水曜日・過去 30
本当にあいつは…。
心の中でそう呟き、昌獅は呆れたような、でもどこか優しげな眼をしていた。
危なっかしいくせに、自分を犠牲に考える。
今までいなかったタイプ…。
いや、一人該当する人がいた、でも、その人はそんな所を見せた事がなかったが、今考えればあれはそうだったのではないかと思う。
あの人はどう思っていたのだろうか。
自分が傷つく方がいいと思っていたのだろうか。
いや、あの人の場合は違う。
きっと晴れ晴れとした笑みを浮かべ、体が勝手に動いただけだからと、あっけらかんと言い切るんだ。
まあ、それはそれで、問題だと思う。
でも、それは彼女らしい答えのように思える。
昌獅は目を動かし、踊り場にいる二人を見る。
落ち着いた様子の大嫌いな男――勇真。
こいつはあの人を裏切った。
いや、本当は裏切っていない事くらい分かっていた、でも、そう思わないと俺は心の均衡がうまく取れなかった。
憎む事しか己を保てなかった。
……保てなかった?
過去形になっている事に昌獅は戸惑う、だから、慌ててもう一人を見た。
どこか緊張しているような学ランを着た少年――涼太。
ただの餓鬼だと思った、でも、この中にいる中でもしかしたら一番自分に近い気がした。
青くて。
餓鬼で。
詰めが甘い。
そんな子どもなのに、子ども扱いをされて牙を剥く猫のようなそんな奴なのに、一人の少女の前では少し違う。
青い、でも、その眼はずっと大人の目をし始めた。
餓鬼、でも、その表情は時折愛おしい者を見る目をしていた。
詰めが甘い、でも、その少女を守る為に必死に考えている。
たった数日なのに、変わり出した少年。
そう、その少年と同じように昌獅も一人の少女と出会った。
何処にでも良そうな少女。
でも、不安定で。
傷つきやすく。
なのに、必死でーー。
自分を犠牲にする少女。
「昌獅。」
下の階から聞こえた声に昌獅は自分でも気づいていないが口角が上がっていた。
「行くぞ。」
ドアを開ける。
そこに何があろうと、守りたいのはただ一つだけ。
無理に一人で立とうとするあの少女を笑わせたい。
ただそれだけだった。




