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その12 アシュリーナ・フェンネル・アルディーヴァ

その12


領都ディーアへと戻ってきた私達は、門番さんにラルを弟だと説明した。


勿論道中で変身して装備も消している。


「その姿で良いのか?」


とラルに聞かれなかったら危なかったけど。


ラルは見事嘘発見テストを通過して、仮の身分証明を受け取ると冒険者ギルドへと向かった。


「サラさん、お帰りなさい!

昨日は戻られなかったので心配しておりました。

で、そちらの方は?」


リューネさんが迎え入れてくれたので、田舎から出てきた弟と偶然再会し、冒険者に登録する事になったと説明した。


冒険者登録を行い、ラルはF級冒険者となった。


色々と説明してくれるリューネさんに、「うむ」とか「おお、なるほど」と言葉少なく返事をしている姿がおかしかった。


「それでは依頼に関してですね。

トレントの納品はここでは確認出来ませんから裏へ参りましょう」


と先日買取をしてもらう時に行った解体場や倉庫のあるエリアに向かった。


「こちらにお願いします」

 

リューネさんが指定したエリアにトレントの体と根っこを収納魔法で13体取り出した。


「襲撃されたので少し多いですが」


「このくらいでしたら誤差範囲です。問題ありません」


と言うことで特にお咎めはなかった。


「次いでなのでオークの分も出しますね」


私はオークの牙を全て取り出し、上位種たちの牙もついでに提出した。


「こちらも襲撃があったので少し多いです」


オークは集団生活を送っているものが多く、狩りなども複数体で行う事で知られている。


これはゴブリンやコボルトなども同じだ。

 

「確かに確認いたしました。

上位種がまた出てきたのですね。

大きな巣が近くだったのかも知れません。

こちらは情報の報告としても扱わせて頂きますね」


リューネさんはサラサラと用紙にあれこれ記入して行く。


「あ、報告と言えばですね、実はですね、そのぉ、襲撃を受けた時に岩を武器として使おうと思って収納したら、実は地面にずっと大きな本体がありまして」


「はい、ありまして?」


ちょっと表情が消え始めたリューネさんに戦々恐々としながらも続きを説明した。


「どうにか収納できたんですけど、その影響で地面が崩れてしまいまして…幅が約300メートル、深さは200メートル位だと思うんですけども」


リューネさんはしばし沈黙した後、


「故意ではなかった、と言うことですよね?

そうですよね?」 


と詰め寄ってきた。


「勿論ですよ。わざとあんな事出来ないです」


「でしたら大丈夫です。

稀に火事になったですとか、洞窟が崩壊したですとか、何かしら起こるケースはありますから。

ですがそうですか、大穴ですか」


私以外にもやらかす人はいるらしく、とりあえずそれ以上責められる事はなかった。


依頼は達成した事になり、ちゃんとお金も頂けました!




ラルの仮の身分証明証を門番さんに返した後、まだ昼過ぎだったのでその辺の食堂でご飯を食べる事にした。


ステーキやサラダをバクバクと食べ、「なんだ?この色がついた水は?」とスープを飲んで美味しさに感動したりと、ラルの姿を見物しているだけでも結構楽しかった。


勿論食器の使い方は教えたし、お金に関しても教える予定である。


「ラルたちには物々交換をする事はあった?」


「あぁ、あるな。肉を果物と交換したり、拾った武器を食べ物と交換する事は普通にあった」


「人間、というか大体の人種の世界では物々交換の代わりにお金を使うの」


そう言って金貨や銀貨を見せる。


「今の食事もお金がかかるから、お金を持っていないと食べれないの。

宿や武器、服なんかも同じでね」


「服とはこれのことだな」


革鎧の下に着ている厚手の服を摘んで聞いてきた。


「そうそれね。

服屋は服を作って売り、そのお金で必要な食べ物なんかを買う。

食べ物を売った人はそのお金で服や必要な物を買う。

人種はそうやって物を売ったり買ったりして生きているの」


「ふむ」


「物を売るだけじゃなくてね、冒険者だと依頼された魔物を狩り、必要な部位を売ったりしてご飯を食べているし、兵士なら町を守ったりしてお金を貰ってる。

みんな何かしら働いてお金を得て、それで生活をしているの」


「ふむ。なるほどな。

肉も果実も腐るが、これは腐らぬだろう?

ならばそのお金とやらの方が良いのかもしれんな。

狩りを出来ずとも野菜や果実を作ってお金で買える。

お金なら貯めておく事も容易だろうしな」


ちなみに腐った肉も好きらしいが、酷い物は流石に食べないらしい。


「お金がどれだけ必要かは品物やお店で違うから、そこは気を付けないといけないの。

同じ物でもお店で違うことがあるし」


「同じ肉でも木の実十個で交換してくれるヤツもいれば、二十必要なヤツもいた。

そういう事か?」


「見た目が同じでも質が違う事もあるからちょっと違うけど、似たようなものね」


なんて会話をしながらお金を小袋に入れて渡し、そこから食事代を払わた。


よし、今日は特訓だ!


