第132話 魔物の攻勢
※今回は第三者の視点です。
ここはアルビオン王国の東部の小さな村。
西の樹海に比べれば随分小さな魔境であるが、それでも魔物が出現する魔の森に隣接している。
だから騎士が常駐しているのだが、普段は魔犬かせいぜい魔狼が数頭現れるくらいだ。
だが、この日見張りが見たものは……。
「何だこの数は! しかもデカいのがいる。まさか魔猪か?」
東の森から出現したのは、数十頭の魔物の群れだった。
さらに魔狼より格上の魔猪が含まれていた。
「ここには5人の騎士しかおらぬというのに」
報告を受けた小隊長は顔を伏せたが、すぐに決然とした表情で顔を上げた。
そして若い騎士に命じる。
「お前は村人たちに逃げるように伝え、それから町に行って救援を呼ぶのだ」
「小隊長たちは、どうなさるのですか?」
「我らは村人たちが逃げる時間を稼ぐ」
「そんな、数十頭の魔物が来るのに」
「このままでは村人は全滅だ。住民を護るのは騎士の務めだ」
「では私も一緒に」
「いや、誰かが報告する必要がある。儂は領主様から特性を一つ付与した防具も頂いておるから大丈夫だ。早く行くのだ!」
若い騎士は一瞬躊躇してから、走り出した。
実は若い騎士は先月結婚したばかりだった。
小隊長は装備のことを口にしたが、それは自分を逃がすための口実だと分かっていた。
小隊長は残った三名の騎士に謝った。
「付き合わせて済まぬな、お前たち。儂一人では足止めにもならぬ」
「どうか頭を上げてください、小隊長。騎士として剣を捧げたときから覚悟はしております」
「最後までお供しますよ」
「魔物どもにアルビオン騎士の意地を見せてやりましょう」
やがて地響きを立てながら魔物たちが襲来する。
騎士たちは雄叫びを上げながら剣術スキルを発動し、雄々しく立ち向かった。
奮戦する騎士たちは魔犬や魔狼をそれぞれ数頭倒したが、手傷も負っていた。
そこに魔猪が突進してきて、一人の騎士が避け切れずに吹き飛ばされる。
残りの二人は魔物たちに囲まれた
「ここまでか」
覚悟を決めたところで、包囲した魔物の数頭が炎に包まれた。
炎の花が散ったところに、騎乗した騎士が突っ込んでくる。
「無事か?」
ミスリルの剣を振るって現れた騎士の鎧には王家の紋章がある。
これは近衛騎士だ。どうしてこんな僻地に?と小隊長は思った。
近衛騎士は魔狼をも一刀のもとに切り捨てた。
少し遅れて十名ほどの騎士たちも加勢に駆けつけ、魔物たちを次々に倒していく。
「ありがとうございます。助かりました」
「救援が間に合って良かった。卿らは住民の逃げる時間を稼いでいたそうだな。我らに救援を求めた若い騎士が泣きながら話してくれた」
「力不足ではありますが、この地を護ることが務めなれば」
「立派な覚悟だ。貴卿らはアルビオン騎士の鑑だな」
「それにしても、このような小さな魔境から魔猪を含む群れが出現するとは」
近衛騎士は秀麗な顔を懸念で曇らせた。
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王国最大の魔境である樹海に隣接するフェアチャイルド辺境伯領にも魔物の大群が襲来していた。
「これほど数が多いとは」
辺境伯は顔を顰めた。
樹海に近づくと、大地を揺るがして魔物たちが寄せてきたのだ。
「そうですな、見たことのないほどの数です。それに隊列を組んでいるようですな」
騎士団長のリアムが指摘したように、普段はばらばらに襲ってくる魔物が整然と並んでいるのは異様だった。
それに魔物の群れには魔犬や魔狼に加えて魔猪もかなりの数が混ざっているようだ。
少し前なら多くの犠牲を覚悟しなければならない状況だ。
だが、辺境伯と騎士団長の顔に絶望は浮かんでいない。
「ウィルから魔物の攻勢が強まるだろうと聞いていたから、騎士たちに一番良い装備を付けさせておいてよかった」
「騎士団の主力はすべて連れてきております」
「まず魔法で魔物どもの勢いを止めるぞ」
「「はい!!」」
辺境伯の指示を受けて、魔法の得意な騎士たちは馬を止めて集中する。
騎士たちの頭上に次々と光の魔法陣が浮かび上がった。
そして魔法陣からは、炎や水など各種の属性魔法が飛び出していく。
色とりどりの魔法が宙を走り、魔物の群れに炸裂した。
黒い煙を残して何体もの魔物が消滅し、魔物たちの勢いが弱まった。
「突撃!」
辺境伯が叫ぶと、騎士たちは魔物の群れに突っ込んでいく。
「ライトソード!」
騎士たちの先頭に立って突撃する辺境伯は剣術スキルを発動した。
すると辺境伯の剣から光の刃が伸びた。
光の刃は魔物たちを紙のように切り裂く。
ライトソードは珍しい光属性の剣術スキルで、闇の魔物には特に効果が大きかった。
「ロッククラッシュ!」
騎士団長リアムも大技を繰り出す。
魔物たちが吹き飛び、黒い煙を残して消えていく。
そして隊列を崩した魔物たちに騎士たちが突っ込んでいく。
騎士たちの刃が煌めき、魔物たちは爪や牙で迎え撃ち、そこからは乱戦になった。
騎士たちの剣には複数の特性が付与されている。
魔物たちは分厚い皮膚を切り裂かれ、次々に倒されていく。
乱戦の中で複数の魔物から爪や牙の攻撃を受ける騎士もいる。
だが、やはり特性を付与されている鎧のおかげで大きなダメージは受けない。
このまま時間をかければ魔物の群れを壊滅させられると思われたとき、魔物たちは一斉に退却を始めた。
一瞬呆気にとられた騎士たちが気を取り直して追撃しようとすると、その目の前に何条もの雷が降り注いだ。
騎士たちは思わず足を止めてしまう。
「何だ? あれは」
「ウィリアム様の言われていた魔法を使う上位の魔物ではないでしょうか」
「そうだな。魔物たちの動きは統制が取れていたし、厄介だな」
「そうですな。ですが魔物の群れは撃退できましたし、ウィリアム様の付与した防具のお陰で犠牲者は出ておりません。良しとするべきかと」
騎士団長の言葉に頷いた辺境伯は、騎士団に引き上げるよう指示を出し、領都ノーザンフォードに帰還した。




