↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/12

7.夜断

その後少しして落ち着いた楓李。御影と綾人は気を利かせ病室を二人で出た後、待合室のソファーに腰をかけた。


綾人は自販機でお茶を買い御影へ渡した。


「ありがとうございます。」

「いえ、お礼は大丈夫です。」


しばらくその場に静寂が生まれた。お互いに話すわけでもなくただその場に座っていた。御影が沈黙に耐えきれなくなりそうな時だった。


「黒瀬さん、あまり東城楓李に情を移しすぎないようにして下さい。」

「それはどういうことですか?」

「東城楓李は確かに強いです。しかし、壊れる時は一瞬です。」


ふと、綾人の顔を見上げた。その表情からは何も感情が読み取れなかった。でも次の言葉を放った時、一瞬だったがどこか悲痛な面持ちが垣間見えた気がした。


「貴方は…東城楓李が澱にのみ込まれた時…切ることができますか?」

「………」


御影は無言だった。嘘でも切れるなんて言えるわけがなかった。


「あの子を注意して見ていてください。東城楓李は自己犠牲だけは……一人前ですから。」


そう言うなり綾人は待合室を後にした。御影はソファーに沈み込んだ。綾人が言った自己犠牲に関しては最近、自身も感じていた事だ。


敵の攻撃を避ける訳でもなくただ敵に突っ込み攻撃される前に相手を倒す。それは楓李が強いからこそできる技だった。しかし、バディとして近くにいる大人としてはもう少し守られるという事を知って欲しい。そして何より「生きる」ことに執着して欲しかった。


「まぁ...俺がこれだけ弱ければ仕方ないか......よしっ!」


御影は自身に喝を入れた。楓李が少しでも生きたいと願ってくれるように。そして楓李に背中を預けてもらえるくらい自身が強くなれるように。


御影は綾人から貰ったお茶を一気に煽りゴミ箱に捨て、再び東城兄妹がいる病室へ楓李を回収しに向かったのであった。


楓李を回収した後二人は三浦の運転する車に乗り込んだ。車内は静かではあったが不思議と気まずさはなかった。自宅に帰ってきた後も二人は無言だったがその静けさを御影が先に破った。


「楓李飯食うか?...といってももう夜中だけどな。」


ふと時計を見ると時刻は既に夜中の2時を回っていた。いつもならもう寝ると言い出す楓李だったがその日は少し違った。


「......少しなら。でも先にシャワーしたい。」

「そうか!なら準備しとくから風呂入ってこい。」

「......ん。」


泥や血で汚れた楓李を風呂に送り出し御影は夜ご飯の準備をした。と言っても時間が時間なのでうどんを茹でてうどん用のスープを作るだけにした。


お湯を沸かしている間に御影は救急箱の準備もした。記憶が正しければ楓李は腕や足に擦り傷そして額を切っていた。


(今後はあんな無茶が減ればいいんだけどな...)


ご飯の準備も終えるとちょうど楓李がお風呂から上がってきた。


「飯できてるけど先に手当が先な。」

「.........別にいらない。」

「はいはい。いいから座れ!」


御影は楓李をソファーに強制的に座らせた。そして手や足の傷を消毒しガーゼを貼っていく。


「しっかし、楓李がここまでボロボロになるのは初めて見たな。」

「ボロボロで悪かったね......」

「いや、頑張ったって言ってんの。」


少し拗ねた顔をしている楓李をみて御影が小さく笑う。初めてみた時は冷たい顔をしていたが今だけは年相応の顔を見けてくれている。


「なぁ、楓李?俺さもっと強くなるから。」

「.........急に何?怖いんだけど。」

「何でもねーよ。さぁこれで終わり!」


額に大きなガーゼをペチっと貼ると少し痛かったのか楓李が眉間に皺を寄せた。


「飯食おうぜ。うどんでいいだろ?」

「うん。............ありがとう。」


ボソっと呟いたお礼だったがしっかり御影の耳には届いていた。縮まった距離に嬉しくなり御影は思わず楓李の頭を撫でた。するといつもの調子が戻ったのかしつこいと楓李は逃げてしまった。


