残されてしまった責任
「ふふっ。ずるいですね。こんな時にいきなり本物の兄みたいなこと言うなんて」
桜花は相変わらず低い声で、不貞腐れた笑顔を作り出していた。俺の顔の真下にある桜花の顔は、なんだかいろんな意味で呆れているようだ。
「これでも一応、お兄さんだからな」
「嫌ですよこんなの。わたしの兄とは似ても似つきません」
「そこまで言う!??」
「だって、お兄ちゃんは…………」
ふと桜花はやや俯き、小さな息を吐いた。
その時の彼女は、笑って泣いたような顔を一度に見せたんだ。
楽しくて、少し切なくて、やるせないほど悲しくて、儚いほどに嬉しくて。
それらが全て一枚の絵の中に、凝縮されたような顔だった。
桜花は瞼をぎゅっと閉じたまま、一滴だけの涙をその場に落とした。
「春斗君が亡くなった理由、何か聞いてますか?」
それは恐らく桜花がずっと想っていた人の名前。今になってようやく声に出てきた気がした。
「えっと、桜花が虐められてたのを助けようとして、それで……だったか?」
「ふふっ。やっぱしタイシくんも大人の勝手な解釈を真に受けちゃうんですね」
「いやこれ聞いたの、霜宮からなんだが……」
「アケミンが? …………ちっ」
ってなんかちょっと斜め上の舌打ちが出てきたんだが!?
「全然違いますよ。大人もアケミンも、みんな勝手なんだから」
「それ言うと霜宮ブチ切れると思うぞ多分」
というより勝手に霜宮のこと忘れてた人が何か言ってる。それはそうと、桜花は霜宮のこと『アケミン』と呼んでたのか。そういや前にもそう呼んでたよな。よくよく考えるとぴったりな感じがする。特にあの若干天然なとことか。……え、どういう意味だ?
「話を戻しまして、春斗君が亡くなった理由、全然違いますからね」
桜花は少し反発するように、歯切れよくそう言い切った。
「春斗君が自ら命を絶ったのは、わたしたち家族全員のせいなんですから」
「どういうことだ……?」
はぁと諦めの溜息をついた桜花は、少し遠い目を向けながらゆっくり言葉を紡ぎ始めた。
「父は春斗君に自分の跡取りとなってほしかったのか、毎日非常に厳しい態度を取ってました。確かにわたしに対しても厳しかったですけど、それでも全然比じゃないくらい。母はそれに目を瞑り、いつも父の方に寄り添う形で。そしたらわたしこそ春斗くんの側に立つべきでした。でもわたしはわたしで、わたし自身のことに精一杯で……」
だからこれは家庭の問題。家族だけの問題なのだと、桜花はそう言いたいのだろう。赤の他人が何て解釈しようと、元々本人たちには全く関係ないお話だったのかもしれない。
「春斗君は強い人でした。わたしなんかじゃ全く手が届かない、全てを自分一人で解決してしまうとんでもない人だったんです。どんなに辛くてもいつも笑ってて、絶対に誰かの前で弱みを見せようとか考えない人でした。だからわたしも大切なシグナルを見落としてしまったんです。たった一人の妹であるわたしが気づくしかなかったはずなのに。だから春斗君は、わたしたちの前からいなくなってしまったのです」
桜花の言葉の節々は徐々に強くなっていた。ずっと誰にも言えなかったことを、ようやく吐き出しているのだろう。
「だからこれは、春斗君のせい。春斗君をそうさせてしまった父と母のせい……」
そして桜花の黒真珠の瞳には、うっすら光り輝くものが見えてきて。
「……だからこれは、わたしのせいなんです」
登場人物
嵯峨野泰史: 俺。元文芸部員
霜宮朱実: 心臓に氷を宿す元物理化学部員
嵯峨野桜花: 泰史の義妹。生徒会庶務
浅川春斗: 桜花の双子の実兄。霜宮とも仲が良かった
嵯峨野千鶴: 泰史の母。意外にも土日は絶対仕事しない
読んでくださり、ありがとうございます。
いよいよ次回は最終回です!
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