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閑話 冒険者ギルドいたモブだよ

評価ありがとうございます。


 

 ワシはドルン。

 名前は鈍重そうだが実際は速度重視の戦いをしていた斥候役をしていたが今はギルドで、のんびりと後輩達を眺めて楽しむのが密かな楽しみだったりする。

 体形が痩せているために名前と合ってないとよく仲間からからかわれたものだ。



 そんな日々を楽しんでいるある日。

 一人の若者がギルドに入ってきた。

 目立つ白い髪を持った男だがあれは一般人だろう。

 装備も防具も無く服もその辺の奴が着ているようなものだし。


 また一人、初心者が冒険者の門を叩いたかとニヤニヤ見ているとどうやら地図を買ったらしい。

 うむ、良くわかっているな!

 初心者は都市の周辺で薬草や小動物を狙っているが時々、迷子になる者がいる。

 酷いときはそのまま死亡するが大抵はボロボロになって帰ってきた後、真っ先に地図を買っていく。

 …かくいうワシも迷子になって酷い目あった過去があったりするのだが…。


 さて、コイツは中々わかっているが実技はどうだ?

 先輩達に揉まれて危ないことをしないよう堅実にやっていけばいいがな。

 ん?

 若者が大きい声でなんか言っとるな。


「え?

 そりゃ、ギルドの創設者を裏切るような組織に所属したいわけないだろ?」


 コイツなに言ってるんだ?

 創設者を裏切った??

 言ってる意味が分からなかったが、コイツがワシらをバカにしてるということは分かった。

 いっちょ、お灸を据えてやろうと席を立ちかけると近くにいたゴルザという冒険者が向かっていった。



 ゴルザはこのギルドでも高位のランクを持っており、その筋肉から放たれる剣技は中々見ごたえがある。

 少し前に決闘を行った際には一撃で相手を防具ごと真っ二つに叩き潰したという逸話を持っているが、乱暴ですぐに力で相手を屈服させようとする面もあり取り巻き以外は関わろうとしない厄介者だ。

 確か、三人衆の力のエルドを神聖視していてそれをバカにすると怒り狂うらしい。

 ここに来たのも、前にいたところでそれをバカにされ貴族を傷つけたとか言っとったな。

 真っ二つに叩き潰したのがその貴族という噂だが実際はただの箔付けだろう。


 しかし、ゴルザが出てくるとあの若者は殺されるかもしれんな…。

 懲らしめられるのはいい気味ではあるがこっちに飛び火しないだろうな?

 あ、あの若者三人衆をバカにしたぞ!?

 不味い! ゴルザがキレる!!

 …あぁ、間に合わなかったか。


 若者がカウンターから離れゴルザに背を向けた途端、ゴルザは背負っていた剣を振り上げ背後から一気に振り下ろした。

 振り下ろされた剣が若者の頭に到達し真っ二つにしたと思ったら、剣は若者をすり抜けた? いや、そう見えただけか。

 剣がすり抜けたように見えたと思ったら剣は急に軌道がズレて、ワシの使っていたテーブルを粉砕し地面にめり込んで止まった。

 これには流石のゴルザも何が起きたのかわからずポカンと惚けて自分の剣を見ていた。


 動いた若者の動作はとても緩やかだった…。

 ごく自然に近寄り、友人に肩を組むような自然さを醸し出しゴルザの頭を片手で支えるとその頭を一気に床に叩きつけた。


 ワシはそれを見てしまった……。

 叩きつけた衝撃でふわりと上着が捲れた背中を…。

 多分、位置的にワシしか見てないだろう…

 彼の背中の肩甲骨の辺りに白い刺青があった。

 それは創設期のギルドマークであり堕ちた英雄アグニのシンボルでもあった…。


 あり得ない事だ!

 なぜなら、その刺青は彫れないのだ…

 刺青として彫れば数分で形が崩れ、建物に描くと垂れない塗料が垂れてグチャグチャになった。

 アグニの死後、マークが付いていた建物は全て塵となって崩れた。

 ギルド本部も細かな塵になったとは吟遊詩人の唄の有名な演目だ。

 年配のものほど詳しく知っており、ワシも初代の英雄譚に憧れていたくちだったりする。

 なぜ、ありえない刺青を持った者がいるのかわからないがワシの勘が言っている…!

 何かがこの若者によって変わると!

 ワシはもしかして歴史の転換期を見ているんじゃないだろうか…?



 刺青について考えているとゴルザの取り巻きが剣を抜いて彼を囲んでいた。

 少しの問答をして取り巻きが攻勢に出ようとした時、彼を中心に一陣の風がふいた。

 少なくともワシにはそう感じられた。


 その風は死だった…。


 風が吹き抜けた後、ワシは何通りもの死に方を幻視した。

 それは現役時代に一度だけ忍び込んだ、真っ暗山という遺跡で感じたものと同じだった。

 一切の明かりの無い遺跡へ一歩踏み入れた瞬間、同じように吹き抜けた風。

 思えばあれでワシは冒険が怖くなり現役を退いたんだったな…。

 まさか、同じようなものをまた味わうとは思わなかったが…。

 ワシは一度味わっていたから思考する現実逃避が出来るが他の者はそうはいかんだろう…

 その証拠に皆、立ったまま漏らし涎を垂らしていた。

 殺気を間近で浴びた取り巻きどもは…禿げてるな。

 耐えきれない恐怖で毛根が死んだか?


 あれは関わってはいかん。

 知り合いにだけでもそう伝えておこう。


 お?

 若者が戻ってきたぞ!?

 まさか、気が変わって皆殺しにでもするつもりかっ!?

 

ん?

 依頼票を剥がしてカウンターに持って行ったな…

 おい、止めてやれ!

 受付はすでに死に体だ…

 あ、ビンタした!

 いくら起こすためでも若い娘にビンタは無いぞ…。

 無理やり起こして依頼を受諾させたか…。

 なんて鬼畜なことをしとるんだ。


 …さて、ワシも周りを起こすとしようかの。

 ん?

 ズボンが冷たい?

 さっきの騒ぎで酒でもかかったかの。


 ……

 いやいやいや!

 そんなバカなっ!?!?

 ま、股が濡れとるだと!?

 いや! きっと酒だ!!

 間違いないわ!


 …あ、お尻の辺りが気持ち悪い…

 あれ?

 これ大きいのもやっちゃった?






 その日、ギルドは多くのすすり泣く声と汚物の匂いとズボンを泣きながら洗う冒険者で溢れたそうだ。

 この日からこのギルドでは一つの不文律が生まれた。

『知らない人間に絡んだバカを見つけたら周りが全力で止めること。

 ※腕一本までなら切り落としても可。』

ギルドはこの不文律により初心者が入りやすいギルドとして多くのルーキーを輩出するのだった。

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