第140話 立食パーティーの攻防
「「はじめまして、ウィリアム様。そして王国の皆さん」」
帝国使節団の少女たちは揃って挨拶をしてきた。
強い視線をこちらに浴びせ、まるで挑むような感じだ。
僕の両隣にいるレティとオリヴァーをはじめ王国の少女たちも笑顔で挨拶を返すけれど、まるで迎え撃つような感じがする。
使節団の一人が会話の口火を切った。
「帝国では内政が重視されていますから、生産スキルも重要だと思われていますわ。王国では剣と魔法だけが重視されると聞きましたわ」
「最近は王国も状況が変わっていますのよ。ウィルは生産スキルによる貢献が評価されて王家から褒賞を受けましたし、将来の叙爵も約束されていますわ」
レティは帝国の少女に答えるときに僕を愛称で呼び、なぜか親密さをアピールするように身を寄せてきた。
帝国も王国も少女たちは笑顔だが、目は笑っていない。
まるで空中に見えない火花が散っているかのようだ。
帝国の別の少女が挑むように話してきた。
「私は商人の娘ですが、帝国は商業を重視しますから使節団にも参加しております。お集まりの王国の方たちは皆さん貴族なのかしら?」
それに答えたのはオリヴァーだ。
「いいえ、私も商人の子ですよ。工房のスタッフとしてウィリアム様の近くでお仕えしていますし、王女殿下の知遇も得ております」
帝国の少女たちはざわめいた。
「ウィリアム様の側近に商人の娘がいるの?」
「王国では商人は軽視されているのではなかったの? 王女殿下とも知り合いだなんて」
オリヴァーは嘘を言っていないけれど、帝国の少女たちはオリヴァーを娘だと誤解したみたいだ。
だけど、きっとそのことは指摘しないほうがいいんだろうな。
「私も王国の商人の娘ですわ。王女殿下からのお声がけでこの式典に参加しておりますの」
王国の少女がオリヴァーに続いて追撃をするかのように自分の立場を明かした。
帝国の少女たちは悔しそうな顔をしたが、子爵令嬢だと名乗った者が生産スキルの話をしてきた。
「帝国貴族は生産スキルを重視していますわ。私は自分の生産スキルに誇りを持っています」
子爵令嬢はどうだと言わんばかりの表情をした。
「もしウィリアムさんが帝国にいらっしゃれば、いろいろお支えできるかと思います。その点、王国の貴族は剣と魔法しか重視していないと聞きましたわ」
王国の少女たちの中から、メイベルが歩み出た。
「アルビオン王国のウッドポール男爵家のメイベルと申します。私はウィリアムさんの工房で生産スキルを使ってモノ作りをしていますわ」
メイベルからは強い気迫が感じられる。
「花やハーブを入れた透明な石鹸の生産は私が任されています。もしかするとご覧になった方もいるのではなくて?」
「ええ? あの王国から輸入されてくる宝石石鹸ですか?」
帝国の少女たちの間に驚きが走った。
「もしかして薔薇の入った透明な石鹸も貴女が作っていらっしゃるの?」
「ええ、薔薇の入った石鹸も私のチームで作っていますわ」
メイベルは嫣然と微笑んだ。
「もしかして使ってくださっているのかしら? どうもありがとう」
王国の少女たちは気勢が上がり、帝国の少女たちは驚きと悔しさの混じった表情を浮かべた。
華やかな立食パーティーの会場だけれど、まるで見えない剣戟が舞っているように思える。
闘技場だと錯覚してしまいそうだ。
全体に押され気味になった帝国使節団から、リーダー格と思われる少女が歩み出て、レティに話しかけた。
「初めまして。私は帝国のトリーア伯爵家のシャルロッテと申します。カーディフ伯爵令嬢は噂通りにお綺麗ですわね」
「お褒め頂き、感謝します。シャルロッテさんこそ美しいですわ」
「ありがとうございます。ですが私が誇りとしておりますのは商業スキルですわ。帝国では内政で活躍する女性は多くおります。スカーレットさんのスキルは何かしら?」
「私の授かったのは剣術スキルですわ」
そう答えたスカーレットに、シャルロッテは気の毒そうな顔をした。
「帝国でも貴族の娘が剣術スキルを授かることはありますわ。でも戦うのは男の役割ですから、外れスキルと言われています」
失礼な発言とも言えるけれど、レティは怒ることなく笑顔で応じた。
「シャルロッテさんは商業スキルを誇りとされているの、素晴らしいですわね。私も剣術スキルにいささかの誇りをもっています」
レティの瞳に力が入る。
「私は自らの剣術スキルを磨くために、騎士たちと一緒に樹海で魔物と戦っているのです」
「えっ、スカーレットさんは魔物と戦っておられるのですか?」
シャルロッテは素で驚いたようだ。
「ええ、わが国では男も女も関係なく力のある者が魔物と戦います」
「帝国では軍人は男だけですわ」
「王国では貴族の令嬢も魔物と戦うのですか?」
レティの言葉に帝国の少女たちは混乱している。
「ウィルは私の幼馴染ですが、素晴らしい生産スキルの才を持っています。私は剣を振るうことしかできませんから、日々鍛錬することで、ウィルの隣に立てる存在でありたいと思っています」
えっ、レティ。そんなことを考えていたの?
「スカーレットさんには大人の騎士も敵わないと聞いていますわ」
レティの言葉に使節団の少女たちが黙り込んだところに、ちょうど戻ってきたフローラ殿下が言葉を続ける。
「ウィリアムさんの生産スキルは王家も高く評価していますわ。この夏、私は父の名代としてフェアチャイルド家を訪問しましたのよ」
殿下は、すっと身を引いたオリヴァーと入れ替わって僕の隣に立つと、親しそうな視線を僕に向けてきた。
「王女殿下はこんなにウィリアム様と親しいのですか?」
「生産スキルは王国では冷遇されているという話は嘘でしたのね」
「事前に聞いた話と違い過ぎるわ。王国では女性も軍で活躍しているなんて。王国は後進的で女性は活躍していないと言ったのは誰ですか?」
帝国の少女たちは意気消沈した様子だ。
いつの間にか、周りの人影はまばらになっていた。
どうやらパーティーの終わりが近づいたので殿下は戻ってきたようだ。
「それでは皆さん、ご機嫌よう。さあウィリアムさん、参りましょうか」
帝国の少女たちに挨拶をすると殿下は僕の手を引いた。
「皆さん、今日は帝国のお話を聞かせて頂き、ありがとうございました」
僕が一礼すると、なぜか帝国の少女たちから敗北感が伝わってきた。
そして、やり遂げた感を漂わせているレティ、オリヴァー、メイベルと王国の少女たちも帝国使節団の少女たちに挨拶をすると引き上げてきた。
帝国の使節団が見えなくなったところで、フローラ殿下が少女たちに満面の笑みで話しかけた。
「おかげで王国の良さを知らしめることができ、ウィリアムさんを守り切りましたわ。皆さんの協力に感謝します!」
少女たちは歓声で応えた。
「生産スキルで内政無双」をお読み頂き、ありがとうございます。
私事ですが、引っ越しをすることになって、忙しくなっています。
次回からは4日に1度の更新とさせてください。
これからも、「生産スキルで内政無双」をよろしくお願いいたします。
書籍版もどうぞよろしくお願いいたします。
スタジオぞうさん




