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その24 ホェ〜

その24


朝から行動開始はしたものの、アーストンの冒険者ギルドで結構時間を取られてしまいディーアに到着したのはお昼過ぎだった。


3人で適当に昼食を済ませると、マーレンさんと話し合わないと行けない事があったのでそのまま彼のお店へと向かった。


結界や防御、警報など小屋で宿泊する際や野営時に使える魔道具を作ってもらう予定なのだ。


小屋本体はアニスに大工さんを紹介してもらおうかと思っていたけれど、マーレンさんが同じ人を知っているそうなので彼に紹介してもらう事にした。


「代金はちゃんと請求して下さいね。

それと足りない素材があるなら取りに行ってきますから遠慮なく言ってください」


「はい、わかりました、と言いたい所ですが、すでに大量の宝石貴石に魔法金属まで余分に私が頂いていますから、それを考えると逆にこちらが支払わないと不味い状態なのですよ」

 

「あー、それならその分で作ってくだされば大丈夫です。

迷宮で十分過ぎるほどに稼がせてもらったので、使い道が全く思い付かないですから。

もし余っても文句なし、足りない時には請求してもらう形でよろしくお願いします」


「こちらに好条件過ぎる気がしますが、そこまでおっしゃるなら分かりました。

ただ小屋の形状や大きさで魔道具の調整も必要ですから、そちらが決まってから本格的に製作した方が良いかと思います」


「確かに。

それじゃ、今日明日中に行ってきますね!」


その後、すっかり忘れていたけど魔封じの森でアニスと採取した薬草類もお土産として渡してマーレンさんを軽く驚かせた後、店を出て町中を歩いた。


時刻は15時近く、陽は少しだけ傾いている。


紹介してもらった大工さんはマーレンさんのお店から徒歩15分ほどの所だったので、宿やギルドより先にお邪魔する事にした。


南西側の防壁に近い地域には木工や石工、大工などの店が多くあり、その一つが目指すオース大工店だった。


棟梁のオースさんはハーフドワーフだそうで、見た目はドワーフ寄りだけど中身はほぼ人間、大工としての腕は良くて人柄も良いらしい。


店は板やレンガ、工具などを販売しており、裏手で作業をしているらしく、物音がしている。


「すみません!」


と店舗の方に声をかけるとエプロン姿の少女に見えるドワーフがお店の奥からでてきた。


ドワーフはエルフほどではないけれど、5〜600年の寿命があるのでパッと見年令が分かりにくい。


特にドワーフ女性は個体差が激しく、未成年の状態で外見年令が止まってしまう者もいれば、成年期まで育つ者、中には中年でやっと老化が止まりヒゲまで生える者まで居るので全然分からない。


エプロン姿の女性は8歳ほどで、茶色いショートヘアに琥珀色の瞳でクリっとした目、鼻の辺りにはそばかすがちらほらとある。


どう見ても女性だし、流石にオースさんじゃないだろうと当たりを付けて説明する事にした。


「はいはい、どの様なご要件ですかな?」


「薬師のマーレンさんのご紹介で参りました、サラと申します」 


と紹介状を差し出した。


女性はそれを受け取りつつ首をかしげ、


「サラさん…ありゃ?何処かで見た事がある顔だが、んー?」


見た目は少女なのに口調はおばちゃん、まさにドワーフあるあるの一つなのだけど、なんか可愛らしい。


記憶がない天人として冒険者をしていた時代に会った事のある人なのかな?そう思いつつも頭を撫でてしまいそうな衝動を堪えた。


「まぁ良いか。

狭い店だが少しそこで待っていて下され」 


彼女はそう言うとテケテケと店の奥へと入っていった。


しばらく店内の釘などをボケーっと見ていると、身長150センチほどのずんぐりむっくりした体型のドワーフが奥からやって来た。


ん?ヒゲがない?!!


ツヤッツヤの肌を持つその男性ドワーフは、ヒゲを剃った跡すら見当たらない。


この人がハーフドワーフのオースさんだろうか?


「お待たせしました。

店主のオースです。

紹介状を拝見しました。

アニスリースさんと同じような持ち運び用の小屋をご所望と言う事ですが」


やっぱりこの人がオースさんだったか。


思わず艷やかな顔をマジマジと見てしまうと、オースさんは苦笑いをして、


「あぁ、父に似てヒゲが生えにくい体質なんですよ。

見た目は殆どドワーフなのに不思議なものですよね」


と話してくれた。


と言う事はお父さんが人間なのかな?


