第133話 国王陛下は魔物に備える
※今回はエドガー二世の視点です。
リンクスター城の廊下を走ってくる足音が聞こえる。
これは急ぎの報告だな。
王城の廊下を走るなど、普段ならあり得ない。
そう思っていると、執務室の前に詰めている騎士が扉を開けた。
「何事か?」
「陛下、また魔物の群れが出現したようでございます」
やはり有事だったか。
「そうか。では報告を聞こう」
儂は報告にきた騎士に部屋に入るよう促す。
「今度はどこに出た?」
「はっ、東部の魔の森と西部の樹海から出てきました」
「東の魔の森だと? 西の樹海なら分かるが。現地の状況はどうなっておる?」
「森の近くの村は壊滅した模様です。ですが駐留していた騎士たちが時間を稼ぎ、村人は近くの城壁のある町に逃げ込んだとのことです」
村にいたのは立派な騎士たちだったようだな。
「そして村の騎士たちは近衛騎士の率いる王国騎士団が救援致しました」
「そうか、住民に被害が無いのは良かった。村にいた騎士も救援できたのも朗報だな」
「はい。ちょうど王国騎士団が近くを哨戒していたようです」
ウィリアム君からエルフの警告を伝え聞いて、王国騎士団の哨戒活動を強化しておいて良かった。
「樹海のほうはどうなっている?」
「フェアチャイルド辺境伯領に非常に多くの魔物が現れたようです」
「非常に多くの魔物か。だが辺境伯の騎士団は精強だ」
もしセオドアの騎士団が破れるようなら、どの諸侯の軍でも対応できない魔物の群れということになるが。
「はい。無事に撃退したという報告がありました」
儂は胸をなでおろした。
「ですが、魔物たちの群れは統率がとれており、劣勢とみると一斉に引き上げていったそうでございます。さらに魔法を使う魔物がいたとのことでございます」
勝手気ままに襲ってくる魔物が統率されていただと?
しかも魔法を使う魔物とは。
騎士が退出した後、儂は宰相を呼んで情報を共有し、話し合った。
「宰相、これで今月は何か所目になるかな?」
「5か所目になります」
「多いな」
「ええ、それに東の魔の森のような小さな魔境にまで魔猪の群れが現れたことが問題です」
「そうだな。警戒を強化しておいて良かった」
「御意にございます」
「西部の樹海から出た魔物の群れの件は、どう思う?」
「統率がとれた魔物の群れに、魔法を使う魔物ですね。ウィリアム殿がエルフから聞いたという上位の魔物と考えるのが自然かと」
「そうだな。おそらくエルフの古老殿の警告のとおり、魔物の攻勢は強まり始めているのだろう」
「ええ、世界樹が弱体化したことで異常気象も起きていたとエルフから教えてもらいましたし。闇の力は強まっていると見るべきでしょう」
「うむ、こうなると出し惜しみはしておれんな。ウィリアム君が特性を二つ付与した装備を魔境に近い領地を持つ貴族たちにも持たせよう」
「よろしいのですか? 属性を二つ付与した装備は高値で売れますから、転売や盗難の危険がありますが」
「構わぬ。犠牲を少しでも少なくすることが重要だ」
「承知しました。では二つの特性を付与された装備を魔境に近い領地を持つ貴族たちに配布いたしましょう。経済力の弱い貴族にも行き渡るよう、価格は抑え目にいたします」
「頼む。それから四つの特性を付与した装備の使用許可を王国騎士団に出してくれ」
「陛下、四つもの特性を付与したミスリル装備を我が国が使用していると知られると、周辺国に警戒されるおそれがありますが」
「良いのだ。装備を出し惜しんで大きな犠牲を出すことよりましだ」
「承知いたしました」
「王国騎士団以外に、フェアチャイルド家とカーディフ伯爵家も四つの特性を付与をした装備を持っていたな。フェアチャイルド領には非常に多くの魔物が襲来したようだから、セオドアはミスリル装備も投入したかもしれんな」
「おそらくは」
「魔物が一番多く出る樹海に隣接する両家が良い装備を持っているのは良かった。本当は四つの特性付き装備も多くの貴族に供与できると良いのだろうが」
「ミスリルは希少ですから数が揃いません。それにもし供与するとなると価格が高くなり、手の出ない貴族もいるでしょう。一方、あまり価格を抑えてしまうと国庫が傾きます」
「止むを得ぬか」
「はい。それに王国騎士団からの報告では、特性が二つ付いた装備は十分に強力なようです」
「そうか。それにしても、もしウィリアム君がいなかったらと思うと空恐ろしいものがあるな」
「ええ、彼がこの時期に現れてくれたのは僥倖でした」




