その13 金剛
本日二度目の更新です(12話を0時過ぎに更新しています)
その13
資料が別館に届くまで、雑談タイムになった。
「アシュリーナさんとクラリウスさんは何級冒険者なんですか?」
話のきっかけには丁度良いかな?と位階を聞いてみる。
「わたくしは最近、ディーア神殿長の推薦と試験を受けてB級冒険者となりました」
「俺はまだC級冒険者だけどな」
アシュリーナさんとクラリウスさんはサラッと答えてくれた。
「凄いですね。
もし失礼でなければ何故冒険者になったのか、教えていただけませんか?」
ダメ元で気になった事を聞いてみる。
王侯貴族もレベル上げの為に魔物討伐なんかをする事はあるし、下級貴族なら跡取り以外は冒険者になっても不思議じゃない。
でもこれだけのお屋敷に住む辺境伯令嬢が、町中を護衛もなく歩いている上にB級冒険者なんて普通じゃ考えられない。
いや、辺境伯家だからこそあり得るのかな?
辺境は魔境や隣国との国境など、他の領地よりも危険な地域な訳で。
にしてもB級と言うのは凄すぎるけど。
「俺の家は代々騎士を排出している子爵家なんだがな、幼い頃から剣や槍の訓練をしても全くスキルが芽生えないんだ」
あー、たまにいるんだよね。
壊滅的に生まれや目指す職業とスキルの相性が悪い人が。
てか、やっぱりこの人も貴族だったのか。
まぁ、何となくそんな気はしていたけどもね。
貴族街も歩き慣れていたし、品の良さはどうしても隠せないというかね?
「剣や槍を振れば杖戦闘が芽生え、気配感知を覚えようとすれば魔力感知を覚えでね」
何だろう。
中々スキルが芽生えない人からしたら羨ましい限りなのに、悲惨だなと思えてしまう。
「シルドマン家の長男で騎士になれないというのは絶望的な事でな。
せめて汎用武器戦闘でも芽生えれば良かったのだが。
それで生まれつき槍術を持ち、剣術や盾術を芽生えさせた次男が跡継ぎに決まり、俺は冒険者になったって訳さ」
この人はまだ剣を諦めていないのだろうね。
じゃなきゃ腰に剣を下げたりしないし。
能力値だけでも剣を振るうことは出来るからね。
「大変でしたね」
それくらいしか言える言葉が見つからなかった。
「まぁ、今じゃ魔法使いとしてはそれなりって所だし、人生なんてこんな物かも知れないなと思うよ」
少し自嘲的な笑みを浮かべる彼を見て、チート種族である私はちょっと申し訳ないような気がした。
ラルは黙って聞いて…いないね。
お菓子をバクバクと夢中で食べていた。
「次はわたくしですね?
わたくしは神々から賜ったギフトの影響が大きいです。
ギフトはスキルと比べてあまり人に言うものではないとされていますから、戦闘に向いたものとだけ申しておきますね」
ギフト、それは神々が人種に与える恩恵だけど、与えられた人を縛り付ける事もある、諸刃の剣みたいな側面がある。
「そしてわたくしは戦い、力を得て来ました。
それは籠の鳥でいるよりも過酷ではありますが、自由の翼を手に入れる事が出来ました」
全然具体的な内容では無かったけど、何となく意味は分かった気がした。
凄くスッキリとしたアシュリーナさんの表情が全てを物語っている気がした。
でも何故かクラリウスさんは微妙な表情を浮かべてアシュリーナさんを見ている。
ん?ラルもお菓子を食べる手を止めて、納得行かないみたいな顔をしている。
そんな2人の様子を気にすることもなく、アシュリーナさんは私達へと視線を向ける。
あー、私達の番ってことかな?
「えっと私達はお二人ほど凄い理由がある訳じゃありません。
小さな村で生まれたのですけど、村を出てこのディーアの町で冒険者となりました。
私は汎用武器戦闘といくつかの属性魔法が使えたので、ギルドに登録するまでも魔物や盗賊を倒す機会があって、レベルやスキルはそこで上がっていきました。
弟は剣と体力系のスキルの最能があったのでって感じです。
生活のためと言うのが一番の理由ですね」
「なるほどな」
「そうでしたか」
二人は一応納得しているみたいだ。
ちょっと嘘が混じってるけど、ほぼ本当の事だ。
普通の村民なら生産系、農業なり畜産、狩猟に薬草術など、何かしら生産系のスキルを得やすいのだけど、私にはそんなもの無いし。
ラルも話を合わせた方が良いと判断したのか、うんうんとお菓子をまた食べつつ頷いている。
私の話が終わった所で、物凄くタイミングよくドアがノックされた。
貴族家の使用人ならその辺の機微は聡いから、話し声が途切れるタイミングを待っていたのかも知れない。
ちなみに魔力感知とかは町中では使っていないので、敵意や殺意でもないと分からない。
「どうぞ」
アシュリーナさんが慣れた様子で答えると、かなり急いだ様子の執事さんが部屋に入ってきた。
「失礼致します!
