2-3 付き合ってないよ
リック・ユクセール。
物語に出てくる騎士みたいに、面白いくらい騎士の格好をした青年。
――レイナ・オルマイン!! このリック・ユクセールと戦え!!
学生時分、何度彼に引き止められてそう迫られたかわからない。
王都フジュールの出身だという彼は、都会生まれの都会育ち、そして一般学校時代はその中でも負け無しのエリートだったという。
田舎町から選ばれて魔道士学校に入学してくる生徒たちと違い、王都の出身者はもとよりパイのでかい中から選りすぐって上がってきたものたちばかりだ。
圧倒的な経験値の差ゆえに、多くの田舎出身たちが怯む中、特にリックという男はとにかく田舎者を馬鹿にする嫌な学生だった。
幼い頃よりずっとエリート街道を歩んできた、という矜持もあるのだろう。とにかく高飛車で傲慢で――だかしかし、レイナに魔術の勝負で勝ったことがない。
にも関わらず、負けても負けても何度でもレイナに勝負を仕掛けてくるのだから、ただ嫌なだけの男ではない、とも言えよう。その根性は、見上げたものである。
そう、彼は、根性だけなら誰にも負けない男なのである。
「さあ、まもなく余興が始まるぞ! 僕と戦え、レイナ・オルマイン!!」
というわけで、しつこい。
「んー……今日は、やめとこうかなぁー……」
「なぜ逃げる!! 僕を恐れているのか!!」
しかし、強くは断れないレイナだ。
苦笑するレイナを見かねたように口を挟んでくるのは、ココであった。
「ばかだねー、あんたは。同級生たちが見てる中で、ボコボコにされたら可哀想だなーっていう、レイナの優しさでしょーが」
だが、それはしつこさを助長する一方。
「黙れ、田舎者。お前には騎士団の誇りがわからんのだ」
「あんたが誇るものってなに? その高すぎる鼻??」
「もちろん僕は鼻の高い美青年だが、」
「やば」
「騎士団でありながら正装ではなく平時の服装で現れるレイナ・オルマイン。貴様には大尉としてのプライドが足りていない。その根性を叩き直してやるから来いと言っている!」
「ほらー、こういうバカに絡まれるかもしれないんだから、やっぱり普段着なんかで来ちゃいけなかったんだよ、レイナ。今日は戦う気なんてありませーんって格好で来なきゃ」
「口を慎め、田舎女!! 騎士団の一員である以上、いつ何時でも戦闘できるようにしておかなくてはならない……!!」
とかなんとか、二人の止まらないやりとりは、学生時代を彷彿とさせる。
(あー……なんか、懐かしいなぁー……)
気付けばレイナが口を挟む隙もないくらい、やんややんや激しい応酬がなされていた。
これは、学生時代も、頻繁に見てきた光景だ。
思わず少し、ノスタルジックな気持ちになった。
なにかにつけて絡んでくる高飛車なリックと、苦笑いするレイナのかわりに十倍に返して応じるココ。
ほとんどの生徒たちがそのやり取りを遠巻きに見守っている。学園トップクラスの成績を飾る強者たちの戯れに、誰もが一線引いているような状況である。
だが、学生時代であれば、他人の目線など、気にも留めず。
ここに、明るい声色が燦々と降り注ぐように突入してきたものだが――と、そう思ったところで、
「うおー! なになに!? やってるねー!! なになに何の話ー!?」
三年前から変わらない、底抜けに明るい調子の声色が降ってきた。
そしてそれはガンと遠慮なくリックの背中にタックルを食らわせる。タックルを食らった金髪の青年は、「うがっ」と格好の付かない悲鳴をあげさせるのであった。
「なんか懐かしいねー!! このかんじ!!」
金髪の青年にヘッドロックをかけてきたのは、鋼色の髪を持つ青年だ。
どこからともなく現れて、相手がどこの誰であろうと全く気にせず容赦しない。
「……急に、何をする!! ジーン・デリバディ!!」
「おーおー、懐かしい! リックにフルネームで呼ばれる感じ!!」
「……来たね、木偶の坊」
「んー? なになにー? ココ、何の話してたのー??」
