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その14 借り物

残酷な描写があります。

ご注意下さい。

その14


1000匹近くいるゴブリンたちが道を開け、3体のゴブリンジェネラルがアシュリーナさん、ラル、そして私とクラリウスさんの3方へとそれぞれ向かって来た。


「一対一の勝負ですか?」


声こそ冷静だけど目をキラキラさせているアシュリーナさん。


一人でかなり前に出ているのに、声が通るのか大きいだけなのか、私達にも聞こえてきた。


「以前倒した奴より出来るな」


ラルが自分へと向かって来るジェネラルをそう評した。


私達にもゴブリンジェネラルが向かって来ているけど、なんだろう?ラルがオークジェネラル姿の時の方が遥かに驚異に感じた様な気がする。


ラルと戦った時よりレベルがかなり上がっている影響かも知れないけどね。


「先手必勝!

火葬陣!」


「えっ?」


まだそこそこ距離のあるジェネラルへ向けて、クラリウスさんが魔法を放った。



こちらへ向かっていたジェネラルを囲むように半径5メートルほどの炎の円が現れ、それが一気に中央へと収束する。


効果範囲内に居た数匹のゴブリンを巻き込んでゴブリンジェネラルが火柱になった。


「いや、あの、なんか卑怯なんじゃ?」


「いいや?俺たちは騎士や剣士じゃない。

冒険者なんだぜ?」


自嘲的な笑みを浮かるクラリウスさんに納得した私は、「確かに」と応えて魔法を放つことにした。


他のゴブリンならともかくジェネラル相手だと致命傷までは無理かも知れない。


「柱槍乱立!」


ザンッ!と音を立てて地面が無数の槍と化し、炎に悶えるゴブリンジェネラルとその周辺にいるゴブリンたちを突き刺した。


アシュリーナさんはそれをつまらなそうに見て、自分へと向かってくるジェネラルへ駆け寄った。


ラルも同様に前に出て迎撃の姿勢を取る。


私とクラリウスさんは共にゴブリンキングだかロードらしき巨体を視野に入れつつ、普通のゴブリンや上位種を倒してゆく。


収納魔法から中級のMP回復ポーションを取り出して飲み、瓶はゴブリンソードマンの顔面に投げつけてみた。


咄嗟に顔を剣で庇うソードマンに向けて氷の矢を放って倒し、クラリウスさんの真似をして、風の刃の雨を降らせる。


「風斬雨!」


無数の見えないギロチンにその身を断たれるゴブリンたち。


その頃アシュリーナさんとラルはそれぞれの戦いを始めていた。


ラルと対するゴブリンジェネラルは、木製の円盾とやや大きめな片手剣を持っていた。


ゴブリンジェネラルはラルへ駆け寄りつつ上段からの大振りな一撃を放つ。


それを大剣で受け流し、体勢が崩れたジェネラルの背後へ回ると右肩から左腰へ向けて斬り掛かった。


ジェネラルはどうにか避けようと身をひねったけど、元々体勢が崩れていた為に躱しきれず、けっして浅くはない傷を受けた。


ラルはそのまま剣先を跳ね上げるように動かし、剣を持つジェネラルの右腕を上腕の半ばから切り落とした。


流石オークジェネラルだ。


大剣がミスリル製の魔法剣だったとは言え、剣の腕やその膂力が無ければ出来なかっただろうし。


オークとゴブリン、その実力差がジェネラルとなっても現れている様な状況だね。

  

その頃アシュリーナさんは、金属製の大きなカイトシールドを体の前に構えて駆け寄ってくるゴブリンジェネラルを相手にしていた。


ゴブリンジェネラルはいわゆるシールドチャージと言われる盾での追突攻撃を繰り出して来たのだ。


迫りくる敵にニャッと口角を上げて迎えたアシュリーナさんは、わざと棍棒を手放して左足を前に、右足を後ろに開き、左手を肘を曲げて突き出しつつ右手を上半身ごと引いて構えていた。


そして盾が目前に迫った瞬間その盾のど真ん中に突きを放つと、金属がひしゃげる音とゴブリンジェネラルの悲鳴が辺りに響き渡った。


盾との衝突でアシュリーナさんの足元の地面が抉れて少し埋まった様だけど、その身が下がることはなく、アシュリーナさんの突き出した右手が金属製の盾を突き破り、腰を屈めて頭を下げた状態だったゴブリンジェネラルの前頭部を握りしめていたのだ。


アシュリーナさんはグッと右手に力を込め、まるで柔らかな果実のようにゴブリンジェネラルの前頭部を握り潰した。


だらんと力を失ったゴブリンジェネラルの頭から手を離し、盾ごと右腕を大きく横に振って10メートルほど吹き飛ばす。


いや、なんすか、これ。


どんなスキルやギフトがあるとこんな事が出来るの?


