水曜日・過去 34
あの馬鹿姉はーー。
智里は無意識にそう呟く。
あの姉は本当に卑屈だ。
何でそんなにも自分を下げるのか分からない。
自分が馬鹿だという。
本当に馬鹿ならばそもそも推薦何か狙わないだろう。
自分が非力だと嘆く。
何処が非力なものか、頭が回らない所が確かにあるかもしれないが、それでも、一生懸命何かをなそうというのは傍から見ても十分伝わる。
何がそうさせているのか。
ふと、智里は自分の親戚を思い出す。
あれが元凶かも知れない。
自分の子よりもしっかりとしている智里に対して苛立ちを隠せない伯母を思い出し智里は顔を顰める。
物心がつき始めた時に姉は親戚に一時的に預けられただろう、その時に何かがあってもも可笑しくはないのかもしれない。
三つ子の魂百まで、とよく言うじゃないか。
智里はジトリと未だに痴話げんかをしている姉を見る。
姉はあまり表情を出さない。
もちろん楽しい時は笑っている。
悲しい時は泣いている。
憤った時は怒っている。
癇癪だって起こす。
でも、どこか感情を殺すところがある。
本当に馬鹿な姉だ。
……イラっとするわね。
智里は仕方なさそうに、友梨の後ろに立つ。
「お姉ちゃん。」
「ひゃっ!」
突然声を掛けられた事で驚く姉に智里はマイペースで話す。
「いい加減慣れなさいよ。」
「む、無理…て、いうか、あんた、気配を消さないでよね。」
「消してないわ。」
「嘘。」
「してない。」
「……。」
「……。」
しばらく黙り込む二人だったが、先に折れたのは姉だった。
「で、何なの?あんたはむやみやたらと脅かさないと思うけど。」
どこぞの誰かと違って、と言うように駄犬を睨む姉にこの男は何をしたのだと、智里は顔を僅かに顰める。
「で、何なの?」
「お姉ちゃんは気づいている?」
「何を?」
「この辿る数字がいくつまでとか?」
「うーん。」
唇を指で押さえる姉に彼女はいくつか候補があるのだと理解する。
「七?」
「違うと思う。」
「八?」
「私は十二かな?」
「そう。」
「まあ、わかんないけどね。」
困ったように笑う姉に智里は肩を竦める。
「わたしは答えを求めたんじゃないわ、お姉ちゃんの意見を聞きたかっただけ。」
「そうなの?」
「根拠は言いたくないんでしょ?」
「外したら恥ずかしいから。」
「そう。」
智里はそれ以上追及する事はなかった。
「もし、それが本当ならまだ五つ残っているわね。」
「そうだね。」
「急がないと夜中になるわね。」
「いや、それは本気で困るし。」
「なら、急ぐしかないわよ。」
「分かっているわよ。」
ポンポンと会話を進める智里たちは足を進める。
「さっさと終わらせるわよ。」
「了解。」
力強く笑う姉。
変わってきている。
それは誰の影響か。
分かってしまった智里は自分を睨む駄犬に向かって睨みを利かせる。
まだ、姉をこの駄犬にあげない。
だって、まだ見極めが終わってないもの。
姉は人を信用してないくせに、騙される。
だから、この駄犬が姉にとってどんなものか。
それを見極めるのは血の繋がった自分だから。




