3.現場
2人は本部を出て上にあがると既に黒いバンが停まっていた。
「楓李くん!こっちどうぞ。」
「ごめん、三浦さんお願い。」
御影と楓李が乗り込んだのを確認し三浦は車を走らせた。
「勤務初日に現場だなんて黒瀬さんなかなかついてますね!」
「これをついていると言うのだろうか…」
苦笑している御影に楓李は1つの短刀を渡した。御影はそれを受け取るとゾワッと不思議な気配を感じた。
「これは…一体?」
「これお守り用の短刀。ちゃんと祓刀として使える。けどそもそもこいつら普通の刀じゃないから触れない人は触れないんだけど…その様子じゃあ大丈夫そうだね。」
何も言わずにそんなものを渡してきたのかと驚く御影。しかし、改めて短刀を持つと初めて触った時のゾワッとした感覚はすでに無くなっており自然と手に馴染んだ。
「黒瀬さん。今から言うことを良く聞いて。現場に着いたら必ず後方に居て。まだ戦えないんだから前に来られても困る。」
「…お前なぁ!?」
「あと、危険だと思ったらすぐに逃げて。…陽の当たるところとか。」
「陽の当たるところ?」
「澱は陽に当たると弱体化する。だから陽の当たるところに逃げた方が生存率が上がる。逆に言うと夜や陽の当たらない所にいると澱が活性化して最悪死ぬよ?」
楓李が平然と死という単語を使ったことに御影は眉間に皺を寄せた。まだ大学生という若さの人間がこうも真面目な顔で死という単語を使うという事はそれなりに危ない状況に何度も陥ったという事だろう。
「足手まといにならないようにするがお前も気をつけろよ?」
「…誰に言ってんの?」
相変わらず無愛想な様子に御影は呆れたように肩を竦めた。やがて車は現場の近くに停まった。
「私はここで待機してますのでなにかあったら連絡を下さい。あと、黒瀬さん。楓李くんがいるので大丈夫だと思いますが本当に気をつけて下さいね!」
「わかった。」
「じゃあ黒瀬さん行くよ。」
楓李は零番局のジャケットを羽織り夜断を手に持つ。すると先程とは打って変わって雰囲気が変わった。まるで冷たく澄んだような雰囲気を纏っている。
二人は規制線が張られている方へ近づく。すると数人の局員が近づきこちらに近寄ってきた。
「東城君も来たんだね。じゃあ今日は安心だ。」
「いや、出動命令は二課でしょ?俺あくまでもサポートなので。」
じゃあなぜ現場に来たのかと御影は疑問を持った。そして局員が集まると簡単な打ち合わせを行った。
「そんな感じで行きましょう。皆さん配置にお願いします。」
その合図で局員は散らばる。御影も楓李の言う通りに後方へと下がった。
予定時刻、無線越しに久世の声が聞こえた。
「予定時刻です。作戦開始。」
澱は中型。三人の境断官が前線へと突っ込む。澱も境断官を認識すると攻撃を始めた。
グァァァ!
澱が咆哮するとビリッと全身に恐怖感が湧き出てくる。
「右から来るぞ!」
「俺が止める…っ!」
一人の境断官が澱の攻撃を祓刀で抑え込む。すると澱は反対の手で攻撃してきた。するともう一人がその攻撃を受け止める。
「今がチャンスだ!…行けっ!!」
「任せて下さい!」
そうして一人が澱の核へ突っ込んだ時だった。現場の観測班が異常を察知した。
「侵食値急上昇してます。」
「…なに!?」
その時だった。抑え込めていた澱の攻撃が徐々に力強くなり抑え込めなくなってきた。
次の瞬間澱の攻撃を抑えていた二人が吹き飛ばされる。何とか受身を取って二人は立ち上がった。
「……っ、いってぇなぁ!」
「あの威力本当に中型ですか?」
「次は二人で突っ込むか?」
「今の攻撃で少し刃こぼれしてるんだけど…」
そうしているうちに澱が再び攻撃しようと手を振りかざした。その時だった。
「大型澱の反応です。皆さん一度後退して下さい!」
その声を聞いた境断官達は一斉に後退する。すると澱は手を挙げたままボコボコと音を立てて巨大化し禍々しい雰囲気を醸し出していた。
「……これは中型じゃなく大型です!」
「くっ、変異型だったか…!」
周囲が騒々しくなる中、楓李だけが静けさを保っていた。
「仕方ない…第3執行課を呼ぶか!?」
そんな声が上がった時だった。零番局の最強の境断官が口を開いた。
「……俺がやる。」
その声を聞いて周囲が一斉に静かになる。皆が期待した眼差しで楓李を見つめた。その光景を御影は後ろからただ見守っていた。
(こんな重圧に耐えながら…あいつは闘ってんのか?)
楓李は前線へと歩き出す。
「皆!東城を援護しろ!」
「……いらない。邪魔。」
楓李は速度をあげる澱へと突っ込んだ。その楓李を薙ぎ払うように澱が攻撃を仕掛けてきた。
ザァァァァァッ!!
