第42話 田舎者の希望
アドロの生まれはウェアント王国の北の外れの村、『フェトイス』。エルフの里に一番近い村であり、エルフの森に入る為には、必ずそこを通らなくては着かない。この村にはよく旅人が立ち寄る事から、村人が食い繋いで行ける程度には発展していた。そして、亜人迫害が激しいウェアント王国でも有数の『亜人収容区』が存在している場所でもあった。
小さいころから、亜人と関わって、亜人が実際に人間に殺された瞬間に立ち会って来ているアドロにとって、それは余りにも惨いやり方で、次第に国の在り方に疑問を抱くようになっていたのも無理からぬ事だった。
フェトイス村には、エルフの里とも少なからず親交があった。時々エルフの里からの使者が支援を受け取りに来るところも見ている。彼らは用心深いが、仲が深まるにつれて、知識や文化、神話についての話を教えてくれた事がある。
この国の大多数の貴族がエレムナ教だ。こうした亜人こそを悪と決めつけ、神の名のもと虐殺する。その行為に過激派の亜人たちはクーデターを起こした。それを武力で押さえつけたエレムナ教は、そういう経緯で亜人収容区を作った。
彼の両親は2人共冒険者で、母は弓使い、父はシルバー等級の斧使いと、辺境の冒険者ギルドでは、そこそこ名のある冒険者の3人兄弟の次男に生まれた。
小さい頃から両親の冒険者としての仕事ぶりを見て来たアドロにとって、冒険者とは憧れの存在だった。10歳頃だろうか?本気で冒険者を目指す様になったのは。両親への憧れと尊敬の念は何時しか目標となって目指す様になっていた。ずっと冒険者になりたくて、それでも両親には一言も言えなかった。
両親がクエストで何日も帰って来ない時も度々あった。そんな日は村の外れの草陰で只管、特訓を重ねる日々。一人で特訓をしていると、バカにしてくる連中もいる。自称だが冒険者として村中の子供たちに言い触らしていた。
「どうせ、お前なんて弱っちぃんだろ?」
「そうだぜ そうだぜ!」
「ギャハハハ!!!この弱虫ヤローが」
と言って来るのは、いつもつるんでいる3人組の因縁のライバル。靴屋の息子のペナーエとダマールと鍛冶屋の跡継ぎ、ダラクだ。
「ケンカ売ってんのか?」
ムカついたアドロは挑発に乗る。
「何だとゴラァぁ!!!!やんのかてめぇ!?」
「おりゃぁぁぁ!!!」
これまでの成果が表れたのか、その日、初めて勝った。かなりの接戦で、3人を一度に相手取ったのもあってか、服は千切れ、擦り傷もつくり、もうアドロの体はボロボロだった。
「あんたってホント馬鹿ね」
と、幼馴染に言われてもボロボロになっても、その夢はあきらめなかった。
「なんだよぉ、エイプリル。俺は諦めねぇぜ!無事、夢がかなったら結婚し・・・ぐほおっ!!!」
盛大に股間蹴りを喰らっても・・・。
幸い、両親が冒険者だった為、家に武器は腐るほどあるので、特訓は毎日の様にした。剣を振ってみたり、弓矢を使ったり、時には格闘の訓練をしたこともある。その反動で自分の手を切って何度も怪我したこともあった。そんな時は、母が優しく声を掛けてくれた。
試行錯誤を繰り返し、一番手にしっくり来るのは斧だった。それは父親が使っていた武器。冒険者の血が騒ぎ出したのがはっきりと分かった。この時からだ、斧を持ち始めたのは。
兄にはいつもケンカや勝負事で負けて、悔しかった。だんだん兄の背中が遠くなるような気がして、劣等感を持ち始めた。自分は兄より劣っていて勝てないと。引き離されていくのが、どうしても嫌だった。
「お前は冒険者に向いていない」と兄に言われ続けても、斧を振り続けた。
それから、さらに月日は経ち、アドロは15歳の成人を間近に控えた14歳となっていた。丁度、尊敬する両親が現役を引退する事も重なって、これを機に王都に都上る事にした。これがアドロの人生最大の決断だった。田舎から王都に行くのには最低でも馬車で3日は掛かるが、ずっと待ち侘びて来た瞬間だった。
「俺、これから都に行こうと思う。そして冒険者になる」
「まぁいいんじゃないか」
「ええ、好きにしなさい」
基本的に放任主義な両親に、この事を話しても、特に反対はされなかった。兄も、特に異論はない様だ。毎日特訓していて、少しは認められたようだ。
「まぁ、僕もボチボチ行くよ。弟に負けられないプライドがあるからね」
それから、
「私も行く。あんた一人じゃ危なっかしいでしょ」
などと抜かしたエイプリルと共に、村から出発したのは2日後の事だった。村の皆は揃って見送ってくれた。辺境の集落から王都という都会に出て行った者は、これが初めてだそうで村中が沸いた瞬間だった。
自称冒険者は何時しか本物になっていた。




