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獣たちの王ザングウェン  作者: ヨシ


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8.森の奥

 森の奥へと進む。

 進むほどに、魔物の出現頻度が上がる。


「この瘴気の濃さ。これは只事ではないな……」


「うん。奥へ進むほどにキツくなっていくね」


「大丈夫か?」


「平気。でも、早く終わらせたいかも」


「そうだな。おそらく森の奥に異変の原因があるはずだ。このまま進むぞ」


「了解」


 そんな会話をしながらザングとノイは進む。


 少し進んだ時、ザングはぴたりと足を止めた。


「ザング? どうしたの?」


「魔物の鳴き声……激しい足音……戦闘の……音」


「誰かが魔物と戦っているの?」


「多分な」


「行ってみる?」


「まあ、一応な」


 ザングは音の方へと足を進める。


 しばらく進むとノイにも聞こえた。


「ヴォオオオッ!」


 魔物の鳴き声。

 と共に男の叫び。


「うらあッ!」


 巨大な戦斧を振り回すのは、傭兵ウォーレン・ガルランドだった。


 ウォーレンは、戦斧をロックボアの頭に叩きつけた。

 岩を砕くような強烈な一撃。

 頭部が大きく陥没し、ロックボアは死亡。


 しかし、ウォーレンは気を抜くことができなかった。

 何故なら、まだ複数体の魔物が残っているから。


「くそがッ! どんだけいやがんだ!」


 怒声を上げて戦斧を振り回すウォーレン。

 途轍もない破壊力で魔物を屠っていくが、魔物たちは次々と現れる。


「うおおおおおおッ!」


 気合を入れて戦斧を振り下ろす。

 目の前の魔物を一撃で両断するが、長時間の戦闘でウォーレンは疲労していた。


 ウォーレンは、魔物の攻撃を捌くことができなかった。

 魔物の突進をもろに食らい、ウォーレンは吹き飛んだ。


「―――がッ」


 息が漏れ、ウォーレンは地面を転がる。

 それでも、魔力で体を守ったのでダメージは軽微。


 しかし魔物の追撃が迫る。


 ウォーレンは反応が遅れた。

 長時間の戦闘による疲労のせいだ。


 魔物の鋭い爪がウォーレンに振り下ろされる。

 その爪が直撃すれば、流石のウォーレンも無事では済まない。


「―――くッ」


 赤い血が飛び散った。

 それは、ウォーレンの血ではない。魔物の血だ。


 ウォーレンの目に映ったのは、黒い爪だった。

 その黒爪を持つ男が訊いた。


「無事か?」


「て、てめえ……ザング・アーレント! 何のつもりだ!」


「まあ、待て。まずは―――片付ける」


 その瞬間、ザングの姿が消えた。


 そして、蹂躙が始まる。


 魔物たちの血と肉片が飛び、周囲が変貌していく。


 森が赤く染まり、魔物たちの叫びが響く。


 殺戮の凶器と化した黒爪は、ザングの意思によって死体を造りだしていく。


「う、嘘だろ……」


 ウォーレンは目を見開いてその光景を見ていた。


 魔物たちが血肉を巻き散らしながら死んでいくその光景は、何かの冗談、あるいは程度の低い夢を見ているかのようだった。


「これで静かになったな」


 黒爪から血を滴らせながら、ザングはウォーレンへと近付く。


「ウォーレン・ガルランドだったな?」


「て、てめえは……化け物なのか……?」


「訊いているのは俺の方だ」


「あ、ああ……そうだ。俺は……ウォーレン・ガルランドだ」


「ウォーレン、余計なお世話だろうが、お前はもう帰った方がいい。その怪我ではもう戦えないだろう」


 ザングはウォーレンの右脇腹を指差した。

 ウォーレンの衣服が赤く変色している。

 右脇腹から吹き出す血が衣服に滲んでいるのだろう。


「舐めるな。この程度の怪我はどうってことねえ。俺の等級は二級だ。そこら辺の雑魚と一緒にするなよ」


「確かに二級は相当なものだ。それは才能ある一握りの者だけが到達できる領域。だがな、であれば尚更分かっているだろう? このまま進めば死ぬぞ?」


「うるせえ」


「何故だ? 何故そうまでして進もうとする? そんなに報酬が大事か? だが、死ねば全て無意味だ」


「うるせえって言ってんだろ。てめえには関係ねえだろ」


「そうだ、俺には関係ない。だが俺は知りたいんだ、お前が戦う理由を」


「てめえ……ふざけてんのか?」


「いいや、俺は真面目だ。俺は真面目に訊いて―――」


 ウォーレンの右拳がザングの顔面に入った。

 顔面にまともに入った打撃。

 それは相手の心を砕く一撃だ。


「な、なんなんだよ……てめえは……」


 だがザングは微動だにしない。

 流れる鼻血を気にした風でもなく、ザングの瞳はウォーレンを見据え続ける。


 やがてウォーレンは右拳を退いて、静かに尋ねた。


「俺が戦う理由が、てめえにとって重要なのか?」


「重要だ。俺にとってはな」


 ウォーレンは観念したように喋り始めた。


「アムトス村の村長……メリラさんのことは、昔から知っていてな……。昔から、乱暴者の俺のことも気に掛けてくれて……。いろいろと世話になったんだ。だったらよう、次は俺がメリラさんの力になる番だろ。旦那と息子を亡くしても、あの人は気丈に振舞って……必死に頑張っているんだ。あの人の力になりたいって思うのは、そんなにおかしなことか?」


「己のためではなく、人のために戦う……か。やはり面白いな、お前たちは」


「て、てめえ……なにを笑ってやがる?」


「いやすまない。お前を馬鹿にする意図はないんだ」


「だったら、その顔をやめろ」


 ザングはそれを受け流してノイの方へと顔を向けた。


「ノイ、ウォーレンの傷の手当てを頼めるか?」


「りょーかい」


「お、おい!」


「はいはい、じっとして」


 ノイはウォーレンの拒絶を受け付けず、傷の手当てを進めていく。

 革袋から傷薬や包帯を取り出し、慣れた手つきで治療を行う。


「ザング・アーレント! 何のつもりだ!」


「気にするな。俺はお前のことが気に入った。だからお前には死んで欲しくない。それだけだ」


「て、てめえ……借りだとは思わねえぞ?」


「気にするなと言った」


 そして、ウォーレンの傷の手当てが終わった。


「さて、俺たちはこのまま進むが、お前は引き返せ。とは言っても、お前の行動を決める権利は俺たちにはない。だが、お前はここで死ぬべきではない。メリラもそう思っていることだろう。と、だけ言っておこうか」


 そう言ってザングはウォーレンに背を向けて、前へと歩き出した。


「ザング・アーレント!」


「なんだ?」


「……メリラさんは優しい人だ。たとえ傭兵でも、死ねば悲しむ。メリラさんのことを……悲しませるんじゃねえぞ」


 無理やり押し出したように言うウォーレンの言葉を聞いて、ザングは僅かに笑った。


「了解した」


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