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その15 魔王の種

その15


ゴブリンロードたちを焼いた跡には黒や紺、深緑に濃い茶色などが混じり合った2センチほどの玉が焼け残っていた。


「嫌な気配を感じるな。

自ら鍛えずして力を得られる玉など愚の骨頂、その辺に埋めるか捨ててしまおう」


「いや、それは駄目でしょうよ。

今回の襲撃に関わる物なんだから、冒険者ギルドに提出しないと」


ラルがジッと玉を見つめて居たのでもしかして欲しいのかと思ったら全然違った。


それは未だに魔力を放っているので、鞄に入れたり手に持って帰る気にもならず、試しに収納魔法を使ってみた。


魔力がビンビン出ているのにちゃんと収納出来た。


魔力の干渉、謎過ぎる。


そう言えば魔剣や真道具も入れられるんだよね。


空魔法は空間に影響するものだから駄目なのかな?


ちょっと疑問に思ったけれど、魔法学者とかじゃないので気にするのはやめといた。


ちょっと呆けた様子のアシュリーナさんとそれをうまく誘導するクラリウスさん、そしてラルと共にディーアの町へと戻った。


「力を使った代償なんだ。

半日もすれば回復するよ」


クラリウスさん曰くそういう物らしい。


「ふむ、確かに強力な力であったが代償や反動が大き過ぎる。

一対一なら良いが、戦場では褒められぬ力だ。

それにそちらのおなごは稀に見る女傑。

あの様な技を使わずとも楽に勝てていただろうに」


え、そうなの?!てっきりあれくらいしないとアシュリーナさんでも勝てない敵なのかと思ってた。


ラルの言葉にクラリウスさんは苦笑を浮かべた。


「あー、バレてたか。

君と同じで借り物の力に驕れるロードが気に食わなかったんだろうな。

敗北すら生ぬるいと思ったんだと思うよ」


気に食わないから肉片に変えるとか、どんだけだよ。


「それよりここのゴブリンたちの処理はどうしたら良いですか?

全部まとめて埋めちゃいます?」


「いやいや、低級冒険者たちの小遣い稼ぎになるからね。

埋めたりするのはやめてあげて」


実は一番気になっていた事をクラリウスさんに訪ねてみると、予想外の返事が返ってきた。


「死体の処理や魔石の回収、あとはレアな上位種もいるかも知れないしね」


こんな時には冒険者ギルドと町で処理班が編成されて片付けてくれるそうだ。


前線に出れなかったF級E級冒険者への依頼として斡旋されるとかなんとか。


魔石って言ってもロードやジェネラルたち位しか値打ちのある物はないだろうしなー。

 

あ、拾い忘れてたよ。


まぁいっか。


そんな感じでテクテク歩いていたら南門に到着した。


南門は最低限の土嚢と戦力しか割いていなかった上に、私達の、と言うかアシュリーナさんの戦う姿を防壁の上から確認出来たからか撤収作業すら始まっている。


代わりにF級やE級冒険者と思われる一団を、騎士と兵士数名が引率して戦場跡へと向かって行った。 


装備もまちまちな一団は、アシュリーナさんだけじゃなく、私達全員を憧れのこもった目でチラチラと見ていた。


私が思わず、


「頑張れ!!あとの事は宜しくお願いします!!」


と声を掛けたら、


オォーっ!という雄叫びにも似た声を上げて次々と駆け出していった。


引率の騎士や兵士がちょっと慌ててるのを見て、ヤバっと思ったけど、


「奴らもやる気が出たみたいだ。

ありがとな!」


と中年の騎士に喜ばれてしまった。


その後その辺で撤収作業の指揮をしている兵士にずっと気になっていたもう一つのことを聞いてみた。


「他の門の様子はどうですか?」


「あぁ、多少の被害は出たけど無事に撃退出来たそうだよ」


と教えてくれた。


「良かった」


アシュリーナさんやクラリウスさん、ラルにそれを伝え、冒険者カードを出して町へ戻ろうと南門の前まで行くと、何やら怒った様子のリューネさんが仁王立ちしていた。


めっちゃ怖い目でこっちを見ている。


「うっ?!」


「アシュリーナさん、クラリウスさん、サラさん、それにラルさんも!

