木曜日・想い 12
「……来ねぇ。」
眉を寄せている昌獅の元に一つの影がかかる。
「何が来ないの?」
「ん?ああ、終わったのか?」
「うん、後は診察の待合で待っててほしいんだって。」
「んじゃ、行くか。」
昌獅は自分の鞄と友梨の鞄を抱える。
「昌獅、私の分は自分で持つよ。」
「後でな。」
友梨は昌獅が完全に譲る気がない事を知り、溜息を零す。
「もう…。」
「ほら。」
ふくれっ面の友梨に昌獅は空いている手を差し出す。
「昌獅、流石の私でもそんな距離ではこけないと思うんだけど。」
「そんな心配はしてねぇよ。」
友梨は本当かと疑うような視線を昌獅に向ける。
「本当に?」
「本当だ。」
未だに差し出され続ける手に友梨は彼の顔と見比べ、そして、溜息を吐きながら手を取る。
「何か、昌獅って過保護だね。」
「……。」
昌獅は何かをポツリと呟いたようだが、残念ながら友梨の耳には届かなかった。
「ん?何か言った?」
「何でもねぇ。」
「はぁ…、それにしても、時計ついてないな。」
「どうしたんだ?」
「電池が切れたみたいで、お店も締まっているし、明日学校が終われば寄らないと。」
「……。」
友梨の言葉に昌獅は眉間に皺を寄せる。
「明日?祝日なのにか?」
「へ?」
友梨は目を丸くさせ、携帯を取り出しカレンダーを見れば確かに祝日だった。
「あー、本当だ。」
「お前、本当に抜けてるな。」
「……煩いな。」
友梨は唇を尖らせ、昌獅を睨む。
「……ねぇ、昌獅。」
「何だ。」
「何か嫌な予感がするんだけど。」
「……。」
唐突な友梨の言葉に昌獅は眉間に皺を寄せる。
「明日祝日なんだよね。」
「ああ。」
「何か、丸一日潰される気がする。」
「……。」
「…………………ちゃんと次も帰って来られるのかな。」
ポツリと呟かれた友梨の不安は昌獅の胸にもあった。
でも、彼は不安よりも決意の方が大きかった。
「無事に帰ってこられるんじゃない、帰ってくるんだよ。」
「昌獅?」
「大丈夫だ、次はちゃんと守るから。」
握られる手が強く握られる。
「……ありがとう。」
友梨は複雑そうな顔をする。
彼はきっと私に負い目がある。
だから、優しいのだと友梨は思った。
昌獅は友梨が何を想って表情を曇らせたのか理解していない、だけど、きっと彼女がネガティブな考えをしているという事だけは理解していたので、溜息を零す。
「長期戦と分かっていても、ここまで強力だと不安になるな。」
「昌獅?」
「友梨。」
「何?」
「覚悟しておけよ。」
「へ?」
真剣な顔で言われ、友梨はキョトンとするが、次の瞬間、何か執着のような粘着質な何かが彼女に絡みつく。
本能的に彼女は体を強張らせるが、すでに遅かった。
もし、友梨が昌獅に出会わなければ、こんな事にならなかったのかもしれない、でも、彼女たちは出会ってしまった。
もう時間は戻せないし、それに、彼女たちならば今じゃなくとも未来のどこかで出会っていただろう。
偶然ではなく、必然の出会いなのだから…。