リックの首を腕の合間に挟んだまま、朗らかにココへと問いかけてくる、その青年の口調はいつもに増して緩やかだ。
もとより、キツい物言いの似合わない青年であるが、今日はいつもより幾倍もほわほわとしている。おそらくだが、酒を何杯も飲んで、ほろ酔い状態なのだ。
「……。……レイナの服装が、TPOに合っていないね、って話」
そして、こちらもシャンパングラスを何杯か空にしたはずのココであるが、顔色一つ変えない。
「えっ? なにー?? てーぴーおー??」
「TPO。そんなに難しいこと言ってないでしょうが……」
「てぴおが、どうしたってー?」
「……つまり、レイナの服がパーティに合ってないって話!!」
「えー??」
朗らかな酔っ払いに絡まれたココは、心底鬱陶しそうにしている。その酔っ払いに首を絞められたリックはそれはそれは苦しそうだ。
(リックを助けてあげないと……)
締め上げているジーンは、すこぶる明るく元気だけれど、今は友人の首を絞めている自覚もないのだろう。
レイナは彼に近寄って、ツンツンとその肩をつついた。
「ジーン、ジーン……」
「あっ、レイナだー」
「リックのこと、離してあげて……」
「んー? ……お、忘れてた」
レイナに言われ、ようやく解放されたリックは、目を白黒させながらゼーゼーと荒く呼吸を繰り返した。
どうやら一切の容赦もなく、締め付けられていたようである。
「……っ、貴様、ジーン・デリバディ……!! なにかしらの魔具を使ったな……!! でなければ、この僕がお前に首を締め付けられるなんて、有り得ない……!!」
と、涙ながらに吠えてくるが、まったくそちらに興味も示さないジーンの澄んだ双眸は、まっすぐレイナに注がれたまま。
「うーん……??」
酔っ払っているせいであろう。
どことなく熱の篭もった眼差しを向けられると、落ち着かない。
「ジーン……?」
彼の後ろでは、リックがギャンギャンと吠え続けている。「卑怯だ、戦うなら正々堂々戦えジーン・デリバディ!!」と、先程までレイナに向けられていた矛先が変わっているが、矛を向けられたジーンは全く気にも留めていない。
その火照った顔をぐいとレイナに近づけて来て、
「TPOねえ……別に、レイナは何着てたって可愛いと思うけどなぁ……」
と、言うのであった。
想定外の不意打ちに、「えっ」と声を詰まらせるレイナと、隣ですっかり呆れたような表情をしているココ、そして、後ろではまだまだリックが吠えている。
「……別に可愛くないとは言ってないでしょーが。パーティに合う服を着てこい、って言っただけで」
「魔具を使うのは、僕に負けるのが怖いからだな! ジーン・デリバディ!!」
「パーティに合う服ってなんだよー。レイナが可愛ければなんでもいいんじゃないのー」
「はいはい……とんでもないバカップルだよ……」
「しかし、そんなことに臆する僕ではないぞ! ジーン・デリバディ!!」
「ていうかジーン、あんた今までどこいたのよ」
「んー? そのへんを、うろうろしてたけど」
「無理矢理、同窓会に彼女連れてきたんだから、ほっとかないで一緒にいなさいよ。レイナてば、酒も飲まずに壁際にずっと棒立ちになってたのよ」
「え、そうなの? レイナ」
「そうよ。……ていうかねー、同窓会なんて強制じゃないんだから、別に来なくても良かったんじゃないの」
「でも、レイナいたほうが、嬉しいじゃん」
「レイナ、最初から乗り気じゃなかったみたいだし、馬鹿にも絡まれるし」
「それは僕のことか、田舎女!」
「わざわざ無理に連れてこなくても……あんたら、付き合ってんだから、会いたきゃいつでも会えるでしょーに」
私はレイナに会うのもジーンに会うのも数年ぶりだけどさあ、と溜息まじりに語る、ココの言葉の中には、誤解があるような気がする。
なにかと噂話ばかり流されてきたレイナにとっては、他人の誤解をひとつひとつ解くのも面倒な作業。あえて否定せずに放っておくスキルにも長けたものではある。