ギルドに何も言わずに飛び出して行ってしまうとは、どういう事ですか?

特にサラさん、D級なのに担当者が居る意味がお分かりですか?!」


アシュリーナさんは未だにちょっとボーっとしているものの、私含め他の面々は素直に謝ることにした。


ラルもちょっとキョドってる。


「ごめんなさい!町の危機と聞いて居ても立っても居られなくて」


「すまん。トントン拍子で向かうのが決まったから伝えられなかった」


「申し訳ない」


私、クラリウスさん、ラルの謝罪を受けて少し落ち着いた様子のリューネさんはアシュリーナさんを見て、


「例の状態ですか?」


とクラリウスさんへ尋ねる。


「あぁ、いつものやつだ」


と言う答えに納得したのか頷くと、私達を連れて冒険者ギルドへと向かった。


ギルドは忙しそうに働く職員さん達と、酒場で宴会を始めた冒険者たちで溢れていて、まだ昼過ぎなのにいつも以上に騒がしくて酒臭い。


「分かりやすい位に明暗がくっきり別れてますね」


「えぇ、確認作業や諸々の事務仕事は戦闘後が本番ですから」


F級やE級は事後処理の依頼を受けた為に今は殆んど残っておらず、D級以上の人々が酒盛りをしていた。


多分ここに居るのは中級以上の冒険者たちの中の一部で、他所の店へ流れていった者達も多いんだろうね。


慌ただしいカウンター内を通って2階にある応接室へと案内され、大まかな流れを説明した。


勿論、アシュリーナさん無双モードの凄さも余す所なく伝えたよ。


一人でゴブリンロードの亜種を倒しちゃったしね。


「それで、これがその魔王が絡んでいると思われる魔石のような物ですか?」


「そうです。

慌ただしくてまだ鑑定もしていませんけど。

今も明らかに異様な魔力を放ってます」


アシュリーナさんは未だにボーッとしているので、代わって私がリューネさんへ説明していた。


ラルは自分の出番じゃないと認識しているらしく、両腕を組んで目を瞑っている。


「魔石とは違う感じもするが、魔道具って訳でもなさそうだよな」


魔法関係の知識が豊富なクラリウスさんだけど、彼は鑑定系のスキルはないのだそうだ。


「ちょっと鑑定してみますね」


リューネさんはそう言うと、じっと斑模様の玉へ視線を向けたけど、


「私では鑑定不能でした」


と右手で両目を押さえつつ首を振った。


スキルは生活魔法以外スキルレベルが存在している。


鑑定スキルもそのうちの一つで、リューネさんのレベルでは鑑定不能な品だった様だ。


「ならば私が鑑定してみますね。鑑定の魔眼を持っているので」



「魔眼というとギフトですね。

…はい、宜しくお願い致します」


リューネさんは少し遠い目をしていた。


レベルの存在しない魔眼は、スキルの上位互換と言われている。


何せ神々から与えられたギフトだからね。


まぁ、実際にはギフトでも上中下と段階があるものもあれば、全然役に立たないものもあるんだけど。


まぁいいや、鑑定!


名称:魔王の種

解説:魔王の一人、樹王ユグヌスクがその命を賭して生み出した12個ある宝珠の一つ。

魔王の因子と強力な魔力を持ち、苗床となったものを強制的に進化及び強化させる。

また群れを成す種族に使用した場合、群れの同種にある程度進化等の影響が現れる。

魔王の因子と同調率が高い苗床なら、成長と共に完全に融合し苗床主体の新たな魔王となる。

魔王因子との同調率が低い場合、苗床は暴走する。


「出来ました。

魔王の種と言う名称の物体だそうです。

魔王の一人、樹王ユグヌスクが…」


「待って下さい!

