水曜日・過去 27
二人の足音が響き渡る。
一人は力強く。
一人は慌てているのかどことなく忙しない足音。
「友梨、落ち着け。」
焦っている友梨に対して昌獅は彼女に声を掛けるが、彼女の焦りはそのくらいでは収まるはずもなく、速さが増す。
「そんなに焦っているとこーー。」
「きゃっ!」
言っている傍から階段を踏み外しそうになっている友梨に昌獅は慌てて彼女の腕を掴み、何とか彼女の態勢を整えてあげる。
「言ってる傍からお前は…。」
「ご、ごめんなさい…。」
「……。」
しゅんと縮こまる友梨に昌獅は溜息を一つ零し彼女の頭を軽く小突く。
「焦る気持ちは分からなくはないが、急いでいたってなんも解決はしないぞ。」
「うん……。」
「そりゃ、お前の妹はおっかないが、そんなに焦るほどか?」
「あっ、えっ?」
「……。」
昌獅の言葉に友梨は驚いたような顔をして、昌獅は怪訝な顔をする。
昌獅はてっきり、彼女の妹が恐ろしいが故にあんなにも友梨が焦っているのだ灯ったのが、どうやら違うようだった。
「なにか、他に理由があるのか?」
「う…ん。智里が怖いって理由もあるけど…うち、門限があるんだよね。」
「門限?」
「うん……私たちってあんまり寄り道しないし、本当なら携帯だって持っていないから電話する訳にもいかなかったから、まあ、駅の公衆電話から家に遅くなるって連絡を入れればよかったんだけど……。」
「……。」
昌獅はあまりも生真面目すぎる彼女の理由に額を手で覆う。
「お前な…。」
「緊急事態だって分かっているんだよ、でも、やっぱり、落ち着かないっていうか、何というか……。」
昌獅は俯く彼女の頭に手を置く。
「まあ、お前の所は過保護なんだな。」
「そうかな?」
「俺の家なんて放任主義だぞ。」
「へぇ。」
「まあ、お前の家らしいと言ったらそうだろうな。」
「昌獅って私の家知っているんだっけ?」
お互いに同郷だって言う事はつい最近知ったはずなのに、と思っていた友梨は首を傾げる。
「知らないが、お前たちを見ていれば分かる。」
「そういうもの?」
「そういうものだ。」
釈然としないが、まあ、そうかもしれないな、と昌獅をじっとみて友梨は思った。
「まあ、お前の妹がおっかないのは俺も承知している所だし、次はこけるなよ、いつも、いつも俺がお前を助けられるとは限らないだからな。」
「こけないよ。」
昌獅の言葉に友梨は唇を尖らせる。
「どうだかな。」
肩を竦め、昌獅は友梨から名残惜しそうに手を離す。
「で、いい加減人の目の前でいちゃつく気かしら?」
「ひゃっ!」
凍えるような低い声に友梨はハッと下を見れば腕を組み目を座らせる智里の姿が映る。
「……な、んで…。」
「いつから、いたんだよ。」
「貴方がたがわたしの悪口を叩いている時からよ。」
「悪口なんて言ってないぞ。」
「あら、胸に手を当てても分からないのかしら?」
「分からないな。」
正面から睨み合う二人に友梨は顔を青くさせながら周りを見渡す。
そして、どことなく顔を引きつらせる勇真、顔を赤くさせそっぽを向いている涼太、百面相をしてる美波の姿を見つけ、友梨は青くなっていた顔を赤くさせる。
友梨は彼らの顔を見てばっちり先ほどのやり取りを見られていたのだと知った。
「……。」
パクパクと金魚のように口を開け閉めする友梨に勇真は気の毒そうに彼女を見ていた。
「えっと……、その、人目は意外なところにあるから次から気をつけようね。」
羞恥心で穴があったら入りたい友梨だったが、もう地中に埋まって出れなくなっても構わないと本気で思っていた。
呻いている友梨に勇真は掛ける言葉を間違えてしまったと悟り、天を仰ぐ。
なかなかまとまらない面々が落ち着くのはそれから五分後だった。