「あ、なんだかすみません」


思わず頭を下げると、


「いや、皆さん初めてお会いする方は同じ様に驚かれますから気になさらないでください」


と苦笑交じりに言ってくれた。


まぁ、ドワーフといえばヒゲと酒ってイメージだし、そりゃみんな驚くよね。


「はい、でもなんかごめんなさい」


そんなこんなで欲しい小屋の大まかな間取りや魔道具を使う事、収納魔法で出し入れする事が前提なのを説明したり、木材もある程度は持ち込みしたい事を話した。


店の裏に大量の丸太を取り出すとオースさんにはびっくりされたけど、女性の方はホェ〜?と謎の声を上げつつもそんなに驚いては居なかった。


「うむ、うぅむ。

何処かで会った事があると思ったがその収納の使い方、まさにあやつそのものじゃ。

そうか、サラさん、お主サラストリーじゃな?

なぜ人間の格好をしておるのじゃ?」


げ。


結構高齢なドワーフだったのか。


「ワシじゃワシ。

ほれ?分からんか?」


右の人差し指で自分の顔をクイクイっと指差しつつそう言われたけど、全く思い出せなかった。


「ごめんなさい。

実は記憶が飛び飛びになっていまして」


素直にそう説明すると、


「ほへぇ。ほうかほうか。

まぁ色々とあったようじゃしのぉ。

まぁ、そのうち思い出す事もあるじゃろうて」


とにこやかに頷いた。


「ワシは髭なしのドワーフ、ヴァールじゃ。

頭の片隅にでも置いておいておくれ」


そう名乗られて、はっとした。


髭なしドワーフ!


バールのようなもの?!!


似てるけど違うその名は、とても懐かしく楽しい思い出に満ちていたように思う。


アムリアと二人して酒盛りし、二日酔いになってアニスにしこたま絞られたり、泳げないのに珍しい鉱石の欠片を見つけて金属鎧を着たまま川に飛び込んで溺れたり。


「思い出した!バールのようなもの!」


「いや、じゃからワシはヴァールじゃ!アムリアをアムリタとか呼んでおったし、お主は人の名を何だと思っておるのじゃ!

って思い出したんかっ?!」


彼女、もとい彼はドワーフの戦士ヴァール。


れっきとした男性だった。


母親に似すぎて子供の頃に外見的な成長が止まってしまったらしい。


それを苦にして最強の戦士を目指した…訳では無く、なんか美味しそうなお酒とか変わった鉱石が欲しいんじゃよね〜と言う軽いノリで旅に出たドワーフだ。


見た目はこんななのに、アホみたいな筋力と耐久力を誇り、私達パーティーのタンク役をしていたのが彼である。


と言うことで細かい事は気にしないで頭を撫でる事にした。


「息子の前でやめんかっ!ワシは今年で317歳じゃぞ!」


とか何とか言ってる割に、全く避けようともしないので沢山撫で回していたけど、


「姉者よ。何をしておるのだ?」


キリッとした顔でラルにそう尋ねられて、流石にちょっとまずいかな?と思いヴァールの頭から手を離す。


息子さんは先程以上の苦笑いを浮かべつつも、「この方がサラストリーさんですか。イメージ通りの方ですね」とか呟かれ、私は赤面しまくった。


結局その後小屋の設計や昔の話などに花が咲き、お店を出たときにはすでに夕方になっていたので、踊る白鳥亭へ行ってみると何と満室。


何でも宝石や貴石、魔法金属などが大量に売り出されたので、大手の商会や個人で行商をしている商人まで、街には今沢山人が集まっているのだそうだ。


アーストンは支店なので、大きなお金が動く時は王都の本部かディーアの支部で行っているのだそうだ。


多分それ、私達が原因だよね?


凄く微妙な気分で宿を後にした私達は、他の宿を探そうにも町にそんなに詳しくないので、ディーアに戻った報告も兼ねてリューネさんに聞こうと冒険者ギルドへ向かった。


ギルドに入ると時間的に混雑していて、カウンター前には行列が出来ている。


今日リューネさんは依頼カウンター担当みたいだったので、その列に並ぶ事にした。


何だろう?リューネさんの顔色が少し悪い気がする。


疲れているのか、体調でも悪いのかな?ソーマかアムリタでも一本あげようかな?

 

そんな事を考えながら待つことしばし、私達の番が来て戻った事を伝えと、


「サラさん、ラルさん、お帰りなさい!ご無事で何よりです。

そしておめでとうございます!