そこでストップです!」


鑑定結果を伝えると、リューネさんは必死の形相で私を止めた。


魔王と聞いて、アシュリーナさんの目が一瞬光ったけど、すぐにまたボーッとしてしまった。


「すぐにギルドマスターかサブマスターを呼んできますので、少しだけお待ち下さい!」


リューネさんはそう言うと、慌てて部屋を出ていった。


「あんなに慌てなくても。

メモに取って上司に伝えてくれればいいのに」


「魔王の種、か。

そんなもん出てきたら職員がほいほい聞いて良い話じゃないからな」


リューネさんの反応にちょっと驚いてしまったけど、クラリウスさんの言葉に納得した。


機密の段階とか色々あるのだろう。


確かに魔王って言ったら大物だもんね。

  

この世界には複数の魔王が居ることが確認されている。


何処かに潜んでいる者も居れば、他所の大陸で暴れている者もいたはずだ。


最低でも8体居た気がする。


少し経つとリューネさんが再びお茶を持って戻ってきた。


「間もなく参りますので少々お待ち下さい」


お茶を配り終えたリューネさんは部屋を出ようとすると、ドアをノックする事が聞こえた。


「どうぞ」 


と私が答えると、二人の男性が室内に入ってきた。


一人は白銀色の髪を伸ばして後ろで縛っている線の細い男性で、やや吊り目に尖った耳を持つエルフだった。


温和な微笑みを浮かべていたけど、私を見て一瞬表情が強張った気がした。


何となく見覚えがあるような気がした。


町中ですれ違ったとか、そんな感じじゃなくて、もっとこう…駄目だ、思い出せない。


もう一人は190センチ近い大柄な人間の男性で、日に焼けた肌とムキムキの筋肉を持つ白髪交じりの茶色い髪サラサラヘアで目に入る手前くらいの長さで、耳周りや後ろは刈り上げている。


こちらは全然記憶にないね。


「俺がこの冒険者ギルドディーア支部のマスター、エルナンデスだ」


「私はサブマスターのアニスリースです。宜しくお願いしますね」


大柄な方がギルドマスターだったようで、エルフがサブマスターだそうだ。


私達は席を立ち、それぞれ挨拶とともに自己紹介をした。


アニスリースさんは私の自己紹介の時、妙に真剣な表情で聞いていた。


ちなみにアシュリーナさんはボーッとしていて無理だったし、ラルも、「ラルだ」としか言わなかったけども、マスターたちは気にした様子もなかった。


「さて、魔王の種と言うのはソレの事か?」


マスターたちは椅子に座り、触れない様にしつつマジマジと斑模様の玉を観察した。


「確かに私でも鑑定出来ませんね」


アニスリースさんも鑑定したようだけど、無理だったみたいだ。


「どうぞ、私共に鑑定結果を教えていただけませんか?」


私にそう問いかけるアニスリースさんに、ギルドマスターのエルナンデスさんが待ったをかけた。


「まぁ待て。

サラだったか?

これは正式な依頼とさせてもらう。無いとは思うがこの件に関する特殊なケースを除いて他言は無用で頼む。

勿論アシュリーナ、クラリウス、ラル、それにリューネもだ。

メモ係りも頼むぞ」 


部屋を出ようとしていたリューネさんは、渋い顔をして「分かりました」と頷くと、二人の後ろに立った。

 

「特殊なケースとは何ですか?」


私の問にエルナンデスさんは、


「種の在り処を狙う者や、魔王絡みの何者かが接触してくる可能性だってあるだろう?