二人の部屋にはいつもより温かい空気が流れていた。その温かさをお互いにこっそり噛み締めたのであった。




大型の澱の任務から数週間経った。二人は本部で訓練をしていた。


「重心ブレてるよ」

「...っよい...っしょ!!」


御影は楓李の攻撃を無理やり押し返した。


「力づくでやると腕痛めるから攻撃は横に流して。」

「......ってもなぁ...!ムズいんだよ!!」


以前よりも強めに攻撃を打ち込んでくる楓李。入局直後の御影ならもろにその攻撃を喰らっていただろうが今は少しずつだが流せるようになっていた。


「じゃあ今度は攻撃してきて。」

「はぁっ...っ...まっ、...待て!一回休憩!」

「黒瀬さん......おじさん?」

「アラサー舐めんな......っ...はぁっ...」


力尽きてその場に座る御影に楓李はお茶を投げた。難なくキャッチした御影は一気にお茶を煽った。


「はぁ~~~生き返る!!」

「オジさんくさいんだけど...」

「そこ...傷つくからやめろ。」


少し休憩した二人が訓練を再開しようとした時だった。楓李のスマホに着信があった。


「...東城です。はい?本部に二人いるけど...えっ、嫌なんだけど......っておい!切りやがった......」

「どうしたんだ?」

「久世さんから......任務。中型の澱が出現してるんだけど第二が任務に出てて動けないから俺らが行けって。」

「仕事なら仕方ないだろ。ほら行くぞ?」


御影はササッと訓練所を片付け床に置いていた零番局のジャケットを拾い片方を楓李へ投げた。


「さっさと終わらせて飯食おうぜ!」

「今日は黒瀬さん単独撃破目標ね。」

「お前......本当に鬼だな。」


二人はジャケットを羽織り祓刀を持ち現場へ向かったのであった。



現場に着くと既に他の局員で規制線は貼られていた。


「東城、黒瀬現着しました。」


楓李は無線で久世へ連絡した。すると向こうは忙しいのか聞こえてくる音声はバタバタしていた。


「悪いが東城、お前に現場の指揮権渡すからどうにかしろ。」

「はぁ?そんな適当な...!」


楓李がため息をつくと横で御影がくつくつと笑っていた。それに腹が立ったのか楓李は悪い顔を浮かべた。


「.....黒瀬さん、単独撃破よろしくね?」

「.........えっ?」


そこからは緊張する現場とは思えない空気が広がっていた。楓李は宣言通り御影に一人で戦わせていた。


「黒瀬さん左来てる。」

「...わ...かっ...てるよ!」


左から迫ってくる攻撃を暁で叩ききる御影。そして一瞬の隙ができた時一気に澱へ踏み込んだ。


「せーーっのぉ!!」


しかし、澱が攻撃を避けたせいで暁が少し敵に掠っただけだった。


「オジさん......動き遅い。」

「お前なんつった!?」

「ほら横から来てるよ。」

「うわっ!」


御影は攻撃を避けた後体勢を変え一気に澱へ突っ込んだ。暁を振り下ろし澱を切るが核を壊した手応えがなかった。


「チッ......退いて。」


楓李は夜断を抜くと一気に澱へ迫った。その時だった。


「......ギィッ......!」


澱が夜断を見て少し怯えた様子がしたのを御影は見逃さなかった。


「......終わり。」


楓李の一太刀で澱は倒れた。圧倒的な強さに御影は思わず拍手をしてしまった。


「やっぱし強いな!」

「これくらい出来るようになって。」

「無茶言うなよ...。」


楓李が倒したことによって現場は撤収作業に入っていた。二人は周囲に澱や被害が出ていないか見回る事にした。


「なぁ、聞いていいか?」

「......何?」

「なんで祓刀じゃなければ澱は倒せないんだ?」


思いも寄らない質問だったのか楓李は固まった。


