水曜日・過去 38
「お姉ちゃん。」
ハッとなり、友梨は声を掛けて来た智里を見る。
「何?」
「気にしている訳?」
「何を?」
「……。」
首を傾げる友梨に智里は溜息を零す。
「分かってやっている訳?」
「何がよ。」
「……。」
黙り込む智里に友梨は大した用事ではないのかもしれないと思い、彼女の横を通り過ぎようとして、智里にその手を掴まれる。
「何よ。」
「あのメッセージよ。」
「……。」
智里もやはり同じ事を考えたのだと分かり、顔を顰める。
「ただの数字の羅列でしょ。」
「そうは思ってないくせに。」
「……。」
「お姉ちゃんは心当たりがある訳?」
「私を嫌う人間なんていっぱいいそうだけど?」
「嘘つき。」
智里の言葉に友梨は何とも言えない気持ちになる。
確かに智里に言ったのは、半分は嘘だ。
自分の事を好いている人なんてそんな酔狂な人はまずいないだろう。
私は自分が大嫌い。
馬鹿で
意気地なし
逃げて
何もしない
本当に救いようがない程の臆病者
そんな自分を誰が一体愛してくれるなんてそんな奇跡はまずないだろう。
もし、例外を作るとすれば無償の愛をくれる血の繋がった家族くらいだろう。
「……。」
黙り込む友梨に智里は盛大な溜息を零す。
「智里?」
「本当にお姉ちゃんは…。」
「何?」
「……本当に一番の候補があれだなんて…ね。」
いったい何が言いたいのか友梨には分からず、彼女は首を傾げる。
「智里?」
「…お姉ちゃん、本当は気づいているのでしょ?」
「何が?」
何を言っているのか分からないはずなのに友梨の心臓が一瞬跳ね上がる。
「無自覚。」
「何がよ。」
「まあ、苦労するのは無効だからいいんですけど。」
「……。」
「早く自覚しないと、逃げられないわよ。」
真剣な顔で言われ、友梨はたじろぐ。
「まあ、お姉ちゃんが無自覚で受け入れているようだし、そのまま進んでもお姉ちゃんなら問題はないかもしれないけどね。」
「だから何なのよ。」
「さあ。」
呆れたように肩を竦め、智里は友梨から興味が失せたのか、気まぐれな猫のようにふいっと顔を背ける。
「そろそろ、終わらせないとね。」
「そうね。」
友梨は時計を見て顔を顰める。
「結構時間が経っているはずなのに、こんなものなのかな。」
「……。」
友梨が時計を見れば八時を指していた。
「お母さんに連絡入れてないしやばいな。」
「お姉ちゃんは阿保なの?」
「えっ?」
「わたしが何もしてないと思っている訳?」
「……。」
友梨は思わず、頭を押さえた。
そうだ、ここにいるのは自分一人じゃなかった、智里、美波、自分以外に母と連絡を取っている人がいる。
自分一人でなんでもしなくても大丈夫なのに、すっかりと抜けていた。
「ごめん。」
「まあ、抜けているお姉ちゃんの事とだからどうせ忘れていたと思ったけど、良かったわえ、わたしが居て。」
「うん、本当に智里がいてよかったよ。」
友梨は心配事が一つ減ってへにゃりと笑う。
「それにしても、何て言って?」
「お姉ちゃんが偶々受けたい大学の先輩に色々と聞きたい事があるから遅くなるみたい、因みにわたしも大学の事で色々質問があるからって。」
「美波の言い訳は?」
「このお惚け娘に少しでも先を見させるための社会勉強。」
「……。」
色々と嘘だが、本当が混じっているので、ある意味本当の事に聞こえる。と友梨は智里の嘘に感心する。
「お姉ちゃん、嘘はねほんの少しの本当を混じらせれば、本当に聞こえるものなのよ。」
「――っ!」
艶やかに笑う智里の背後には漆黒のバラやユリが浮かんでいるようだった。
ゾクリと恐怖が這い上がる友梨に対し、智里は何事もなかったかのように身を翻した。




