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2.零番局

御影が帰宅したのは朝方だった。部屋着に着替えベッドへ身体を預ける。するとさっきまでの出来事は夢のように思えた。


(零番局ねぇ……)


2人が言うことが本当であれば事件を未然に防げる方へ力を入れた方が良いに決まっている。しかし、御影が捜査一課にいたい理由が別にあった。

それは、親友の行方不明事件だ。


(まだ解決してねぇのに……諦められるかよ…)


考えなきゃいけないことは山ほどあったが疲れた身体は正直でいつの間にか眠ってしまっていた。


この出来事から2日後の昼だった。久世から渡された端末に一件の連絡が入った。差出人は久世だった。


——迎えを送りました。20分後に自宅の前にいて下さい。


急な連絡ではあったが朝早起きの御影はいつでも出られる状態であった。そして20分後、家の前にいると見覚えのある黒いバンが停まった。


「黒瀬さんですよね?私は三浦と申します。久世局長からは聞いてます。後ろに乗ってください。」

「お迎えありがとうございます。よろしくお願いします。」


御影が乗り込むのを確認すると三浦は車を走らせた。


「この間は寝れましたか?」

「考えることが多すぎましたが意外と寝れましたね。」

「寝れたなら良かったです。私はここに来た時全く眠れなかったので。」


そう言いながら三浦は人当たりの良さそうな笑顔を浮かべている。車をしばらく走らせると一昨日来た廃ビルが見えた。


「局長が待っているのでこのままビルの前に降ろしますね。」

「三浦さんは?」

「私は楓李君の回収です。」


ビルの前に着き御影は三浦に礼を言う。そして三浦は再び車を走らせ楓李の回収へと向かった。


「黒瀬君いらっしゃい。」

「久世さん本日はよろしくお願いします。」


二人はそのまま本部へと入っていった。前回は楓李の後を追っていたため気が付かなかったが見た目が廃ビルの割には地下は設備が綺麗で迷いそうなくらい広かった。


「本部の案内は後で東城に任せるとして今日は色々な説明をしようと思います。」

「お願いします。」


久世は会議室と書かれた部屋のドアを開ける。


「こちらへどうぞ。」


中に入るとそこは少し広めのただの会議室だった。


「黒瀬さんはそちらに掛けてください。」

「失礼します。」


久世は御影が椅子に座るのを確認した後自分も席に着いた。


「まずは黒瀬さんも気になっていると思いますが所属の事です。以前もお話しましたが零番局への入局は申し訳ありませんが決定事項です。」

「……そうなんですね。」

「気持ちが切り替えられないところがあると思いますがこちらをお渡ししますね。」


久世は封筒を御影に渡した。中身を見ると特別出向命令書と書いてあった。


「君は元々は警視庁所属ですからね。零番局は公表されている組織ではないから表向きは内務省へ出向扱いになっています。」

「わかりました。それで今日は色々と教えて頂けるみたいですが…」

「まずは前回話した澱のことは覚えていますか?」

「ある程度は…」


久世はある資料を手渡した。


「黒瀬君、君は刑事として様々な傷害事件や自殺、殺人事件を見てきたと思います。全ての事件がそうとは限らないが、少なからず澱が関与している。」

「それは…どうやって?澱自体が人を殺すんですか?」

「違います。澱は人間の精神に寄生します。」

「…寄生?」

「その資料をご覧下さい。」


資料には澱についての詳細が書かれていた。


澱は人間の負の感情を餌に成長する。そして、澱はその餌にした感情を増幅させる。怒りを食べれば怒りの感情を増幅させ悲しみを食べれば悲しみを増幅させる。


「この増幅っていうのは…?」

「本来なら自身で抑えられる感情が澱によって無理やり増幅させられます。すると澱に寄生された人間は次第に正常な判断ができなくなってしまいます。」

「…そうすると感情に呑まれ自殺や事件を起こすということですか?」

「そうです。澱の厄介な所は人間を操るのではなく感情を増幅させ背中を押すだけなんです。」


御影は物語を聞いているような気分だった。しかし、資料の後ろの方には御影が実際に関わった事件もありその裏では澱の存在が確認されていた。

そこには「第三執行課指定境断官東城楓李によって目標消滅」と記載されていた。


(これまだ2年前の事件のはず…)


