第129話 寒さに強い小麦とオリヴァーの懸念
※今回は途中から第三者の視点です。
最近、日ごとに昼間の暑さは和らいで、朝晩は涼しくなってきた。
秋の到来だ。
以前作った寒さに強い小麦は、ある程度の量になっている。
未開地の探索の合間に少しずつ増やしていたんだけれど、テオが頑張ってくれたから、思ったより早く量が確保できたんだ。
父上に報告に行こう。
「おお、新しい小麦の量が確保できたのか。素晴らしい。寒さに強い小麦は不作に悩む王国北部にとっては福音と言える」
「量を増やすのはテオが頑張ってくれました」
「そうか。テオ君もよくやってくれているようだね」
うちで植える分を残して、あとは北のシェフィールド公爵領に送ることにした。
価格はいつものようにレバント商会に付けてもらう。餅は餅屋だからね。
小麦を送ってしばらくすると、シェフィールド公爵の長子である公子ルーカスから手紙が届いた。
「ポムテのおかげで随分助かっているのに加え、今度は寒さに強い小麦まで開発してもらえるとは感激だ」と書いてあった。
北部の人たちがこれで食べ物に困ることがなくなると良いな。
公子の手紙に「貴公は我が公爵領の恩人であり、この恩を忘れることは決してない」と書いてあったのは少し大袈裟だと思うけれど。
国王陛下にも手紙で報告したところ、返信でお褒めの言葉を頂いた。
今回送った小麦が北部で実る頃には新しい報償を用意するとのことだったけれど、こんなことも書いてあったな。
「ウィリアム君の才能には果てがないことに驚くばかりだ。できれば次に何を開発する予定か事前に教えてもらえると心の準備ができるのでありがたい」
もう少しまめに報告したほうが良いのかな。
陛下に手紙を書くのは恐れ多いと思っていたからね。
でも、最近慣れてきてしまった感じもある。
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ちょうどウィルが陛下の手紙を読んだ日の夜、ノーザンフォードの工房ではオリヴァーがレバント商会の旧知の商人から話を聞いていた。
オリヴァーはいつになく難しい顔をしている。
「すると、ヴァンドル帝国の諜報部はウィリアム様のことを王都でもノーザンフォードでも聞いて回っているんだね」
「ええ、帝国の商人の振りをしてますが、あれは諜報部の人間ですね。怪しい奴がいると聞いて手前も話してみましたが、情報があると仄めかすと、目の色を変えてすぐ銭を出してきましたよ」
「なるほど。商人ならどんな情報を持ってそうか探ったうえで、自分に必要だと判断してから金を払うはずか」
「そのとおりです」
「これまで王国を後進国だと馬鹿にしてきた帝国は王国の状況には関心が無かった。それが諜報員を送り込んで情報を集めているとは」
「帝国は今年も小麦が不作で、寒さに強いライ麦も不作という情報もあります」
「そうなると、なぜアルビオン王国は豊作なのか探るのは自然なことか」
「そうですな。王国は旱魃に強い麦の開発者を隠していませんから、帝国はすぐにウィリアム様だと分かったでしょう」
「だとすると、ポムテもウィリアム様が創り出したことも知っていると思った方がいいな」
「ええ、このフェアチャイルド領から北のシェフィールド公爵領にうちの商会も大量にポムテを送りました。そのことも隠していませんから、すぐに調べがつくでしょう」
オリヴァーはうーんと唸った。
「問題は帝国がどう動くかだね」
「ウィリアム様は喉から手が出るほど欲しい人材でしょうな。帝国に何とか取り込めないかと考えるはずです。いきなり拉致する可能性は低いと思いますが」
「うん、ウィリアム様は上級貴族の子だし、陛下も目をかけているから、もし帝国が誘拐したことが分かれば国際問題になる」
「でも気を付けたほうがいいな。ウィリアム様は寒さに強い小麦も開発されたからね」
「乾燥に強い小麦に続いて寒さに強い小麦を開発ですか。そいつは凄いですな」
「ウィリアム様の才能は本当に素晴らしい。それだけに良からぬことを考える輩が現れてもおかしくない。帝国の動きに気を付けるよう、辺境伯閣下のお耳には入れておこう。ああ親父から王家にも情報を入れておいたほうがいいな」
「ウィリアム様本人には話さないんですかい?」
「うん。ウィリアム様には伸び伸びとものづくりをしてほしいんだ。心配事を増やすことで、才能を曇らせたくない。まだ子どもなんだし、周りが備えれば良いことだ」
「ほう、坊ちゃんは随分ウィリアム様には優しいんですな」
「揶揄うのはよしてくれ、ヨアヒム。彼は僕の命の恩人だからね。それから、坊ちゃん呼びも止めてくれないかな?」
「すみませんね。なかなか長年の習慣は抜けないようでして」
レバント商会の番頭格であるヨアヒムはオリヴァーを子どもの頃から知っている。
ずっとお世話になっているから、強くは言えない。きっと坊ちゃん呼びは止めてくれないんだろうなとオリヴァーは諦めた表情を浮かべた。