次の瞬間、澱の手は吹き飛んでいた。先程の境断官達が手こずっていた攻撃も楓李にかかれば楽勝だった。
そして澱の足元まで来ると楓李は一気に空へ舞い上がった。
「……遅い。本当に大型?」
楓李は、澱の頭側から夜断で真っ二つに叩き切った。カラーンと核だけが地面に落ち、澱はそのまま音もなく霧散していった。
「…嘘だろ?大型を一瞬で?」
「強すぎじゃないか?」
周囲がザワザワする中、楓李は静かに夜断を鞘へ戻した。そして御影の方へやってくる。
「初現場どうだった?」
「そんなことよりお前怪我ないか!?」
御影の圧に楓李が負けた。ここ最近こんなふうに心配してくる人はいなかった。それは楓李が強すぎたからだ。
「……誰に言ってんの?」
「お前が強いのはわかったがあんな風に敵に突っ込んでいくやつがあるか!?」
「倒せたからいいと思うんだけど。」
「そういうことじゃなくてな??」
面倒くさくなった楓李は御影の横を通り過ぎ車へと向かう。御影もまた楓李の後を追った。そして二人は再び本部へと戻ってきたのであった。
「久世さんが呼んでるから黒瀬さんも来て。」
「…わかった。」
御影は楓李の後を追い久世の元へ向かう。すると楓李は局長室の方向ではなくエレベーターへ乗り込んだ。
「ん?どこへ行くんだ?」
「封刀室」
「なんだそれは?」
「行けばわかる。」
エレベーターは更に地下に降り、目的の階で停まった。エレベーターから降りるとすぐに久世を見つけた。
「二人とも現場お疲れ様です。黒瀬さんはいかがでしたか?」
「俺には到底出来なさそうです。しかし、楓李は本当に強いんですね。」
「そうですね…まぁ零番局最強ですからね。さて、これからが本題です。黒瀬さんの祓刀を選びましょう。」
封刀室の鍵を久世が開ける。封刀室は代々局長しか開けられない。三人は中へと入る。
御影は部屋の中を見て目を見開いた。そこには幾つもの刀が置いてあった。壁にかけられているものもあればケースの中にしまわれているものもあった。
「凄い数の刀だな…」
「ここにある祓刀はそれぞれ特性があります。そして何より祓刀は持ち主を選びます。ものによって厳重に保管しなくてはいけません。一度部屋全体を見てみて下さい。」
久世に言われ御影は部屋に置かれている刀を見てまわる。ふと、楓李の方をみると楓李は入口で突っ立っていた。
「お前もこっちに来て一緒に見るか?」
「……俺はいい。」
「東城が持っている夜断は現在ある刀の中で一番攻撃力があり扱いにくい祓刀なんです。そして異常に夜断の方が東城に執着しているので他の刀を見ると拒絶されることがあるみたいで……」
思ったより人間味のある祓刀に思わず御影は笑ってしまう。楓李は気まずそうに夜断を見つめた。
御影は部屋に置いてある様々な刀を見た。冷気をまとい近づくだけで寒気がする祓刀や、鎖で封印されている祓刀、黒系の祓刀が多い中刀身が白い祓刀もあった。
しばらく刀を見て回っているが目ぼしいものが見当たらず御影は考え込んでしまう。
「久世さん、適当に何か触ってみるのもありですか?」
「まぁ、止めはしません。壁にかかっているような刀であれば拒絶されてもそこまで痛くは無いと思いますので。」
御影は一思いに壁にかかっている祓刀に触れた。すると全身に寒気とチクチクするような痛みが走った。
「……っ!?」
驚きすぐに刀を戻す。刀から手を離した瞬間寒気は無くなり痛みもすっと引いた。
(これが拒絶されるってことか…ケースに入っているようなものを触ればどうなるんだ?)
先ほどまで呑気に選んでいた自分が馬鹿らしくなった。御影はいっそう集中して刀を選んだ。するとあるケースの前で立ち止まった。
その祓刀に呼ばれている感覚がして目が離せなかった。すると久世が御影の元へやってきた。
「なるほど……暁ですか。」
「暁?」
「この祓刀の名前です。夜断が攻撃力のトップと言えるなら暁は防衛力のトップ…と言ったところでしょうか?」
久世は鍵でガラスケースを開ける。
「黒瀬さん。触ってみてください。」
「これ…拒絶されたらどうなりますか?」
「最悪暴走しますね。でも大丈夫です。そのために東城を連れてきたので。」
「…なるほど?」
御影は恐る恐る暁へと手を伸ばしそっと刀身に触れた。すると先程の嫌悪感や寒気みたいなものは一切感じずむしろ手に馴染むような感覚があった。
「うん。素晴らしいです。まさか、生きてる間に夜断と暁の適性者に会えるとは思いませんでした。黒瀬さん、そのまま暁は持って帰って下さい。後で書類は書いてもらいますが。」
久世は今まで見た事ないくらいニコニコと笑っていた。こうして無事に御影の祓刀選びも終わり三人は局長室でひと休憩をしていた。
「さぁ飲んでください。」
「いただきます。」
局長が直々に淹れたお茶を飲みながら御影は書類を記載していた。
「さて二人にお願いがあります。」
その言葉を聞いて楓李はものすごく嫌な顔をしていた。
「まぁまぁ、東城にとってもいい話です。お二人でバディを組んでください。」
ガチャンッ!久世の言葉を遮るように楓李がカップを机に置いた。急な行動に御影が驚く。
「久世さん、俺何度も言ってるけど誰とも組まない。それでいいってそっちも言ってたよね!?」 「当初はそのつもりだった。だが、暁が認めた黒瀬さんなら平気だと思う。」
「どこにその保証があるんだ!?」
本来、境断官は二人一組で動かなくてはいけない。しかし、楓李は夜断の特性上、任務時に夜断へ精神が引っ張られてしまうことがある。そのため、バディの方に危険が及ぶ可能性があり今までは単独で任務をこなしていた。
「とにかく、これは局長命令だ。無理なら無理でいいが挑戦もせずにそういうことは言うな。わかったな?」
「………」
楓李はそのまま黙ってお茶を飲み続けた。
「ということで、黒瀬さん一旦仮のバディとして東城と動いて下さい。」
「こいつすごく嫌そうですがいいんですか?」
「案ずるより産むが易し…です。」
こうして御影と楓李のバディとしての生活が始まるのであった。




