水曜日・過去 35
友梨たちはすぐに7という数字を見つける。
「ここはいるの?」
何かの部屋のような場所に友梨は戸惑いながら後ろの面々に声を掛ける。
「入るしかないでしょ。」
「ですよね。」
即答する智里に友梨は肩を竦める。
先ほどから扉を開けているような気がして友梨は内心でぐったりしながらも、手に持った傘を強く握る。
「友梨。」
「何?」
「俺が開けるから退いていろ。」
ドアノブというか取ってのような形状をしているそれに手を置いていた友梨の手の上から昌獅の手が伸びて来た。
「えっ、でも。」
「何かあったら俺の方が対処できる。」
「それって、昌獅が危険なんだよね。」
「……。」
「昌獅一人が背負う事はないよ。」
「背負っているつもりはねぇよ。」
「で、でもさっきから…。」
「この連中の中で一番適任は俺だろうが。」
「そんな事はないよ。」
「そうか?」
「そうだよ。」
「他にいるというなら誰が行けると思うんだ?」
「私とか?」
「却下。」
「何でよ。」
不満そうに唇を尖らせる友梨に昌獅は顔を顰める。
「お前はまず自分を犠牲にしても守りに入るだろうが。」
「そんな事――。」
「ある。」
遮られ、友梨は呆然と昌獅を見る。
「俺だったら即座に攻撃にも守りにも入れる、だから、お前は後ろにいとけよ。」
「でも……それじゃ、三村さんは?」
「あいつは駄目だ。」
「何で?」
「……。」
友梨の疑問に昌獅はそっぽを向く。
「……言いたくないの?」
「…………………………あいつは後衛だ。」
「えっ?」
昌獅の言葉に友梨は首を傾げる。
「あいつは弓道をやっている、もし、弓矢があればあいつに後衛を任せている、だか、ここには。」
「弓矢もないし、そんなものを持ち歩いているのはまだしも、出してたら下手すると銃刀法違反で捕まるもんね。」
「ああ。」
「うん…分かった。」
友梨は昌獅の言葉に静かに頷いた。
ちゃんと昌獅は勇真の事を見ている。
憎しみや恨みで彼を外しているのではなく、ちゃんとした理由があったのだ。
「分かった、なら、昌獅お願いね。」
「いいのか?」
思ったよりもあっさりと引く友梨に昌獅は戸惑いを隠せないでいた。
「良くはないよ。」
昌獅の言葉に友梨は苦笑する。
「でも、昌獅はちゃんと見て、それで決めてくれたんだよね。」
ニッコリと笑う友梨に昌獅は思わず目を細めた。
「智里、美波、涼太くんはやっぱり守る対象だもん、だから、外してくれたのも分かる、正直、三村さんに対してはよくない感情で外していたと思ったから。」
「……。」
友梨の言いたい意味が分かったのか昌獅は少しばつが悪そうな顔をする。
「でも、違ってよかった。」
「友梨。」
「ちゃんと周りを見て決めてくれたんだもん、それで、駄目だと言ったら私は昌獅を信じていない事になるもんね。」
友梨は一歩踏み出し昌獅の手を取る。
「もし、何かあったら言ってね。」
「友梨?」
「昌獅が抱え込んでいるもの、背負わせてとは言えない、だって、昌獅だって、出会って僅かな人に言える事なんてないでしょ?」
「……。」
「私だって、昌獅に全部は吐き出せないよ、醜い部分が多いし、嫌われたくないもの。」
「嫌ったりしない。」
「どうかな?」
友梨は苦笑を浮かべ、握った手を自分の胸に押し当てる。
「信用はしてくれなくてもいい、だけど、もし、私の力が必要なら言って、私はちゃんと動くから。」
「……なら、自分の身だけ守れ。」
「えっ?」
「自分の事が出来なければ他なんてできないんだからな。」
「で、でも…。」
「欲張ればお前は自滅するタイプだろう。」
昌獅の言葉に友梨は戸惑う。
「そ、そんな事はないと思うけど。」
「どうだろうな。」
「えっと。」
「テンパるとお前失敗を重ねるだろう。」
「うっ…。」
「しかも、予測してない事があればすぐにテンパるからな、お前は。」
「な、そんな事は。」
「階段。」
ポツリと呟かれた単語に友梨は顔を引きつらせる。
「う…あ…。」
昌獅の言葉によって思いだ冴えたその光景に友梨は呻き、そして、頭を抱えてしゃがみ込む。
