【13:魔力が無いのはほぼ死人】
《Day4朝刻》
馬車に揺られている。
昨日は結局、ローレンは来なかった。
後で謝られたが大丈夫だと言っておいた。
後でいろんな毒魔法を試したりして楽しんだというのもあるし、訓練所にあった大量の綿袋を木っ端微塵にしたり、どろどろに溶かしてしまったのもあってこちらも謝った。
学園までは遠く、馬車でも四時間はかかるらしいので試験の五時間前には家を出ていた。
ちなみに朝食は今、馬車に乗りながらサンドイッチを口にしている。
布で綺麗に包まれたサンドイッチは卵(この世界では魔物の卵)、レタス(シャキシャキ食感の薬草)、キュウリ(大きなウリのような野草)の三つの具材が入っている。
どれも一級品らしく、貧相ながらも豪華な食事という向こうでは無かった日常があった。
ちなみに馬ではなくカヴァロという典型的な魔物らしい。
屋根付きの馬車、森の中を走る。
風がこちらに向かってくる。
馬車の車輪が石を踏み、上下に揺れる。
涼しい。
そんなことを思いながら今までのことを整理していた。
まず一日目。
星狼というとんでもな魔物と出会い、すぐに殺された。一回目は泉に自分から入ってしまったような気がする。二回目は粘着物質と星狼の連携攻撃を勝手に受けて死んで、三回目は普通に生きたんだっけな。
星狼と会わないことが生きることの条件だったと言えると思う。銀髪を助けず、その場に鉢合わせしないように動いて薬草を集めている子を手伝い、魔物に襲われないようにお礼という名目で泊めてもらう。
よく考えたら俺めっちゃグッジョブじゃね?本当にギリギリセーフってところだったんだな。
二日目。
どうやらギリギリだったようだが助かったのには変わりはない。戦えない自分に粘着物質を倒せる力はないので誰かが変わりに倒してくれたと思う方が妥当だろう。
一生見つからない気もするが、もしいた時はお礼を言いたいと思った。
自称Aだと思っていたやつは本当にAであのキャラは演技だということが発覚した。めっちゃいいやつだった。多分この辺りの食い違いがあると今後の敵になっていくのか。やはり運命とは素晴らしいな。
三日目。
これは昨日だ。これと無く何も無かった。
ボールとウォール、それから分散させたり溶かしたりする毒魔法を覚えた。どちらかと言うとそれくらいしか覚えていない。合格できるか不安しかない。
あと、機械のない世界かと思っていたのだが案外機械の発展している世界だった。向こうよりも魔法があるため使いやすいのではないかと推測している。
四日目の今日。
順調に行き過ぎてて逆に怖いです。何時か屋敷が焼かれるのではないかと考えているほどには心配です。
朝も少し練習して洗濯物を洗ったり乾かしたりという細かい調節ができるようになりました。
ちょっぴり進化したと思います。
で、これを踏まえて考えてみると一日目に見捨てた銀髪のことが少々気にかかる。
元々気が強そうな性格だったので俺には合わない気がするが、ヒロイン候補にはもってこいな感じがする。
まだまだハーレムするには人数が足りないし、せっかくハーレムを作るなら人数は多くないとね。
そう言えばあの銀髪も初心者と言っていたような気がするが、だとすると学園に通ったりするのだろうか。
A……レイの性格で考えるのであれば自分の金を使ってまでも生かせそうな気がするんだよな。
俺にそう思わせるほどの何かがレイには存在してるんだよな。
ほんと考えていることが俺と違いすぎて付いていくにも付いていけないよ。
本当に分からないなぁ。
森を抜けて、町を馬車が走る。
石畳を踏んで左右に縦に揺れる。
ガタゴトガタゴト
そういえばと思い、持ち物欄を見て図鑑を取り出す。
自分の頭の中で開いただけなので周りからは変な感じに思われているだろうが、幸いなことに、話に夢中でこちらを見ていない。
……スキル図鑑と一日目の二回目でふざけて作った謎の個人情報図鑑しか残っていなかった。
あと、2か3冊ぐらいはあったはずなのだがどこへ消えたのだろうか。
金色のボタンの袋や銀色のボタンのついた袋を探ってみるが見当たらない。
要らなくなったから消えたとか……だろうか。
とりあえず残っていたスキル図鑑を確認した。
○スキル図鑑
【首吊り】
【爪斬】
【蟲毒】
【蟲召喚】
【毒】
【粘着】
【炎火】
【調理】
【消化】
見て分かるとおり、手に入れた順番になっているようだ。
普通の人は一つしか持っていないのだが、稀に数多く持っている人がいるらしく見付かれば速攻で研究所行きらしい。恐ろしいことこの上ない。
自分の試した技に毒魔法が多いので自分のスキルは【毒】ということにした。
ちなみに回復魔法はローレンから馬車に乗ってから少し教わった。
切り傷や痛みなど、大抵のものなら治せるようになった。
