水曜日・過去 28
「お姉ちゃんたちと合流するといつも、そうよね。」
「そんな事は。」
「あるでしょ?」
冷ややかな智里のその瞳に友梨は飲まれそうになる。
「それにしても、ずいぶんいい恰好をしているわね。」
智里は目を眇めながら友梨の頭からつま先まで見る。
「な、何が?」
友梨は自分が階段から落ちた時に血が出ていない事を確認していただから、友梨は智里が何を言っているのかと、変にドキドキしていた。
「ふーん。」
「……。」
「そんなに埃まみれ、擦り傷だらけなのに何もなかったと、お姉ちゃんは言いたいの?」
「……。」
友梨は視線を泳がせる。
何もなかったとは言えないだろう、一体智里がこの現状をどのくらい把握しているのかと思ったら恐ろしくなる。
「あら、何も言わないの?」
「……。」
「本当にお姉ちゃんは都合が悪くなると黙り込むわよね。」
「……。」
「だから、お姉ちゃんはーー。」
「いい加減にしろ。」
怒気の篭った声音に智里はまるで、羽虫の葉音でも聞いているかのように煩わしそうな顔をして振り向く。
「あら、わたしは姉と話しているのに何の用かしら?」
「てめぇはこいつを虐めたいのかよ。」
「あら、そんな事はないわよ。」
「ぜってぇ、あるだろうが。」
「そう見えるのは貴方の目が腐っているからじゃないかしら。」
「俺の目は正常だ。」
「どうかしらね。」
「なんだと?」
これ以上二人が話していても完全に先ほどの二の前になってしまうと思い友梨は服を握りしめ、二人の間に割り込もうとする。
「あの。」
「いい加減にしてくれないかな?」
苛立つような声音に友梨が振り返ればそこにはニッコリと笑っている勇真の姿があった。
「怒っていらっしゃる?」
「そうだね、いい加減こんな幼稚な事で喧嘩するのは馬鹿らしいよ、智里ちゃんは何でそんなに人を怒らせるような物言いをするのかな。昌獅も昌獅でむやみやたらと突っかかるのは止めてくれ。」
「……あら、わたしはそんなつもりはないけど?」
「誰がお前の言葉なんかに…。」
「あ、あの、私が悪いので。」
友梨はごめんなさい、と頭を下げると勇真は溜息を零した。
「君は自分が悪くなくても頭を下げるのかい?」
「先ほどのは私がうまく智里との対話がいかなくて、昌獅が口をはさんでくれたんです、だから、悪いのは私です。」
本気でそう思っているのか、友梨の目には嘘、偽りはなかった。
それを見た勇真は悲しげな顔をして溜息を零す。
「友梨ちゃん、のそこはなおしたほうがいいよ。」
「えっ?」
「いつか、君は損をしても君は自分が悪いのだからと、考えてしまいそうだね。」
「そんな事は。」
「今はそう思っていても、守られてるからいいかもしれないけど、もう来年には大学生になるのだからもっと自分の事を見た方がいいよ。」
「……。」
勇真の言葉は正直に言えば友梨にとって何度も母親から言われている言葉だった、だけど、友梨はそれを受け入れる事が出来ないでいた。
他の人は正しく、自分は間違っている。
それが友梨の中で汚れのようにしみついている。
友梨は取り敢えず、この場をどうにかしたいと思って言葉を紡ぐ。
「善処します。」
彼女の口から漏れた言葉に勇真は何か言いたげな顔をするが、それ以上口にする事もなく、五階にたどり着く。