可及的速やかにお伝えする事がございましてっ!」
「何事ですか?」
かなり冷静な声でアシュリーナさんが問うと、執事さんはハッとした表情を浮かべた後、
「ゴブリンです!
東、西、南の森からゴブリンの大群が町へ迫っています!」
と告げた。
マジですかっ?!
「東西はそれぞれ約2000匹、南は4000匹以上、複数の上位種も確認されています!」
「…父はすでに?」
「はっ、領軍及び騎士団へと迎撃準備を急がせています。
また冒険者ギルドへも緊急招集を命じられました!」
アシュリーナさんの問に執事さんが応えると、
「分かりました。
わたくしも出ます」
と短く告げた。
「ご武運を」
執事さんはそれだけ伝えると、部屋から去っていった。
「クラリウス、貴方はどうされますか?」
アシュリーナさんはパーティーの仲間へと尋ねる。
「行くしかないだろうな。
冒険者ギルドでも緊急招集されているんだろ?
俺は準備が出来ているが、アシュリーナさんはどうだい?」
「ほぼ準備は出来ています。
ですが装備は交換した方が良いかも知れませんね。
少しだけ待っていて下さい」
アシュリーナさんはそう告げた後、
「お二人は冒険者ギルドへ向かって下さいますか?
それぞれの森へ向かった調査隊がどうなったのかも不明な状態です。
冒険者が通常よりも少ない可能性が高く後方支援が出来る人も少ないはずですから」
と私とラルへ声を掛けてきた。
「いいえ、私達もご一緒します」
アシュリーナさんは何かを言おうとしたけど、私が先に口を開いた。
「手柄が欲しい訳じゃありません。
自信過剰な訳でもないです。
対抗する手段がある、だから行く。
それだけです」
強い意志を込めてアシュリーナさんの青い瞳を見詰めると、
「そうですか。
では一緒に行きましょう。
少しだけお待ちくださいね」
と、何故か嬉しそうに微笑んで部屋を出ていった。
アシュリーナさんはほんの数分で戻ってきた。
平民服の上、胸や肩、足などに部分鎧を着けていて、手の甲を覆うサイズの篭手を着けていた。
腰には先程まで付けていなかったベルトポーチを下げている。
「馬車の用意がしてあります。
当家でも馬車馬の中では足の早い馬を用意しましたのでお急ぎ下さい」
アシュリーナさんに促されるように皆で別館の玄関先に止まる馬車に乗り込んだ。
「上位種が目撃されていたそうですが、かなり高位な上位種が率いている可能性がありますね。
ゴブリンリーダーではまず大群を率いるのは無理でしょうから、ジェネラル、いいえ、キングが居るかも知れませんね!」
ウキウキしている様にも見えるのは何故だろう?
私の横ではラルが目を閉じてジッとしている。
クラリウスさんは腰や胸に回したベルトにあるポーション類を確認している。
私も何か良い武器はないかな?と収納魔法内を探した。
ここはやっぱり鈍器かな。
記憶にない武器の中には鈍器がないので、よく使っているメイスを使う事にする。
私の主力は魔法だしね。
クラリウスさんのようなベルトはないけど、ポーチ部分が小さな箱になってるタイプのベルトポーチは以前雑貨屋さんで購入していたのでそれを出すと、各種ポーションを入れてラルに渡した。
「これが初級、こっちが中級、それでこれが上級のポーションね」
ラルに種類や使い方を説明し終わった頃、南門近くに到着した。
辺りは騎士が指示を出し、兵士や平民たちが避難したり武器やポーションを運んだりしていた。
門はまだ半分ほど開かれており、行商人などが慌てて町中に逃げ込んだりしている。
「さあ、行きましょう。
南は4000匹ほどだそうですから、1人当たり1000匹ですね。
上位種は早いもの勝ちと言うことで良いですね」
アシュリーナさんは頬を上気させて口元を少し歪ませつつ、逸る気持ちを抑えられないのかチラチラと熱くてキラキラさせた視線を門へと向けていた。
いや、こいつ何言ってんだ?
