水曜日・過去 33
「……。」
ぎゅっと目を瞑っている友梨に昌獅は不思議そうな顔をする。
「友梨、お前、気分でも悪いのか?」
「あっ?えっ?」
友梨は昌獅の質問の意味が分からず首を傾げる。
「どうして?」
「お前目を固く閉じていたじゃねぇかよ。」
「ああ。」
昌獅の質問の意味が分かり、友梨はどこかバツが悪そうな顔をする。
「そこの姉はこれが苦手なのよ。」
友梨が答える前にさっさとばらしてしまう智里に友梨は軽く彼女を睨む。
「苦手…。」
「なんていうか…ほら、ふわっとなる瞬間とか苦手なんだよね…。」
智里にばらされてしまったので、誤魔化すのも変だと思った友梨は白状する。
「そんなもんか。」
「そんなもんです。」
「という事は高い所も苦手とか?」
「ううん、そっちは大丈夫、、何というか一瞬無重力になる瞬間というかな、そういうのがぞわっと来て嫌なんだよね。」
「つまり、ジェットコースターとかは駄目という事か。」
「あー、ダメダメ、小学生の頃父親と遊園地に行ったんだけど、その時に今までジェットコースターは嫌いだからって思い込んでいるだけかもってチャレンジしたんだけどね…。」
「駄目だったと。」
「うん。」
友梨はあの時の記憶を思い出し、顔を引きつらせる。
小学生の修学旅行目に父親の会社の旅行で丁度同じ場所に行く事になったので、自分がそう言えばジェットコースターとかの絶叫系は何処まで乗れるのかと気になって乗ってしまった。
あの時の自分に会えるのなら友梨は言うだろう。
お前は、絶叫系は駄目だから絶対乗るなと。
足元が宙ぶらりんになるタイプのそれに乗り、風圧で首がもげてしまうのではないのか、靴が飛んで行ってしまうのではないのかとすごくひやひやした。
そして、終わった瞬間にホッとしたのと、もう二度と乗ってやるものか、と思った。
なので、未だに友梨は絶叫系が嫌いだった。
因みに、美波は激しい物じゃなければ絶叫系は乗れるが、基本は高い所が苦手なので乗らないし、智里なんて乗り物系が大っ嫌いと言っているので、絶対に遊園地に行っても乗り物には乗らない。
「そうか。」
「だから、どっかでかけてもエレベーターじゃなくて、エスカレーターを使っちゃうんだよね。」
「……。」
「昌獅は苦手なモノとかってあるの?」
「苦手なモノか?」
「うん。」
流石に自分の恥を教えたんだから代わりに昌獅の何かを知らないと、と自棄になっている友梨に、昌獅は本気で考えてくれていた。
「悪ぃ、思いつかん。」
「あー。」
本当に罰が悪そうな顔をする昌獅に友梨は呆気に取られる。
「友梨。」
「あっ、うん、私も無茶振りしたしね、ごめんね。」
「いや。」
「バカップル、いい加減気づきなさいよ。」
「へ?」
「……。」
智里の不機嫌丸出しの声音に友梨が素っ頓狂な声を上げ、昌獅は眉を寄せ友梨と同じく彼女を見る。
いつの間にか空いている扉の向こうに既に勇真、涼太、美波、そして、智里がいた。
友梨はいつの間に、と驚いているが、その友梨の指は「開」のボタンが押されていた、きっと着いたと認識はしていて押してはいたのだが、彼女自身理解はしていなかったようだった。
「お姉ちゃんって本当に……。」
「ちょっと、本当に何よっ!」
「さあ、自分で考えれば。」
「えっ、本当に気になる、私貶されるの?……あー、貶さされるよね、あのタイミングじゃ。」
「そう思うのならそうでしょうね。」
「うわっ、ちょっと、智里。」
「ぷっ……。」
横から聞こえた噴き出した笑いに友梨はギッと昌獅を睨む。
「昌獅、笑う暇があるなら早くおりてよね。」
「お前の百面相が面白すぎるのが悪いんだろう。」
「してない。」
「してんな。」
「バカップル。」
低い声音に友梨は油が切れたような機械人形のように首を動かす。
「いい加減にしてくれる。」
「ひゃいっ!」
まるでその眼で脅されているような友梨に昌獅は呆れる。
「お前立場低いな。」
「煩い、さっさと出てよ。」
友梨は苛立ち、とうとう昌獅を蹴とばす。
「お前。」
「昌獅が悪いんでしょうが。」
「手より足が出るのかよ。」
「また蹴られたいの。」
確実に実行するつもりの友梨は足を上げている。
「弱いくせに強いな。」
「矛盾しているんだけど?」
「それがお前だろうが。」
訳が分からない友梨は怪訝そうに顔を顰める。
「ほら。」
友梨がボタンから手を離しても扉が閉まらないようにその大きな手で扉を押さえる昌獅。
「ありがとう。」
友梨は昌獅の優しさを受け、どこか居心地が悪いようなそんな気分になった。