一昨日の出来事を思い出した。楓李は大学生のはずだった。


「久世さん。1つ伺ってもいいですか?」

「はい。なんでしょうか?」

「東城楓李は大学生なんですよね?何故ここにいるんでしょうか?」

「そうですね…その前にそもそも境断官が何かから話しましょう。」


境断官とは現在、澱を唯一消滅させることができる存在である。しかし、そもそも澱は全ての人間が目視することが出来ない。そのため澱が見え、境断官として動ける人間はわずかしかおらず貴重な存在なのだ。


「ですから東城楓李は大学生という若さではありますが境断官として働いてもらっています。」

「……そうなんですね。しかし、まだ大学生ですよね?」

「そうですね。……しかし、我々も市民を守るためには使えるものは使わなくてはいけないんです。それが東城楓李であっても…。」


部屋に沈黙が訪れる。少し気まずさが広がった瞬間コンコンとドアがノックされた。そして、2人が返事をする前にドアが開かれた。


「……東城…お前は…はぁー…」


久世が頭を抱える。


「大学終わりに迎えを寄こしたのはアンタだ。」

「それはそうだが…まぁいい。東城お前に黒瀬さんの案内を頼む。」

「…俺が?他に適任いるだろ?」

「局長命令だ。」


楓李は溜息をつき御影を一瞥し廊下へ出る。それに続き御影も立ち上がった時、久世が口を開いた。


「黒瀬さん。貴方にとって不本意な異動だったと思います。しかし、澱と戦える存在は本当に貴重なんです。どうぞよろしくお願いします。」

「…こちらこそよろしくお願いします。」


御影は久世に一礼し部屋を後にした。そして少し先を歩く楓李に追いつく。


「東城君よろしくね。」

「……君とかいらない。なんか気持ち悪いから呼び捨てでいい。」

「じゃあ…楓李?」

「なんでそうなるんだよ!?」


急な名前呼びに楓李は慌て出す。ちらっと見えた横顔は少し赤くなっていた。


「それは、君が呼び捨てでいいって言ったからな。」

「そうじゃない!……あぁっ、もういい。好きにしてっ…!!」


楓李は歩調を早めスタスタと進んで行ってしまった。無愛想なところは多いがなんだか憎めない可愛さに御影はバレないようにクスッと笑うのであった。


そこから御影は楓李に本部を案内してもらった。そこは廃ビルの見かけによらず、地下は広く様々な設備が整っていた。


「あっちが食堂、こっちを真っ直ぐ行くと訓練所がある。」

「随分…広いんだな。」

「まぁ、表向きにしていない組織だからね。バレないようにするためにはモグラみたいに住処を地下に広げなきゃいけなかったんじゃない?」

「……モグラ……」


楓李は訓練所の方へ歩いていくと前から祓刀を持った2人の境断官が歩いてきた。


「あれ?もしかして東城さん!?」

「………誰?」

「あっ、僕榊って言います!この間の現場では助けて下さりありがとうございます。」


そう言うなり榊はピシッと背筋を伸ばしたまま深く頭を下げた。


「……本当に覚えてないんだけど…」

「こら!楓李そんな言い方ないだろ!?」

「なんでアンタが入ってくんだよ!?」


楓李が即座に御影に突っ込む。その光景を見て榊がクスクスと笑い出す。


「現場で見た時は少し無愛想に見えたんですけど、東城さんって面白い方なんですね!」


そう言われた楓李は面白くなさそうな顔をしてそっぽを向いてしまう。


「…おい!こら、榊やめとけ!」


とんでもないことをぶっ込んでくる榊に横にいた先輩らしき人物が慌て出す。そして、無愛想な表情になった楓李を見てその場を離れたそうにした。


「ほら、俺たちもそろそろ行くぞ!」

「はい!じゃあお二人ともまた今度!」


そう言って榊達はその場を去っていった。


「お前はもう少し他人に興味を持ったらどうだ?」

「…うるさいな。あまり口出ししてくるなら俺もう帰ってもいい?」


さっきまで可愛いと思ったが、前言撤回。あまりにも無愛想な言い方に御影のこめかみが少し動いた。あらかた本部の案内もしてもらったためどうしようか迷った時だった。2人のスマホに通知が来た。


ーー○○区に澱の出現あり。第2執行課は現場に出動せよ。


「……仕事だ。 」

「あれ?お前第3執行課だろ?」

「………まぁ、来ればわかるよ。」


こうして御影は零番局に来て初めて現場へ向かうのであった。

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