と言うことでその後もラルに必要そうな物、服や下着、その他雑貨などを買いに行き、ついでに野菜や果物、調理済みの串焼きやスープ、固いパンや普通のパンなど色々買い込み収納した。


ラルはとても嬉しそうに自分の荷物は自分で持つと言い出し、大きな背負い袋に詰め込んでいた。


ラルは思った以上に頭が良いよね。


私は上手く説明出来なかったけど、その後の店とのやり取りで理解したみたいだし。


自分たちが冒険者で、それでお金を稼いで生きて行く事も理解した様だった。


厳密には私の眷属なんだけども。


踊る白鳥亭に行き、事情を説明したら隣の部屋が空いているそうで、そこも借りる事にした。


「姉が世話になっている。

弟のラルだ。よろしく頼むぞ」


とか挨拶してたな。

 

短期間でかなり稼いでいるので、上位貴族が泊まるような超高級宿でもない限り余裕だ。


それにしても天女について、伝承とやらもちゃんと調べないといけない気がして来た。


私以外の天人だとは思うけど、何かしらのヒントにはなるかも知れない。


天人は神託を神々から受けて働く事がある。


その手伝いで一緒に来たなんて可能性も否定出来ないからね。


ラルには人里では変身を解かないこと、決して人間を襲わない事、その辺にいる動物も買い主と言うか持ち主が居るので、勝手に襲ったり食べたりしない事を命じた。


「うむ、了解した」


そう言って深々と頷いた。


「襲われた時は反撃してもいいからね?」


「出来るだけ殺さぬ様にであろう?」


うん、やっぱりラルは頭がいいね。




翌朝朝食を終えると、私とラルは冒険者ギルドに向かった。


ラルの昇格を目指す目的もあるけれど、その前に何処で伝承を調べられるのか?を知っておく必要がある。


情報と言う意味では一番集まってそうだし、魔封じの森その物に何かがありそうだしその辺も知りたいよね。


ギルドの中に入ると、一人だけキラキラと輝いていると錯覚する位、纏っている空気が他の冒険者やギルド職員とは違う人がいた。


アシュリーナ・フェンネル・アルディーヴァ。


そう、彼女も冒険者だったっけ。


私に冒険者として生きるならば、甘さを捨てて線引きが出来るようになれと教えてくれた人だ。


「おはよう御座います」


と私から声をかけると、パッと花が咲いた様な笑みを浮かべて、


「おはよう御座います、サラ様。

これから依頼ですか?」


と応えてくれた。


ちょっと微妙な別れ方だったので、冷たくされたらどうしようと思っていたのだ。


「依頼もそうなのですけど、実は天女の伝承と魔封じの森について少し調べたいと思いまして」


私がそう説明すると、


「まぁ、それでしたら良いところがあります!今からお時間があるようでしたら参りませんか?」


と誘われた。


「勿論です!

あ、弟も一緒なのですがよろしいですか?」


とラルを紹介する。


「弟のラルだ。宜しく頼む」


ラルはそれだけ言うと、アシュリーナさんに対して何となく身構えている。


「ええ、構いません。

どうぞ一緒にいらして下さいませ。

あ、仲間に今日は行けないと伝えて参りますのでお待ちくださいね」


と言って酒場の方へ向かっていった。


いや、仕事があるなら後日でもと思ったけど、本人がその気ならまぁいっかと止めに行くのはやめといた。


アシュリーナさんは酒場の出入り口近くにいた革鎧姿の青年に声を掛けて何やら話している。


腰に片手剣と小剣を下げ、手には長めの杖を持っていた。


魔法戦士なのかな?


青年はやれやれといった仕草をした後、彼女と一緒に私達の所へとやって来た。


「こちら、パーティーを組んでおりますクラリウスさんです」


「ご紹介に預かりました、クラリウス・シルドマンです。

宜しければ私もご一緒して構いませんか?」 


アシュリーナさんが紹介してくれて、クラリウスさんが物語に出てくる騎士みたいな礼をした。


「ええ、こちらこそ宜しくお願いします。

私はD級冒険者のサラ、こちらは弟でF級冒険者のラルです」


「弟のラルだ。宜しく頼む」


おいおい、さっきアシュリーナさんにしたのと同じ挨拶じゃんか。


そんな感じでアシュリーナさんを先頭にして、私達は良い所へと案内して貰うのだった。


ラルが私の横に立ち、チラッとアシュリーナさんを見て、


「あの女出来るぞ。気をつけろ」


とつぶやいてすぐに離れた。


上級冒険者なのかな?