思わずそう突っ込みそうなのを堪えていると、悠々と馬車を降り、門から外へ出ていってしまう。
騎士も兵士も一瞬止めようとしたけれど、それが誰であるかを認めると何事も無かったかのように持ち場へと戻ってしまった。
「バーサーカーじゃないといいなぁ」
ボソッと呟きつつ私達も後に続いた。
門の外にも騎士や兵士、冒険者の姿があって、土嚢を積み上げたり、矢筒を運んだりしていた。
アシュリーナさんに目を向けると、年梅の騎士らしき人が何かを納得したらしく大きく頷いて、
「こちらは取り敢えずの防衛線で良い!東西の防衛へ物資と手勢を割くぞ!」
と周りの人々へ声を掛け、皆それを納得した様に動き始めた。
え?そこまでなの?
一緒に行くと言ってしまった少し前の自分を、ちょっとだけ恨めしく思った。
南の森は徒歩で2時間ほどの所にあるので、遠くに何か群れがいる事が分かるくらいゴブリンの大群が近くに迫っていた。
アシュリーナさんはそれを嬉しそうに、もう隠す気もないのか満面の笑みを浮かべて見詰めると、腰に着けたベルトポーチからニョキっと2メートル近い金属製の棍棒を取り出した。
マジックバッグ、ダンジョンや遺跡で複数発見され、その後錬金術師たちがこぞって研究した結果、遺跡やダンジョン産ほど高性能じゃないものの、かなりの量を持ち運べる様になったらしい。
性能によるけど、どちらにしても普通の人が買えるような値段ではないそうだ。
収納魔法の方が盗まれないし、入れられる量も多いけど、スキルは普通自由に芽生えさせたり、思った通りに育てられないから、かなり凄い真道具なのには変わりないね。
棍棒を片手で振るうと、ブンッ!と言う風切音が辺りに響く。
「まいりましょう!!」
「えっ?!」
作戦も何も無く、彼女は棍棒を軽々と振り回しながら土煙を上げて疾走する。
「うふ、うっふっふふ」
と言う楽しそうな声が私達の耳に届く。
慌てて私とラルも後を追うけどグングンと距離を離されていった。
レベル57に上がり敏捷が90近い私が追い付けない。
棍棒を振るう筋力にこの速さ、かなり戦闘に特化したギフトなのだろうけど、飛んでもない代物だ。
冒険者の階位がそのままの実力ではないとリューネさんが言っていたけど、流石は一流と言われるB級冒険者だ。
もっと上がいるってどんだけよと思えてくる。
ちなみにクラリウスさんは早歩きくらいの速度で私達を追いかけて来てた。
ゴブリンの群れは密集していて、そのど真ん中に突っ込んだアシュリーナさんは棍棒を一振りする度に数匹のゴブリンを吹き飛ばしていた。
上位種のゴブリンソードマンが前に出てきて棍棒を剣で受けようとしたけど、その剣ごと砕かれて吹き飛ぶのを見て恐怖すら感じた。
たまに矢を受けたり、木の棍棒で背中を殴られたりしているけど、矢は刺さらずに落ち、棍棒のダメージも通っていない様に見える。
魔力の感じからして身体強化は行っていないのにコレだ。
彼女一人でも殲滅出来るんじゃないかと思ったけど数が数だ。
アシュリーナさんという点の攻撃では、面で動く集団を止められない。
ラルも剣を抜くとアシュリーナさんから見て右翼を、私は左翼を攻撃する事にした。
吹き飛んでくるゴブリンやその粗末な防具が危ないので、それぞれ距離を取りながら。
「貫く氷矢!」
貫く氷槍の劣化版を数十作って撃ち込みつつ、近付いてきたゴブリンをメイスで倒す。
ラルも大剣で難なくゴブリンたちを切り倒し、ゴブリンアーチャーに斬撃を放って仕留めたりしている。
ゴブリンジェネラルを倒してるんだし、普通のゴブリンやちょっとした上位種じゃ勝てないやね。
魔法寄りの私は極力敵を近付けないよう、風や氷、時に閃光で目くらましなんかもして順調に屠って行った。
矢は纏った風や革鎧が防いでくれる。
それにしても切りがない。
少し大技も出しておこうと、仲間を巻き込まない様に位置取りしてから、風と氷の魔法を放った。
「氷刃の竜巻!」
まんまと言えばまんまな名前なんだけど、この手のはイメージしやすい物が良いのだ。
本人がイメージしやすいなら格好良い名前を付けてもいいけどね。
幅10メートルほどの竜巻が生まれ、子供が走るくらいの速さで突き進む。
無数にある氷の刃を忍ばせた竜巻は、次々とゴブリンや上位種達を肉片に変えていった。
「まぁ、素敵な魔法ですね!
