8.違和感
あの日感じた違和感は気の所為では無かった。小さな綻びは、気付かぬうちに楓李を蝕んでいった。
「ーーり?...。おい、楓李!」
「...っ...何?」
「最近やけにボーッとしてんな。大丈夫か?」
「別に何ともないけど。」
いつから呼びかけていたのだろうか。気がつくと目の前に御影がいた。楓李は距離を取るように一歩後ろへ下がった。
「...で?何だっけ?」
「だから、最近任務の数増えてないかって聞いてんの。」
「あぁ、確かにそうかも...。」
前までは第三執行課としての出動件数は月に4回程だったが、今では他課が対応しきれない任務も代わっているため週に3回程任務に出ている。
「まぁ...稼げるからいいんじゃない?手当出るし...。」
「お前はまたそういう事言う...。けどな?そんな手当だってお前使ってねぇだろ!?」
「生活費」
「生活費じゃなくて娯楽だよ!遊んだりしないのかよ!?」
「............」
「さてはお前......友達いないな?」
その言葉を聞いた瞬間、楓李は気まづくなりそっぽを向いた。
「顔見知りはいる。」
「.........お前なぁ...少しは若者らしくしろよ!」
「はいはい。ほら行くよ。」
「おいこら、待て!楓李」
さっさと本部を出ていく楓李を御影は追いかけたのであった。
「なぁー、東城?今日暇?暇か良かった。」
「......はぁ?」
講義を終えて帰ろうとした時だった。横で同じ講義を受けていた長谷川が突如喋り出す。
「今日さ矢部と近くのショッピングモール行こうぜって話してたんだけど、お前も行かね?」
「...えぇ...めんどくさ...」
しかし楓李はある言葉を思い出した。それはいつぞや御影が言っていた言葉だった。
ーーお前...友達いないな?
ふと思い出したセリフに腸が煮えくり返りそうになる。帰ろうとしていた楓李だったがクルッと向きを変え長谷川に言った。
「やっぱり行く。」
「マジ!?やったー!矢部迎えに行こうぜ~!」
講義の間、隣で爆睡してた姿はどこへ行ったのか。たちまち元気になった長谷川の後をようとした時だった。後ろから誰かに見られている気配がして振り向くがそこには誰もいなかった。
「東城?早く行こうぜ!」
「...今行く」
楓李は違和感を押し込め長谷川を追いかけたのであった。
「東城って意外とノリいいよな。」
「確かに。」
「.........はぁ?」
「だって俺と矢部の誘いに乗ってくれるしツッコミだってしてくれるじゃん?」
「見た目と態度に反してノリがいい。」
「............帰る。」
失礼な物言いに楓李は冗談めかして言った。そのあと三人はそれぞれが行きたい店を回っていた時だった。楓李は背後から嫌な気配がして振り返った。
「......っ?」
「東城どうしたー?」
「.........なんでもない。」
背後には何もなく気の所為かと思い二人を追いかけようと前を向いた時だった。
「...............はっ?」
長谷川と矢部の背景に大きな黒いモヤが佇んでいた。
(......さっきまでいなかった......あれは...!?)
見間違いかと思い、もう一度見るがそこには間違いなく大型の澱の姿があった。
ーーヤット...
ーーミツケタ
嫌な汗が背中をつたう。
「長谷川!矢部!...こっちに引き返せ!!」
「はぁ?東城何言って......うわぁっ!」
楓李が叫んだ瞬間、長谷川達がいた横のガラスが突如割れた。それに驚いたのか二人は楓李の元へ向かった。
「びっくりした...えっ、東城エスパーなの?」
「......っ...」
矢部が楓李にそう言うが楓李にはその言葉は届いていなかった。
(まずい......夜断もない...まだ大勢の人もいる...)
楓李の顔色の悪さに気づいた矢部が楓李に近づいた時だった。足元の割れた破片に不思議なものが映り込んでいた。
「.........なんだ......はぁっ!?」
矢部の視線の先には大きなガラスの破片に映りこんだ澱の姿があった。見た事もない化け物に矢部は足の力が抜けそうになった。
(クッソ......コイツ視える側か......)
楓李は長谷川の手を掴み矢部の方へ押し付けた。
「長谷川!矢部を連れて向こうに走れ!」
「はぁ?東城何言ってんの?」
「......おっ、お前...あれみえてんの?」
「後で説明する!...っいいから走れ!」
長谷川は見たことがない楓李の焦りように驚いたのか矢部の手を掴み走り出そうとした時だった。
ゴォォォっと勢いを立てて澱が2人に向かって攻撃を仕掛けた。
(...クッソ...間に合え......ッ!!)
楓李は二人の間に入り攻撃を受けた瞬間バンッと後ろへ吹っ飛ばされたのだった。
「...っぁ......いっ...てぇーな!!」
「東城大丈夫か!?」
「俺はいいからさっさと逃げろ!」
吹っ飛ばされ怪我をした楓李を置いていけないのか二人が立ち止まってしまった。しかし、肉眼では何が起きているのか分からない二人は為す術がなく楓李に言われた通りに出口に向かって走った。
(......今の周りには......人はいないか...よし。)
楓李はスマホを取り出し久世へ連絡を入れた。
「久世さん俺。アスターモールわかる?そこに大型澱がいて今対峙中。緊急要請と黒瀬さんに夜断持ってきてもらって。多分今なら触らせてくれるはずだから。」
「...わかった。至急手配する。持ちこたえられそうか?」
「...俺を誰だと思ってんの?」
「......怪我するなよ。」
楓李はスマホをしまい再び澱へと視線を向けた。澱は攻撃をするでもなくこちらをじっと見つめていた。
「............」
お互いの行動を読んでいた時だった。視界の影で小さな物が動いた。よく見ると子供が座り込んで動けなくなっていた。幸い澱には気づかれていない様子であった。
「......おい!ほら...こっち来いよ!」
楓李は澱を挑発し意識を向けるようにした。澱は楓李に向かって再び攻撃を始める。
ブォォォンと頭上を澱の手が横切る。楓李は近くにあったガラスの大きな破片を握り締め澱の手に振りかざす。
割れた破片が手に刺さることは気にしていられなかった。
ザァッ...!攻撃が澱を掠めるが本格的に倒すためには核を崩さなきゃいけない。
(.........黒瀬さんが来るまでの耐久戦だな......)
そこからは楓李は防戦一方だった。周りに被害を出さないためには自身で攻撃を受け止めなくてはいけなかった。
「っ......はぁっ......ぅっ......」
息が少し崩れてきた頃だった。身体馴染みのある気配がした。
「楓李ーー!!受け取れ!!」
聞き慣れか声が耳に届き楓李は僅かに口角をあげたのであった。




