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その16 昔の仲間

その16


全てを思い出した訳じゃない。


でも途切れ途切れだけど、アムリアとアニスリースの事は思い出していた。


「全部じゃないけど思い出したよ、です」


昔の記憶に釣られて思わず答えてしまったけど、相手が冒険者ギルドのサブマスターなのだと思い出して言い直した。


アニスリースはクスッと笑うと、


「昔通りの、あの頃の言葉で構いません。

いえ、違いますね。

アムリアが大好きだった貴女であってくれた方が私も嬉しいのですよ」


「うん、わかった。

そうさせてもらうね。

アニスはもしかして最初から私の事に気付いてたの?」


「略して呼ぶならリースと呼んで下さいと前から言っていますよね?

まぁ、どうせ直らないでしょうけれど。

えぇ、元の姿を人間風にしただけの大雑把な変身ですから、本来の姿を知っていれば八割は気付くレベルですよ。

それに昔もその姿になった事がありましたしね?

そもそも偽名がサラって何ですか?

無理して敬語を使う姿を見て吹き出すのを堪えるのが大変でした」


うわ、めっちゃ毒舌来たー!


そう、これが本来のアニスなのだ。


パーティー内でも成り行き任せな適当天人の私と、勢いで突っ走るアムリアへは特に毒舌だった気がする。


ちなみに他にも仲間が居た気がするけど、その辺はモヤッとしてて思い出せないでいる。


「うむ?姉者…ではなく、サラ様の知り合いなのか?」


「うん、昔パーティーを組んでいた仲間だよ」


ラルが確認する様に聞いてきたので、雑に答えておいた。


いや、記憶が曖昧だからさ。


するとアニスはラルを見て、


「そうそう、サラさんに兄弟は居なかったと思うのですが、私達と別れた後に生まれた弟さんですか?」


と聞いてきた。


下手な言い訳はしない方が良さそうなので、


「ううん、私の眷属でオークジェネラルなの」


とサラリと流す様に答えてみた。


「あー、あなたは今もそんな事をしているのですね」


と呆れた顔をされたけど、思い当たる節がない。


「それどういう意味よ?」


と尋ねれば、


「そうですねぇ。

今の貴女は記憶が欠損しているのですよね?

でしたら私からは特に話さない方が良いのかも知れません」


と冷静な表情を浮かべて答えて来た。


真面目かっ?!


「でもアニスやアムリアの事は思い出せたよ?」


と言うと、


「先程はうまく行きましたが、それは私やアムリアと言う実感を伴える何かがあったから思い出せたのかも知れません。

実感のない説明は言葉の羅列に過ぎません。

逆に先入観を持たせてしまい、思い出す邪魔になる可能性すらあると思いませんか?」


とヤレヤレ全くこれだからと隠す素振りすら見せずに言うアニスは、昔のままの姿に見えた。


「待って。

これだけは教えて。

私がアニスたちと別れてからどれくらい時間が経っているの?」


収納魔法の中にあった元リンゴや劣化した品々。


封じられた洞窟の中で寝ていた自分。


そこを考えるとかなりの年月が経っているはずだ。


「本来ならそれも言わない方が良いのかも知れませんが、そうですね、その位は良いでしょう。

約160年前、つまり私とアムリアがディーアの町に住み始めた頃ですよ」


「ふむ、やはりサラ様は禍津妃、厄災の天女である可能性が…」


黙って話を聞いていたラルが、一番言っちゃいけない人の前でめっちゃ余計な事を言ってしまった。


「ん?何ですか?

その厄災の天女とか禍津妃とは?

プッ。

も、もしやサラさんの新しい通り名か何かですか?」


明らかに馬鹿にした様子で言うアニスに、


「我ら部族、そして森の魔物たちに百年数十年前から伝わる伝承だ」


と真面目に説明するラル。


素直だ。


素直過ぎるよぉ。


でもラルの説明を聞いたアニスは急に表情を真面目な物にして、


「その伝承、詳しく話してもらっても良いですか?」


と訪ねたのだった。


「その昔、竜を連れて空からやってきた天女が森を焼き、凍らせ、森を半壊させ殺戮の限りを尽くした。

そしてその後こう告げたのだ。

私は必ず戻ってくる。

私と竜の事、決して忘れるな、とな」


ラルがざっくりとした説明を、アニスは真顔で聞いていた。


「そうですか。

あれはそう言う事でしたか」


と一人で納得していた。


「森の恵亭はもうすぐそこです。

今日は何を頼みましょうかね」


と明らかに話を逸し始めた。


天女に関してはかなり気になるので、少しは説明してよ!と口を開こうとした時、突然アニスが立ち止まって一軒の店を見つめた。


ん?マーレンさんの薬屋さんだね。


道理で見覚えのある道だと思ってたんだよね。


「ここが先程伝えた子供、息子のマーレンがやっている店です」


「マジですか?」

 