が、しかし、信頼する友人であるココの誤解だけは、解いておいた方が賢明だ。
そう思ったので、
「ココ、ココ」
「なによ。あんたも、自分のこと放っとくな、って、彼氏に文句言っときなさい」
「彼氏じゃないよ」
「ていうか、まあ、発端は私か……私が昨日『レイナは同窓会に来る気がないのか』て、ジーンに聞いたのが間違いだったのね。あんたの彼氏、空気読めないくせに優しいから。もしかして、あたしにあんたを会わせようとしてくれたんでしょう」
「ココ、ジーンは彼氏じゃないよ」
「でも会いたきゃ、個別に会うから。無理して同窓生の好奇の目に晒されに来なくても良かったのよ」
「うん」
「まあ、あんたも私も忙しくて全然時間取れないけど……たまにはさ、彼氏とデートする時間削ってこっちにも来なさいよ」
「彼氏じゃないよ」
「……あ??」
一回では伝わらなくとも、しっかり、懇切丁寧に、柔らかく根気強く伝え続ければ、隣に立つ鋼髪の青年も「うんうん」と頷いてくれている。
背後のリックはずっと喧しいが、これはただの環境音だ。
やがてココも、レイナの台詞を聞き届けてくれたようで、そのキツめの赤い瞳を大きく大きく見広げると、少し、時間を置いてから、
「……はあ!? 恋人じゃ、ないの……!!?」
と、叫んだ。
「貴様らが付き合っていようといなかろうと、僕にはどうだって良いことだ!! ジーン・デリバディ、レイナ・オルマイン!! なんなら二人まとめて相手をしてやる……!! 舞台へ来い……!!」
リックは、永遠に、うるさい。
「うん。付き合ってないよ」
「付き合ってないなあ」
吠えるリックのことはスルーして、二人で仲良く答えれば、
「いや……どういうこと……??」
と、ますますココはあんぐり口を縦に開くのであった。
「学生時代から、あんたらずっとモダモダしてるから……見てるこっちが気持ち悪くなるくらいだったけど……卒業して、やっと、くっついたんじゃなかったの……!?」
ココは、本当に昔から良き友達だ。
口こそ悪いが、いつだって自分のことを案じてくれている。
なので、レイナも彼女に対して取り繕ったりすふことはない。
本心からの笑顔で、答えるのであった。
「くっついてないよ」
ジーンもジーンで、人好きされる笑顔を浮かべたま、まこちらに合わせてくれる。
「んー、そうだなあ……特にそんな話になったことはなかったなあ」
二人の返事を聞いたココは、口を開いたまま、わなわなと震えている。が、これが真実なので仕方がない。
そして、良い意味でも悪い意味でも相手に話を合わせないのが我道を行くリック・ユクセールである。
「ジーン・デリバディ……! さては貴様、卒業してからというもの、魔術の鍛錬を怠っているだろう!! ゆえに、この僕と戦うのが怖いのだな!!」
会話をぶった斬ってでも突っ込んでくるのは、さすがに鋼のハート。なにがなんでも間に入ってこようとするので、ココに「うるさい」と恫喝されるかと思いきや、その前に応じたのはジーンであった。
「まあなー……魔術の鍛錬は怠ってるよなあ、実際のところ……」
「やはり、そうか……!」
「だってさあ、もう必要ないんだもん。俺、開発部職員だしさあ……たまーに、基礎連だけすることはあるけど……」
「ならば、ハンディキャップを与えよう。魔具も二つまでなら使って良い」
「……どーしても俺と戦いたいのね」
「逃げることは許さんと言っているのだ。鍛錬を怠ってたるんだ身体、僕が鍛えなおしてやる……!!」
はははと笑うジーンは、昔から誰にでも分け隔てなく優しかった。
(私はジーンが好きだけど……ジーンは、みんなのことが大好きだからなあ……)
レイナはその柔らかい笑顔の浮かぶ横顔を見上げて、首を竦める。
そうとも、自分はずっと前から彼が好きだった。それこそ、学生時代からずっと。
彼もまた、自分を憎からずは想ってくれているだろう。