冒険者は冒険に命を掛けるもんだ。

玉の秘密に命を掛けてまで黙っている必要はないってこった」


と答えてくれた。

  

魔王や玉に関する何かと接触する機会や可能性があるって事か。


私達4人しか参戦していない所から種が消えていれば、そりゃその4人を疑うもんね。


「分かりました。

それで解説を読み上げてもよろしいですか?」


「あぁ、頼む」


私はツラツラと読み上げ、リューネさんは必死の形相でメモを取る。


魔王ユグヌスクの名前が出た時、アニスリースさんが一瞬動揺したようだけど、すぐに表情を戻していた。


「魔王が命を賭して作り出した種か。樹王といえば東の大陸辺りに居る魔王じゃなかったか?」


「いえ、南の大陸ですよ。

巨大な樹海を作り出し、そこに籠もっていると言われています」


「引きこもりが急に西大陸へやって来たってことか?」


「いえ、その可能性は低いでしょう。アレはひきこもりの研究莫迦ですから」


アニスリースさんは魔王に対してかなり辛辣な事を言い、エルナンデスさんが苦笑いを浮かべた。


「他のモノも含めて現在確認されているのは9体。

その何れか、もしくはそれに近い者たちが玉を手に入れ、何かをしようとしている可能性もありますね」


いつもよりやや口調を改めたクラリウスさんがそう言うと、


「その線が強いと思われます」


とアニスリースが肯定した。


てか魔王増えてたよ。


「となると他の魔王絡みの情報が欲しいところだが、西大陸にそんな奴いたか?」


エルナンデスさんが頭をガシガシと掻きつつアニスリースさんを見るけど、そのアニスリースさんは私の方をチラッと見ただけだった。


「あのぉ、実は以前ギルドへ伝えた事なんですが、もしかしたら魔王と関係するかも知れない場所があります」


いや、ファーティアマさん曰く実はもろに魔王が封印されていたらしいんですけどね?


自分が寝ていたり、大穴開けちゃったり、ちょっとタイミング的に言えなかったんだよね。


魔物に禍津妃とか災厄の天女と呼ばれまくった上に、森の精霊から魔王の情報を聞きましたとは言えないし。


その辺はややこしくなりそうだから黙ってよう。


「壁に5体の竜の彫刻が掘られてて、その中央部が壊れていたんです」


その話をアニスリースさんは食い入るように聞いていた。


「その時は遺体に気を取られて鑑定を全くしなかったので。

勿論全く関係ないのかも知れませんが」


私の話を聞いて、どうなんだ?と言う表情でエルナンデスさんがリューネさんを見ると、


「5人の冒険者が亡くなっていた洞窟ですね?

探索及び遺品回収の募集は出していますが、まだ何方も受けていない状況です」


とスラスラと答えた。


流石上位の冒険者を担当出来る職員さんだ。


情報をしっかりと把握しているみたいだね。


「リューネ、その依頼を一旦停止してくれ。

そしてサラ、悪いがそこへ行って鑑定で調べてきてくれないか。

ギルドから指名依頼とさせてもらうから」


「それは構いませんが、ラルは一緒には行けませんよね?」


あの森では色々とやらかしているので、一人だと嫌だなーと言う空気を醸し出してみたら、


「いいえ、今回の襲撃の際、彼がゴブリンジェネラルを討伐したと報告が入っています。

本来なら懲罰ものではありますが、非常事態でしたし、E級へ昇進させても問題ないでしょう」


とアニスリースさんが助け舟を出してくれた。


上位の冒険者とパーティーを組んだ場合を適用してくれるらしい。


「まぁそうだな。

ただ強いとは言え流石に経験の浅いD級とE級だけと言う訳にもいくまい。アシュリーナ殿はこの状態で依頼の可否も分からんし。

他の冒険者を…」


「私が参りましょう。

事は急を要します。

そして実力と信頼性もまた重要な案件でもあります。

私ならそれを兼ね備えておりますから、問題はないでしょう?」


エルナンデスさんの話の腰を折りまくりつつ、アニスリースさんが一見冷静に、でもその目には、


行くよ?何?止めるの?

あ?やんのかゴルァ!


と言う強い意志が籠もっていた。


アニスは変わらないなー。


ちょっとほのぼのとした気持ちでやり取りを見ていた。


あれ?私ってばやっぱりアニスリースさんを知ってる?


「あの、私からもお願いします!