言われて見ればマーレンさんはハーフエルフ。


エルフが人里に余り出てこない事を考えれば、ハーフエルフもその数は少ない。


親子でなくとも親戚や知り合いである可能性も高いよね、いや、親子だけども。


「マーレンさんがアムリアの息子…」


そう言えばアムリアは魔法が苦手だし錬金術も使えなかったけど、薬草を使った薬を作るのが得意だった。


アニスと口喧嘩をして、この戦闘馬鹿!と言われたとき、

『あたいは戦闘馬鹿じゃないぞ?薬草師のスキルも持っているしな!』と自慢気に意味不明な事を言っていた。


スキルじゃなくて言動の事だと結局馬鹿にされて怒ってたけど。


馬鹿じゃないけどアホな良い子だったよなー。


あれ?そう言えば亡くなったのは60年前っていってなかったっけ?


「さっきは聞き流してたけど、アムリア、人間としてはかなり長生き出来たんだね」


ここに来て160年、亡くなったのが60年前、記憶にあるアムリアは10代半ばから20代だ。


となると120歳前後まで生きていた事になるよね?


「ええ、128歳でした。

生粋の人間で魔力は低いもののレベルはかなり高くなっていましたからね。

アムリタやソーマがあればもう20年は生きられたかも知れませんが、彼女はそんなことを望んでいませんでしたしね」


レベル10から20位の人の平均寿命は70歳ほど。


あとはレベルの影響やギフト、種族特性や長命種の血筋などで伸びることがある。


人間だけど数代前にエルフや天人がいると、エルフの血筋、天人の血筋などの種族特性が付くこともあるのだ。


「そっか」


会いたかったな、そう言いたかったけど、何故かそれは言えなかった。


最もアムリアに会いたいのは、アニスやマーレンだからって言うのもあるけれど、何となく言ってはいけないような、そんな気がしたのだ。




森の恵亭はアニスの言葉通り大変美味しかった。


ラルは焼いた川魚を頭から骨ごと食べてた。

 

食道も内臓もきっとジェネラルなのだろう。


意味分かんないけど。


アニスがギルド会員に奢らせる訳にはいかないと奢ってくれたので、明日以降の食事用にお弁当をいくつか自費で購入して収納した。


勿論アニスの分もだ。


時間停止もあるから安心だし、こいつに一方的に奢られるのはなんか怖いからね。


集合時間やちょっとした事も打ち合わせ、店の前で解散した。


「これからマーレンさんの所に行くけど一緒に行く?」と聞いたけど遠慮されちゃったのだ。


ただ上級と中級のMP回復ポーションや解毒ポーションなど幾つかお使いを頼まれた。


お金も預かり、おつりはくれるそうだけど、もろに子供のお使いじゃない?!まぁ依頼だと思えばいっか。


その後ポーションやちょっとした備品なんかも購入して、後は明日に備えてゆっくり過ごす事にした。




翌朝早朝、待ち合わせ場所の北門に集合し、私達は魔封じの森へと旅立った。


アニスは厚手の服に革鎧とマント、腰にショートソードと短剣をぶら下げている。


多分分かりにくい所に投げナイフなんかも仕込んでいるのだろうな。


彼も収納魔法は使えたはずなので、荷物らしい荷物は持っていなかった。


私とラルはいつもの格好だ。


私はライトメイスとショートソードを装備していて、ラルは予備武器としてショートソードを追加した感じかな?