私だけじゃなく、ラルもポカンとした顔でその様子を見ていた。


魔力の流れも感じなかったので、一時的に金剛石を手に纏わせた訳でもなく、手甲こそ着けていたもののほぼ素の状態で行ったのだけは分かった。


屋敷や町を出る時、執事さんや騎士、兵士たちが全く辺境伯令嬢の身の安全を気にした様子が無かった理由が分かった気がした。


と言うかコレ、冒険者か武闘家か、その辺しか目指しようがない位に飛んでもない力だよね?


ざわり…と初めてゴブリンの軍勢たち、と言ってもジェネラルを倒した後も適当な魔法なんかで数をより一層減らして500匹も残っていないけど、の中に怯えと恐怖心が広がっていった。


私も敵だったら怖い、と言うかアシュリーナさんが魔王って言われても納得する勢いだ。


生活魔法のクリーンを使い汚れた手を綺麗にすると、アシュリーナさんは巨人の如きゴブリンへと目を向けた。


「数の驚異って言いますけれど、やはり質も大事なのだと実感出来ますね。

せめて貴方はわたくしを楽しませて下さいね?」


おっとりとした表情で巨体に声を掛けつつ、アシュリーナさんはゆっくりと足を踏み出した。


ゴゴゴ…と音を立てるかのようにアシュリーナさんから見えざる圧が放たれていて、圧が向けられていない私達ですら足が竦み冷や汗が流れ落ちる。


残るゴブリンやその上位種はアシュリーナさんの圧に耐え切れず、腰を抜かす者や逃げようとする者も居た。


「フン!人間ゴトキガ。

魔王様ヨリ下賜サレタコノ力、ソノ身ヲ持ッテ味ワウガ良イ」


巨体のゴブリンが大きな声でそう告げると、アシュリーナさんはとても、本当に心の底から嬉しそうにニッコリと微笑んだ。


「魔王、ですか。

うん、いい…いいですねぇ。

ふ、ふふふっ、うふふふ」


既に敵意を持つ存在は巨体のみとなったので、不気味に笑うアシュリーナさんは放置して鑑定の魔眼を発動させる。


名称:ゴブリンロード亜種

レベル:69

解説:ゴブリンの最上位種が亜種化したもの。

魔王の与えたモノにより亜種化した。

頭皮と頭蓋骨が変形し、王冠の様な鶏冠が出来る。

通常のゴブリンロードより筋力耐久力に優れ、知能も上昇、特殊能力も獲得している為、より危険な存在である。

その肉は香しくも豊潤な味わいで途轍もなく美味しい。



ザックリとした物だけど、正体は分かった。


頭のあれは乗せている訳じゃなくて鶏冠なのか。


最後の一つは要らない情報過ぎるよね。


通常のゴブリンロードがどれほどの強さなのかは分からない。


東西のゴブリンの群れにも居るのだとしたら結構不味いかも知れないとは思うけど、B級のアシュリーナさんがここまで強いなら、他のB級やA級冒険者なら案外平気なのかも知れない。


ここは彼女とパーティーを組んでいる人に聞くのが一番だろうと尋ねてみることにした。


「クラリウスさん、アシュリーナさんはB級の中でどれくらいの強さなんですか?」


「ん?あぁ、彼女はB級になりたてだけど、実力だけならA級だと言われているよ。

性格があんなだから中々上がらないだけでね。

今ディーアの町にいる冒険者の中ではトップ5に入る位だね」

 

「あれと同列な者があと4人もいるのか」


クラリウスさんがそう答えるとラルがかなり驚いていた。


私としては逆に町の安全的な意味で安心したんだけども、魔物側からしたら確かに恐ろしい事だよね。


魔物が多い辺境な上にダンジョンも領地内にあるから、強い人が集まりやすいんだろうな。


「なら東門と西門も大丈夫そうですね」


「あぁ、全員町にいるとは限らんが、他のB級やC級もそれなりにやるからね」


「なるほど。となると今はあのゴブリンロードの亜種に集中するのが一番ですね」


「あぁ、鑑定したのかい?

そうだね。

今は下手に手を出したら奴らよりアシュリーナの方が怖い。

しばらくは雑魚を掃討しつつ様子見といこう」


邪魔されたら怒るのか。

 