だが、彼の愛情は誰にも均等に注がれている。自分だけが独占するべきではないということも、レイナはちゃんと心得ている。
なので、今日も欲を出すようなことはしない。
ただ、いつも通りにニコリと彼を見上げて微笑めば、その柔らかい眼差しがまっすぐこちらに注がれた。
「確かに、鍛錬は怠ってるけど……そこまで魔力も体力も落ちてはないとは思うんだよなあ。……ほら、」
かと思えば、ふわりと身体が浮く。
彼の腕が伸ばされてきて、レイナの腰を抱いて持ち上げたのだ。
「……っ!?」
レイナではなく、ココがぎょっとしたように息を呑む。
レイナは、されるがままであった。――他人に触れられる時、それを攻撃と感じて反射的に打ち返してしまうことが多いが、ジーン相手であれば身を任せることができる。きっと、彼から流れる魔力に、敵意が全く感じられないためであろう。
「レイナ、相変わらず軽いなー。こんなんでほんとに騎士団でやってけてる? 折れちゃわない??」
自分に対してそんな心配をしてくるのも、世界でジーン一人のみである。
確かに、身体付きは年相応の他の娘と変わらず、少し筋肉量が多いくらいだ。が、その内側には化物とも呼ばれる量の魔力が備わっているので――誰も、レイナを華奢扱いなんて、しない。
「大丈夫だよー……もう、降ろして。赤ちゃんみたいで恥ずかしいから」
しかし、彼にとってこんなもの、近所の幼子と戯れるようなものだろう。
レイナもそう心得ているので、過剰に反応はしない。
トントンと彼の肩を叩けば、すぐに降ろしてくれた。
横にはぷるぷると唇を震わせるココ、それからあからさまに苛立ちを見せるリックの二人が並んでいる。
「いや……あんたらさぁ、……」
「そんなことで、魔力量の証明にはならんぞ! ジーン・デリバディ!! その女一人分くらい、僕だって片手で持ち上げられる……!!」
そして、次に突っ込んできたのリックだ。優しいジーンと違い、奇襲のような勢いで突っ込んでくるものだから、反射的に身体が動いた。
先方から流れ込んでくる魔力の軌道を読んで、身体が相手を避ける。そのまま、流れるように彼の腕を掴んで床へ押し付けた。
「……うぎゃっ!!」
床に顔面から落ちたリックから悲鳴があがる。
「あ、ごめん……」
そんなつもりはなかったんだけど、と慌ててレイナは立ち上がった。
本当にそんなつもりはなかったのだ。リックはこちらに攻撃を仕掛けてきたわけでもなく、物みたいに自分を持ち上げようとしただけだろう。とは、わかっているのだけれど、身体の接触を本能が拒む。
考えるより先に魔力によって神経が過敏に反応してしまうので、申し訳のないことだ。
「きっ貴様っ……場外での乱闘はルール違反だぞ……!!」
打ち付けて赤くなった鼻を持ち上げ、リックがこちらを睨み上げてくる。
果たして悪いのはこっちだろうか? という疑問もありつつ、「ごめんごめん」とひとまず謝った。実際に戦闘になったとしても、彼に負ける気はしないので、ここはとりあえず穏便に済ませておくが吉である。
「勝負をするなら、舞台で、だ!! ほら、アナウンスが、始まった!!」
鼻を押さえながらリックが立ち上がれば、確かに、パーティ会場に拡声魔法によるアナウンスが広がっていた。
『まもなく余興を始めます。魔術技組手に参加する方は舞台までお越しください』とのこと。ざわざわと会場中が騒がしくなり、盛り上がる予感だ。――ただし、レイナさえ、参加しなければ。
「来い! レイナ・オルマイン……!!」
しかしながら、どうしたって自分のことしか考えていないリックは、こういう時に遠慮をしないのである。
レイナは自分のことをよくわかっているので――ほどよく同窓生たちが戯れる中に自分が混ざってしまったら、一対十でも薙ぎ倒してしまうかもしれない。そんなことをしたら、会場の空気が冷め切るのは目に見えている。――なんとかして、余興には参加せずに隠れていたい、というのが本音だ。