「......今まで何も知らずに暁振り回してたってこと?」

「......?そういう事だな。」


まさかの出来事に楓李は頭を抱えたくなった。そして溜息をつき御影を見た。


「そもそも祓刀が何で出来てるのか知ってる?」

「さぁ?何から出来てるんだ?」

「........澱の核だよ。だから祓刀は相性の良し悪しがあるんだよ。」


御影は祓刀の時の拒絶反応を思い出した。ただの刀だと思っていたものが意志を持って自身を拒絶していた。


「...なるほどなぁ。じゃあもう1つ。夜断はなんなんだ?」


その質問をした瞬間、周りの音が消えた気がした。確信をつく内容に一瞬だが楓李が眉間に皺を寄せた。


「どういう意味?」

「さっきだ。澱に向かってお前が夜断を振り下ろした瞬間澱が怯えたんだよ。暁とはまた違うんだろ?」

「............」


楓李はその質問にすぐ答えられなかった。その質問は楓李の秘密そのものに近いものだったからだ。暫くしてようやく楓李は口を開いた。


「夜断は......13年前の事件で倒された深淵級の澱の核から出来てる。」


御影は息を飲んだ。


「それって......東央モールの...」


少し目を伏せた楓李は呟いた。


「......そうだよ。」


思わぬ事実に御影を驚愕した。13年前の深淵級といえば東央モールで起きた特異災害の元凶の澱だったからだ。楓李の家族を奪った張本人でもある。


(どういう...心境で...夜断を使ってるんだ?)


核からできた刀と言えど大元は憎き元凶でもある。楓李の真意が分からないまま御影は楓李を見つめた。


「最初はさ...複雑だったけど今はコイツのお陰で澱をぶった切れてるからね......。まぁ相棒だよ。」

「......そうか。でも、相手があの澱の核ならなんでお前を選んだんだ?」


楓李は少し考えたあとボソっと呟いた。


「多分...同じだから。」

「同じ?」

「同じ核を持った同士ってこと。......夜断にとって俺が一番馴染む器だったってこと。」


思いもよらない真実を知った御影だったが楓李に対する態度も気持ちも変わらなかった。


「...相棒ね。」

「何?」

「俺も負けてらんねぇな!」


急に元気になりだした御影を見て楓李は困惑した。


「怖いんだけど......」

「夜断が相棒なら俺は背中を預けて貰えるようなバディになってみせるよ。」


今までなら掛けて貰えないような言葉だった。楓李の瞳が一瞬だけ揺れた。


「...なにそれ...くさいんだけど。」

「はぁっ!?ひでぇな!少しは感動しろよ!」

「はいはい。久世さんに怒られるから帰るよ。」

「待てって!」


楓李は御影を置いて車の方へ歩いていく。


「......感謝してる」


ボソっと呟いた声は御影には届かず静かに消えていった。夕暮れの街を御影が楓李を追いかける形で二人は進んでいく。


その時だった。


ーーー


何かの音がしたと思い楓李は周りを見渡した。そして静かに夜断が揺れた気がした。


「どうしたんだ?」

「...いや、気の所為?」


二人が再び歩き出した時だった。


ーミツケタ。

ーヤット......イタ


全身の血の気が引いた。聞き覚えのある声だった。それは忘れもしない13年前に聞いたあの声とそっくりだった。


「楓李?」


先を行く御影が心配して後ろを振り向いた。楓李は咄嗟に表情を隠した。


「今行く」


拭いきれない不安が楓李を襲った。声が聞こえたのは一瞬だった。周りは何事も無かったように静まり返っている。


しかし、楓李の背中にはじわりと嫌な汗が滲んでおり、胸騒ぎだけが静かに広がっていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。