サブマスターと一緒でしたら心強いですし!」


この機会を逃したら駄目な気がして、私もエルナンデスさんにお願いし、結局明日の早朝魔封じの森へと向かうことになった。


なお今回の件は依頼を受ける前に勝手に動いたとは言え、功績としてはかなりのものなので、昇級査定はやや低めの扱いで各々討伐報酬は支払われる事になった。

 

魔王の種の鑑定代も勿論頂き、トータルでかなりの額を頂いた。


アシュリーナさんは辺境伯家の馬車が迎えに来たのでそれに乗り、クラリウスさんが付添として同乗して行った。


私達は二人を見送った後、軽く打ち合わせを兼ねて私とラル、そしてアニスリースさんで遅めの昼食を食べに出掛ける事になった。


それに回復薬やちょっとした雑貨も買いたいし丁度良いかも知れない。


おすすめのお店は森の恵亭と言う名前で、キノコや川魚の料理が美味しいらしい。


「私がこの町に住み始めてから160年ほどになりますが、森の恵亭ほど美味しい店に出会ったことがないんですよ」


「そんなに長くこの町に居るんですね」


「えぇ、元々は亡くなった妻、アムリアの地元だったので住み始めましてね」


アムリアさんか、アムリタみたいな名前だね。


ん?アムリア、アムリタ?


心の奥で何かが引っ掛かる。


「あの、失礼かも知れませんが、アムリアさんはどんな方だったのか教えて頂いても構いませんか?」


「ええ、良いですよ。

年寄りの思い出話にお付き合い下さい。

彼女は緑色の瞳がとても生命力に満ちた、まるで陽射しに輝く若葉のような美しい人間の女性でした」


えっ?


銀色の髪に緑の瞳の美しい女性が、ニカッとイメージとは程遠い少年の様な笑顔を浮かべている姿が脳裏を過ぎった。


「彼女は冒険者仲間でしてね、かなり豪快な性格をしていたので反りが合わず、何度も喧嘩をしたものです」


「豪快な方だったんですか」


「えぇ、かなり豪快でしたね。

魔法の才能があまりなく、斧と鎚を1つにした戦斧を好んで使う戦士だったのですが、すぐに敵へ突っ込んで行ってしまうので他の仲間にもよく叱られては何故か笑っていましたよ」


『あたいを叱ってくれるのは、みんながあたいの事を大事に思って心配してくれてるからだろ?

だから嬉しくて笑っちまうのさ』


何故だろう。


アニスリースさんの言葉に重なる様に、知らないのに良く知っている、そんな女性の声が聞こえてきた。


「あぁ、ただ豪快なだけではなく、とても優しい人でもありましたよ。

依頼者や知り合う人々にすぐ同情してしまったりね。

たまたま魔物に襲われている所を助けた駅馬車に家族連れが居たのですが、我々が助けた時には父親が亡くなっていましてね。

家族と一緒に泣いていましたよ。

まぁ、そんな性格が原因で何度か騙された事もありますが、今となっては良い思い出です」


『あたいたちがあとほんの少し早く助けていれば、あの人たちは家族を失わずに済んだんだよ』


泣き腫らした目を向けて嘆く彼女に、私は濡らしたタオルを渡し… 


あぁ、まただ。


声だけじゃなく、その姿すら脳裏にはっきりと描かれた。


「あ、姉者、どうした?」


そんな私の様子に気が付いたのか、ラルが心配そうな目で声を掛けてきた。


アニスリースさんも私の様子が可怪しい事は気が付いているだろう。


それでも彼は話すことを止めなかった。


「色々あるうちに彼女とは互いに想い合っている事が分かりましてね、それで彼女の地元であるこの町に住むことになったのです。

子供も生まれましたが、寄る年波には勝てず60年ほど前に亡くなりましたが」


「そっか。

だからアムリタを飲めってあんなに言ったのに」


思わずそんな言葉が私の口をついて出て、涙がポロポロと零れ落ちた。


そんな私を見てアニスリースはにっこりと微笑んだ。


「思い出してくれたのですね、サラストリー」


私はコクリと小さく頷いた。

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