敵意や害意は感じないので、余り気にすることなく後に続いた。


アシュリーナさんは町の中央広場を越えて、領都の南側にある高級住宅街へと足を踏み入れた。


平然とその後に続くクラリウスさんとラルだけど、私はちょっとドキドキしてきた。


高級住宅街は外周部が大商人や好事家などの屋敷があり、中央部には貴族が住んでいる地域があるのだ。


あちこちに巡回する兵士の姿も見えるけど、遠目にでもアシュリーナさんを確認すると、スッと目を反らして行ってしまうのだ。


「あの、アシュリーナさん?

ここ貴族街ですよね?」


何か面倒事が嫌だし、ちょっと怖くなって来てそう尋ねると、


「貴族と言いましても騎士爵家や男爵家ばかりですし、子爵家も3軒しかありませんから」


「いや、それ貴族じゃないですか」


「細かい事を気にしたら負けですよ〜」


なんて会話を続ける事になった。


クラリウスさんはそんな私達のやり取りを苦笑いを浮かべて見ていた。


そうして辿り着いたのは、お屋敷と言うよりはほぼお城だった。


石壁と鉄柵で囲まれていて、門は開かれていて馬車2台が通れるほどに道幅が広い。

 

どう見ても4階以上はあるその建物は、貴族街でも群を抜いて広く大きく高かった。


その道も門からお城までは200メートルくらいあり、敷地内にはお城の他にいくつかの大きな建物が建っているのが分かる。


「ここです。

さ、遠慮なさらず」


アシュリーナさんは平然と私達を招き入れる。

 

門の左右には槍を持った兵士が立っていたけれど、アシュリーナさんを見ると敬礼をして再び周辺を警戒し始めた。


「あのぉ、ここはもしや」


「えぇ、この屋敷の主の名はアシュランド・ソレル・アルディーヴァ、つまり辺境伯家ですね」


この領地の最高権力者じゃん。


国で見ても侯爵とほぼ同列な有力貴族じゃん。


ないわー。


「あれ?アルディーヴァって?」


「えぇ、アシュランドはわたくしの父ですね。

わたくしが長女なのですよ」


貴族と関わることは無いと、あってももっと位階が上がってからだと思っていたのに、F級の段階で知り合ってたよ。


「この町でもっとも情報が集まる場所、それは冒険者ギルドでも商業ギルドでも図書館や神殿ですらありません。

ここ、ですよ」


悪戯が成功した子供の様に微笑みながら、アシュリーナさんは屋敷へと私達を案内してくれた。


玄関の扉も広く、何人かの使用人らしき人々が迎えてくれた。


執事らしき人が来て、アシュリーナさんが軽く説明をすると、


「それではこちらの応接室でご覧になりますか?

それとも別館の方へお持ちいたしますか?」


と尋ねられた。


「そうね、別館にお願いします」


アシュリーナさんはそう告げると、私達を連れて玄関を出て、屋敷沿いの道を歩く。


「わたくしは今、この屋敷ではなく別館で暮しているのです」


と説明してくれた。


「応接室でも構いませんか、別館の方が気楽に過ごせて良いかと思いますし」


確かに。


別館がどんな所なのか分からないけれど、大貴族の本宅よりはずっと気楽に違いない。


「こちらになります」


そこは先程歩いて来た貴族街の下手な屋敷よりも大きく立派だった。


屋根付きの渡り廊下で本館と繋がっているけど、本宅内を平民の部外者が歩いて通るというのもちょっと問題があるだろうし、正直外を回ってくれて気が楽だった。


別館の玄関もホール状になっていて、やはり使用人が複数いる。


「お帰りなさいませ、お嬢様。

お客様方もよくぞいらっしゃいました。

ささ、こちらへどうぞ」


と50過ぎの女性に案内されてホール近くにある一室へと案内された。


中は華美な装飾は殆ど無いけれど、壁にはそれぞれ剣や槍にメイスなどが飾られていてた。


部屋の中央には大きな長方形のテーブルが置かれていて、その上に花を生けたシンプルなデザインの花瓶があった。


そのテーブルを囲むように長い面に大きなソファが2つ、短い面に椅子が2つ置かれている。


「うぅむ、何れも中々の逸品であるな」


ラルが壁に掛かった武器をシゲシゲと見ては楽しそうにしている。


「さぁどうぞお掛けください」


アシュリーナさんに言われて私とラルは壁際のソファへ、クラリウスさんは窓際のソファへと座った。


部屋の入り口まで案内してくれた女性は、一旦姿を消すとすぐにカートを押して戻ってきた。


お茶やお菓子を用意してくれたらしい。


「作法などは気になさらないで召し上がって下さいね。

わたくしも冒険者ですし、この別館では誰も何も申しませんから」


アシュリーナさんがそう言ってくれたので、安心してラルにも食べさせる事が出来る。


本館だったら何か言われるの?!とも思ったけど気にするのはやめた。


ちなみに私は礼儀作法を多少習った事があるので、貴族の本格的なお茶会ならともかく、内々のお茶くらいなら余裕だ。


「ありがとうございます。

頂きます」


私は有り難くお茶とお菓子を美味しく頂くことにした。


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