余計な手出しはやめておこう。


そんな事を話していると、ゴブリンロードとアシュリーナさんが動いた。


アシュリーナさんの気迫が鋭いものに変わり、高速でロードの懐へと入る。


余裕の表情のままのロードは濃い紫色の歪に伸びた爪を拳を繰り出すアシュリーナさんの腕や顔を狙った。


身長的に腹部や下半身を狙いにくいんだろうね。


アシュリーナさんはロードの爪に直接触れるのを避け、手甲で受けている。


巨体であるにも関わらず、ロードの動きは素早くも滑らかで、力押しだけのゴブリンジェネラルとは大違いだった。


足も細かく動かし、アシュリーナさんが繰り出す蹴りなどの足技をうまく躱している。


「ソロソロ本気ヲ出ソウ」


その呟きと共にロードの気配と動きが変わった。


先程アシュリーナさんが放っていた圧をより物理的にしたような、突風が吹き出したのかと錯覚させる程の圧が鶏冠を中心にその身から放たれた。


実際に物理的な影響があったのか、アシュリーナさんは圧され地面を刳りつつ数メートルは離された。


圧は留まる事を知らず、逆に増していく。


仄かにギラギラとした鋭角的な光すらも身に纏ったロードの体が、一回り大きく膨らんだ。


全身の皮膚が分厚く変化し、金属製の鎧の様な光沢を放っている。


「あらまぁ〜」


アシュリーナさんはホワッとした感じで驚きつつ、再び距離を詰めた。


「死ネ、人間」


アシュリーナさんとはまだ距離があり拳の範囲外にも関わらず、ブンッと大きく右手を振るう。


何かを感じ取ったのか、アシュリーナさんは大きく右に飛ぶと、ロードの手の動きの延長線上の地面が大剣で切りつけられた様に大きく抉れた。


ラルが似たような攻撃をしてきたけど、魔力の流れは感じないから別の仕組みな様だ。


「我ガ手ニ剣ハ要ラズ…」


今度はアシュリーナさんへ向けて左手を付き出すと、先程同様にアシュリーナさんが回避して、地面が何かに突き刺さったように抉れる。


「我ガ手ニ槍モ要ラヌ」


ゴブリンの表情は今ひとつ分からないけれど、少し悦に入っている様にも見える。


まるで手に入れた玩具を自慢する子供の様だけど、醜怪な笑みが愛らしさを全く感じさせなかった。


「そうですか。

気を…でしたらわたくしも」


その言葉と共に先程ロードが放った以上の圧が一瞬膨れ上がり、すぐに収束する。


ロードの様な皮膚の硬化はなさそうだけど、アシュリーナさんの存在感の様なものが何倍にも増した様に感じた。


「下ダラヌ。

魔王様ヨリ力ヲ得タ我ニハ、剣モ槍モ矢モ通サヌ、拳ナド効カヌ」


ロードが余裕の表情を見せて幾らでも殴ってみろとでも言うように両手を広げた。


その様子を見たアシュリーナさんは、急に何かが覚めた様に笑みが消えた。


「借り物の力に驕れる小鬼ですか。

つまらないですね。

終わらせましょう」


ボソッとアシュリーナさんが呟き、無造作にロードの胸元目掛けて右手を振るう。


「爆ぜなさい。

浸透爆散」


アシュリーナさんを包み込んでいた存在感が急速に右手の拳へと集り、繰り出された拳から飛び出してそのままロードの胸へと吸い込まれて行った。


「余ノ真似事カ。

下ラヌ…ゴフッゴブゴブッ」


何かを話そうとした途中でロードは自らの胸を掻き抱き、口から大量の血を吐き出した。


「貴様…ナ、二、ヲシ、ゴブッ!!」 


ベコンとボコンと音を立てて、金属鎧の様な皮膚に凹凸が幾つも生まれ、耳や鼻からも血が吹き出す。


目が大きく見開かれて今にも飛び出しそうだ。


苦しさの余り硬質化を保てなかったのか、皮膚が元へと戻る。


身体の中でアシュリーナさんがさっき放った何かが荒れ狂っているのだろう。


「魔王サ、マ」


パンッ!


と音を立ててその身が弾け飛び、肉片や骨、そして大量の血が辺りに飛んだ。


それとほぼ同時に濃厚な甘く豊潤な香りが辺りへと漂う。


鑑定にあったアレですか。


「コレですね」


アシュリーナさんは平然と血肉の中へ足を踏み入れ、骨と皮で出来た冠にも似た何か、鶏冠をつまみ上げていた。


ロードが死んだにも関わらず、それは魔力を失っておらず、脈打つかの様に僅かに蠢いていた。


僅かに残っていたゴブリンたちは、ロードの死に呆然としていたけれど、トロンとした表情になるとその肉片へと殺到した。


肉片を拾っては武者振り付き、地面に流れた血を舐め取り始める。


「醜いな。

火葬陣!」


クラリウスさんの放った魔法が肉片ごと恍惚の表情を浮かべたゴブリンたちを焼き尽くし、辺りに芳しい香りが広がって行く。


アシュリーナさんはその炎の中にポイッと無造作に鶏冠を投げ込んでしまった。


「なっ?!火は不味いぞ!」


ラルが一人焦った様に声を上げ、皆がその顔を見つめた。


ラルは鼻を引く付かせながら、


「焼けたロードの肉の匂いが広がる」


とやや抑えた口調で言った。


もしかしたら漂う匂いに耐えているのかも知れない。


「あっマズっ。風よ!」 


主の死すらも忘れさせ、敵前であるにも関わらず魅せられた様に貪り食うゴブリンたち、その姿を見て気付くべきだった。


その血肉を焼くのは、魔物の多数生息する森の近くで焼肉パーティーをする様なものだ。


風を動かして匂いが森には向かわないようにしつつ散らしていると、クラリウスさんとアシュリーナさんも風魔法を使って手伝ってくれた。


こちらのゴブリンは殲滅出来たし、早く戻って町の様子を確認しに行かないとね。

ゴブリンロード亜種のレベルを入れ忘れていたので加筆しました(9月15日)

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