「自覚はあるようだな。」
「う……。」
「お前は落ち着けば大丈夫だろうが、こういう何が起こるか分からな状況なら絶対に後ろで待っとけ。」
「う…ん…。」
「そのうち慣れるだろ。」
「慣れるまでこんな状況に陥りたくないんですけど…。」
「まあな。」
昌獅は友梨の言葉に同意し、そして、急にビシリと固まった。
「昌獅?」
「……。」
「もしもーし。」
友梨は不思議に思い、昌獅の目の前を開いている手で振る。
「まーさし?」
「お、おまっ!」
顔を真っ赤にさせる昌獅に友梨は小首を傾げる。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃねぇ、いつまで、そうしているつもりだ。」
「えっ?ああ、ごめん気持ち悪かったよね、ごめんね。」
友梨は自分の胸に昌獅の手まで押し付けている事に気づき、気持ち悪いよね、ああ、悪い事してしまったな。などと考えている。
「気持ち悪くはねぇ…じゃなくて、お前、男に対して何しているんだよ。」
「さあ?」
「お前は痴女か。」
「ちっ!違うわよっ!」
昌獅のあまりの言葉に友梨は顔を真っ赤にして怒鳴る。
「なら、何なんだよ、俺は男だぞ。」
「見れば分かるわよ。」
「分かるんなら悟れ。」
「何をよっ!」
「くそっ!」
毒吐く昌獅に友梨は混乱しつつも手を離す。
「あの…。」
「頼むから、あんな事やんな。」
「あんな事って?」
「あんな事は、あんな事だ。」
「そんなんじゃ、分からないよ。」
「分かれっ!」
パンパンと乾いた音で二人の会話がようやく途切れる。
「いい加減にしてくださらない?」
青筋を立ててニッコリと微笑んでいる智里に、友梨は小さな悲鳴を上げる。
一方、昌獅は智里を黙って睨む。
「お姉ちゃんは一応痴女じゃないと思うわよ。」
「あん?」
「ただ単にそういう恥じらいというものが抜けているだけ。」
「……。」
「酷いっ!」
絶句する昌獅、半泣きで怒鳴る友梨に対し、智里は冷めた目で彼らを見ていた。
「本当の事でしょうが、未だにお風呂上りに下着だけで動き回るのは止めて欲しいわね。」
「ちょっとっ!」
「あら、顔が真っ赤ね。」
「当たり前でしょうが、何ばらしているのよ。」
「本当の事でしょ?」
「やっているけど、ここでばらすような話題じゃないでしょうが。」
「あら、それもそうね、でもどうせお姉ちゃんだし大丈夫でしょ。」
「何が私だから大丈夫なのよ。」
「お姉ちゃんだから。」
「だから、その根拠は何なのよ。」
流石にいたたまれない男子たちは静かに彼女から目をそらしているのだが、友梨は気づいていない。
因みに智里は気づいているだろうが、色々と鬱憤が溜まっているのか、ここで姉を弄っているようだった。
「ううう。」
「恥ずかしいのならやめればいいじゃない。」
「だって、家お父さんしか男いないじゃない。」
「男の有無じゃくて、女としての恥じらいはないの?」
「ないっ!……じゃなくって。」
こいつ、本音漏らしたな、と智里は呆れたような目で見てくる。
「だって、暑い日とかってパジャマ着たくないし。」
「目の毒なのよ。」
「酷いな。」
「酷くない。」
「どうせ、見る気ないくせに。」
「視界に不快なものが映っているのよ、苛立つに決まっているじゃない。」
「なら、見なきゃいいじゃない。」
「だから、視界に勝手に入ってくるのよ。」
「……。」
「……。」
睨み合う二人は同時に視線を逸らす。
「お姉ちゃん。」
「分かっているわよ。」
「いつまでも時間ばっかり取るわね。」
「煩い、というか、智里が首突っ込まなかったらもう少し早かったんじゃないかな。」
「わたしの所為だと言いたい訳?」
「そこまで、言ってません。」
「そこまで、ね。」
智里が意味深に呟き、友梨は不味ったというような顔をする。
しかし、智里はそれ以上言う事無くすんなり、彼女は昌獅の邪魔にならない位置に着く。
「……何なのよ、あの子は。」
友梨はどこか呆れたように言い、そして、昌獅の傍を通る時、彼にエールを送る代わりにそっと彼の肩を叩いた。




