月曜日・駒 7
智里と出会った涼太は頭を抱えていた。
「何よ。」
「別に…何でもねぇよ。」
妹の美波も何処か扱いにくい人物だとは思ったが、更に扱いにくい人物がいつなんて涼太は思ってもみなかった。
「ゆっくりと駄弁っている時間なんてないわよ。」
「分かっているさ。」
「本当に?」
「分かっているっ!」
「そんな怒鳴らなくてもいいじゃない?」
どこか馬鹿にしたように笑う智里に涼太は切れそうになる。
「ねー、智里お姉ちゃん。」
「何かしら。」
「友梨お姉ちゃん大丈夫かな?」
「大丈夫じゃないかしら?」
「ユウリお姉ちゃん?」
涼太は見知らぬ人の名前をあげられ、首を傾げる。
「友梨お姉ちゃんは、友梨お姉ちゃんだよ。」
「……。」
そんな説明で分かるか、と涼太は心の中で突っ込みを入れる。
そして、頭の悪い説明をする実の妹に智里は冷たい目で彼女を見ていた。
「これが本当にわたしと血が繋がっているとは思いたくないわ。」
「……。」
思っていても口にするなよ、と涼太は思うのだが、智里から漏れだす威圧感に押されて彼は何も言えなかった。
「友梨はわたしと美波の姉よ。」
「ああ、そういえば。」
携帯のアドレスに載っていた名前を思い出し、涼太はようやく納得する。
「姉妹で巻き込まれるなんて、すごいな。」
「あら、貴方みたいな子どもが巻き込まれるのだって十分凄いと思うわよ?」
馬鹿にしたような笑みを浮かべる智里に涼太はこの女好きになれない、と思う。
「……顔に出ているわよ?」
「……。」
凍えるような冷気を発する智里に涼太はこっそりと顔を背けるが、結局のところ意味がなかった
「本当に今どきの餓鬼は。」
毒づく智里に涼太はカチンとくる。
「今どきの餓鬼?ああ、そうか、あんたは今どきじゃないだな、お、ば、さ、ん。」
「……。」
涼太の一言に智里は今までに見せた事のないくらい清々しい程の笑みを浮かべるが、その眼は決して笑っていない。
「本当に貴方とは相性が悪そうね。」
「それはお互いさまだろうが。」
涼太も満面の笑みを浮かべる。
そして、一人蚊帳の外の少女、美波はポツリと呟く。
「凄いな、もう、二人とも仲良くなったよ。」
心の底からそう思っているような無邪気な言葉に、智里はギロリと美波を睨み、涼太は呆れたような顔で美波を見る。
「どこをどう見ればそんな言葉が出るのかしら。」
「お前、医者に行ったらどうだ?」
「?」
一人訳が分からない美波は小首を傾げる。
「……馬鹿は死んでも治りそうもないわね。」
「……だな。」
この天然娘の事に関しては同意見なのか涼太は同意する。
「…意味は分からないけど、褒められていないよね?」
流石に二人の視線が好意的なモノではないのは分かるのか美波は顔を僅かに顰める。
「こんな所で油を売っている暇はないわ。」
「あんたが勝手に足を止めたんだろうが。」
「あら、わたしだけの所為だと言いたいの?」
「違うのか?」
「違うに決まっているじゃないの。」
智里の言葉に涼太は顔を顰める。
「一番初めに駄弁っている時間がない、と言ったのはわたしよ?」
「……。」
涼太は記憶を辿り、そうだったかと考えるが残念ながら思い出せない。
「なら、あんたはこんな餓鬼の言葉なんて無視してさっさと行けばよかったんじゃないか?」
「ええ、そうすべきだったと後悔しているわ。」
「……。」
いちいち嫌な女だと心中で涼太は吐き捨てる。
「今度はつまらない事は聞かないでね、クソガキ。」
「誰があんたなんかに聞くかよ、おばさん。」
二人の間に見えない火花が飛び散っているが、残念ながら鈍い美波はその事に気づいていない。
「そういえば、何処に行くの?」
「屋上よ。」
即答する智里はそのまま屋上に向かって歩き出し、その後を追行ける美波だけではなく涼太も首を傾げる。
「どうしてだ?」
「外から屋上に何か光るものが見えたのよ。」
「ただ単にあんたの目の錯覚って事は?」
「有り得ないわ、わたしはここの卒業生で屋上は普段から立ち入り禁止になっているのよ。それなのに、日の光に反射する物なんてそう簡単に置かれると思う?」
「あんたいつここを卒業したんだよ。」
「いつだと思う?」
智里の言葉に涼太はん十年も前じゃないのかと思いたくなるのだが、彼女の着ている高校の制服を見て確実にダブっていなければ三年から一年の間だと分かる。
「三年?」
「残念、昨年卒業した所よ。」
嘘だ、と喉まで出かかるが寸前の所でその言葉を飲み込む。
「あら、信じられない?」
涼太の顔なんて見えていないはずなのにそう断言する智里に、こいつ後ろにも目があるのかよ、と涼太は不気味がる。
「失礼な事を考えるんじゃないわよ。」
「……。」
確定だ、涼太はそう思い、この智里という少女は人間じゃなんかないと確信した。そして、そんな考えは筒抜けだった。
「……本当に失礼な餓鬼ね。」
忌々しげに告げる智里に涼太は背筋が凍り付くような殺気を覚える。
「でも、本当に時間がないから、今回は逃してあげるわ。」
「……。」
上からの目線に涼太はピクリと眉を動かすが、彼自身も時間がない事を理解してか何も言わなかった。
「それでは、行きましょう。」
仕切る智里の後を二人はついていく。
その時、涼太は美波を思ってか殿についていたが、鈍感のこの娘はその事に一切気づいていないのだった。