サラさんは本日付でC級冒険者へ、ラルさんはD級冒険者への昇級が決定しました!」


と満面の笑みで言われた。


近くで見たら顔色が悪いだけじゃなくて、目の下に薄っすらくまが出来ているし、心なしか痩せたような気もした。


疲れどころか何か病気なのかも知れないとちょっと不安な気持ちになりつつも、友達と言う訳でもないのに下手な事は言えないよね。


人間誰しも触れられたくない事ってあるし。


誰も居ない部屋とかならともかく、周りは他の職員さんや冒険者が沢山いるから余計に難しい。


なので私は、


「え?試験も受けてないですし、紹介も推薦もないと思うのですけど?」


と、もう一つ気になった事を聞くことにした。


「まずお二人共アーストン迷宮の収集品の数々で貢献度が上がっています。

ギルドを通してのオークションも貢献度の査定対象に含まれています。

先日の鑑定依頼やその後判明した情報を提供して頂いた分も勿論含まれています。

そしてサラさんに関しては副ギルド長の推薦があり、認可された為にC級への昇格が決定した形になりますね」


確かにアーストンではかなりの数を持ち込んだし、魔王関連の情報もアニスに送った。


そこにアニスの口利きがあったなら、納得出来る内容だね。


「なるほど、理解出来ました。ありがとうございます」


私達は冒険者カードをそれぞれリューネさんに渡して内容を更新してもらった。


その後更新されたカードを受け取りつつ宿の事を聞いてみたら、ちょっと表情を曇らせながら、


「安宿はともかくとして、評判の良い宿は商人の方々が泊まっていますから、ほぼ全滅状態かも知れませんね」


こと情報に関しては商人の右に出る者はあまり居ないそうで、治安の悪い地域や評判の悪い宿に泊まる事は殆どないのだそうだ。


「ありゃ」


「町の外にテントでも張れば良い。数日位ならば問題なかろう?」


ラルがさらっと言ってきたけど、打ち合わせ等で時間が掛かった事もあって、下手をするともう門が閉じてしまっているかも知れない。


数日間は続きそうだし、明日にでも大工さんに小屋を注文してからアーストンで再び実験して来ようかな?なんて思っていると、


「もし宜しければ我が家へいらっしゃいませんか?」


と、にこやかにリューネさんが提案してくれた。

 

「私の実家はこの町で代々商いをしている商会なんです。

規模はそこまで大きくありませんが、離れがあって私はそこに住んでいるんですよ。

部屋は余分にありますし、汚い所ですが2〜3日でしたら是非!」


本当は遠慮すべき何だと思うけど、体調が悪そうなリューネさんが一人で暮らしているって何かあった時に怖いよね。


いつも迷惑を掛けてるし、たまにはお役に立たないとね?!


「良いんですか?

それじゃ、お言葉に甘えさせて頂きます」


「ええ、是非!

それではあと一時間ほどで夜勤者と交代になりますから、そうですね、一時間半後に東門近くの羽衣公園で待ち合わせでいかがですか?」


「うぇ?羽衣公園ですか?それって天人が使って飛ぶという」


「はい、その羽衣公園です。入り口の一つが大通りに面しているので分かりやすいと思うのですが」


「わかりました。それでは一時間半後にお願いします」


と言う事でリューネさんの家に泊まる事になった。


冒険者ギルドの職員さんと親しくなり過ぎて平気なのかな?とも思うけど、冒険者と受付嬢の恋とか聞いたこともあるし、そこまで気にしなくて良いのかもな。


体調が悪そうだし、胃に優しそうな物や軽く食べれそうな物、果物などをラルと手分けして購入し、全て収納してから羽衣公園へと向かう事にした。


羽衣公園は東門から徒歩十分くらいの所にある小さな公園だった。


真ん中に壺を肩に掲げた女性の天人の小さな像が設置された噴水があり、壺からちょろちょろと水が流れている。


像は確かに羽衣を着てるけど、天人公園とか壺公園とかその辺の方が納得の行く公園な気がした。


その噴水を囲むように三人掛けのベンチが4つあり、魔法の街灯が数本立ち、あとはおまけ程度に花壇や何本かの気が植わっている。


少し早めに到着した私達はベンチに腰掛けると、収納から小指の先ほどの小さなオリハルコンの欠片を取り出して、魔力を込めたり抜いたり、持っている魔法を付与したり解除したりする練習をしていた。


