024 ピストンVS.リブラ
間合いを取り、離れた場所でピストン=セクスが構えを取る。
手に持つ獲物は一本の長剣。
予想はしていたが、彼もやはり剣士らしい。
自分で蒔いた種とは言え、正直この展開は予想していなかった。ピストン=セクスを泳がせるとは言っても、それは部下を使った監視という意味でだ。
私自身が、此処まで彼と関わる気は毛頭なかった、
――筈だった。
「……フッ」
剣を握り締めたまま、まだか、まだかと目をギラギラと輝かせる彼を見ていると、思わず笑みが零れてしまう。
セクス家は冠英貴族。
ペタン帝国が先代皇帝ツルリッピーナ三世より先の大戦で多く活躍した貴族へと賜れる称号を得た家である。
冠英貴族と名乗れる家は、帝国には四家しか存在しない。
彼等の事を王国では畏怖を持って四大武尊と呼称している。
百年前の事だ。
だが、その精神は未だ生きている様だな。
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[ピストン=セクス LV.20]
【種族:人間】【クラス:魔剣士】
総戦力:746
生命力:180/180
魔法力:80/80
攻撃力:134
防御力:122
素早さ:105
賢 さ:93
幸 運:32
スキル:剣術LV.2 性魔術LV.1 火属性魔術LV.1
魔法剣LV.1 身体強化Lv.1 解析LV.1
術技:【性】リリス 【火】ファイアー・ボール
【弱点……なし】
【脅威……性魔術】
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成程――これは凄い。
総戦力700越えか。
冒険者にすら成っていない段階で、このステータスは異常だ。
上位レアリティの加護持ちか……?
鑑定石では調べる事の出来なかった加護?
ステータス偽装のスキルというものは存在するが、私の様な解析LV.MAXの者には通用しない筈。
ならば、この総戦力こそが彼の真の実力と言う事なのだろう。
冒険者ランクには、それぞれ指標となる総戦力がある。
Sランク……総戦力2000~
Aランク……総戦力1000~
Bランク……総戦力500~
Cランク……総戦力300~
Dランク……総戦力100~
Eランク……総戦力指定無し。
――規定総戦力を満たしていなければ、それまでどの様な功績があろうともランクアップをする事が出来ない。これは自身の身の丈以上のクエストを受けぬ様、ギルド本部が設定した絶対的なルールであった。
どうやら目の前の彼は、最初からBランク相当の力を有しているらしい。Cランクの冒険者君があんなにも推薦する理由が分かるというものだ。
これは――前代未聞だよ。
「楽しませてくれるだろうか……」
ポツリと、思わず声が漏れる。
……ふふ。何だ。
案外、私も期待してしまっているのか。
だとしたら私達は――
「……似た物同士だな」
「!」
先に動いたのはピストン=セクス。
外野で見ていた冒険者――ガステロ君が「開始の合図は!?」と狼狽えていたが、構わない。
仕切り直しなんて野暮だろう。
「――待ちきれないのは、此方も一緒だッ!!」
「ぬッ!?」
横薙ぎに振るわれた剣を、抜いた大剣の刃で受け止める。
「片手!?」
「驚いたかい!?」
女だてらと見縊って貰っては困る。
此方の攻撃力の数値は500を越えているのだから、この様な芸当は当たり前の様に出来るというもの!
男の細腕など、握り潰せる膂力を持っている。
「ハァ!!」
叫び、片手で大剣を振るい、ピストン=セクスの身体を吹き飛ばす。宙を舞う彼の肉体は木の葉よりも軽かった。
……後ろへと飛んだか。体捌きは中々だな。
「ん?」
鼻腔を擽るは火の煙臭。
視線を落とすと、私の大剣から火の手が上がっていた。
腕へと昇って来ぬように、振って剣風で火を掻き消す。
「魔法剣、か」
いつの間に使用したのだろう。
ピストン=セクスの剣は赤熱し、その刀身を紅くさせていた。
解析で見た。
確か彼は、火属性のファイアー・ボールを扱えるんだったな。
キンダーバインを駆除出来たのも、アレあっての事だろう。
「中々に多芸、だなッ!」
「くッ……!」
お返しとばかりに横へと振った大剣を、ピストンは上体を後ろに反らす事で回避する。
倍以上のステータス差がありながら、未だに勝負の体を成しているのは彼のその基礎技術の高さ故だろう。
無論、私が遊んでいるからという理由もあるが――それだけが原因では決してない。
質の良い、修練を積んできたのだろう。
才能だけではない。
幼少より長い年月を掛けて培ってきた、努力の力を彼からは感じる。
だからつい――私も遊んでしまうのだ。
もっと戦いたい。
もっと見ていたい。
もっと――もっと、と。
「――」
だが、何事にも終わりと言うものはある。
何十回目の攻防かは覚えていない。
斬って、払って、突いて。
蹴って、殴って、飛んだ時。
額に汗しながら肩で息をしたピストン=セクスは、私へと向けたその剣を静かに下へ降ろすのだった。
「……もう終わりか?」
口から出たのは、そんな言葉だ。
もう終わりも何も無いだろう。
そもそものステータス差を鑑みれば、彼は十分に良く戦った。
これ以上は無い健闘だ。
煽る必要など何処にも無い。
けれど――何故だろうか。
私は期待してしまっている。
ピストン=セクスという男なら、或いは――まだ、と。
……我ながら、罪深い女だ。
自嘲気味に笑いながら、試験を終えようとしたその時だ。
「……どうやら、本気を出さないと駄目な様だな」
そんな意味有り気な事を、ピストン=セクスが口にした。
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