月曜日・駒 8
一人の青年が昌獅によって沈められるのを見つめながら友梨はこっそりと唇を噛む。
今までの短い人生の中で武術を学びたいと思った事はなかった。それは彼女の短い生の中でそれは必要なかったからで、友梨はその事に後悔なんてした事はなかった。なかったはずだった…。
傷つく背中を見つめ、胸が締め付けられる。
友梨はこっそりと胸を押さえる。
「おい。」
「何?」
声を掛けられ、友梨は手をスッと下す。
昌獅は友梨の動作をじっと見つめ、眉間に皺を寄せる。
「大丈夫か?」
「大丈夫。」
「……。」
即答する友梨に昌獅は何故か彼女を睨むが、無言になり、そして、溜息を吐いて終わらせる。
友梨は昌獅が何を思っているのか理解出来なかった。
友梨はもっと自分に力があれば、知識があれば、協調性があれば…そんな事を考えていると――。
「……人が多くなってきたな。」
身を隠しながら進む昌獅はそう呟き、友梨の頭を引っつかみしゃがみこませる。
「……痛い。」
力任せだったため、多少の事なら我慢しようとしていた友梨でさえも、思わず呻いてしまった。
「お前が鈍いからだろう。」
「……。」
昌獅の言葉が耳に痛くて、友梨は落ち込む。
「……。」
昌獅は何を思ったのか、立ち上がる。
そして、彼の行為は複数の人に見つかる。
「えっ?」
「時間もない、正面突破するぞ。」
「えっ!」
踏みつぶされたカエルのような変な声を上げる友梨を無視して昌獅は真っ直ぐに進む。
そして、友梨が固まっている間、敵は彼女たちを囲む。
友梨は彼らの無表情の顔を見て小さく悲鳴を上げる。
「ひっ!」
「見つかったんだ、腹括れっ!」
「見つかったんじゃなくて、あんたが見つかるようにしたんでしょうがっ!」
友梨は己を見失って怒鳴る。
「お前はそっちの方がいい。」
「何訳の分からない事を言っているのよっ!」
友梨は怒鳴りまくるが、何が楽しいのか昌獅は笑っている。
「高田、行くぞ。」
「えええい、もう自棄よっ!」
昌獅の言葉に友梨は腹を括った。
そして、真っ直ぐに前を睨む。
何も出来ないなら出来ないなりに足を引っ張らないように頑張るしかない、そう、友梨は自分を奮い立たせる。
昌獅は友梨を一瞥して、満足そうに笑い走り出す。
友梨はしっかりとした足取りで昌獅を追いかける。
昌獅は目の前の人を一人一人沈めて上の階に上ろうとして、何かの気配を感じて立ち止まる。
友梨は行き成り止まる昌獅の背に顔をぶつけそうになるが、寸前の所で足が止まる。
文句の一つでも言ってやろう、友梨はそう決意して口を開こうとして、固まった。
昌獅は何故か振り返っており、その顔は怒りを露わにしていた。
それは美しく、だけど、友梨はその表情が嫌いだった。
わなわなと口を開ける昌獅の口から低い声が漏れる。
「……………ゆうま…。」
知らない名前、だけど、知っている名前。
友梨の中で矛盾が生まれる。
「久しぶりだな。」
後ろから理性の保たれた声が聞こえ、友梨はそこで初めて後ろに誰かいる事を知る。
「……。」
「……。」
黙り込む、二人に友梨はゆっくりとした動作で振り返る。
振り返った先にいたのは優しそうな面差しの青年だった。
「誰?」
友梨は呆然と呟く事しか出来なかった。




