネさんの顔色が悪くなり、少しふらつき始めたので私はすかさず初級のMP回復ポーションを取り出して手渡した。


「あ、ありがとうございます」


そう言って受け取るリューネさんに、


「さぁ、これを飲んで続けますよ!まだまだあるので気にせず撃ちまくって下さい。

ここに出てくる魔物は近距離攻撃しか出来ませんから恐れる必要もないです。

一応万が一を考えて風の守りは張りますけども」


と言い初級や中級のポーションを各十本取り出し、風魔法で矢や低レベルの魔物の攻撃なら余裕で防げる防御の壁を張る。


「ここにあるのは一部です。

まだまだ収納していますから気にせずじゃんじゃん行ってください!」


「え、でも流石にお金が…」


「ポーション代は請求したりしませんから気にしないで下さい。

さぁ、急がないとどんどん魔物が増えちゃいますよ?!」


私の勢いに圧されて再び魔法を使い出すリューネさん。


「極力使える魔法は使って下さい。1つだけ集中して使うとその魔法のスキルレベルしか上がりませんから」


「はい!分かりました!」


リューネさんは火や雷に加えて風や詠唱魔法の魔力矢なども混ぜ込んで次々と魔物を倒してはポーションを飲んだ。


「さて、そろそろですね。

ラル、魔物が近づいて来ないよう、辺りに威圧を!」


「うむ、任された。

むはっふぉっぐっぬぅ!!」


数十匹の魔物の死体と血に他の魔物も集まりそうになっていたけど、ラルの放つ濃厚な気配に恐れをなして散っていくのが魔力感知で分かる。


ゼェゼェ言いつつ地面に四つん這いになったリューネさんに先日購入した品の1つ、スタミナポーションを取り出して飲ませ、地面を元の状態に戻して魔物の死体を回収する。


地面にはクリーンの魔法も掛け、風魔法で血や肉の臭いを浄化させた。


「さぁ、これで問題なし!

次に行きますよ!」


何か言いたげなリューネさんをサラッと無視して空のポーション瓶を回収する。


スタミナポーションである程度回復したリューネさんを連れ、私達はより深く森の中へと進んで行った。


そんな事を場所を転々としながら3時間ほど繰り返し、一旦町へ戻るとすでにお昼過ぎだった。


ディーアの町中で良さそうな軽食屋があったので、全員にクリーンをかけてから店に入った。

 

席に着くとそれぞれサンドイッチやパスタ、ケーキやコーヒー、お茶などを空き放題注文する。


「冒険者ギルドの職員としてはどうかと思うレベルアップ方法ですが、これは凄いですね」


とステータスウィンドウを確認したリューネさんが、そこに書かれた文字をまじまじと見ながらそう言った。


「レベル22だったのが既に28、火と雷の属性魔法や詠唱魔法のレベルが1つ上がっています…」


「低級な魔物ばかりでしたから思ったよりは上がってませんけど、明日からはもっと上がりますよ?」


「明日は一体何をする気なんですか?!」


そんな事を話しながら食事を済ませると、私達は一旦リューネさんの家に戻り、彼女に数日分の旅支度をして貰った。


「さぁ、まだ最終便に間に合います!早く!」


と何処へ行くかも説明せずに急かして、そのままアーストンの町へと向かう乗合馬車に乗った。


「何をするのか何となく分かりました…」


ちょっと疲れた様子のリューネさんを、ラルは可哀想な人を見る目で見つめていた。




夕方にアーストンの町へ到着するとリューネさんの案内で宿を取った。


流石冒険者ギルド職員!


こういう事は凄く詳しい!


私とリューネさんが同室で、ラルは一人部屋だ。


本当は別々の方が休まるだろうけど、例の蝶の件があるからね。


リューネさんが荷物を部屋に置きに行くと言うので一旦解散し、私は一人で薬屋巡りをした。


勿論スタミナポーションやMP回復ポーションを買い漁る為だ。


相場やら他の冒険者への供給に影響が出ない程度にだけど、それでもかなりの量を買う事が出来た。


宿に戻って食事とお風呂を済ませ、部屋で休んでいると、リューネさんがベッドに腰掛け一冊の本をリュックから取り出した。


「本当は冒険の際には必要な品しか持たない様にすべきなのですけれど」


そう言いつつ愛おしそうに本の表紙を撫ぜるリューネさん。


「もしやネーサさんとの思い出の品ですか?」


と聞いたら悪いかな?と思いつつも尋ねると、


「ええ、姉と私、二人して何度も読んだ大切な本なんです。

冒険者に憧れたのも、この本が切っ掛けでしたから」


そう言ってリューネさんは表紙を私に見せてくれた。


【天女と4人の冒険者たち】


そのタイトルを見て、これかっ?!と思わず見詰めてしまった。


「この本は辺境伯領に伝わる物語なのですが、興味がおありですか?」


そう尋ねるリューネさんに、本当は読みたいと言いたかったけど、二人の思い出の品を汚す様な気がして言い出せない。


「ええ、どんな物語なのですか?」


と尋ねると、リューネさんは目をキラキラさせながら、概要を話してくれた。


今から百数十年前の事。


ある日辺境伯領へとやって来た5人の冒険者がいくつもの事件を解決して行く。


途中でとある理由から仲間たちと別れた天女は、飢饉や疫病が起こった際に沢山の施しを与え、多くの人々を救った。


そして魔封じの森で起きつつあった魔物達の大氾濫を事前に防ぎ、いくつかの魔を森に封印したと言う。


その後天女は5体の竜を率いて大氾濫や疫病などの事件の裏で手を引いていた魔王と戦った。


その戦いは熾烈を極めたが魔王は封印され天女と竜たちは天に帰ったとされる物語だ。


天女に関しては恋愛要素が全くなかったが、女戦士とエルフの恋物語や辺境伯家の令嬢を助けた子爵家出身の剣士と令嬢の婚姻なども描かれているらしい。


髭なしドワーフの話は載っていなかったのか、リューネさんには興味がないだけなのか。


なるほど、そんな物語が伝承として伝わっているのか。


魔王については細かい描写はないらしく、色々とぼかされているようだった。


仲間たちとの冒険は兎も角、後半は全然記憶にないけれど、何だかくすぐったい様な恥ずかしい様な気分になり、これは絶対に読まないでおこうと心に決めたのだった。

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