冒険者は基本的に複数の武器を持ち歩く。


邪魔にはなるけど、命には変えられないからだ。


武器は消耗品であり、壊れる時は壊れるし、地形的な理由で得意な武器が使えない事もある。


その為、金銭的に余裕のない新人冒険者以外は魔法職ですら武器を余分に携帯しているものなのだ。


収納魔法があると楽さはかなり違ってくるけど、咄嗟に使えないのも困るので他の荷物はともかく武器や鎧、最低限の薬品などは身に付けて動くのが一般的だった。




「そう言えば魔封じの森って魔王や精霊、その他諸々封印されているって聞いたけど結局何なの?」


森への道すがら、前々から気になっていた知識面での穴埋めをしておく事にした。


記憶に関わるものは別として、知識など他の質問にはちゃんと答えてくれるのは有り難い。


「その話をするには封印山脈についても話さなければなりませんね」


そう前お気をしつつ、


「封印山脈は神々が何かを封じたとされる山脈なのはご存知ですね?」


私は頷き、ラルは首を傾げた。


「そういう神話、んー、伝承があるって事だよ」


と雑な説明をすると、


「ほう、そうであったか」


と納得してくれた。


「その封印の影響か、それとも元々そういう土地であったから封じたのか、封印山脈の近辺もまた、魔法や魔道具で魔物などを封印しやすい土地となっているのです」


「なるほど。土地の力を利用してあれこれ封じてあるのね」


「そうなりますね。

他の地よりも効果時間は長いですし、必要な魔力や技量も低く済みます。

それに休眠する為に自ら簡易封印をする者すらいると聞きます」


時限式とか開放条件付きとか、何かしら仕掛けているんだろうね。


「ただ問題がありまして、魔王や邪神、高位の精霊や魔などを多数封印した結果、自然界の魔力が集まりやすくなり、草木の活性化や魔物の発生を促進していると言う説が有力です」


「そうしてあの広大な森林が生まれたってことなのねって、待って。

休眠する為に自ら簡易封印する者もいるんだよね?」


「えぇ、そうですね」


「実は森で精霊魔法を使ったら、どう考えても呼んだ精霊より上位の精霊が来たんだけどもしかして?」


「あぁ、サラさんの呼び掛けに簡易封印が解かれたか、封印開放の条件に設定されていたかですね。

まさか、貴女を知る精霊が現れたのですか?」


何かしら心当たりがあるのか、アニスの表情が曇っていた。


踊ってフッとするのとか、燃やすの楽しむのとか呼びました。


あぁ?!そう言えばあの時の蛇、まだ凍った状態で収納したままだ。


大穴開けちゃった方に意識が行き過ぎてすっかり忘れてたよ。


意識が全然別な方向に向かっているのを気付いてるのか、アニスは軽く溜息をついた後、


「呼ぶなとは言いません。

ですがあの土地は特別で封印も特殊な物が多いので、精霊魔法や召喚魔法は細心の注意が必要だと思っておいて下さい」


と注意してくれた。


「はい、出来るだけ気を付けます」


必要な時は使うしかないので、そう答えるしかなかった。




その日の日が暮れるかなり前にラルの案内と私の斥候スキルが活躍して、例の大穴へと到着した私達は、大穴の中を探索する事になった。


森の民のエルフであり上位の冒険者でもあるアニスはめっちゃ余裕で森の中を歩けるし、外周部なのでそんなに強い魔物も出てこないからね。


穴が出来て数日しか経ってないけれど、ここは魔封じの森だ。


普通の森とは違う変化があるかも知れないとアニスが言い出したのだ。


「ゴブリンの件も各森ヘの再調査が必要で人手が足りていませんが、冒険者ギルドとしてはやはり調べない訳にはいきませんからね」


原因が私なので申し訳ない気持ちになりつつ、地魔法で階段を作り皆で降りた。


大穴の縁から観察した感じでは特に変化は見当たらず、倒れたり潰された木々や剥き出しの岩などしか見えなかったからだ。


深さ200メートルと言うと絶壁としてはかなりの高さで、アニスとラルは足元や壁面を確認しつつ降りてゆく。


私はいざとなったら飛べるので、ひょいひょいと降りたけどね。


穴の底は虫が妙に増えていたものの、それ以外は大きな変化は見られなかった。


回収しきれなかったオークや動物の死体などに虫が湧いたのだろう。


それを食べる鳥も少し増えているようには思うけど、魔物が生息しているようには見えなかった。


壁面を確認していたアニスも特に大きな発見は無かったようだ。


ラルも散策していたけど何もなかったようで、その辺の葉っぱを摘んでは食べていた。


「このままここにテントを張るのは危険でしょう。

上に登って離れた所で休みましょう」


「え?魔物がいない事は確認出来たのに?」


「天気が崩れたら何が起こるかわかりませんし、ほら、あそこをご覧なさい。

ちょっとした衝撃で崩れたと思われる場所もあります。

壁面も魔法を使わなければそこまで頑丈と言うわけでもないでしょうし」


アニスの言うとおり、所々縁付近の地面が崩れて落ちたみたいな場所があった。


水捌けもどうなのかわからないし、確かに一晩明かすのは危険なところだね。


前に一泊しちゃったけどさ。


地魔法で固める事は出来るけど、広範囲かつ長時間となるとかなりの消耗する事になるしね。


再び階段を作る事にしたけど、アニスは風魔法で浮き上がって、私は飛んで穴から出たので、階段を使ったのはラルだけだった。


「以前も思ったが階段とは良い足腰の鍛錬になるな」


なんか喜んでいるようで良かった。


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