13.獣の話
「どれぐらい前の時代なのか、正確なところは分からない。ずっと前の時代、と言っておこうか。その時代、今のように人間たちは居なかった。その代わり、獣と呼ばれていた者たちが地上を支配していた」
「獣?」
「ああ。獣と言っても、現代に存在する獣たちとは別の存在だ。高い知性と高い戦闘力を合わせ持つ、地上の覇者。それが、俺の言う獣だ。そして、俺もまたその獣……というわけだ」
「ワタクシは長らく外の様子を知りません。貴方様のような獣は、沢山存在するのでしょうか?」
「いいや。俺以外の獣は存在しない。多分な」
「多分?」
「順を追って話そう。俺は同族に対して心の底から絶望していた。あいつらは、争う事しか能の無いくだらない連中だ。日々殺し合い、奪い合い、食らい合う同族ども。俺は……そんな奴らに飽いて、己で己の生を終わらせることにした」
「それはつまり、自害を試みた、ということでしょうか?」
「そうだ。俺はこの爪で己の心臓を突き刺した。そこで俺の生は終わった。終わるはずだった。だがどうしてか、俺は死にきれなかった。仮死状態というやつだろう。その状態で、おそらく長い年月が流れた。俺が目を覚ました時、世界の様子が一変していた。地上から同族が消え失せ、人間と呼ばれる種族が地上に溢れていた」
「貴方様の同族が消えた理由は分からないと?」
「ああ、分からん。が、予想はできる。絶滅するまで同族で争い合ったのだろう。奴らには相応しい末路だ」
「理解しました。貴方様は、かつて地上を支配した獣と呼ばれる存在の生き残り。それゆえに、魔人を圧倒する力を持ち得ている。神々と魔人たちが争った時代、貴方様のような存在は居ませんでした。ですので、その大戦の後に誕生した生物、ということになりますね」
「そうだろうな」
「ザング・アーレント様が獣と呼ばれる存在だということは理解しましたが、そちらのノイ・アーレント様もそうなのでしょうか?」
カリーナからそう問われ、ノイは答える。
「ううん、違うよ。わたしは人間。残念だった?」
「いえ、そのようなことはありません。お二人はどのようにして知り合ったのでしょうか?」
その問いにはザングが答えた。
「俺がこの世界で目覚めたばかりの頃だ。流石の俺も、目覚めたばかりの頃は弱っていた。多分、下手したら死んでいただろうな。だが俺は助かった。俺は、ある爺さんに拾い上げられた。爺さんの名はクラウス・アーレント。俺の恩人だ。クラウスは俺を拾う前に孤児を拾っていた。その孤児がノイ、ってわけだ」
「なるほど。お二人の繋がりは理解しました。さて、これでお互いの事情は共有されました。そのうえでワタクシからお願いがございます」
「聞こう」
「このまま封印を放っておけば、魔王が解き放たれてしまいます。ですが、ワタクシには封印を修復することはできません。ですから、この封印の間を外側から閉じようと思います」
「外側から閉じる?」
「はい。今、封印が弱まっている影響で外の世界とこの世界の道が開いてしまっております。それが、あの魔法陣です」
カリーナは、床に浮かぶ魔法陣を指さした。
「あの魔法陣は外の世界とこの世界を繋ぐ道。道は神々の手で隠されておりましたが、それが何故が表出しています。ワタクシの力であの道を完全に閉じて、この世界を永遠の牢獄とします。そうすることで、魔王を永遠に封じ込めることができるでしょう」
「待て、そのやり方で大丈夫なのか? その道が開いた理由がわからないのだろう? だったらまた同じように道が開かれる可能性はないのか?」
「それは……」
「悪かったよ。そんな顔をするな」
「あー、ザングが泣かせたー」
「おいおい、泣いてはないだろ。……だよな?」
「……ぐすん」
「あー、ザングいけないんだー」
「わ、悪かったって言ってるだろ? カ、カリーナ、お前の好きなようにすればいいさ」
「申し訳ありません。ザング様は悪くないのです。ワタクシは己の愚かさに嘆いているのです。確かにザング様のおっしゃる通りです。ワタクシのやろうとしていることは対症療法にすぎないのかもしれません」
「そう言うな。他に方法がないのなら、それを試してみるしかないだろう。それに、元々俺たちは森の異変解決のためにここまで来たんだ。森に立ち込める瘴気が収まるならなんだっていいさ」
「……はい」
小さく返事をしたカリーナ。
その様子を見てザングは困ったように頭を掻いた。
グイグイとノイが脇腹を小突いてくる。
ザングはそれを手で防いで小さく溜息を吐いた。