レイナは当惑した表情を浮かべるが、リックは一切引き下がらない。
「僕と、戦え!!」
そして再び迫ってきたリックの前に一歩踏み出したのは、鋼色の髪を持つ青年であった
「あー……、もう、わかったよー、リック!! 俺が戦えばいーんだろ、俺が!!」
と、レイナを庇うようにして向けられた背中は、広い。――たったさっき、自分をひょいと持ち上げた腕が、今は一際逞しく見えた。
「なんだ、ジーン・デリバディ! やっとやる気になったのか……!!」
「しょーがねえなー……でもさっき言ってたハンディキャップ忘れんなよ? 魔具2個までオッケーだっけ??」
「もちろんだ! 許容しよう!! 僕は毎日王都の騎士団で鍛えているからな!! お前みたいな軟弱者では歯も立たんはずだ!!」
「ははーん、言うじゃん。その鼻折れないように気をつけろよ」
「僕の美しい鼻には指一本届かないさ!」
あれだけしつこかったリックであるが、青年ジーンが舞台へ誘えば、なんてこともない。簡単にくるりこちらに背を向けて、スタスタ行ってしまった。
別に、絶対にレイナと戦いたいというわけではなく、単純に誰かに構ってほしくて騒いでいただけなのかもしれない――と、レイナは密かに思った。
リックはリックで、レイナとは違った意味で昔から浮いている生徒であった。
同窓会なんて来たところで親しく話す間柄もいなかろうし、少し寂しくなってしまっただけだったのかもしれない。
そう思うと、親近感が湧く。昔から、なんだかんだほっとけない相手ではあったのだ。――とは、未来永劫本人に言うつもりはないけれど。
とにもかくにも自分から矛先が逸れて、ホッとしたレイナであった。
去りゆく二人の青年の後ろ姿を見送れば、ふと、藍色の髪の青年だけがちらりこちらを振り返って目配せしてくる。
(……ジーン)
自分を、慮ってくれたのだな、と、一目でわかった。
彼はいつだってそうだ。
助けて欲しい時には必ず駆けつけてきてくれて、欲しい時に欲しい言葉をくれる。レイナの知らない魔法でも使っているかのように。
「……。……あんたら、本当に付き合ってないの……」
目線を送り合う、レイナとジーンの様子を横で見て、ぽつりとココがぼやいた。
なにやらその声色には、辟易した感情が混ざり込んでいるようではあるけれど。
だからと言って、嘘は吐けない。
「付き合ってないよ」
そう告げると、唯一学生時代の女友達は、綺麗に巻かれた長い黒髪をぐしゃぐしゃにかきあげて、天井を仰ぐのであった。
「……気持ち悪う……」
やはり、彼女は、口が悪い。
こうして、夜は更けていく。
途中で離脱することもなく、なんとか同窓会を乗り切ることには成功し、レイナは帰宅の途についた。
パーティが終わると仲の良い同士で二次会に向かう者もいたようだ。
レイナも唯一仲の良い友人らに誘れはしたものの、今日のところは断った。
誰かと話をするのは、疲れる。
自分を偽るかのようで、常に何かを演技しているみたい。
夜空を見上げてそんなことを考えつつ、ふと鞄の中をみれば、一つだけロッククッキーが残されていることに気が付いた。――ジーンにあげられなかった、最後の一つだ。
(ジーン……)
仲の良い、大親友。
大好きな大好きな同級生。
彼と一緒に過ごす時間はすこぶる居心地が良くて、ずっとこのままいられたら良いのに――と思う気持ちに、嘘はなかった。
だが、レイナはそんな彼の前ですら、己を偽るかのように演技をしている。
――本当は、もう随分と前から、ただの「大親友」に抱く感情ではない。
レイナは、残されたロッククッキーを口へと放り込んだ。
ばりばりと噛み砕いて飲み込めば、しつこいくらいの甘さである。
(……甘すぎたかなぁ)
お菓子作りは、ただの、趣味である。
なので、必要以上に根を詰めるつもりもない。
だけど、せっかくなら、もう少し美味しいものが完成すれば良いのに、と思う。
レイナの作る菓子は、彼女の悩みを内包した味をしている。