えぇ、これはわたくしも負けられません!」
チラリと私の魔法を見たアシュリーナさんは、ただでさえ多数のゴブリンを殺しているのに私の魔法を見て燃えたらしい。
数度の高速バックステップでゴブリンの群れから距離を取り、軽く助走を付けて飛び上がる。
放物線状に高く舞い上がり、高さ20メートルほどに達したところで大きな魔力の流れを感じた。
「大地よ!金剛壁!」
アシュリーナさんの声と共に彼女を守る透明な球体が現れた。
それの直径は6mほどもあり、空中で回転を始めるとそのまま地響きを立て、ゴブリンたちを押しつぶしながら地面へと落ちた。
金剛の玉はそこで動きを終わらせず、回転しながら次々と周りのゴブリンたちを轢き潰して行く。
中にいるアシュリーナさんが動かしているのだろう。
縦横無尽に走り、あっという間に先程以上の惨状…戦果を上げていく。
右に左に動きながら、どんどん奥へと向かっていき、無数のゴブリンの中心でピタリと静止した。
「炸裂っ!金剛針!!」
そんな彼女の声が響くと球体は閃光を放って炸裂し、無数の金剛石を20センチほどの長さの少し太い針、と言っても一番太い部分は1センチ近くあるけど、へと変えて放った。
「ちょっ?!」
ある矢は突き刺さり、体の中で弾け飛ぶ。
ある針は貫通してその後ろにいるゴブリンに突き刺さって同様に炸裂した。
殺傷力が並ではない。
距離はあっても多少はこちらに到達しそうだったので、焦って氷の障壁を自分とラルへ複数作り出した。
でもそれは杞憂だったようで、私達の方に飛んできた金剛の針は向きを変え、ゴブリンへと襲い掛かった。
「彼女、かなり楽しんでるね。
君たちの戦いに興奮したんだろうな」
かなり遅れて辿り着いたクラリウスは、余裕の表情で私達にそう声を掛け、ゴブリンの群れに杖を突きつけた。
「火炎の矢の雨!」
赤々と燃え盛る炎で出来た無数の矢が現れ放たれる。
それはまるで火で出来た雨の様にゴブリン達に降り注ぎ、その数を減らしていった。
まだ戦い始めてそんなに経っていないのに、4000匹以上いたゴブリン達が1000匹以下になっていた。
一撃で数匹、多いと数十から100以上を倒しているので全く不思議でもなんでもないけれど。
ラルやアシュリーナさんの場合近付いた瞬間には肉片に変えてるし、私とクラリウスさんは適度に距離を取りつつ魔法で攻撃しているからね。
それでもたまに近付いてくるゴブリンが居るけど、私はメイスで、クラリウスさんは杖で難なく倒してる。
これだけ敵の数も減ると、本陣も見えて来た。
オークよりも大きな、身長2メートルほどの個体が3体と、より一際巨大な体を持った、もうゴブリンじゃないよね?としか言いようの無い身長4メートルほどの巨体を持った者が居る。
ボロい毛皮のマントを羽織、頭には何かを乗せており、その頭部に乗せた何かから、強い魔力を感じる事ができた。
その巨体こそ今回の原因にして総大将、ゴブリンキングかロードの可能性が高い。
高いと言うかほぼ確実にそうだろうね。
身長2メートルほどの多分ゴブリンジェネラルな連中も、ボロ布やら毛皮を適当に纏い、元々は冒険者たちが持っていたのであろう武器などを手にしている。
巨体のゴブリンは王者である事を証明するかのように、3体のジェネラルに大きな声で何かを命じた。
その時奴等の方から、
「魔王様ノ為ニ!」
と言う西大陸共通語が聞こえたのは、聞き間違いか気の所為なのか。
私達とゴブリンジェネラルの戦いが始まろうとしていた。