それだけ出来てもレベルは相も変わらず1で、ステータスは全て3である。
レベルと強さは比例しないということなのだろうか。
自分が強いかもまだ分からないのだが。
ぐらりと馬車が揺れる。
右へと曲がり、本格的に会場の方に行っているようだ。
王都の右側にはランク付け会場が存在するのだがそのさらに右奥にある校舎を目指している。
人が多く、どんな方でも受け入れるという会場は今日も多くの人で賑わっている。
妖精族のお嬢さまや仮面を付けた顔無族の執事がいるところを見ると本当に誰でも受け入れられているようだ。
目の前に大きな校舎が見える。
これからここで勉強するんだなと受かってもいないのに受かった気分になってしまう。
なるべく静かに穏便に過ごせるようにしなければーー
「っ!どっ、泥棒よ!誰か捕まえて!」
通行人がいきなり声を上げる。
馬車からは見えないがかなり前の方から聞こえてくる。
人混みに混ざって走って逃げる奴がいたので思わず魔法を発動する。
泥棒(仮)と目が合った。
○
(これでしばらくの間食料は大丈夫だ。)
金持ち女のバックを掴みとり逃走した俺は、人を避けながら走っていた。
昔から逃げ足だけは速かったので今日もいつも通りうまく行きそうだった。
(待ってろよ、ナス。)
ナスタシア、病気にかかっている妹だ。
何故か視線を感じた。
身震いをして周りを見渡す。
確かにこちらを見ているがそのような視線ではない。
もっと、殺そうとしているようなーー
カヴァロの引っ張る車体に乗っている男だ。
あれを所有しているものは貴族や王族のみだ。
相当高い地位にいてこちらを哀れんでいるのだろうか。
上から目線でいつもご苦労なこったと思う。
その視線をみた瞬間とてつもない恐怖に襲われる。
意味がわからない。
意味がわからないのに恐怖に襲われて足の力が抜け、バタりと倒れる。
「あヒッ、がっ。」
自分の喉から声にならない音が溢れ出る。
身体の違和感と心の恐怖を恐れて気絶しそうになる。
近くにいた人に肩を叩かれてようやく普通に戻った。
「返しなよ。そんなことしても意味無いよ?」
「……。」
いつの間にかあの視線は怖くなくなった。
でも、恐怖が無くなった訳では無い。
目の前のものに恐怖を抱いてしまったのだ。
短髪で青の混じった黒髪、青のアイラインが入った目の前に。
黒ジャージの姿に。
思わず駆け出した。
荷物をその目の前に渡して速攻で逃げた。
その時の事は記憶が曖昧だ。
○
「ーーという訳で僕も良ければ乗せていってくれませんか?」
「いいんじゃないか。」
「ちょっと、大丈夫なの?仮にも知らない人でしょ。」
「まぁ、危害はないだろう。」
「わー、ありがとうございます。ヴィオラさん。」
「どういたしまして。ステリア。」
「もー、私はしらないんだからね。」
ローレンも文句を言いながらも了承してくれる。
彼はステリアと言うらしい。
俺と同じで試験を受けに来た男だ。
初めは服もロゴは少し違っていたがほとんど同じなので分身かなにかかと思ったが、髪の毛と目の色は俺と同じような赤ではなく黒青だし、青のアイラインがくっきりと見える。
俺とは大違いであった。
「暇だったので気まぐれで入ってみよっかな〜っていうゆるーい感じだよ。」
「あぁ、そうなのか。実は俺もなんだ。」
「お揃いですね。ヴィオラさん。」
野郎のはずなのに妙な胸騒ぎがするな……。
……したことがないからわからないがこれが恋なのか!
なるほどなるほど……いやいやまずいだろ。
ガタゴトガタゴト
揺れるにつれて会話も弾む。
学園につく頃にはすっかり仲良し(当社比)になった。
「いや、まじ俺何度も死んでさぁ!ブフっ。」
「マジか!ヤベェな。イヒヒっ。」
二人で今の状況を話し合いながら笑う。
「僕なんか起きたらいきなり悪魔王ですよ!ヒヒヒっ。」
「ぶハッ、!なにそれめっちゃ笑うわ。」
「でしょ、イヒッ。」
ケタケタと笑いながら二人で話す。
学園に着いた。
図鑑が消え去った理由?大人の事情ですよ。
ステリア可愛いでしょう?ちなみにちゃんとした男の子ですよ。後で男の娘になるフラグ無いので安心して下さい。
フラグ建てるのたのちい
今度から土曜投稿とかそんな感じになるかもしれん……ごめんなさい。
ー作者の日記ー
ステリアとヴィオラの衣装が細かい装飾の説明を抜くと黒のジャージとしか表記することが出来ないのがここ一番の悩み。
ヴィオラは黒ジャージで、左胸に「O」って書いてある。数字じゃなくてローマ字の方。他に混ざってる色で言うなら白と藍色。
ステリアは黒ジャージで、左胸に「C」って書いてある。もちろんローマ字。他の色は白と青、それから紫。
意外と衣装に差があるんだけどなかなか違いが表せないからどうしても黒ジャージっていう表記の仕方になってしまう。




