第135話 草原で放牧を始めよう
「モ~」
のんびりとした牛の鳴き声が草原に響く。
広々とした草原をゆっくり歩きながら、牛たちはゆっくりと草を食んでいる。
レティは放牧に向いた土地だと言ってくれたけれど、本当に牛たちがのんびりする姿を見られると感慨があるな。
「のどかな風景ですね」
リアの言うとおりだ。
でもリアは緊張を解いていない気がする。
最近は未開地だけじゃなくノーザンフォードにいるときも、リアとギルのどちらかが僕の側にいる。
二人は何でもないと言うけれど、何かあったのかな?
ノーザンフォードにいるときは、ベテラン騎士のジェームスも僕の近くにいることが多い。
考え事をしながら牧場の様子を見ていると、ヘルダーさんがやって来た。
「ウィリアム様、ここは牛たちにとって快適な場所のようです」
「ありがとう、ヘルダーさん。この場所で牛を放牧できるようになったのは貴方のおかげです」
ここは南の未開地の北部に広がる草原。
ヘルダーさんはカーディフ伯爵家の家臣の一人だ。牧場で長く働いていて、特に乳牛の扱いに詳しい。
未開地を探索したときに、ここで放牧ができないかなとレティに相談したときのことを思い出す。
レティは父親であるカーディフ伯爵に話をしてくれて、その結果、牧畜に詳しい人として紹介してくれたのがヘルダーさんだった。
ヘルダーさんがノーザンフォードに来てくれてから、未開地北部の大草原を牧場にする準備は始まったんだ。
最初にヘルダーさんを未開地に案内したときは、確かこんなやり取りをしたんだったかな。
「じゃあ、これから南の未開地に転移魔法で移動します」
「転移魔法ですか?」
「ええ、僕の服の裾を掴んでもらえますか」
「分かりました」
「転移」
「おお、ここは……。本当に一瞬で移動できるのですね」
「ええ、そういう魔法なんです」
転移魔法はあまり人前で見せないことにしているけれど、南の未開地の開発では使い惜しみするつもりはない。
父上たちと相談した結果、転移魔法を使ったほうが未開地の開発は早く進むだろうという結論になった。
世界樹を早く移すためにも未開地の開発は急ぎたい。
ヘルダーさんは転移の衝撃から立ち直ると、すぐに周囲の草を確認し始めた。
草を千切ってじっと見つめたかと思うと、口に含む。
「うむ。ここの草は牧草として使えそうです」
「それは良かった」
専門家に大丈夫だと言ってもらえて安心した。
次に、牛の食用に適さない草、特に毒性のあるようなものがないか、ヘルダーさんに確認してもらった。
そのことも心配だったんだ。未開地には毒のある植物も多いと聞いていたから。
でもヘルダーさんに確認してもらうち、毒性のある草は生えていなかった。ほっと安心したことをよく覚えている。
さらに牛が食べられない雑草もあまりなかった。
ありがたいことに南の未開地の大草原は牧畜に向いた場所だった。
次は最初の放牧地をどこに作るかだ。
大草原の中でもフェアチャイルド辺境伯領に近く、放牧に適した場所をヘルダーさんと相談しながら探した。
そして、近くに川のある場所に決まった。
場所を決めたら、放牧地を囲む柵を作ったり、牛舎を作ったりした。
未開地でそうした作業をするには、遠くから資材を運んだり、職人に来てもらったりと、いろいろ大変だ。
でも収納魔法と転移魔法があるから、必要な資材を収納して一瞬で転移できた。
そして柵や牛舎は生産スキルで作る。
まずは小規模な放牧から始めることにしたから、そんなに大きな放牧地や牛舎を作る必要はない。
僕とテオですぐに作ることができた。
やはり生産スキルは開発に向いている。
「なんと、もう柵と牛舎が出来たのですか。転移魔法にも驚きましたが、ウィリアム様の生産スキルは凄いですね」
ヘルダーさんも感心してくれた。
牧場で飼う乳牛は、何頭かカーディフ伯爵が譲ってくれたし、オリヴァーがレバント商会のネットワークで買い付けてくれた。
おかげで、すぐに10頭が揃った。
牛を遠くの未開地まで運ぶのも大変だから、転移魔法を使った。
そっと牛たちに触れて転移魔法を発動すると、驚いて暴れないか心配したけれど、すぐに草を食み始めた。
肝が据わっていることに感心した。
もしかすると牛は馬ほど繊細じゃなくて図太いのかもしれない。
搾乳する道具とかはカーディフ領の牧場の中古の物を売ってもらった。
伯爵は無料でと言ってくれたけれど、あまり甘えるのはよくないと思う。
それに、どんな構造になっているか調べたら生産スキルで作れるから、次からは工房で作ることができる。
牧場のすぐ近くには牧場スタッフが暮らす居留地も作った。
騎士が数名常駐して、牧場を魔物から守ってくれると同時に大草原の北のほうの魔物を狩ってくれる。
居留地にはフェアチャイルド領の移住者の募集に応じた人が10名ばかり住むことになった。
募集に応じた人は農家の次男や三男が多いらしい。
今回も家令のスミスが面接をしてくれているから、人柄に問題のない人ばかりだ。本当にスミスにはいつも助けられているな。
移住者にはヘルダーさんに指導してもらって、牧夫としてのスキルを身につけてもらう。
居留地の家は、やはり僕とテオが生産スキルで作った。
これが未開地の開発の第一歩かと思うと感慨があったな。
大草原は騎士たちとフェアチャイルド領からの移住者に開発してもらい、その南の黒土地帯では林や小さな森もあるからエルフたちも開発に加わる予定だ。
牧場で採れた牛乳はフェアチャイルド領の南端の町であるティンターンで売る。
ティンターンから未開地まで馬車で2時間くらい。
牧場は未開地に入ってから1時間くらいの場所にあるので、片道3時間くらいだ。
そのうち工房の職人とドワーフたちに頼んで、ティンターンから道路を整備して、もっと早く着くようにするつもりだ。
その頃には居留地は規模を大きくして村にできるといいな。
ただし、人が集まってくれるかな。
人手があれば、もっと放牧も大規模にやりたいな。




