第139話 歓迎式典
※今回は途中まで第三者の視点です。
「おお、これが帝国からの使節団か」
「立派な拵えの馬車だね」
「次期皇帝になるかもしれない皇子様が団長だっていう噂だよ」
ヴァンドル帝国の親善使節団がアルビオン王国の王都ウィンセスタに到着した。
王都の民は滅多に見ることのない隣国の使節団を見ようと集まっている。
王都の入り口では両国の外務卿が握手をして友好ムードを演出した。
豪華な馬車を何台も連ね、帝国と王国の両国の騎士たちに守られながら使節団は王都ウィンセスタのメインストリートをゆっくり進む。
やがて馬車は王城ウィンセスタの正面玄関に着いた。
使節団の一行が馬車から下りて姿を現す。
一行の中心にいる若い男性がエルンスト皇子だった。
皇子はウィンセスタ城の威容をちらっと見上げると、すぐに前を向いて歩き始めた。
――――――――――――――――――――――――――――――――
「また王城に来たなあ。僕は田舎でのんびりしていたいのに」
「あれだけ活躍すれば、世界が放っておかないわよ」
僕はぼやくと、レティに苦笑しながらたしなめられた。
帝国の親善使節団を歓迎する式典に参加するため、僕はレティとオリヴァー、さらにメイベルと一緒にウィンセスタ城に来ている。
フローラ殿下から依頼されて、急遽ノーザンフォードに転移してメイベルを連れてきたんだ。
転移魔法のことをメイベルに知らせることになるけれど、メイベルなら信頼できるから秘密も守れるだろうと皆の意見は一致した。
メイベルは急にいろんな話を聞かされて目を丸くしていたけれど、王都で殿下とレティ、オリヴァーと打合せをすると納得したみたいだ。
「状況は理解しました。王国貴族の娘にも生産スキルで活躍している者がいることを見せます」と意気込んでいる。
歓迎式典が始まると、まず迎える側のアルビオン王国を代表してフローラ王女殿下が挨拶した。
「これまであまり交流の無かった帝国からの親善使節団を心より歓迎します。これをきっかけとして、両国の友好が深まることを望みます」
王女殿下は落ち着いた口調で、途中で笑顔を見せる余裕もあり、堂々とした挨拶だった。
続いて、ヴァンドル帝国を代表して親善使節団長のエルンスト皇子が挨拶のために立った。
エルンスト皇子は意志の強そうな茶色の瞳が印象的で、褐色の髪は自然なウェーブがかかっている。
背はあまり高くないけれど、内に秘めた活力が感じられる。
「今回の親善訪問を王国が快く受け入れてくれたことに感謝する。今後、両国の交流を深めていきたい」
こちらも堂々たる挨拶だった。
式典が終わり、夜の立食パーティーまで時間があるから、僕らはいったんフェアチャイルド辺境伯家の王都の屋敷に戻ろうとした。
すると、エルンスト皇子が近づいてきた。
「貴殿がウィリアム・フェアチャイルド殿か。私はヴァンドル帝国皇帝ランデリク五世の次男エルンストだ」
「お初にお目にかかります、エルンスト皇子殿下。フェアチャイルド辺境伯家の次男ウィリアムと申します」
「ようやく会えた。貴殿に会うために私はアルビオン王国に来たのだ。ぜひいろいろな話をしたい」
うわ、ぐいぐいと来る人だな。
「はい、よろしくお願いいたします」
皇子はお付きの人に何か言われて「分かっている」と答えると、「ではまた後ほど」と言って去った。
「はあ、驚いたなあ」
「エルンスト皇子はやはりウィルに会うために来たのね」
「ええ、すぐにこうしてアプローチしてくるとは、行動力のあるタイププのようですね」
レティとオリヴァーは警戒心を強めたみたいだ。
王都の屋敷でしばらく休むと、再び馬車に乗って王城に向かう。
王城に着くと、もうレティもオリヴァーもメイベルも来ていた。
「あれ、今日は以前のような恰好なんだね」
オリヴァーは綺麗なドレスを着て化粧をしている。
「ええ、王女殿下からご依頼がありまして」
久しぶりに見たオリヴァーの女装した姿は、やはり人外の美しさだった。
王城に着いて、立食パーティーの行われる大ホールに行くと、既に多くの人で会場は賑わっていた。
パーティーだから当然だけれど、みんな綺麗に着飾っている。
しかも女の子の比率が高い。そんな中に自分がいるのは場違いな感じがして、何だか落ち着かない。
王国の女の子が集まっているところにフローラ王女殿下が現れた。
「皆さん、よろしくお願いしますね」
「はい、殿下」
集まった女の子たちの表情は真剣だ。
「こちらの布陣は済みましたね」
オリヴァーはぼそっと言った。布陣って何のことだろう?
しばらくすると、ヴァンドル帝国のエルンスト皇子が会場に現れた。
その後ろに帝国貴族の娘たちが続いている。
「これはフローラ王女殿下、ご機嫌麗しゅう」
皇子はまず王女殿下に挨拶をすると、僕に話しかけてきた。
「ウィリアム殿。今回の親善使節団には貴方と同年代の貴族の子たちを連れてきました。帝国のことをよく知ってもらえればと思ったのです」
そして皇子は王女殿下に声をかける。
「王女殿下、よろしければ少しお話を」
「承知しましたわ」
殿下は席を離れるとき、レティに「後はお願いしますね」とささやいた。
それにレティは「ええ、殿下が引き離されることは想定内ですわ」と答えた。
さっきからみんなが何を話しているのかさっぱり見えないんだが。
皇子と王女がその場を離れると、帝国使節団の少女たちが僕に近づいてきた。
というか、少し横に広がって、まるで取り囲もうとしているようだ。
すると僕の両側にレティとオリヴァーがすっと寄ってきた。
王女殿下が声をかけた少女たちもすぐに集まり、帝国の少女たちが僕を囲むのを阻むように動く。
少女たちはまるで二つの陣営に分かれて対峙しているみたいだ。
不思議な緊張感が高まる。
逃げ出していいかな?
帝国貴族の少女たちは王国の少女たちを見て、ざわついた。
「まあ、王国もたくさん綺麗な子たちを集めたのね。それに頭も良さそうだわ」
「中でもウィリアム様の両側にいる二人は凄いオーラね。一人はきっとカーディフ伯爵令嬢よ。噂通りの生気に溢れた魅力だわ。もう一人は誰かしら?」
「事前の情報にない娘ね。何というか人外の美しさね」
その点は同意する。女装したオリヴァーはどこかおかしい。
「皆さん、行きますわよ」
ざわつく少女たちにリーダーと思われる娘が声をかけた。
「ええ、帝国の良さを知って頂かなくてわ」
帝国貴族の少女たちは決意を秘めた表情で僕に近づいてきた。




