水曜日・過去 8
友梨は非常階段を一段一段上がっていき、その先を行く背中を見て、こっそりと溜息を吐く。
「何溜息を吐いているんだ。」
「へ?」
前から聞こえる声にびくりと友梨の肩が跳ねる。
「静まり返っている所に溜息を吐かれれば嫌でも耳に入る。」
「あっ…ごめん。」
「……。」
友梨は罰が悪そうな顔をして、そして、昌獅の背を見ながら口を開く。
「私で良かった?」
「何がだ。」
「ほら、チーム分けの時……昌獅は私でいい、みたいな事を言ってくれたけど…よくよく考えれば、智里の方が色々と知っているし。」
「……。」
友梨の言葉に今度は昌獅が溜息を吐く。
「お前、馬鹿か?」
「えっ?」
「俺はお前がいいんだ。」
「何で?私なんかなんの役にも立たないし。」
「昨日会ったお前の妹なんかより、一昨日会って、同じ目に遭ったお前の方が気心知れているし、落ち着く。」
「……そうなると、三村さんの方がよかったのかな?」
「はぁ?」
友梨の口から勇真の名前が挙がった事により、昌獅の機嫌が一気に下がる。
「だって、二人は知り合いなんでしょ。」
「あんな奴知らない。」
「でも……。」
「あいつは裏切り者だ。」
「裏切り者?」
「あいつは姉を………見殺しにした。」
「えっ?」
友梨は昌獅の言葉に二重に驚く、一つは勇真が昌獅の姉を見殺しにした事、そして、もう一つは、昌獅には姉が居た事を。
友梨は踏み込んではいけない領域に足を入れてしまった事に今さらながらに気づき、唇を噛む。
「だから、俺はあいつを許さない。」
「日部くん。」
「たとえ、姉があいつを許して、俺は一生あいつを許す気なんてないんだ。」
「……。」
思ったよりも根深い昌獅の闇に友梨はただただ、彼の背中を見つめる事が出来なかった。