いわゆる魔道具のような本格的な付与は、錬金術や付与魔法でないと特殊効果を長期的に発揮させるのは無理だ。


でも一時的に魔力を込めたり、温めたり冷ましたりと言った一時的な事なら出来る。


先日のアーストン迷宮でも少し試した事の一つなんだけど、これが完成すると十五階層もクリア出来そうなんだよね。


ラルはそれを知っているからか、私の作業をチラッと見ながらも護衛モードで辺りの気配に気を配ってくれている。


そろそろかな?と思った頃にリューネさんがやって来た。


光の加減もあるかも知れないけど、やはりちょっとやつれて見えた。


「お待たせしました!」


無理して精一杯元気に振舞っている様に感じたけど、無理に聞き出すのは止めようと思い、こちらも笑顔で手を振った。


「全然待ってませんし、慌てなくて大丈夫ですよ。

それより本当に泊めて頂いて良いのですか?」


「ええ、狭い所ですけれど是非いらして下さい」


そして案内されたのは、何と公園のすぐ隣の建物だった。


大通りには実家の店舗があり、その裏手に当たるのがリューネさんの住んでいる離れだった。


こじんまりとした一軒家で、玄関も店舗でもある本宅からは独立している。


「うちは兄弟が私を含めて5人いたので、店舗併設の家では少し手狭になってしまって丁度空き家になったここを買い取ったんです。

今では長兄夫婦が家を継ぐために修行中で、次兄はよその商会で働いています。

上の姉は辺境伯爵家で住込み働いていて、もうひとりの姉は亡くなっているので、今ここに住んでいるのは私だけなんですよ」


「そうなんですね」


「さ、どうぞ」


リューネさんが鍵を開けてくれて、照明の魔道具に明かりを灯した。


玄関に入るとすぐに上へと上がる階段と廊下がたり、その先が居間になっていて、大きめのテーブルと椅子が六脚、壁際には暖炉と少し離れた向かい側にソファがあった。


その奥にドアを取り外した所に薄手の布で仕切った部屋があるようで、その先にトイレや風呂、キッチンがあるらしかった。


「どうぞご自由にお座りくださいね。今お茶を入れてきます」


部屋の中は綺麗に掃除が行き届き、荷物は少なくあっさりとしている印象を受ける。


リューネさんぽい、それが一番しっくりくる部屋だった。


私とラルが椅子へ腰掛けると、リューネさんがティーポットやカップ、焼き菓子の乗ったお皿をトレイに乗せて持ってきてくれた。


「昔は姉妹三人でこちらに暮らしていまして、当時は少し手狭に感じましたけど一人になると広すぎて寂しく感じることもあります」


お茶などをテーブルの上に並べつつそう話すリューネさんの表情は、懐かしさと共に寂しさとも、何か違う感情が混じっているようにも見えた。


配り終えた彼女も椅子に座り、皆でゆっくりお茶を味わう。


「甘みが必要でしたら蜂蜜がありますから使ってくださいね」


と小さな壺を出してくれて、ラルがお茶にたらしていた。


「上の姉が辺境伯様のお屋敷にご奉公に上がって少しして、二番目の姉が冒険者を始めまして。

昔からの友人たちとパーティーを組んでいたのですが、あと少しでD級と言う所で亡くなりました」


「お悔やみ申し上げます」


「ありがとうございます。

今私が冒険者ギルドで働いているのも、姉の影響もあるのだと思います。

実は私も冒険者を目指して一緒に魔法を習ったり、剣術の道場に通っていたのですが、2つ上の姉が成人直後に冒険者になりまして、置いていかれた様に感じたものです。

でも、無理をして一緒に冒険者になっていたら、多分私もここには居なかったでしょうね」


自嘲気味な笑みを浮かべるリューネさんに、何と言葉を掛けて良いのか分からなった。


体調が悪いことと関係あるのだろうか?

何となくだけどそう思えてしまうのは短絡的な考えなのだろうか。


「あ、ごめんなさい。

暗い話になってしまいましたね。

夕食の用意をしますから、少しお待ち下さい。

そろそろお湯も湯船に貯まった頃だと思いますし、宜しければお先にお使いくださいね」


リューネさんはそう言って席を立った。


「ラル、先にお風呂を頂いてきて。鎧や剣はここで預かるから」


私がそうラルに命じると、


「相分かった」


とささっと装備品をすべて置いて普段着姿となり奥へと向かった。


私はラルと自分の装備品を収納へと仕舞い、一応床にクリーンの魔法を掛けた。


部屋を汚しちゃったら不味いし。


ラルが風呂から上がる頃、テーブルの上にはサラダと肉や野菜が入ったスープ、スライスされたパンに肉と野菜の炒め物が並べられた。


「料理は得意ではないので、簡単な物ばかりで申し訳ありませんが」


「いえ、凄く美味しそうです!」


「いただくとしよう」


ぶどう酒もあるという事で、軽くお酒が入りつつの夕食となったのだった。

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